2001年 ロシアの労働事情

2001年12月5日 講演録

ロシア独立労働組合連盟(FNPR)
アレクサンドルA.テレンチェフ

ロシア独立労働組合連盟企画運営担当書記

 

国内の状況

 現在、ロシアは旧ソ連時代の国家的に統一されていた計画経済から市場経済への移行期にあり、さまざまな困難な問題を抱えています。
 また、ソ連邦の崩壊、市場経済への移行を経験し、それにあわせて経済情勢が大きく変わってきました。大きく経済革命が行われており、福祉が悪化し、労働者の社会保障は非常に厳しい状況に置かれています。
 市場経済に移行するに当たって、そのイデオロギーを形成した人たちは自然に市場経済のルールはできるものだと考えていました。ところが、市場経済のルールはそう簡単にできるものではないことにようやくこの2、3年で気がつき、国としても調整に乗り出してきました。
 この2年間、国としても積極的に経済の回復と安定のために、さまざまな措置をとるようになり、経済成長が少しずつ見られるようになりました。1999~2000年のGNPの成長率は7.7%です。そして生産高は9%上昇しました。このような経済成長とあわせて、国民の収入、生活レベルも向上してきています。今年に入り国民の実質収入は9%上昇しています。
 新しい措置がとられるようになり、各企業も賃金体系の改善に取り組むようになり、また給料の遅配も少しずつ改善の兆しが見られます。このような賃金や生活レベルの向上は2001年上半期にも見られました。
 今年の1~8月にかけての国民の所得は昨年同期の所得比で31.8%上昇しています。2001年8月の統計によると、1人当たりの平均所得は約3,000ルーブル(100USドル)です。額面では、3,370ルーブルで、これは前年度と比較すると147.9%です。また年金額は、月平均34ドルで、昨年度と比較して146.8%になっています。
 昨年と同様、本年度も、賃金上昇率は物価上昇率を超えています。具体的に昨年と比較して、物価は22.9%の上昇率でした。それに対して、平均所得の上昇率は37.1%です。また、額面賃金の上昇率は45.7%となっています。そして年金上昇率は49.5%でした。
 労働者の可処分所得は2001年の8カ月間と、昨年同時期と比較して5.7%増えています。実質月平均賃金は19.3%の上昇、そして実質年金の上昇は20.9%になっています。
 このように、マクロ経済的には改善の兆しが見られますが、まだまだ社会・労働問題には大きな問題が残っています。例えば産業間で賃金格差が大きくなっており、産業によっては非常に賃金の低いところもあります。貧困の問題も残っています。特に1992~1993年の価格の自由化に伴い、国民の生活が非常に困難な状況になり、貧困層が増えてきました。労働者の賃金、年金などへの補助金を合わせて、実質的な価値は下がってしまいました。
1998年の中頃までには、賃金格差がさらに拡大していく動向には歯止めがかかりましたが、1998年8月に金融危機が起こり、1999年には国民生活が厳しい状況になってきました。最低生活費を下回る所得の国民層が急激に増加し、現在、4,200万人が最低生活費にも満たない所得で生活しています。
 2001年上半期には経済の改善の兆しも見られましたが、この低い賃金レベルと貧困の問題がまだまだ未解決のままです。この10年間、低賃金の問題と大きな賃金格差が深刻な社会問題であるといえます。
 最近の傾向として貧困層の中に入る人たちの層が少しずつ変わってきていることがあげられます。かつては扶養家族を多く抱える大家族とか、一人で生活している年金生活者とか、また障害を持っているような人が、貧困層と言われていましたが、新たな貧困層として働いてはいるものの、余りにも低い賃金で、生活の保障が十分にできないという人たちも含まれるようになりました。
 さまざまな理由がありますが、働いてはいても十分な所得ではなく、生活の保障、また福祉という面でも十分な手当を受けていないというのが現状です。特に、賃金がなかなか上がらないことが地域別に見られます。地域によっては経済が活性化せず、新しい企業を誘致できずに、既存の大企業が一つしかないような地域があります。そういう地域においては、かなり厳しい状況になっています。
 申し上げた通りさまざまな問題もありますが、2000~2001年にかけては良い兆しも見られました。労働人口は増えています。2000年6,400万人だったのが、2001年には6,500万人まで増えています。また、この数年間で新たな場所で58万人の雇用が確保されました。
 ILOの基準で失業者数は740万人、全体の労働人口の10.2%です。しかし公的な発表の失業者数は、104万人とされています。これは労働者全体の1.4%になります。2000年末の統計で常時ロシア国内に住んでいる人口は1億4,480万人、そのうち労働人口は7,100万人で、全体の50%を占めています。

