2010年 ハンガリーの労働事情

2010年10月22日 講演録

ハンガリー独立労働民主同盟(LIGA)
ハンガリー独立警察労働組合(FRSZ)
ガボール・ベライ (Mr. Gabor Belai)

国際部長  

 

1.ハンガリーの政治情勢

 2006年の議会選挙を経て、フェレンツ・ジュルチャーニ首相が再選された。首相の指導の下、マーストリヒト条約の財政ルールにハンガリー経済を合わせる努力の一環として、財政赤字をGDPの3%にまで減らすための一連の緊縮財政策が導入された。2008年に赤字は3.4%まで削減されたが、GDP成長率は2007年から2008年の間に1%に低下した。その一方で、実質賃金は7%に低下し、すでに低水準にあった雇用はさらに低迷を続けた。
 外部金融への高い依存と金融部門の弱さを抱えるハンガリーは、世界金融危機の打撃を最も受けることになった。信用格付け機関から格下げされ、金利をEU最高の11.5%にまで引き上げたが、再び国際通貨基金(IMF)、世界銀行、EUの支援に頼らなければならなくなった。
 ジュルチャーニ首相は危機管理に必要な支持を失い、2009年3月に辞任した。その結果、野党を中心にゴルドン・バイナイが率いるいわゆる「専門家」内閣が誕生した。この政府は投資家の信頼回復と国際金融市場へのアクセスを取り戻すために財政と金融の安定性を確保する義務を負った。

2.労働組合の直面する課題

 2009年にはさらなる支出削減によって、公的財政赤字を4%以下に抑える手が打たれたため、外部からの資金調達の条件が緩和された。その結果、財政破綻は回避されることになったが、政府は何の構想も無いままにあらゆる分野の支出を削減した。講じられた措置としては、年金の調整(支給年齢の62歳から65歳への引き上げ)、13ヵ月目の年金支給の廃止、公共部門の賃金凍結、個人所得税の増税、付加価値税の増税がある。国の債務が巨額なため、導入された資金が債権の償還に当てられ、景気を浮揚させることができず、組合との協議も行われていない。
 直近では、2010年5月に選挙が行われ、ヴィクトル・オルバーン首相率いる新右派政権が誕生した。今のところ具体的な措置は明確化されておらず、組合はどのような形で新政権と協力できるか、まだ明らかではない。

3.課題解決に向けた取り組み

 政府は、いまだ組合と交渉する準備ができておらず、交渉は始まっていない。組合は従来の労働組合活動を実行することが難しくなっている。この状況を打開するため、憲法裁判所に提訴する法的措置や国民に対して報道を通じた情報発信を行い闘争していきたいと考えている。しかし、国民は新しい政府に期待しており、来年はもう少し状況が良くなるのではないかと考えているため、広く一般市民を動員するのはなかなか難しい状況にある。

4.ナショナルセンターと政府の関係

 ハンガリーではこれまで20年間、国レベルの利害調整委員会の伝統がある。現政権は野党時代に若干修正要求をして修正案に賛成したにもかかわらず、政権に就いた後、利害調整委員会は機能していない。本日(2010年10月22日)この利害調整委員会が始まったと聞いたが、現段階ではどのような形で機能していくか不明である。

5.多国籍企業の現状

 多くの多国籍企業が活動している。ハンガリーの輸出の4分の3は多国籍企業による製品である。労働法規の遵守に関しては、小規模国内企業よりも多国籍企業のほうが守っている。一般的に多国籍企業は労働組合の結成に反対している。例えば、スズキ・ハンガリーでは労働組合が結成されたが、全組合員と結成主導者が解雇され、訴訟となった。旧経営者時代にすでに組合が結成されていた多国籍企業は正常な組合活動が行われているが、近年進出した企業では労働組合がほとんど行われていない。

ハンガリー労働組合全国総同盟(MSZOSZ)
商業労働組合(KASZ)
パルネ・ブダイ (Ms. Palne Buday)

副委員長

 

