2004年 ポーランドの労働事情

2004年10月12日 講演録

ポーランド独立労働組合“連帯”(NSZZ)
イェジー・ランゲル

NSZZ副会長

 

 私は、ショパン、コペルニクス、ヨハネ・パウロ2世、そしてレフ・ワレサを生んだポーランドから参りました。

連帯の歴史

 「連帯」は、1980年の夏に全国規模に拡大したストライキの波の中で結成されました。「連帯」の結成は、社会主義政権が自主管理労組の活動を承認した世界で最初の例でした。ポーランド労働者の歓喜の時期は短く、16ヶ月しか続きませんでした。戒厳令が布告されて「連帯」は非合法化されました。しかし、この短い期間の間に、私たちは自由の味を満喫いたしました。そして、社会主義政権が崩壊するときまで、期待の時期が続きました。そして、社会主義政権が崩壊するまでの間、ストライキあるいはデモが行われないときはありませんでした。
 戒厳令が敷かれた8年間の歴史を通して、最終的に共産党政府は「連帯」と対話を開く以外に出口はないということを認めて、いわゆる円卓会議が始まりました。そして、1989年に部分的ではありますけれども、最初の自由選挙が行われました。その後、急速に事態は進展し、今日ではポーランドもEUの一員になるまでに至りました。

EU加盟に対する「連帯」の見解

 「連帯」は、EUに加盟する数年前から情報の収集を行い「連帯」活動家を対象にし、たセミナー等を開催して、加盟のための準備を進めてまいりました。
 同時に、「連帯」の立場から加盟に関する公式見解を表明してきました。その公式見解の第1は、「連帯」はポーランドのEU加盟を原則的に支持するが、加盟に際して、「連帯」がこれまで注意を喚起してきた諸問題が、EU加盟下においても同時に考慮されなければならないという条件付きで支持するというものでありました。すなわち、経済分野・社会的分野における均等な、差別なき待遇という問題を提起したわけであります。
 EUがその存在基盤としている、いわゆる4つの自由、すなわち物、人、サービス、そして資本の移動の自由は、そのどれ一つとして損なわれることがない状態で導入されるべきであるという判断を示しました。そのうち、労働者の自由な移動につきましては色々と議論がありましたけれども、いわゆる移行期を設けずに100%導入すべきであるという判断を示しました。
 同時に、EU加盟はポーランドにとって、特にEUの中で義務づけられている社会的なモデルが導入されることを考慮したときに、極めて的を射たものであるというふうに判断しました。また、EU加盟が経済成長のチャンスとなり得るというふうに判断しました。その経済成長は、社会的保護を進展させる、さらに雇用を恒常的に増大させる、また生活水準と社会福祉の向上を保障させる、そういった経済成長が行われるチャンスになり得ると判断しました。
 次の「連帯」の公式見解は、雇用、そして情報の自由という問題、そしてEU加盟に関連する社会的な議論、このこととも関係がありました。こうした公式見解表明に至った理由は、ドイツの労組DGBが宣言した見解が変更されていったということ、また、ポーランド政府の加盟交渉の戦略が変化していったということ、そのことに対応して「連帯」の公式表明がなされることになりました。
 特に「連帯」として大きな努力とエネルギーを費やしたのは、職場、それから労働者の選択の自由という面において、いわゆる移行期を導入しないように訴える活動でした。その中で、移行期を導入しない理由として、もし移行期を導入すると、その後、それがいかに大きな否定的な結果をもたらすかということ、その可能性があるということを述べました。
 「連帯」としては、西側諸国の労働組合の方々に、ポーランドのすべての活動分野において移行期を存在させるとことは、決して理論的な裏づけを持つものではないと、説得に努めてまいりました。世界の労働組合と「連帯」を平等に扱うよう訴えてもまいりました。2000年12月のニースサミットの後で開かれたヨーロッパ労連(ETUC)の会合でも、「連帯」と同じ立場が表明されました。残念ながら、加盟交渉の段階で、最終的に移行期の存在が容認されました。
 私たちは、EUのすべての労働市場を新加盟国に対して100%開放させるという目的を果たすことはできませんでした「連帯」は。同時に、ヨーロッパ型の社会保障モデルを強化することを支持してまいりました。「連帯」はまた、EUの諸機関の民主化を訴え、それからヨーロッパ労連(ETUC)とヨーロッパ産業連盟(UNICE)を通じた欧州大の対話への参加を訴えてまいりました。

労使関係の動向

 次に、団体交渉及び労使協議の傾向について申し上げます。ポーランドの状況について発言する人々は、ポーランドで起きている事柄はすべてEUへの統合プロセスと分かちがたい関連性があると考えています。しかし、これは真実ではありません。私たちは、産業別にも、また企業のレベルでも目の当たりにしているわけですけれども、交渉の停滞は、私たちの評価では、グローバリゼーションの進展、それから労働者がいわゆる職場単位の組織づくりに積極的でないということ、それから労働組合への組織化率が低いということと関連があります。
 ポーランドでは団体交渉は企業レベルで行われております。その理由は、企業、特に国際的な企業は、産業別単位の組織と交渉することを避ける傾向があるからです。これらの企業は独自の労使関係、労使関係の自由を維持したいと考えています。
 EU加盟により様々な障害が段階的に除去されてきています。現段階においては、資本の移動に対しては完全に除去されましたけれども、労働者の移動についてはまだ部分的な除去にとどまっておりますが、その段階的な除去の結果として、賃金はだんだんと平均化していくだろうと考えられます。私たち「連帯」は、社会的なダンピングが起こることがないように、ヨーロッパレベルでの団体交渉を調整することを支持いたします。私たちは、職場の安全衛生、労働時間の短縮、休暇権といった問題が、すべての労働者に平等に達成されるよう望んでいます。私たちは、将来的にこのプロセスが賃金にまでも及ぶように望んでいます。
 労働組合の国際組織は、団体交渉の調停役としての役割を果たすだろうと考えています。この目的のために私たちが利用しているのはヨーロッパ労連(ETUC)です。現状のETUCは理想的なツールとは言えませんが、そこでの会議が、情報交換と、各国の労働組合の活動を調整する場になっていることは間違いありません。