FNPRの活動方針

 FNPRは48の産別組織で構成されています。48の産別組織のうち5組織とは協力協定を結び、協力関係にあります。また78の地方行政管区毎に地方組織を有し、企業別組織の数は約30万です。加盟人員数は3,800万人です。この人数は、全雇用労働者数の52%に相当します。
 FNPRは毎年加盟構成組織が増えてきており、2001年には鉱山・鉄鋼労働組合、鉄道労働組合という二つの大きな組織が加盟しました。今年11月28~30日、第4回大会が行われました。加盟組織から800人以上の代議員が参加しました。この第4回大会でシマコフ会長が再任され、他の執行委員も再選されました。
 大会では具体的に以下の決定が行われました。

1. 単位組織の活動を強化していくこと。組織化を強化していくこと。産別組織の数が多すぎるので、これを統合していくこと。
2. 秩序を守っていくこと。これは組織内の秩序ということです。各地方、また国レベルの法律を遵守していくということも含まれています。
3. 加盟構成組織間の協調を図る。具体的にいうと、特に産別組織と地方組織の協調を図っていくこと。
4. 人材育成。具体的には労働組合活動家の育成であります。

 次に労働者の保護のためのFNPRの課題は次の通りです。
1. しかるべき労働法制を採択していくこと。それに対する尽力。現行の労働法は、どちらかというと雇用者に対して有利な状況になっている。その労働法を改正していくことです。この2年間、労働組合も政府との交渉を積極的に行っていて、デモ、集会などの行動を通じて、さまざまな形で私たちの意見の主張をしています。特に労働者の社会保障に関して、断固守っていきたいと思っています。
 何よりも要求事項で一番大事なのは賃金引き上げです。最低賃金が最低生活費を上回るように強く要求してきました。それを法律で確定し保障していくことです。最低賃金が最低生活費を上回るようにという要求は聞き入れられましたので、今後賃金の改善が見られるのではないかと期待しています。
2. ソーシャルパートナーシップを維持していくこと。また労働協約を結ぶ権利を維持していくということ。今までの労働法では雇用者は労働組合側、労働者側の要求に応じて交渉を行わなければならないと義務づけられていましたが、必ずしも労働協約を結ぶことに関しては義務づけが行われていませんでした。新しい労働法でようやくそれも義務づけられるようになりました。
 このソーシャルパートナーシップに関しては、ロシアでは三者会議で実現されていますが、この三者は労働組合側と雇用者側と政府代表で構成されています。この三者会談で、FNPRは様々な要求を提出しています。政府代表、労働者代表、使用者代表の間で一般協定(ジェネラルアグリーメント)も締結されています。最低賃金の向上も達成することができましたし、また賃金遅配が続いているところでは一刻も早く支払いをするようにという要求も伝えています。
 雇用問題でも労働組合は力を入れていて、失業率も下がってきています。また政府と協力しあいながら、地方自治体とのいろいろな話し合いを踏まえて、雇用プログラムを策定しています。
 もう一つの要望事項は、失業保険の再開です。今まで失業保険は支払われていましたが、近年その保険が停止されていましたので、この保険を復活させたいと思っています。
 そのほか雇用労働者に対する保障の面でFNPRとしてさまざまな形で尽力をしています。例えばその一環として、義務的社会保障に関する法律が策定されました。年金制度の改正でも、強く要求しています。
 そしてもう一つ大事な課題は、労働安全衛生問題の改善です。FNPRとしても監督を各企業別に行っていますが、この監督もいい結果を生み出しています。
 先ほど申し上げた労働法の改善への努力とあわせて、社会保障制度の改善のための法律整備の面でもさまざまな努力をしています。議会への働きかけは、労働者の労働・生活条件向上のためには不可欠です。今現在、国会の中にも労働組合の代表からなる政党( 「連帯」)もできています。
 広報・プロパガンダ活動も重要な活動です。新聞・テレビ等を使用し、広報活動を行っています。私たちの活動に関するアピール、それからプロパガンダで、さらに活動を活発に行っています。
 国際協力も大事な活動です。ICFTUにも加盟をしましたので、ICFTUとの協力活動も積極的に進めています。またITSとの協力活動も積極的に取り組んでいます。

