2013年 フィンランドの労働事情

2014年2月19日 講演録
 国際労働財団は平成26年2月19日、フィンランドとオランダの労働組合リーダーを招き、「働き方を含めたこれからの生活モデルとそれを支えるセーフティネット」をテーマに国際シンポジウムを開催した。このシンポジウムに参加した2ヵ国の報告についてその概要を紹介する。

フィンランド労働組合中央組織(SAK)
イルッカ・カウコランタ(Mr. Ilkka Kaukoranta)

エコノミスト

 

ソーシャルセーフティネットの目的

 始めに、ソーシャルセーフティネットは雇用を促進し経済を成長させるということである。ソーシャルセーフティネットの本来の目的は、貧困を解消し、家族を支え、幸福を追求するためのものである。しかし、それだけではなく、ソーシャルセーフティネット政策は、うまく設計されれば、雇用を促進し、経済を成長させるものとなる。例えば、家族政策、教育助成、老齢給付などである。ここでフィンランドの例を紹介する。
 ソーシャルセーフティネットがなければ、社会にとって良い結果はもたらされない。ソーシャルセーフティネットがなければ、国民の選択の幅を狭める結果となる。最も大きな問題は、女性の雇用率が下がることである。例えば、子どもの保育に対する援助がなくなれば、母親は家で子どもの世話をすることになるが、これは長期間にわたって女性がキャリアから離脱することになる。そうなると、子どもが成長した後も影響が出る。専業主婦が増え、結果的に女性の雇用率は下がっていく。その結果、家計の収入減にもつながり、税金面から考えれば、女性の雇用率を上げることは税収増にもつながる。
 また、妊娠中、介護中の保護などの家族政策がなければ、出生率は下がり、妊娠・出産によって仕事を離れる女性を使用者は雇わなくなる。仕事を続けながら子育てをすることが難しいと、子どもを持ちたいと思う女性の求職意欲は下がる。逆に言えば、母性保護の制度がなければ、子どもを持つことをあきらめる女性も増える。その結果、出生率も女性の雇用率も下がることになる。これは、将来の労働者となる子どもの数が減ることになり、最終的には国全体の雇用率を下げることになる。

ジェンダー平等を実現するためのメリット

 したがって、家族の幸福を実現し、雇用の平等を推進するための政策が必要となる。家族政策の最終的な目標は、ジェンダー平等になると考える。母親も父親も育児休暇の取得が可能なこと、それによって職場でも家族でもジェンダー平等が生まれると考えている。そして、雇用を促進するということは男女を問わず、職場には女性も男性も必要である。女性の才能も職場では必要で、女性を使わないということになれば、それは人材を大変無駄にすることになる。また、生活の安定も、家族政策によって促進される。家族にとって、両親ともに平等であり、平等の収入を持ち、家事も分担することによって、より幸せな家庭が生まれると私は信じている。共働きは、家庭の収入を増やし、国は税収を増やす。これに対し、一人が働くという過去のモデルは、家族にとっても、税収面でもマイナスであり、社会全体の幸せにもマイナスとなる。

フィンランドの家族政策

 次に、フィンランドのさまざまな家族政策の例を紹介する。
 最初に、育児休暇(産休および育休)中の手当は、報酬に比例して支給され、休暇前の給料の75%程度が政府から支給される。使用者だけに負担をさせず、社会全体で負担することになる。なお、育児休暇中でも年金は積み立てられており、育児休暇を取得したからといって、年金が減額されることはない。
 この育児休暇は、3つの部分から成り立っている。母親のために4ヵ月、父親のために2ヵ月、そして両親で分割できる6ヵ月となっている。
 この育児休暇制度は、子どもをきちんと家で育てるために充分な期間であり、さらに収入も減らさないという考え方に基づいている。母親は出産後、子どもを保育所に入れる前の1年間、最大で10ヵ月の間、家に居ることができる。最初の6ヵ月間は、子どもを母乳で育てるという推奨もあって、母親が出産後10ヵ月間このような休暇を取れることは良いことである。もちろん、母乳で子どもを育てること以外にもメリットはある。特にジェンダー平等の促進という重要な点が政策的にある。つまり、父親が2ヵ月間育児休暇を取り、その間の手当は政府が出すということは、父親が育児休暇を取ることに大変強いインセンティブを与えている。子どもが生まれて2ヵ月間は、父親も家に居ることになる。