労働条件の動向

 次に、雇用、そして賃金の動向について申し上げます。ポーランドでは、公式発表によれば、4年以上前から平均賃金は同一水準を維持しております。すなわち実質的には低下しているということです。たびたび規則を犯してまで行われる労働者の雇用期間の漸次的な延長、これは生産性が向上することで使用者には利益をもたらしたとしても、残念ながら高い失業率を下げることにはなりません。失業率は現在、約20%です。
 しかし、EU加盟によりポーランド経済の発展が加速化し、その結果として賃金引き上げ交渉が可能になり、また重要なこととして、失業率が低下するであろうと期待しております。
 高い失業率の問題と闘う助けになると思われるのが、1997年のアムステルダム会議でEUが発表した計画です。その計画の一部に社会計画についての章があります。また欧州憲法が発効すれば、そこには完全雇用を明記した条項があります。もちろんそれが雇用の場所をつくり出すわけではありませんが、政治的な目標を指し示すことになります。この目標に向かって私たちは進むべきであって、そのための実際的な行動は、EUのフォーラムで検討されるべき主題となることでしょう。

労働移動に関する「連帯」の立場

 国境を越えた国際的な労働者の移動の現状についてお話しします。加盟交渉の段階で、労働者の移動の自由に関して「連帯」は反、対の立場を表明していましたが、最終的にはいわゆる移行期が設定されるべきであるという決定がなされました。これは、自国市場における労働問題を管理する主体としての国家は、今後2年から7年間にわたって、新規加盟国出身者の雇用を認めない権利を持つという内容であります。
 こうした決定がなされたのは、主にこれまでのEU加盟15ヶ国、特にドイツ、オーストリアが抱いていた不安、つまりEUが拡大した後には、中・東欧諸国から自国市場へ、これまでよりはるかに多人数の労働者が流入してくるであろうという不安によるものでありました。
 職を求めて流入してきた労働者の数についての最初の統計的数値は、こうした不安を裏づけるものではありませんでした。自国の労働市場を移行期なしに開放するという決断を下したイギリス、スウェーデンなど国では、職を求めて中・東欧地域から流入してきた労働者の数は増えましたが、それが警戒値に達したわけではありませんでした。
 また、職を求めて流入してきた人たちが、社会保険等の義務的な支払いを請求してくるという不安がありましたけれども、それも起こりませんでした。これについては拡大以前に議論になっており、幾つかの国は、こうした新規流入労働者のための義務的な支払いについての法令を、支払額の決定条件がこれまでのように自由なものでなくなるように、より規制を強める方向に、変更を行うように迫られていました。
 国際的な問題と密接な関係を持っているもう一つの事柄は、企業が生産拠点を移動することです。幾つかのEU加盟国は、拠点の移動に対して不平を漏らし、生産拠点の移動が行われたのはEU拡大のプロセスの結果であると説明づけています。しかし、最近の統計は、ある国における生産拠点を撤収して、労働力コストが低いという理由で別の国に生産拠点を移動するという形での移動は、わずか数%にすぎないことがわかっています。
 新加盟国で行われている投資の大半は、新しい市場と新しい消費者を開拓して、そのために生産することを目的にしております。すなわち、生産拠点の移動という問題は、グローバリゼーションが進展してきた結果であって、EUが拡大したことの結果ではありません。こうした経費節減を目的とした投資は、主に東側諸国、一部極東諸国、すなわち自由な労働組合が未だ活動の可能性を持っていない国々で行われているのです。

組織化の動向

 最後に組織化の問題、特にポーランドに進出した日本企業における組織化の問題を重点的にお話しします。「連帯」は労働者の組織化に活動の重点を置いています。なぜなら、組織化された労働者を増やさないことには、労働組合の強化はあり得ないからです。こうした労働者の組織化とEU統合との間に共通点は少なく、「連帯」の元々の戦略の一部分です。これまで「連帯」は組織化のために多大の努力を投入してきました。現在約30名のオルグを配置しておりますが、その数を増やす計画であります。小企業労働者の組織化を容易にするために「連帯」の規約の変更が最近行われました。
 ポーランドへの日本資本の投資は決して多くはありません。近年では、桜咲く日本国からの最大の投資企業はトヨタです。ヴァウブジフ特別経済指定区に、課税優遇措置を利用して工場が建設されました。その工場の増設に加えて、ブロツワフ近郊への第2の投資が計画されております。
 労働組合の動向、特にポーランドに投資している日本企業における労働組合の動向にについて申し上げますと「連帯」は連合との、協力関係に大きな期待をかけております。

労働事情を聴く会