ナタリヤE.チェルヴャコーワ
FNPRヴォルゴグラード州労働組合評議会経済・労使関係主任専門官

 

ヴォルゴグラード州の状況

 ヴォルゴグラード州の人口は264万4,500人。今年の初頭から比較して、0.6%減少しています。雇用労働者は73万8,200人。この人数は州内の労働力人口の53%を占めています。失業者数は約1万2,000人、その内70%が女性、32%が16~29歳の青年層です。登録をされている失業率は0.8%です。しかしILOの基準にのっとって失業率を計算すると、10%になります。
 本年9月時の平均賃金は2,608ルーブルでほぼ90USドルといえます。この賃金は今年初頭から比較すると、18%の上昇で、非常に少ない上昇率だと思います。それに対して、最低生活費は20%上がっているので、それに対して賃金の上昇率が追いついていないというのが現状です。最低生活費は月1,500ルーブルで50USドルになると思います。
 また、最低生活費を下回るような賃金をもらっている人の割合が全体の労働者の45%になっています。特に賃金が低い部門として挙げられるのが、軽工業、林業、農業、小売業、保健・社会保障部門、教育・文化・芸術の部門で、こういった部門で働いている人たちの人数が約30万人です。ロシアでの平均賃金は日本だと、2~3日しかもたないのではないかと思います。
 GDPに占める賃金の割合は1990年は47%でしたが、2001年は23%に下がっています。また生産コストの中に占める賃金の割合も7~14%という非常に低い割合になっています。
 また、ヴォルゴグラード地域でも賃金格差が大きく広がっています。産業部門や企業によってかなりの賃金格差があります。具体的に例を挙げると、農業部門の賃金は石油生産部門と比較して16分の1になります。
 この賃金の支払いに関しても、不当労働行為が行われているケースも多くあります。これは、決められた日に賃金の支払いがなされていないことです。この遅配している賃金の総額を今年10月1日の統計で見ると、5億7,870万ルーブルで約2,000万USドルになります。4人のうち1人が賃金を支給されていないと言えます。
 もう一つ、特に小規模の企業や銀行等でよく見られるケースですが、支払った賃金を申告しないケースがあります。申告しないことによって脱税をしているということです。国家統計委員会の出した統計によると、ヴォルゴグラード州内でのこういった賃金を隠すケースを考慮すると、全体の賃金の50%が申告されていないという結果が出ています。これが今後は年金にも響いてくると思われます。賃金が支払われていないために、年金も支給されない可能性があります。
 ヴォルゴグラード州でも、そのほかのロシアの地域と同じように賃金が非常に低く出生率も高くありません。出生率が死亡率を下回っています。また、犯罪も増えていますし、平均寿命も非常に下がっています。まず何よりも賃金の改善が労働組合の一番重要な課題です。賃金を改善していくことにより、生活の保障も向上が見られると思います。

