2012年 イギリスの労働事情

2012年2月20日 講演録

イギリス労働組合会議(TUC)
イアン ウッドランド

ユナイト労働組合(Unite the Union)東南地区調整役員

 

グローバリゼーションの影響――変わりゆく労働現場

 グローバル化による変化への対応課題として、古いサービス方法、知識、メンタリティを変えていかなくてはならない点がある。特に、単に労働現場において労働者を組合員として取り込んでいくのみならず、戦略的にどう変えていくかといった組織化のメンタリティという課題がある。労働組合にとって、一般の人たちとの協働が課題となっている。これは、英国だけではなく、国際的にも大きな課題になっている。
 使用者側はより小賢しく、敵対的となった。また、より細分化された職場が出てきている。公務部門の民営化と併せて、労働力のアウトソーシングが行われている。団体交渉では、組合未加入労働者の増加の問題に直面している。また、短期労働者、派遣労働者、パートタイマーといった非常に非力な労働者の問題も出てきている。

当面の課題――景気後退と保守連立政権の政策

 2010年に成立した保守党と自由党の連立政権は、公務部門労働者を削減し、2015年までに公共支出を830億ポンド削減するという方針を打ち出した。雇用面では、今後5万5000人の公務労働者が削減されることになる。公共サービスは民営化、アウトソース化による賃金削減、労働条件の低下によって、以前のようなサービスを提供できなくなってきており、社会福祉分野でも40%の支出削減が見込まれている。
 低迷する不安定経済の中では、経済再生もできず、失業保険も不十分になっており、投資に結びつかず、納税者に還元されないという問題が出てきている。
 その中で、大きな多国籍企業が税金を免除される事態が起きている。アマゾン社やグーグル社などの企業が本来払うべき税金を払っていないという実態もある。
 英国の『雇用法』では、労働者が労働者の代表として労働組合の仕事をするために、労働者の普段の仕事場に入ってはいけないことになっている。新自由主義の考え方により、保守政府は法制化で労働組合への便宜供与と支援を禁止しようとしている。
 現在、英国は近代史上もっとも遅い景気回復の局面にある。過去の景気後退からの回復はいずれも、政府が投資をし、自由市場がおのずと問題を解決し、現在の不況よりはるかに早い回復を見せた。今回も解決を期待したが、労働市場では、16歳以上のフルタイム雇用は減少し、パートタイム雇用が増えた。

長期的課題――連動しない生産性と賃金

 フルタイム労働者の年収中央値をとると、2万2000~2万5000ポンドとなるが、過去20年にわたり実質賃金が凍結されてきたため、購買力が低下している。2011年のロンドン証券取引所株価指数による管理職給与は、平均49%上昇したのに対し、一般従業員は2.7%の上昇にとどまっている。1970年代半ば以降2008年まで、一般労働者の所得のシェアは12%減少した。
 次に労働生産性と賃金中央値を見ると、1990年が重要な分岐点になっている。同じように上がってきた2つの線が90年の不況を境に分かれ初め、最近の長期不況の中で賃金は低下している。

 労働組合への影響は複雑である。労働人口2800万人の内、製造業には180万人しか残っていない。過去の保守政権の間に、多くの製造業が海外に移転してしまった。組織率という点から見ると、1980年の終わりから1999年まで、イギリスの労働組合員数は1500万人強であったが、今は700万人を下回っている。1999年時点で組織率は29.7%になり、しばらく安定していた。今も大きな変化はなく、労働組合によっては組織率が上昇しているところもある。不況なのに組織率が上昇するということは、金融センターであるロンドンの多くの銀行で雇用が生まれたからである。銀行でも、パートタイム、派遣労働者が多くなってきているという現実はある。組合員数は1998~2008年までは安定していた。組織率は1978~98年にかけて30%落ち、労働党政権下の1998~2008年にかけては2.5%しか落ちていないということがわかる。この間に、130万人以上の未組織労働者を対象とする新たな協定ができた。この130万人は弱い立場の労働者であり、厳しい環境の中での大きな成果といえる。

