2015年 イギリスの労働事情

2015年7月28日 講演録

イギリス労働組合会議(TUC)
グリン トラヴィス(Mr. Glyn Travis)

刑務官労働組合 副事務局長

 

イギリスの人口変化の概要 ―将来にも人口増加が予測される先進国―

 先進国の人口減少が問題視されている中、イギリスの人口は逆に増加している現状にある。2014年半ばの人口は6460万人で、前年から49万人あまり増えたことになる。この人口増加率は、2004年から2014年の10年間の平均増加率は0.7%でEUを上回っている。今後についても、ユーロスタット統計局の予測では2050 年までに7720万人に達するとしており、ドイツ(7470万人)やフランス(7430万人)、イタリア(6710万人)をも上回る予測となっている。人口増加の影響は、社会、経済、さらには福祉、社会保障給付においても、さまざまな課題として出てくるものと想定される。

人口増加の要因 ―移民流入が牽引役に―

 この人口変化をもたらす要因は、出生、死亡、移入および移出の相互関連の動きによっている。まず出生数は、2004年から2014年までの年平均は77万8000人、これに対し2014年は77万7000人となっている。死亡数も、同じ10年間の年平均が56万8000人、2014年が55万1000人で、いずれもあまり大きな変化はなく、自然増が22万6000人となっている。これに対し、移出・入数の純移動は10年平均で24万3000人の増加、2014年も26万人の増加となっており、人口増加の牽引役となっている。小さな島国であるイギリスは、いまやここに住んで働くことを望む人たち(経済移民)がめざす目的地となっている。

人口変化の特徴 -人口が増加する中、進む高齢化―

 人口変化の特徴は、移民流入にもかかわらず高齢化が進んでいることである。年齢中央値は、1975 年の33.9歳が2014年には40.0歳へと上昇し、年齢層別では65歳以上がそのウエイトを増している。その背景に平均寿命が年ごとに少しずつ長くなってきたことがあげられる。
 イギリス政府は、これに対処する緊縮対策の検討を迫られている。公的年金の持続性の観点から、受給開始年齢を70歳以降とした場合、実際に受給年齢まで働くことが可能なのかという問題がある。実際には、より早い時期に退職をするなど、難しい状況が現出しつつある。働きたいという意欲を持つ高齢者がより長く働ける条件整備は進めるべきである。重要なことは、高齢化していく人口を支えるとともに貧困問題なども含めて社会福祉政策を充実していくことである。

イギリス人口の年齢別構成割合
0~15歳 16~64歳 65歳以上
1984 21% 64% 15%
1994 21% 63% 16%
2004 20% 65% 16%
2014 19% 64% 18%
           
予測される年齢別構成
2024 19% 61% 20%
2034 18% 58% 24%
2044 17% 58% 25%

移住(移民)の現状とその影響 ―国民の懸念が増大―

 人口増加の牽引役となっている移住の現状と影響について触れてみる。
 2014年のイギリスへの純移住は31万8000人で、そのうち17万8000人がEU域内からで、一方19万7000人がEU域外からで、いずれも2013年から約5万人の増加となっている。EU域内から、なぜこれだけ多くの人たちがイギリスに移住するのか。その1番の理由は雇用にある。その中心は賃金が比較的低位にある東ヨーロッパ諸国からであるが、緊縮政策が失業をもたらしているギリシャやスペイン、ポルトガルからも流入している。また、EU域外からは、教育、研究を目的にイギリスに入ってくる人たちであり、大学側も学費面で享受するメリットと合致しており、流入のもう一つの理由をなしている。
 しかし、移住する人が増えれば緊張も生じ、イギリス国民の移住に対する懸念が増大している。さきの選挙においてイギリスの右寄り政党であるイギリス独立党(UKIP)への投票が増えたのもその現れである。賃金が切り下げられる、雇用が置きかえられる、住宅のコストが上がる、公共サービスや交通へのアクセス等がカットされるという懸念が、その正体であろう。TUCとしては、移住が生み出すメリットである成長の促進などを強調しつつ、誤った懸念が生み出す性別等のジェンダーをもとにした、もしくは国籍をベースにした差別をなくす運動に取り組んでいこうと考えている。

移住(移民)に対するTUCの解決策 ―問われる実行力―

 移住に関し、TUCが考えている解決策を改めて整理し、提起すれば次の通りである。一つは、労働市場規制の強化するため、最低賃金を1時間9ポンド(約1683円)(現行:21歳以上で6.5ポンド=約1215円)に引き上げることと、すべての労働者の権利を平等化し、搾取と切り下げへ対処することである。二つ目には、人口増加地域における公的住宅の建設、サービスの拡大によって、公共サービス・住宅に対する懸念への対処である。三つ目には、平等、公正の理念に基づいて、国民が持つ懸念の理由を洗い出し、その払拭に対処していくことである。TUCはこれらの実行に向け地道な運動を展開していく考えである。