FNPRヴォルゴグラード州労働組合評議会の活動

 ヴォルゴグラード労働組合評議会はFNPRの地方組織です。27の地域産別組織が加盟しています。また、43の産業部門を調整する評議会があります。その中には、各地区の労働組合も加盟をしています。労働組合員数は州の中では62万300人ですが、この労働組合員数は大企業・小規模企業の労働者のうちの84%を占めています。また、労働力人口のうちの53%を占めています。
 もっとも重要な活動方針は組織化です。労働組合員になろうという意欲を高めていくということ、また組合員の中でも団結をしようという意識を高めていくことに力を入れています。労働組合員、活動家の訓練、育成の改善、青年層の組織化の強化です。労働組合調整評議会の活動の改善、地方自治体との協力関係、地方自治体の活動への労働組合の参加、労働組合の法的権利の強化、そして労働組合の地域の経済に対する影響力の強化です。 そして非常に重要な活動として挙げられるのが、労働組合の生産管理への参加です。
 もう一つ、賃金の問題は一番重要な課題であると考えています。労働契約を結び、賃金のレベルを確保すること、また地域間、各産業別においての一般協定(ジェネラルアグリーメント)を結びながら、最低生活費を上回るレベルの最低賃金を確保することです。
 賃金遅配の払拭、生産コストに占める賃金の割合を高めていくこと、労働基準を遵守させていくこと、安定的な雇用を確保していくことが大きな課題です。州の雇用計画や経済発展計画の作成に当たって、労働組合としても積極的に参加していきたいと思っています。
 社会保障では、労働者と労働者の家族の健康増進のための措置、それから育児手当や年金、そのほか失業保険といった保険をきちんと遅配なく支払うこと、またソーシャルパートナーシップの強化に力を注いでいます。
 まず第1点は、労働協約を結んでいくこと。地域レベル、州レベル、市レベル、さまざまな地域のレベルにおいての協約を結んでいくことです。労働者の権利を定めていく各地方の法律の作成に当たっては、労働組合としても積極的に参加をしていく。地方行政府や地方議会の各種委員会への積極的な参加、それから雇用者団体や国会との話し合いを積極的に進めていくということ。
 労働安全衛生に関して、それぞれの職場での労働条件を改善していくということになりますし、また労働組合員の働く職場においての技術的監督を実施しています。
 一つロシアの特徴的なことかもしれませんが、法律がきちんと定められていてもそれを守らないケースが非常に多く、労働組合としては使用者に対して、労働法をきちんと遵守させていくことも重要な課題の一つです。各現場においての労働者の権利・利益を守っていくこと、具体的には賃金がきちんと支払われるように、またそのほかの労働条件がきちんと守られるように監視をしていかなければなりません。州レベルでも、私たちの労働組合では地方行政府でつくる労働社会問題に関係する法律に関しても、積極的に意見を述べています。
 具体的にこういった課題を実現するためにはどのような措置をとっているかというと、地方自治体と使用者側とヴォルゴグラード州労働組合評議会間で、社会経済パートナーシップ協定が結ばれました。これが社会的安定をもたらしているのではないかと思います。
 州レベルまた州内の各市レベルにおいても、三者委員会が実施されています。この三者委員会の中には、労働組合の代表、使用者の代表、そして州レベルでは州政府、市レベルでは市の代表が参加をしています。こういった三者委員会では、賃金の問題、雇用の問題、労働安全衛生の問題、エコロジーの安全の問題、社会保障の問題等、さまざまな話し合いが行われています。
 このソーシャルパートナーシップは私たちの活動の中でも非常に重要な位置を占めています。州行政府の中にある19のさまざまな委員会に労働組合から代表を送っています。賃金の問題は一番重要な課題ですので、11月14日に全国的に労働者の利益を害する使用者の行動に反対する抗議集会を行ったところです。この抗議集会で要求された内容は最低賃金が最低生活費を上回るようにすることでした。
 州レベルの法律の中でも、積極的な参加により採決された法律として、ヴォルゴグラード州最低賃金法、そのほか労働者の社会的権利の保護に関する法律が採択されています。こういった法律が採択された結果、極端な賃金の格差が少なくなってきています。昨年、最高賃金と最低賃金の格差が21倍ありましたが、今年は16倍に抑えられています。
 労働法の改正は現在も続けられていますが、この件に関しましては労働組合挙げて、さまざまなレベルでの話し合いが行われたところです。
 青年との関わりということでは、青年組織化をどうしていくかということです。青年層を積極的に労働組合に参加させていくために、さまざまな措置がとられています。今現在、青年運動も少しずつ高まってきていますが、各生産現場での青年運動ということで、スローガンを掲げながら行っています。この青年層の労働組合員の果たす役割で、今見直しがされていて、労働組合の中でも若手労働組合員たちが積極的に参加できるような条件をつくっていきたいと考えています。ということで、青年に力が注がれているので、今回こちらに参加しているメンバーも、若手メンバーばかりです。

