2010年 ポーランドの労働事情

2010年10月22日 講演録

ポーランド独立自主管理労組「連帯」(NSZZ)
スラボミル・ジャージー・アダムチック (Mr. Slawomir Jerzy Adamczyk)

調査局次長

アンナ・レダ (Ms. Anna Reda)
法律アドバイザー

 

1.ポーランドの労働事情(全般)

 全体主義的な共産主義体制の崩壊により始まった社会経済改革の結果、ポーランドでは労働市場と労使関係が根本的に変化してきた。1990年代初めには、被雇用者の70%が国有部門で働いており、私有企業で働く労働者は稀であったが、今日では被雇用者の70%が民間部門で雇用されている。
 このように大がかりな改革の結果、労使関係は全くゼロの状態から手直しを始めなければならなかった。現在、労使関係は非常に分散化されているが、全国レベルの三者対話から一定の影響を受けている。つまり、団体交渉は企業レベルにおいてのみ行われている。国レベルで政府と対話・交渉を持つことが公式に認められているのは、組合側が3組織、使用者側が4組織で、組合側の中で最大の組織が「連帯」であり、組織人員は約70万人である。
 経済危機の最中、EU諸国においてGDP成長率が唯一プラスを記録したのはポーランドだけであり、今年の実質経済成長率見通しも+4%が見込まれている。しかし15歳以上の雇用率が60%の低水準を推移しており、労働市場の状況は極めて不安定と言わざるをえない。
 労働人口として活動していない人たちが実際にかなりの数いることは、将来のポーランドの社会保障問題に暗い影を投げかけている。労働市場のもうひとつの不安要素として、正規従業員の雇用が減少してきていることが挙げられる。2009年には、雇用契約法に基づいて働いている人の内、30%以上が有期雇用契約か派遣労働者であった。これはEUの中でも高い割合となっている。
 失業率が高くなっており、2010年7月には9.4%となった。しかしながら、ポーランドにおける失業は構造的な問題であり、農村地域や産業空洞化の生じた地域が関係しているために、問題の解決自体に難しいものがある。人口の高齢化、一部の部門における技能の格差、他のEU諸国への労働力流出などが事態をさらに悪化させている。このような状況下で、ポーランドの労働市場の将来にとって、労働者の資質・能力の向上が重要であると考える。

2.労働組合が直面する課題

 労働組合にとって第1の主要課題は民間部門における組合の立場の強化である。ポ-ランドでは労働組合権を認める法律があるにもかかわらず、使用者は労働組合を作ろうとする人たちを何らかの口実を設けて解雇しようとすることが非常に多く、企業レベルの組織化に問題がある。ポーランドの組織率は13~14%で、あまり高くない。
 組合にとって次に重要な課題は、不安定労働(有期雇用契約)を制限することと「ワーキング・プア」現象に歯止めをかけることである。フルタイム労働者のほぼ11%が貧困生活をしている。
 もうひとつの問題は、従業員が使用者から偽装自営業者あるいは偽装自営労働者にさせられることである。建設、交通部門では、給与労働者が解雇され、仕事をしたければ自営になるよう強制されている。仕事を続けることはできても、さまざまな給付が無くなり、労働法の保護対象から除外される。
 現在、労働組合にとっての最大の懸念事項は、現政府の公的債務削減を目的とした危機対策戦略である。これには特に公務部門の賃金凍結、雇用削減が含まれている。

3. 労働組合の対応策

 労働組合は新たな部門の組織化を進める活動に取り組んでいる。特にサービス部門、最近は警備、小売業を中心に新しい部門における労働組合の存在と拡大を求め活動してきた。
 全国レベルで「連帯」は、賃金をディーセントな水準に引き上げることを目指して、最低賃金の引き上げ要求をしている。使用者団体と有期雇用契約の法的制限について詰める議論も行っている。
 また、一般の労働者の賃金が生産性向上と足並みをそろえていないことを社会に示す「ポーランドの労働は病んでいる」というキャンペーンも行っている。
 労働組合の共同行動やデモにより、政府に緊縮政策の導入を思いとどまるよう呼びかけている。緊縮政策は国内需要に歯止めをかけ、公務部門の被雇用者の状況を悪化させかねないからである。

4.ナショナルセンターと政府の関係 

 政府は社会分野における法律の変更は、社会的パ-トナーに相談する法的な義務を負っている。社会的パートナーは政府の提案に対してさまざまな意見を述べ、論評しているが、意見が考慮され法律に最終的に反映されることはほとんどない。
 国レベルでみると、社会経済問題三者構成委員会が労働組合と政府の法律的な連絡窓口になっている。この三者構成委員会の中で、最低賃金引き上げや公務部門の賃上げについての協議・交渉が行われる。労働市場に影響を与えるマクロ経済問題についても論議される。
 現在の「連帯」と政府の関係は満足のいくようなものとは言えない。現政権の新自由主義的な手法は共同して解決方法を探るというよりは、むしろ労働組合の権限を弱体化させている。

5.多国籍企業 

 多国籍企業は改革の初期から出現し急速に増えていった。1989年には外国からの直接投資額が100万USドルであったのに対し、2009年には1,600億USドルとなっている。このように大きく伸びたのは、多国籍企業が経済のあらゆる部門に進出しているからである。主に欧州系多国籍企業であるが、日系の多国籍企業もポーランドに10億USドル以上投資しており、子会社を含めると約2万人が雇用されている。
 当初は失業率が高かったために、労働組合の関心は主として労働条件より雇用の安定にあった。現在では、有資格労働力の需要が高まっていることもあって、労働組合は労働条件の改善、賃金引上げ、時間外労働規制の協議などを主張することが多くなっている。その結果、ストライキを含む争議が、すべての多国籍企業で増加している。
 一般的に多国籍企業の工場で働く労働者の声は抑圧されており、労働協約を締結し団体交渉を行う場の確立が労働組合の課題である。そのため使用者側に労働組合を承認させることは急務となっている。

 ほとんどの場合、現地従業員に関わる意思決定が国外でされるために、EU法で国境を越えた従業員の代表を保証するEWC(欧州労使協議会)がこの点で役立つツールとなっている。
 ポーランドの組合が多国籍企業に対してとる一般的なアプローチは、労働条件について多国籍企業本社で働く労働者の労働条件と合致するまで働きかけを行うのが通常となっている。
 シャープやトヨタはすでにポーランドで操業しており、企業内で組合設立時に、非常に多くの問題があった。われわれは今労働者の権利を勝ち取るために闘っている。

労働事情を聴く会