労働組合の対応――新たな組織化戦略

 労働組合は、組織化と組合員獲得に重点的に取り組んでいる。私たちは組合員に対してサービスを提供しているが、それは労働組合の機能の一部に過ぎない。1998年にTUC組織化アカデミーが設立された。労働組合組織化の訓練、実習を行ない、組織化力の強化に努めている。特に労働組合の代表や活動家の目を組織化に向けるよう努力している。強い組織化活動とは単に組合員を勧誘するだけではなく、問題解決のための組織化をめざしている。TUC自体この戦略に率先して取り組んでいるが、構成組織も予算を配分して積極的に進めている。組織化のための戦略的なアプローチでは、経済を分析し、どこに重点領域をつくれるのか、どうやってより多くの雇用を生み出せるのかを分析し、組織化に取り組んでいる。
 TUCは、20の構成組織において、この10年間の重点活動や予算配分の実質的な変化を調査した。18組合が国や地域的な組織化戦略を持っている。UNITEには、予算の10%を組織化に向けるとの規則がある。また、11の労働組合には組織化活動チームがあり、地域での組織化にあたっている。
 部門別の組織化に関しては、特に食品サプライチェーンの組織化、スーパーマーケットのサプライチェーンの組織化に焦点を当てている。食品業界、スーパー業界ではサプライチェーンの分野の組織化が大変弱い。
 コミュニティーの組織化にも取り組んでおり、部門別、産業別以外に、コミュニティーの組織もTUCに入ってきている。例えば高齢者団体、学校の生徒組織がTUC構成組織となり、こういう人たちの中から、組合の組織化につなげて行こうとしている。
 さまざまな面でTUC組合の一定の成長が見られるものの、まだ課題は多いのが実情である。

危機にさらされる政策と法制

 現在の保守連立内閣は、労働者を弱体化させる法律の制定をめざしている。
1997年にはトニー・ブレア労働政権下で、労働者に支援を与えるさまざまな改革が行なわれた。最低賃金、労働組合の承認、個別雇用の権利、情報・協議の権利などが法制化され、2011年には、派遣労働者の賃金を守る法律ができた。しかし現政権の下で、このような法制度が危機にさらされている。最低賃金についても新たな論議がされ、今まで獲得してきた権利が危機にひんしている。
 昨年にはロンドンで緊縮財政に反対する大規模抗議行動を組織し、寒い日に50万人が通りに出て大規模なデモを行なった。また2011年11月には、年金に関して公共サービス労働組合が1920年以来といわれる大規模ストを行なった。調査によると、イギリス国民の61%がこのストライキを支持した。世論は連立政権に対して批判的なものが多くなってきている。連立政権は経済運営に関する調査では支持率が低くなっている。政治面でも、現政権よりも労働党の支持率が10%ほど高くなっている。
 厳しい圧力と課題がある中にあっても、労働運動は700万人という英国最大の民主的な組織であるということが組織構築の基盤となる。76%の人々は労働者の権利保護のために労働組合は不可欠であると考えている。イギリス国民は、政府の大臣よりも労働組合に対して、はるかに大きな信頼を寄せている。
 労働運動には政治的なつながりが必要である。組織化を通して、製造業のための戦略的な政策など、政府に影響を与えられるような活動をしていかなくてはならない。
 政治家は個人主義を推しているが、過去2年、労働組合の団体交渉の力、ルールが個人主義に勝ってきた。私たちの労使関係における勝利である。

TUCの重点取り組み課題

 まず、雇用、成長、銀行部門である。つまり銀行に対する怒りであり、銀行部門の規制を要求している。次に、公正な報酬と生活賃金であり、地方自治体と協力して、生活が可能となる賃金を最低賃金の労働者に導入することをめざしている。公的サービスと福祉分野は投資すべき分野だと考える。
 人々の意見や権利が雇用に反映されなくてはならず、経済的民主主義を求めて行く。労働党のリーダーであるミリバンド氏が私たちの労働組合に来て、3つの願いがあるとすれば何かと尋ねたことがある。私たちは「労働組合の権利、労働組合の権利、労働組合の権利」これこそ私たちの望む3つの願いだと即答した。

労働事情を聴く会