全ロシア労働総連盟(VKT)
ドミトリーニコラエヴィチミハリョフ

全ロシア労働総連盟政労使対話・青年担当書記

 

VKTの状況

 VKTは1995年8月12日に設立されました。VKTは、ロシアの三つのナショナルセンターのうちの一つです。ICFTUにも加盟を果たしました。
 VKTの主な組織は、鉄鋼部門、非鉄部門、公共サービス部門、教育部門であります。加盟人員数は130万人です。地方組織は、89組織です。組織の形態と組織の中身は評議会であり、ブガイフが議長をしています。

VKTの活動方針

 労働者を法的に保護していくこと、労働者の利益を主張していくことです。具体的には、賃金と、社会保障制度の整備です。各職場において、労働者が労働に相当する賃金を確保できるように努力しています。労働基準が遵守されるように、労働安全衛生がきちんと管理されるように、特に女性また青年層が保護されるように力を入れています。また、再就職が必要な場合の職業訓練にも力を入れています。
 国会への議員を送り出すことも含めて、議会に積極的に働きかけをしています。三者委員会にも、積極的に参加をしています。労働法制の改善では、現行の労働法制のどこに問題があるのか、きちんと分析研究をしていかなければいけないと思っています。新しい法律を策定していくためには、外国の労働組合の経験を学ぶことも大事だと思っています。こういった活動を通して、労働者の権利を保障できるような法整備を積極的に進めています。
 近年、GDPに占める賃金の割合が下がっていて、賃金格差も急速に拡大し、労働者の生活レベルが非常に下がっています。専門家や使用者との話し合いを進めながら、民間企業における賃金指数を計算していくメカニズムづくりをしています。また、過酷な条件で働いている労働者、例えば北方地域での厳しい状況の中で仕事をしている労働者の労働条件の改善、社会保障の改善も重要な課題です。
 産業別、地域別の一般協定(GeneralAgreement)の締結、賃金引き上げ、企業別の労働協約の締結の促進にも力を入れています。名目賃金ではなく、実質賃金を最低生活レベル以上にレベルアップさせていくことが重要な課題だと思っています。
 2年前にVKTの中に産業部門間インスペクションチームをつくりました。政府との話し合いも積極的に行っており、労働社会発展省など関係省庁との話し合いを行っています。その成果の一つとして挙げられるのが各職場の技術インスペクションに関する基準と勧告を策定することができました。また、個人レベルで労働契約を結ぶ基準についても話し合いがなされています。
 労働安全衛生の保障は労働組合の活動の中でも重要な位置を占めています。職場、生産現場で従業員に対する教育が十分なされていないというのが、VKTの主張です。安全衛生面で使用者側からの不当な行為があったとしても、それがなかなか証明できないのが現状です。
 VKTの産業部門間インスペクションチームで人材育成を図り、各現場で強化しています。労働組合で労働者教育にも力を入れており、職業訓練の一環としてのセミナーや専門分野別の講演会等を開催しています。
 産業部門間インスペクション局の中で、安全確保のための基準が作成されています。こういったセミナーを聴講した参加者はかなりの知識を身につけられており、様々な国の委員会、安全を守るような委員会にも積極的に参加できるようになっています。また企業レベルでも積極的に安全衛生面の向上に寄与しています。これらのセミナーをさらに拡大して、労働組合以外の代表、例えば関係省庁の代表にも広く参加を呼びかけています。
 このようなセミナーや会議等は国際レベルにも発展しています。この種の円卓会議がフランスの労働組合との共同で開催されるようになりました。このような円卓会議を地域でも行っており、ケメロフ、ナリスク、ロストフなどの地域において開催されました。円卓会議が開催されると、各専門家からの基調報告等があり、また最終的には円卓会議のとりまとめの文書も作成しています。
 セミナー、円卓会議等で討論される問題は主に賃金、雇用、社会保障の問題等であります。
 VKTは他の労働組合が開催している会議、セミナー等にも積極的に参加をしています。国際会議にも積極的に参加しています。残念ながら、まだロシアではストライキやそのほかの集会等は開催出来ない状況にありますが、労働者の権利を守るために様々な行動を積極的に展開していかなければならない状況です。
 現在、特に力を入れているのは、女性と青年の労働の保護に関してです。今年4月にVKT本部で女性会議が開催されました。この会議にはICFTUの女性問題担当やカナダCLCの代表も参加しました。男女平等に関して、また女性の労働組合への積極的な参加について取り上げられました。VKTとして一つ大きな課題として挙げられるのが青年の組織化の問題です。組合員の高齢化が始まっており、積極的に青年層を組織化をしながら、新たな息吹を吹き込んでいかなければならず、青年の組織化に大きな期待をかけています。青年委員会を設置して、青年の雇用促進問題を具体的に取り扱い、また組合加盟へのモチベーションをどのように与えていくかという問題を取り扱っています。