ソーシャルセーフティネットの利用者のための保護

 こうした制度やそれを利用する権利が存在するだけでは十分ではない。労働者が、それを理解して、権利を行使する必要がある。フィンランドは、日本に比べると簡単に労働者を解雇できる。経済的理由や、仕事量に対して人が多すぎるという時でも、解雇できる。しかし、妊娠中の女性や育児休暇を取得している人に対しては強い雇用保護がある。会社閉鎖という事態になれば、そういう人も解雇されるが、順番として一番遅く解雇されるのが、妊娠中の女性や育児休暇を取得している人たちである。また、育児休暇の後、元のポジションに戻れる権利もある。リストラがあったとしても、育児休暇取得中の人については、元のポジションに戻ることができ、それより低い地位に就くことはない。こうした権利を理解した上で、行使することが求職あるいは雇用継続へのインセンティブになり、こうした権利行使が、出生率にも良い影響を与えることになる。

フィンランドの育児休暇と保育サービス

 1年間の育児休暇を取得した後は、子どもが3歳になるまで休暇を続けることができる。最初の1年間の手当については、報酬に比例して支給されるが、1年過ぎた後は、月額340ユーロ程度と低くなる。これが再び職場に戻るためのインセンティブとなる。また、複数の子どもがいる場合は、手厚い補助が与えられる。これは、世帯の所得にもよるが、月額0~264ユーロという低コストで保育サービスが受けられる。フィンランドでは子どもはすべて保育サービスに預けることが可能である。場所がないとか、保育所に預けるために長期間待機させられることは違法となる。日本では保育所に子どもを預けられない待機児童が多いと聞いているが、そういうことはフィンランドではない。したがって、出産後は、ほとんどの人が子どもを保育所に預け、職場に復帰する。こうすることによって、社会全体が活性化するというメリットが得られる。

柔軟な働き方を支えるための制度

 フィンランドにおいては、パートタイム労働が、ある一定の期間で好まれる働き方になっている。3歳以下の子どもがいる労働者の場合、パートタイムで働くことが可能である。労働者にはその権利があり、その権利の行使を使用者は拒否することができない。そして、再度フルタイムに戻りたいと希望すれば、戻ることも可能である。
 パートタイムになった場合、給料の低下を補うための「柔軟ケア手当」という制度がある。労働時間が2割減る場合、月額160ユーロ(約2万2000円)の手当を受けられる。4割減った場合の手当は、月額240ユーロ(約3万3000円)。この「柔軟ケア手当」は両親ともに認められている。
 育児休暇終了後は、フルタイムで復帰することも、パートタイムで復帰することも可能である。子どもが小さいうちはパートで働き、子どもに手がかからなくなったらフルタイムで働く、というようにスイッチすることもできる。そういう意味で柔軟性のある働き方となっている。この柔軟性は出生率にも良い影響を与えており、高齢化が問題となっている今、ひとつのメリットでもある。

教育の助成

 ソーシャルセーフティネットの中で、もうひとつ重要なものが教育への助成である。子どもの教育費は、家計にとって大きな負担となるので、子どもを産む数を抑える誘因となる。経済的理由で教育を制限すること、そして子どもの数を制限することは、社会にとって好ましい結果にはならない。フィンランドでは、大学まで教育は無償である。学生には奨学金が支給され、親に頼る必要がないため、高等教育を受けようという動機づけになる。これは機会の平等という意味で非常に重要なことである。

