2012年 ドイツの労働事情

2012年2月20日 講演録

ドイツ労働総同盟(DGB)
マティアス・アンブール

教育局長

 

ドイツの経済の光と陰

 ドイツ経済の現在の状況は、2008年リーマン・ショック、ヨーロッパの金融危機を乗り越えて、再び成長に転じている。失業率、特に若者の失業率は低下している。
 しかし、大きなリスクがある。それはドイツ経済がヨーロッパ、世界市場への輸出に依存し、国内の需要が大変弱いことである。ユーロ危機、緊縮財政がヨーロッパ地域の実質GDPを低下させ、ドイツの優先事項がアメリカや日本の金融政策と異なっていることもリスクとなっている。
 1970年以降のドイツの経済成長の変化を見ると、1950年代、60年代は第二次世界大戦からの復興期で大きな成長があり、その後も20世紀は安定的に成長してきた。今後2、3年の予測では、ヨーロッパの金融危機の中で成長の鈍化はあっても、影響は限定的と見られている。特に重要な年はリーマン・ショック後の2009年で、大きなマイナス成長の年となり、ドイツのGDPが5%低下した。輸出依存の国にとって、これは本当に大きな問題であった。

危機克服に向けた戦略

 メルケル連立政権はこれまでと違う対応をした。政府は労働組合、使用者、政府による社会的対話を始めた。協力して問題の解決に取り組もうとする考え方である。労働組合は何とか失業を避けることを目標にしていたので、社会的な対話の中で、戦略を生み出した。
 1つ目は、短期的な2年間の経済刺激プログラムで、古い車を廃車にして新車を買う場合に政府が廃車奨励金という補助金を出すことにより自動車産業を支援した。これにより自動車業界は失業者を出さずに済んだ。
 2つ目の戦略は労働市場のプログラムで、短時間労働を進めるものである。これも、会社が危機の時に、労働時間を減らすことによって失業を防ぐための戦略である。労働時間が減るので、賃金も一部出ないが、失業を防ぐことはできた。危機が終われば、新規労働者を採用するのではなく、労働時間を縮小していた人をもとの労働時間に戻せば良くなったわけである。
このようなアイディアはすべて、世論を背景に、労働組合が提案して政府が導入した戦略であった。労働者、特に若者はここで労働組合が必要だと感じた。労働組合というのは問題を起こすのではなく、解決の一端を担っているものだと政府に言わせることができた。労働組合にとっても重要な転換期になった。社会的なパートナーシップを組むことに同意しているドイツの保守党政権は、他国の保守党と比べ、労働組合を理解しているといえる。

輸出依存のドイツ経済

 ドイツは輸出が輸入よりずっと多い国で、アウディ、BMW、フォルクスワーゲンなど質の高い車を、質の高い労働力で、良い賃金を払ってきちんと輸出している。しかし、輸出に比して輸入が少ないので、短期的には黒字がでるが、長期的には問題がある。このモデルは全ての国に適用できるものではない。国内需要を強化しなくてはならない。輸出先の59%がEUで、16%は日本、中国などアジアに、12%はEU外ヨーロッパ圏、10%がアメリカとなっている。ヨーロッパは今、金融危機にあり、2013年のGDP予測では、実質GDPが再度ユーロ圏で減少すると見込まれており、EUに輸出している国、ドイツにとっては問題となる。