ロシア労働総連盟(KTR)
ヴァシーリヴァシリエヴィッチコザレンコ

ロシア労働総連盟沿海州労働連盟会長

 

KTRの労働運動の歴史

 KTRは、ロシアの既存の労働組合はペレストロイカ以降、労働者の権利・利益を十分擁護していないと考えています。近年ロシアにおいても、独立した自由な労働組合が設立されるようになり、港湾労働者、鉱山労働者、船員、航空関係労働者等の自由な労働組合が積極的に設立されました。
 ロシア運輸労働組合には、管制官、パイロット、港湾労働者、船員等が含まれていますが、この運輸労働組合が大きく発展して、1995年4月に現在のロシア労働総連盟として設立され、その後すぐに他の産別組織、例えば商業、観光、ホテルなどの労働組合が加盟してきました。

KTRの活動

 現在KTRは、5つの地方組織を持っています。私は、そのうちの一つである沿海州地方組織の会長をしています。ウラジオストック市に事務所があります。日本から見るとウラジオストックは日本海の反対側になります。私たちの地方組織の中には、KTRの加盟組織メンバーである港湾関係労働組合を始め、その他の単位組織が参加しています。またKTRには加盟していないけれども、地方の小さな産別組織も参加をしています。具体的には林業関係、自動車関係、公共サービス関係等であります。
 VKTの組合員の人数は、120万です。ロシア全体の労働人口は約6,500万人で、そのうちの120万人に過ぎませんが、部門別に見ると、港湾関係者労働組合は、ロシア全体の港湾関係労働者の80%を組織しています。
 2000年秋にKTRもICFTUに加盟しました。国内の港湾関係労働組合、船員労働組合、パイロット労働組合も、国際運輸労連(ITF)に加盟しています。KTRはFNPR、VKTと協力をしながら、毎年政府や雇用者との一般協定の調印に協力をしています。産業別に賃金に関する協定を締結し、また各関係省庁との協定締結に尽力しています。ほかの2つのナショナルセンターと同様に、KTRも連邦インスペクション協定を結び、各現場での労働基準が遵守されているかどうかの監視を行っています。
 沿海地方も三者会議を行っており、使用者、地方行政府との協定を結んでいます。この三者間で結ばれる協定は労働者の権利をきちんと守るための協定になっており、その協定は連邦レベルの法律以下の条件を提示してはいけないことになっています。
 KTRは特に政党の支持は行っていません。加盟単位組織も、特定の政党を支持することはしません。特定政党支持はしていませんが、個別に議員を通して、要求を国会に提示することはあります。
 このように、自由な労働組合が設立されるようになり、積極的に雇用労働者の権利、利益を守る運動が行われるようになりました。具体的な活動としては、実質的な効力を持つ労働協約を締結していくこと、法律がきちんと遵守されているかどうか監視すること、労働安全衛生が遵守されているかどうかチェックしていくことなどがあげられます。
 私は1990年8月から1998年10月まではウラジオストックにある沿海州港湾関係労働組合の中で、特に法律問題を担当していました。この間、私が個人的に手がけた法律訴訟問題は、400件に上りました。具体的な内容は賃金の未払い問題、賃金の遅配問題、そのほか様々な使用者側の不当労働行為に関する訴訟を扱ってきました。