1.ハンガリーの商業

 ハンガリーの商業分野ではこの15年の間に大きな変化があった。それは、民営化、外国からの投資の増加、外国からの投資に比べれば規模は若干小さいが国内での投資が行われていることである。
  商業のトップ10社の内、5社が多国籍企業である。さまざまな商業形態が混在しており、多国籍チェーン店、国内資本の大中チェーン店、独立小売店がある。10の民間小売業者が合併してできたCBA、旧Napsugarチェーンを引き継いだHONIKER、Fornettiなど最近急速に全国に拡大している生協(co-op)などもある。
 特に小売業では多国籍企業が大きな役割を果たしている。店舗の近代化、物流・マーケティングシステム開発、事業効率化、市場シェアの拡大、多国籍ネットワークを通じた低販売価格といった動きを主導している。
 ハンガリーの商業構造の最も重要な変化は外資によるハイパーマーケット、専門店、ディスカウントストアの出現で、電子商取引も大小事業者に新たな市場を提供している。また、インターネットユーザー数の増加にあわせて、オンライン購入者も増加の一途をたどっている。
 商業はハンガリーの重要産業の1つとなっている。企業数、被雇用者数から見ると経済の中で2番目に大きな分野である。ハンガリーの人口は1,000万人、被雇用者数の合計は約250万人、その内、小売分野の被雇用者数は約34万人である。従業員5人以上の小売使用者数は10,587人。商業分野における労働組合員数は18,341人である。何らかの労働協約の対象となっているのは35,300人で5人以上の従業員のいる企業の18.8%に当たる。

2.商業労働組合(KASZ)

 KASZはハンガリー商業分野で最大の組合であり、組合員数は18,000を超える。ナショナルセンターMSZOSZの中では、2番目に大きな組合である。
 KASZでは積極的な組織化活動が実り、組合員数の低減に歯止めをかけることができた。現在、多国籍企業グリーンフィールドなど、ゼロから始めたところでも組合が設立されている。しかし、典型的な組合はやはり伝統的な商業が民営化された中・大規模の会社の組合である。企業レベルで見ると、40%の企業がKASZ地方組織と労働協約を締結している。経営者の理解がある多国籍企業は、個別の賃金協定締結には前向きだが、労働協約の交渉には消極的である。
 KASZはMSZOSZを通して欧州労連(ETUC)に加盟している。また国際産別UNIの加盟組織でもある。組合員の80%は女性となっている。
 ここ5年くらい、日曜を休みにする活動を続けている。UNIヨーロッパ地域組織と協力して、ネットワークを通じた活動を展開している。また、雇用を守り、日曜を休みにするETUCの「Protect the Work – Free Sunday」キャンペーンにも参加している。
 UNI欧州地域組織の中にある「ビジェグラード・グループ」(スロヴァキア、チェコ、ハンガリー、ポーランド)を通じて、各国の組合との協力、交流を行い、この枠組みを通じて、さまざまなレベルで会議を開き、主に「日曜労働の制限」を勝ち取ろうと努力しているが、国内の他の産別はあまり関心を持っているとはいえない。
労働組合は協力して活動し、技能労働者の全国最低賃金の導入を勝ち取った。KASZは組合員の80%が技能労働者最低賃金で働いているので、KASZにとってはこの全国最低賃金が毎年の賃金交渉の中で最大の課題となっている。(ハンガリーでは一般最低賃金、技能労働者最低賃金、学卒者最低賃金の3段階がある。)賃金は基本給、午後シフト手当15%、夜間シフト手当30%、日曜手当50%となっている。

3.労使関係の利害調整

ハンガリーでは労使関係の利害調整に以下のような3つのレベルがある。企業レベル、部門レベル、多国籍レベルである。

 テスコ、オーシャン、スパーなどの多国籍企業では、組合が結成されており、部門レベルでは、商業の他にもいくつかの産業別の組合がある。
 商業部門には4つの使用者団体がある。(全国消費者協同組合連合(AFEOSZ)、全国小売業・ケイタリング業者連合(KISOSZ)、全国小売業連盟(OKSZ)、全国企業家・雇用主連盟(VOSZ))
  使用者団体は9つあり、労働側は6つのナショナルセンターがある。
 国レベルの全国利害調整委員会(OET)は、使用者団体、労働団体、政府の三者構成組織となっており、賃金、最低賃金、税制、法制に関する話し合いが行われている。
 2010年4月の選挙以降、全国レベルの社会的対話は機能していない。

労働事情を聴く会