労働力人口(現役)と年金受給者人口(年金受給者)との関係の変容
―注力すべき若者の失業対策や女性・高齢者の労働力化―

 イギリス社会の揺るぎない将来を考える上で、現役世代と年金受給者との関係は欠かせない重要課題の一つである。今、その関係の上に成り立つ公的年金支給開始年齢(SPA)が65歳から70歳に引き上げられようとしている。その理由は、現状のままでは老齢従属人口指数(OADR)(現役1000人あたりのSPA以上の年齢者の数)が2037年までに487人に達する予測があり、持続可能な年金制度としての存立を危うくするとの懸念があるからである。70歳への引き上げは、使用者も含めて大半の国民に歓迎されていないが、現役と受給者間の関係の変容は受け止めていかざるを得ない。むしろ社会問題化する若者の失業(16.6%)からの脱却策や、高齢者(失業率6.2%)の労働人口化策に注力することが肝要となっている。

年齢別失業率
年齢層 失業率
16~24歳 16.6%
25~34歳 11.4%
35~49歳 10.0%
50~64歳  8.3%
65歳以上  6.2%
合計 10.5%

労働力としての女性の現状 ―改善されない女性の労働参加率―

 女性が労働力人口を形成する重要な一翼を担っていることは、これまで触れてきた通りである。その女性の労働参加の現状だが、数十年にわたり増加してきたものの、90年代末に大きく鈍化している。その原因は、育児・保育施設や高齢者の介護施設の不足にある。つまり、その外的要因で女性が家庭内に留まらなければならない状況に追いやられているということである。これに対し政府も対策を導入してきてはいるが、育児や介護のために働けないという状況は、法律が機能せず、働きたいという人の権利を保障していないことに他ならない。
 TUCはじめ労働組合活動を行っている人は、法制度が改善されイギリス全土で家の面倒を見る女性の数がどんどん減って、労働市場に女性が戻ってくるだろうと思っていた。しかし、実際はより多くの女性が仕事に戻れず、戻ったとしても、労働時間が少ないために低い賃金に甘んじる現状になっている。

一極に集中する人口分布―不可欠な都市地域経済戦略への労働組合の参画―

 最後に、広範な雇用創出に関わる地域別人口の変化・分布にも触れておきたい。地方への経済移行、地方分権を進めることで人口を分散し、各地域の人口の均質な拡大につなげるというのがその狙いではあるが、結果はロンドン周辺への一極集中となっている。首都ロンドンから離れれば離れるほど、地域への投資が少なくなっており、ロンドンの魅力が増し、他の地域との格差が広がる様相を呈している。
 また、国家プロジェクトの展開にあたり、地方への権限委譲が進んでいる。その際、国家規準が緩んでしまっているということがいろいろな地方で見受けられる。地域経済の成長のために、安い労働力を武器にする安易な志向が原因であるが、これは不平等を生みリスクを高める可能性がある。地方分権とは、きちんと適切なものでなければ効果を生み出さない。あるべき地域発展と均質な人口増大に向け、今後労働組合が都市地域経済戦略等に参画していくことが必要だと認識している。

英国における一極集中(単位:百万人)
  2004年 2014年 年平均増加率
イギリス 60.0 64.6 0.7%
イングランド 50.2 54.3 0.8%
北東部 2.5 2.6 0.3%
北西部 6.8 7.1 0.4%
ヨークシャー/ハンバー 5.1 5.4 0.6%
イーストミッドランズ 4.3 4.6 0.8%
ウェストミッドランズ 5.3 5.7 0.7%
東部 5.5 6.0 0.9%
ロンドン 7.4 8.5 1.4%
南東部 8.1 8.9 0.9%
南西部 5.0 5.4 0.7%
ウェールズ 3.0 3.1 0.4%
スコットランド 5.1 5.3 0.5%
北アイルランド 1.7 1.8 0.7%

労働組合の強い市場がよい市場

 イギリスの人口は移民によって比較的急速に増加しているものの、高齢化も進みつつある。高齢化がもたらす課題に対しては、年金支給開始年齢の引き上げによって対応しようとしているが、これは国民全体に大変不人気である。
 労働力を移民で増加させるということについては、政府がしっかり管理することが必要である。加えて不完全就業の若者たちや、女性などを労働に参加させていくことも必要である。
 最後に労働組合、ユニオニスト(イギリスとの連合維持を主張)として何ができるかである。これはまず労働市場の回復を手伝うこと。次いで経済の成長を支援する。そして、労働市場が公正なものであるための支援を行うことである。リビングウェッジ(生活が可能となる賃金)の確立、そして生活の水準というものが公正であるようにするということも必要である。
 しかし、全てを解決できる方策はないが、それぞれの労働組合がそれぞれの労働者を支援していくということが必要である。労働組合の強い市場がよい市場だということは世界どこでも共通である。

*1ポンド=187.00円(2015年8月26日現在)

労働事情を聴く会