 私は、産業別組織の中で仕事をしていましたが、他の産業別組織との協力関係も非常に重要になってきました。他の産業別組織の中で法律に詳しい人がいない場合、私がそれらの問題を取り扱う状況が続いてきました。ペレストロイカ以前はロシアでは全ソ労評しかありませんでした。実質的にその後継者になったのはFNPRですが、そこに入らなかった労働組合もあり、もう一つのナショナルセンターを設置してそれらの労働組合を統合する必要性が出てきたわけです。FNPRがきちんと仕事をしていて、労働者の権利を守っているような地域では新たな労働組合を設立するような動きはありません。基本的には、FNPRもVKTもKTRも、協調しあうべきところは協調しあっています。労働協約を結ぶための協力をしたり、また地域の全体的なレベルアップのためなどで、それぞれ協力しあっています。
 FNPR、VKT、KTRの指導者の様々な思惑、個人的な主張があり、なかなか一つに統合するのは困難であります。しかし今のリーダーが代われば、問題はなくなると思います。お互いに対立する必要はなく、時には協力しあいながら、共同行動を行うこともあります。昨年も全国規模で、賃金引き上げのための集会が開催されました。社会保障の向上を求める運動も積極的に行われています。全国フォーラムが開催され、それに各ナショナルセンターのリーダー全員が集まって初めて話し合いが持たれました。それぞれの組織が目指しているところは同じで、また運動も同じようなスタイルで行われていることがわかりました。このようなこともあり、この三つのナショナルセンターが歩み寄りの方向を見せています。
 主な課題は、新しい労働法制を整えていくとことです。法案が国会に上程され、第1回目のヒヤリングが上院で行われました。その時に法案に賛成したのはFNPRだけで、ほかの二つのナショナルセンターは反対の姿勢をとりました。新しい法律をつくるアプローチの仕方ですが、古いものを一切なくすというのではなくて、古い法律の中から悪いところを削り、いいところを残し、さらにそれを改良していくという姿勢をKTRはとりたいと思っています。現在もこの法案の審議がなされていますが、逆に悪い部分が残されてしまうような傾向もあるようです。
 法案の国会での採択に対する労働組合の働きかけは、特に大きな問題である不当な解雇、労働時間が不当に延長される問題、女性の保護政策が悪化しているということ、使用者側の責任感の欠如の問題、また賃金の未払い問題、等に集中しています。KTRが新しい法案に反対をしている主な理由は、法案が社会情勢を十分反映していないし、特に新しい法律が可決されてしまうと、企業別・産業別の労働協約が結べなくなってしまうからです。ストライキ権も失われる可能性があります。ですから、これが法律として確定されてしまうと、かなり労働者の権利が侵害されてしまう可能性がありますので反対をしています。
 ロシアの労働法制は、かつて良いお手本であるとされていたと思います。ほかの国々においても、ロシアの法律を参考にしながら法律がつくられていたところもあったと思います。今度、新しい法律が可決されてしまうと、ほかの国へ悪影響を及ぼすのではないかと危惧しています。
 この5年間、新しい法案に関してはFNPRもVKTも、お互いに反対姿勢をとってきていました。ピケを張ったり、集会を行ったり、ストライキを行ってみたり、サイレンを鳴らしたり、様々な形で抗議をしてきました。いずれにしても、審議はしていかなければいけない状況です。
 この審議が始まってしまったからには、法案に修正を加えるというのがKTRの要求です。私の出発直前に、モスクワから連絡を受けました。KTRが協力をお願いをしている議員から、国会の中で積極的に修正を加えるべく発言をしていくということと、審議が行われる日には、国会の前で集会を開くという決定がなされたという連絡を受けました。

労働事情を聴く会