2015年 イタリアの労働事情

2015年7月28日 講演録

イタリア労働総同盟(CGIL)
シルヴァナ カプッチオ(Ms. Silvana Cappuccio )

欧州・国際局執行委員
ジュリア バーブッチ(Ms. Giulia Barbucci)
欧州・国際局執行委員

 

移民によりわずかながら増加する人口

 先進国に共通の人口減少と高齢化が進む中、社会の公正と成長をめざすためにも雇用政策は最優先課題の一つである。この課題に影響を与える最大のファクターは人口変化の動態である。
 イタリアの人口は6080万人で、ここ数年減速してはいるものの、わずかながら増加を続けている。その要因は、自然人口(出生数と死亡数の差)が低下の果てにマイナス(マイナス10万人)に落ち込んでいる反面、移民の増加がマイナス分を上回っていることによるものである。2014年12月31日現在、移民を中心として、イタリアに居住する外国人は実に人口の8.3%(約500万人)を占めるに至っている。こうした状況は、長期に渡る人口動態の変化がもたらしたものであり、イタリアの社会構造、そして、社会動態を根底から変えてきている。

一段と高まる高齢人口比率

 イタリア人の寿命は延びており、現在日本とドイツに次いで世界第3位の高齢国となっている。現状のイタリア人の平均年齢は44.5歳となっているが、2059年には49.8歳になると予測されており、高齢化の基調がさらに高まることの証左だといえる。また、人口に占める65歳以上の高齢者の割合が現状21.7%(2015年年初)であるのに対し、2059年には30.9%になると予測されており、これも同様に一段と高齢化が進むことの証となっている。ちなみに、男性の平均寿命は、1995年から2015年にかけて、75.1歳から80.2歳に上昇し、女性の平均寿命も81.6歳から84.9歳に上昇している。

歯止めがかからぬ少子化傾向

 イタリアにおける自然人口(出生数-死亡数)はマイナス基調となっており、少子化傾向が将来に向けて懸念すべき課題となっている。ヨーロッパのほとんどすべての国において出生率の低下が見られるが、イタリアは1917、18年の2年間以降最低を記録している。1995年に上昇し始めた出生率は、2008年に一転して低下をたどり、2013年には世界224ヵ国中210位に甘んじ、2050年には人口が4~500万人減少するという姿が透けて見える。
 2014年にはイタリアの母親は平均すると1.39人の子供を生んでいるが、これはきわめて低い水準であり、しかも第一子は31.4歳と高い出産年齢である。ちなみに父親の平均年齢が35.1歳となっており、晩婚化の傾向が見て取れる。また、イタリア人女性の4分の1はまったく子供を産まずに妊娠可能年齢を終えている。この原因は、不景気や構造的な要因に加え、女性の妊娠可能年齢人口の減少、つまり15歳から49歳の人口の変化などにあると指摘できる。

少子・高齢化に伴う様々な課題
不安定な労働環境にさらされる若年層

 懸念の1つは、不安定な労働環境にさらされる若年層についてである。若年層の経済・社会に果たす役割は極めて大きいものの、不況時には若年層がもっとも甚大な影響を被り、就業率の低下や失業の憂き目に遭うことになる。若年層の失業率が42%以上に達するという高いレベルにあり、大きな課題となっている。ちなみにイタリアの30歳未満の成人の79%が親と同居(2011年)しているという実態があり、経済的に自立のできない状況を如実に表している。また、南部地域では3人に2人の若者の雇用の見通しがたたず、職業訓練や中途採用プログラムにも登録がなく、最も不安定な労働条件下に追いやられている。
 こうした状況では若年層の購買力は低下し、経済市場に与えるマイナスの影響は計り知れない。例えば、若年層は65歳以上の高齢者より2倍近くの金銭を衣類やレジャー分野に支出するといわれ、消費経済(特に小売業者)に与える影響は甚大である。また、労働力人口が相対的に高齢者層に偏ることで、国のサービスやインフラがその層に集中し、若年層を阻害するという問題も生じている。こうした状況では夫婦が子育てにかかる経済的な負担に耐えられず、一層の出生率低下を招くことになる。さらに、若い家族がイタリアに安定性を見いだせないとして海外移住に向かうケースも増えている。
 その結果、若年層の減少ともなれば、将来の国の運営にも暗い影を落とすことになりかねない。それは、イタリアの高齢従属人口比率(生産年齢100人あたり、世話をする高齢者数)の現状がヨーロッパおよびG20で最も高く、32.7人にのぼり、将来さらに高まることが予測されるからである。いかに若年層をつなぎ止めるのか、懸念すべき事態の払拭が強く求められている。