高齢者への給付

 そしてもうひとつ、ソーシャルセーフティネットの中で重要なものが、高齢者に対するさまざまな給付で、年金、医療保険、介護保険などである。どの国においても、若い世代、現役世代が高齢者を支えることは必要である。高齢者に対する手厚い給付は、一個人で老いた両親の面倒を看ることが過剰な負担になることを防ぐ。言い換えれば、仕事を辞めなければいけないまでに追い込まれてしまう、このような状態で介護をすることは望ましくない。若い世代、現役世代が仕事を継続できるようにするためにも、年金その他の高齢者に対する給付は必要である。
 また、当然子どもがいない高齢者もいる。子どもから援助を得られない高齢者には、こうした給付が必要になる。子どもがいる、いないに関わらず、給付を受けられることは平等の観点からも重要である。子どもが親の面倒を看たい、あるいは子どもは親の面倒を看るべきである、という考えは別にして、高齢者の生活が、子どもの意思に左右されることになれば、大きな問題である。

年金、保健医療サービス

 フィンランドの年金システムは、報酬に比例した確定給付年金である。法律で加入が義務づけられている。現役時代に報酬に比例した形で拠出し、引退後に受給する。これによって高齢者の貧困を防ぐことになる。
 保健医療、介護についての責任は市町村が負う。保健医療は、高齢者に限ったことではなく、市町村民誰もがサービスを受けられる。誰もが経済的状況に左右されずにサービスを受けられることが重要である。
 年金制度は、現役世代が高齢者を支える制度である。現役世代が高齢者に対して貢献しているという意味では、社会的な連帯感につながっていると考えている。もちろん、経済成長の観点、雇用の観点に立っても、若い人たちが、高齢の親の面倒を看るために、そばを離れられない、ということはなくなり、仕事の選択の幅が広がることにもつながる。繰り返しになるが、ソーシャルセーフティネットの第一の目的は、貧困の解消で、しっかりと設計されたソーシャルセーフティネットは、経済成長を促進させるものとなる。その意味で、ソーシャルセーフティネットの構築は非常に重要である。

失業保険と労働組合の参画

 最後に失業保険について触れる。フィンランドの失業保険は、すべての働く人たちに適用される。パートタイム、フルタイム、有期契約なども含めて、すべての雇用されている人に適用される。給付額は失業前の報酬に比例する。給付額は、平均すると、失業前の給与の6割程度となっており、受給期間は最長で2年間である。しかし、これには条件があり、求職のための努力をしているかである。教育、職業訓練の機会を利用して、求職活動をしていることが受給の条件となる。求職活動に対してはさまざまな援助もあり、職業紹介機関では仕事や職業訓練の機会を紹介している。
 
 失業保険の基金には、労働組合が深く参画している。失業保険自体は国の制度であるが、民間の基金もある。これを活用しての失業給付となる。民間基金はそれぞれで運営されている。加入は任意であるが、労働組合の組合員は、自動的にこの基金に加入しており、ここからも失業給付が得られる。この給付は、全給付額のうちの6%程度と小さく、その他は一般税収からの給付となる。この給付は、使用者、労働者からの拠出で賄っている。このように、任意で加入する民間基金からの失業給付は、額としては非常に小さいが、こうした民間基金が存在することは非常に有効なため、これを活用する人も多い。
 民間基金は、労働組合と連携していることが多いので、こういった民間基金を活用するのであれば労働組合に入った方がメリットとなる。そういう意味で、労働組合の組合員になろうというひとつの動機づけにもなる。

ソーシャルセーフティネットにおける政労使合意の重要性

 ソーシャルセーフティネットの制度は、必ず政労使の三者協議機関で協議され、合意されている。まず労使間で協議し、次に三者構成の場において協議し、合意され、それから法案となり、議会の審議を通過して法律となる。この三者構成の仕組みがあるからこそ、労働者側からもさまざまな制度設計に対して意見表明を行ない、われわれの声を反映させることができる。一方的に使用者や国だけの意向が反映されるということはない。

労働事情を聴く会