2015年 ドイツの労働事情

2015年7月28日 講演録

ドイツ労働総同盟(DGB)
ジイナ カヤ フランク(Ms. Sina Frank)

会長室長
ジャン バプティスト フリードリヒ ダニエル アベル
(Mr. Jean-Baptiste Friedrich Daniel Abel)

リタイアメント政策局長

 

ドイツ経済・社会に影を落とす人口の変化

 ドイツにおける人口の変化は経済・社会に大きな影響を及ぼしており、将来を見据えた適切な子供・家族政策、雇用政策、および退職政策の発動を強く促している。
 ドイツでは、1972年以降死亡率が出生率を上回り、加えて2003年以降は移民による人口減少の埋め合わせ(ドイツの人口減少を補うには年間53万人の移民が必要だが、2014年のそれは50万人)ができなくなっており、人口減少が必然となっている。肝心の出生率は世界最低水準となり、1000人当たり8.28人の出生、女性1人当たりの出産は1.4人の現状にまで陥っている。また、人口動態の変化、その具体例の一つとして、ドイツ東部の若者たちが豊かな西部へ移動し、経済的に弱いエリアがさらに厳しい状態にさらされるなどの事態が発生している。

道半ばの子供・家族政策 ―障害となる稼ぎ手一人の世帯モデル―

 DGBは、かかる人口・動態の変化に立ち向かう上で、労働人口に占める女性の割合を高めていくことが重要な要素の一つと考えている。その意味で将来を見据えた子供・家族政策を整備していくことが喫緊の課題である。
 しかし、財政・社会政策の現状は、稼ぎ手一人の世帯モデルを後押しするものであり、女性の社会進出を後押しする子供・家族政策への新たな展開には至っていない。例えば、所得分割が4割から6割以上のカップルを優遇し、片働きを後押しするような制度である。健康保険でも同様であり、配偶者収入が400ユーロ(約5万4920円)/月未満なら医療費は無料となる制度となっている。さらに、副業的な仕事が450ユーロ(約6万1785円)以下の場合は非課税であり、社会的な費用負担も発生しない。この他にも労働時間関連法制は小企業を例外としてなっている。とくに西部においては、全日制保育施設が不足し母親が子育てをするケースが多い。さらには男女の賃金格差(男性100に対し女性78)など、女性の労働人口化を阻む要因は少なくない。
 こうした現状に対し、公共政策として「父親の育休および母親の産休の法制の改善」や「働く母親に対する社会的枠組みの改善」などの対応努力はあるものの、ドイツにおけるあらゆる法規制の前提である、稼ぎ手一人の世帯モデルの解消に向けた運動はまだ道半ばである。
 今年、企業の役員の3割は女性であるべきとする法律が施行された。この法によって、女性の労働参加率が改善されることを期待している。

柔軟で有効な発動が急がれる雇用政策 ―最大の課題は高齢者雇用率の低さ―

 人口変化に伴う労働人口の減少に対しは、女性の社会進出をも包含する適切な雇用政策が求められているが、もう一つの問題は技術職や医療・介護職などの分野で熟練労働者が不足していることである。また、公共政策としてEUブルーカードプログラム(*1)が実施されたが、全くといっていいほど機能していない。1年半もたつのに7000人しか増えておらず、しかも4000人はこのプログラムが始まる前からドイツにいた人たちである。
 ドイツにおける雇用政策上、取り組まなければならない課題は多々あるが、最大の課題
 は高齢者の雇用率の低さにある。55歳から59歳の層は2002年には42%が働いており、その後も少しずつ増えてきているものの、現状における50%強の水準は低いといわざるを得ない。それにも増して大きな問題は、60歳以上の雇用率の低さにある。3人に1人しか雇用されていない現状の改善を急がねばならない。年金生活に早く入ると、年金の受給額が40%位減ってしまう。この結果、社会福祉に頼る人もかなり多い。年金の受給時期を遅らせるほど得となるようにすることで、この年代の雇用を増やさなくてはならない。
 労働人口の減少に歯止めをかけ、年金生活に早くから入った高齢者の貧困化防止のためにも、どうすればこの年代が労働参加への意欲を沸き立たせるか、柔軟で有効な政策の発動が求められている。

 こうした最大の課題に対し、DGBとしての政策は次の通りである。一つは、臨時雇用の可能性を制限することであり、二つ目には、不完全就業者をそれぞれ労働市場に組み込むことである。具体的には、若者に安定した労働条件のための枠組みの提供すること、女性に家庭と仕事の調整を円滑にさせること、長期失業者(移民の失業者も多い)への職業再訓練の提供、ドイツ国内の外国人労働者に対する文化の壁の引き下げ、そして高齢者へは疾病給付および退職金の柔軟な解決策の提供、以上の実現をめざし取り組みを進めていこうと考えている。

高齢者の就労意欲を引き出す退職政策 ―変容迫られる年金制度―

 人口変化に対応する三つ目として退職政策を取り上げる。その視点は高齢者層の労働人口化という課題であり、雇用政策と密接に関わりこの年代層の生活に影響を及ぼす年金制度を中心に考えてみる。
 ドイツの法定年金制度は賦課方式によるもので、労使折半の拠出金でまかなわれ、保険料率は18.7%となっている。現在拠出者が5300万人、年金受給者が2000万人強、そして毎年120万人強が新しい受給者となっているのが現状である。この他にもいくつかの個人年金制度が運営されている。また、高齢者向けに税を財源とする最低必要保障、399ユーロ(約5万4783円)が給付される仕組みもある。

 こうしたドイツの社会保障政策ではあるが、年金受給者に対し保険料を払う現役比率の低下は、負担と給付の世代間不公平を現実のものとしており、公共政策として持続可能な制度に向けて更なる改善が指向されている。その具体的対策とは、標準定年67歳への引き上げ(給付開始年齢の引き上げ)、生活保障から拠出金額重視へ、あるいは賦課方式から企業年金または個人年金への転換などである。高齢者を取り巻く環境は厳しいばかりであるが、多くの高齢者の就労参加を促すとともに、貧困の低減を図るべく、DGBは年金の従前所得置換率を引き上げる主張を図るとともに、年金受給者の生活保障や、連帯の形でもある、あらゆる人を関与させる年金制度の必要性を主張していく。期待される高齢者をはじめとする潜在的労働者の意欲と力の発揮を促すよう運動の展開を図らなければならない。

(*1) EUブルーカード:EUの高資格外国人労働者指令に従い、EU加盟国から発給される滞在許可証で、アメリカのグリーンカードのようなもの。2012年8月施行。
大学を卒業し、ドイツにおける収入が、税込み年収44,800ユーロ(約615万1040円)以上(自然科学、医師などは35,000ユーロ=約480万5500円))であることを証明できれば、就労許可を受けやすくなる。また、大学卒業者には、具体的な就職の可能性を提示できなくても、求職活動のためのビザを申請(6ヵ月間有効)できる。

*1ユーロ=137.30円(2015年8月26日現在)

労働事情を聴く会