厳しい課題に直面する福祉制度

 イタリアの福祉制度は、それを支える人口構成の変化や深刻な経済危機などから、厳しい課題に直面している。まず年金制度は、2011年の改革で支給開始年齢が2018年までに66歳、2021年までに67歳へと段階的に引き上げられることが決まっている。こうした改革はマイナスの影響をもたらすばかりであり、CGILとしては、年金支給年齢に合わせる法定退職年齢引き上げの必要はないと考えている。しかし同時に、どうしたら長い間雇用を維持することができるのか、あるいはその影響を被る若年労働者にどう新しい雇用を生み出していくのか、自らもさまざまな角度から考えていかなければならないと認識している。要は、「労働市場に若者が参入する。そして、高齢労働者が働き続けたいのであれば、それができるように、それを阻むようなハードルを解消する」、そうした闘いを労働組合として展開していくということである。
 一方、社会政策財源が減るということでは、以下のような既存リスク(問題)も浮上してきている。具体的には、[1]職場における年齢差別により、労働者が労働市場から追いやられること、[2]高齢者に対する不十分な社会的保護で不平等や不安定な収入、あるいは貧困の増大を招くこと、[3]増大する高齢者層への年金やサービスをさせる財源不足問題、[4]医療及び長期ケア部門における技能・労働力不足問題、[5]医療介護部門における労働力の非正規化問題――などの4点が挙げられる。

求められる医療・介護の体制整備

 すでに触れた既存リスクの中で、特に[4]医療および長期ケア部門における技能・労働力不足問題、[5]医療介護部門における労働力の非正規化問題に焦点をあて、その実態を明らかにしておきたい。
 イタリアの保健医療費は、2012年に例をとればGDPの7%で、OECD平均の9.3%より低い水準となっている。しかも2011年から2014年にかけて実質ベースで縮小し、1人当たりのそれは経済危機以前を下回るレベルにまでなっている。こうした中での介護の実態は、イタリアも高所得国の「65歳以上の高齢者100人に対する正規の長期介護士5人未満」(OECD加盟国平均4.8人)という実態の埒外になく、しかも現実には高齢者のケアはほとんど家族に依存しており、公的な医療制度との連結がいまだ不十分だといえる。また、イタリアでは、増加している海外からの移民がケアワーカーとして働いており、全在宅ケアワーカーのうち90%が移民と推定され、そのほとんどが非正規労働という実態でもある。
 高齢化に対応するため、2050年までに正規のケアワーカーを少なくとも倍にしなくてはならない。また、ほとんどが非正規のケアワーカーという現状は変えていかなければならない。同時に、介護ケアサービスの質の高さという点も当然重要視されなければならない。まさに医療・介護体制の整備が求められている。

必要な政策と行動 -CGILの提案-

 イタリアの労働者と国民全体の利益、そしてニーズを代表する労働組合として、私たちに問いかけられている問題を認識し、対処しなければならない。具体的には、労働市場および生活の質に関して、若年者と高齢者が抱える問題の解決に役割と責任を果たすということだと考える。
 こうした決意のもと、CGILはこれまで触れてきたイタリア社会の現状と課題認識に基づき、以下一連の提案を策定し、これを提起する。まず一つ目は、長期医療介護のユニバーサル・ヘルス・カバレッジに対する公共投資を強化すること。二つ目は、介護ケアワーカーの新規の正規雇用を創出すること。三つ目は、高齢者のために雇用機会を確保し、職場における差別と闘うこと。四つ目は、質の高い仕事を保障すること。五つ目は、あらゆる年齢を対象にした職業訓練の機会を提供すること、六つ目は、ワーク・ライフ・バランス関連の法制化とその実現を図ること。七つ目は、ワーク・ライフ・バランスを各部門および各企業レベルで展開するとともに、労働協約への反映を図ること。そして、八つ目は、生涯にわたる全体的な生活の質に目を向けるということ、以上の内容である。

労働事情を聴く会