比較的安定した労働市場と低賃金部門の拡大

 これがドイツの労働市場にはどういう影響を与えるのか。ドイツの労働市場は安定しているものの、低賃金部門、非正規労働者が増えている。失業率は低下し、雇用率は上昇しているが、賃金格差が拡大し、雇用の保障も低下している。
 地域別の失業率をみると、東西ドイツ統合から23年経ったが、まだ労働市場が分断されており、北部のほうが高い。旧西ドイツ地域に旧東ドイツの技術者が移動しており、南部では失業率が低く、3%程度とほとんど失業者はいないような状況になっている。
 次に全国的な失業率を見ると、2005年が一番高く、そこから下がり続けている。200万人ほど失業者の数が減った。2009年でも、GDPが5%も下がった割に失業率は増加しなかった。欧州財政危機の間でも失業者はそれほど増えなかった。また、正規労働者数が増えているのも良い傾向である。
 しかし、問題はある。まずは、賃金格差であり、2000~2009年の上位層と下位層の賃金変化をみると、最下層10%は5.5%所得が減り、次の10%は6.9%減った。これに対して、高賃金層5%では19.8%、最高賃金層1%は47.7%増加している。アメリカほどではないが、これは国内需要を強化するためには大問題である。さらに、非正規・正規の問題があり、賃金が下がっているのは非正規が多い。労働組合の取り組むべき課題は多い。
 次に、不安定な仕事につく非正規労働者が増加し続けており、現在全従業員の23%が不安定な仕事や周辺労働に従事している。例えば、派遣労働者は2000年には0.34%であったが、政府が労働市場の規制を撤廃したため、現在では0.91%で9万1000人となっている。派遣労働者の中には若年労働者が多い。若者が就職の際に、非正規職しか得られないことが問題である。これに関してドイツ金属労働組合(IG-METALL)や化学部門の労働組合では、団体交渉を通じて若年労働者にディーセントな職を提供することを獲得した。
 仕事の時間を減らすことを第一にパートタイムを選ぶ労働者も多い。日本とドイツの違いは、ドイツではパートタイマーも時間比例で正規労働者と同一賃金を得られる点である。日本では賃金が低く社会保険の負担もしていないことが多い。ドイツでは2009年頃から、社会保険の対象となるフルタイム労働者がまた少し増える傾向が見え始めている。
 もう一つの問題は、失業率が低下しているにも関わらず、貧困層が拡大し、貧困率が15.4%を占めるようになっていることである。最低賃金がない国というのはあまりないが、ドイツには全労働者を対象とした法定最低賃金がない。産別の労働組合が団体交渉を通じて獲得した最低賃金がその産業に適用されている。今年9月22日に行われる総選挙によってできる新しい政府に対して、最低賃金を法制化することを期待している。現在、800万人の労働者が時給8ユーロ未満で働いている。ワーキングプア問題の解決のためには、最低賃金制度を必ず獲得しなくてならない。
 2つ目の問題は、男女間の賃金格差である。同一価値の労働についていても、依然として男性のほうが女性よりも23%多い賃金を得ているというデータがある。

課題解決のためのDGBの取り組み

 このような問題をどのような形で解決するべきか、もちろん私たちはさまざまな要求をしている。多くの労働者を正規労働者に変えていくという課題、政策については、ヨーロッパにおける一般の人たちの考え方を変えていかなくてはならない。新自由主義政策、緊縮財政の中にあって、株主利益重視との闘争といったものが例として挙げられる。
 現在は、新自由主義の政党と保守政党との連立政権であり、次の選挙に向けて私たちは4つの要求を出している。ディーセントワーク、年金保障、社会的ヨーロッパ(ヨーロッパのためのマーシャルプラン)、公的部門の強化である。
 ディーセントワークに関しては、まず労働組合と従業員の権利を強化すべきである。団体交渉により賃上げを獲得し、国内需要の強化につなげる。ヨーロッパ全体で企業、取締役会への参画を進め、質の高い労働の導入を図る。低賃金部門については、最低賃金、派遣労働の再規制も進めて行く。フリーランス契約の乱用対策もしていきたい。さらに、年間5万人近くの退学者や、職場において見習いを始めたものの修了せずに辞めてしまう若者がいる。このような人たちは全体の15%に当たり、職場における見習いや研修生へのセカンドチャンスや教育を提供し、資格のある労働者になる道を開く必要がある。手厚く保護された常勤雇用の職を要求したい。社会保障つきの仕事、不当解雇や有期雇用への対策、仕事と家庭の両立などを図っていく。企業に要請して、労働のプロセスあるいは大学教育を通じて、より高い教育、訓練を提供する必要がある。
 年金保障は、ワーキングプアとして働いている貧困者が高齢者になった場合、より貧困者になるという問題があり、それを防止しなくてはならない。また、現在65歳の定年制度が今後2029年までに67歳に引き上げられ、それによって年金受給開始年齢も67歳に引き上げられることになるが、この67歳定年制の廃止も要求していきたい。高齢者の年金が保障されるようにしなければならない。
 EUが現在負っている新自由主義の問題については、私たちは緊縮財政ではなく、連帯が必要だと考える。ドイツ人が第二次大戦後に経験したように、持続可能な成長と雇用の実現を目指したマーシャルプランが必要である。ヨーロッパのためのマーシャルプランは、社会的ヨーロッパをめざし、EUに加盟27ヵ国全てを対象にした10年間の投資・開発計画として考えられている。ヨーロッパ国家経済の変革・近代化をめざすものである。そのための財源として、ヨーロッパの場合、夫婦で100万ユーロを超える個人資産を持っている人たちもおり、富裕税3%の単発課税、資本所得課税の強化、金融取引税を要求していく。

労働事情を聴く会