2016年 タイの労働事情

2016年10月7日 講演録

ITUCタイ協議会(ITUC-TC)-国営企業労働連盟(SERC)
マノップ クアラット

SERC副事務局長

 

1. 当該国の労働情勢(全般)

  2014年 2015年 2016年(見通し)
実質GDP(%)
(出典)
0.8
(タイ中央銀行)
2.8
(タイ中央銀行)
3.2
(タイ中央銀行)
物価上昇率(%)
(出典)
1.9
タイ中央銀行
-0.9
タイ中央銀行
2.5±1.5
タイ中央銀行
最低賃金
(時給/日給/月給)
(出典)
時給(40バーツ)
日給(300バーツ)
月給(9,000バーツ)
(労働省賃金委員局)
時給(40バーツ)
日給(300バーツ)
月給(9,000バーツ)
(労働省賃金委員局)
時給(40バーツ)
日給(300バーツ)
月給(9,000バーツ)
(労働省賃金委員局)
労使紛争件数
(出典)
117
(労働福祉保護局)
   
失業率
(出典)
0.8%
国家統計局
0.9%
国家統計局
1.0%
国家統計局
法定労働時間
(出典)
一日当たり
8時間以下/日
1週当たり
48時間以下/週
(労働省)
時間外労働
36時間以下/週
割増(1.5倍)
(時間外労働+休日労働)
(労働省)
休日労働
36時間以下/週
割増(2倍)
1週当たり36時間以下)
(労働省)

(1)不安定な臨時労働者の問題

 タイでは派遣労働者、アウトソース、サブコントラクトの労働者が増加しており、数社から派遣された労働者が同じ職種で同じ事業所で一緒に働いているが、賃金や福利厚生水準は異なっている。賃金や福利厚生、恩典はその事業所の被雇用者よりも低い水準となっている。派遣元の雇用者は労働保護法に従った責任を果たすことを拒否しており、多くの労働者に対する権利侵害が起こっている。これらの労働者には、保護法に基づいた生活の質を向上させる基本的な保障がなく、団結権や団体交渉権を行使することが出来ない。

(2)インフォーマルセクターの現状

 タイのインフォーマルセクターは、増加傾向にある。国家統計局の報告によると、2015年の調査結果では、就業者は3,830万人いるが、このうちフォーマルセクターの労働者は僅か1,690万人である。インフォーマルセクターの労働者は2,140万人で、その内訳として農業従事者が最も多く1,200万人、続いて商業・サービス業、製造業の順となる。タイ国内の労働法が事業所内の労働者のみを保護対象としているため、インフォーマルセクターの労働者が良質な生活を保障されていない状況である。インフォーマルセクター労働者は、団体交渉への参加や、基本的な保障を得るために労働組合を結成することもできない。現在、経済状況が変化し物価が上昇することで、インフォーマルセクターの仕事はより厳しくなり、「仕事の報酬が低い」、「仕事に継続性がない」、「社会保障がない」等の、各種問題が発生している。

2. 労働組合が現在直面している課題

 2015年のデータによると、タイには事業所が2,188,415箇所あり、労働組合は1,453組合、労働組合員は616,169人いる。全労働者数は3,830万人であるが、社会保険事務所の被保険者は13,860,489人である。全労働者に対する労働組合員数の割合は非常に少なく、社会保険法の保障対象者の割合も同様に少ない。重要な課題は、労働者の生活の質を基準レベルに向上させる基本的条約である国際労働機関(ILO)条約『第87号団結権』、『第98号団体交渉権』をタイが批准していないことである。労働人口は約3,830万人であるにも関わらず、タイの各種労働法の保護を受けている労働者は僅か約1,225万人のみである。ここには外国人労働者4~500万人は含まれていない。労働者の権利や労働組合の権利を侵害する行為が頻繁に発生している。政労使の力の均衡を築き、活動に対する介入を減らすために、団結交渉することが未だ保障されていない。

3. その課題解決に向け、どのように取り組もうとしているのか。

 20年以上にわたり、タイの労働組合、タイの労働者、外国人労働者は、タイ政府に対し、国際労働機関(ILO)『条約第87号の団結権』、『第98号の団体交渉権』を批准し、タイの労働法を発展させ、労働ルールを取り決め、全ての労働者の保護を可能とするよう要求してきた。労働者が団結して労働組合が自由な活動をすることを可能とし、政府や雇用主からの介入を減らし、三者間の権力の均衡を真に実現することにより、課題解決に取り組んでいる。

【団結の指針】

(1)ILO『条約87号・98条』を拒絶することは国内の人身売買や労働者の権利侵害に繋がっている。政府に条約批准を早急にさせるため、団結して商業上の指針を取り決めることが必要である。
(2)条約を早急に批准させる仕組みを築き、国際レベルの労働組合に発展させるため、タイ国内の労働組合は海外の労働運動と連携し、継続的に条約批准に向けた圧力をかけていかなければならない。
(3)労働者の生活の質を向上させるため、国際労働機構(ILO)は政府が条約を批准することを定めた仕組みを築くべきである。

2016年10月7日 講演録

ITUCタイ協議会(ITUC-TC)-タイ労働会議(LCT)
チラティップ・ブンミー

タイ・アクリル労働組合委員長

 

1. 当該国の労働情勢(全般)

(1)臨時労働者の雇用

①契約書が明確でない。解雇や契約不更新が容易。
②手当の支払いを回避するため、嫌がらせをして解雇する。例えば、
・人事異動を発令する。労働者が異動命令に従い仕事をしても、仕事に不慣れであったり、命令通りの仕事が出来なかったりした場合は、処罰を課す警告書が発行され、手当の支払無しの解雇を可能とする。
・生産目標を設定する際、高すぎる目標を設定し、労働者が達成できないと、仕事の能力が低いため処罰を課すと責められ、解雇の理由とされる。
・利便性を考慮せずに会社の支社である別の事業所への異動を命じる。労働者が通勤することができないと、命令不履行として解雇の理由とされる。(例えば、送迎車や、交通費の支給、手当がない場合もある。)

(2)インフォーマルセクターの労働者

 インフォーマルセクターの労働者とは、国の労働保護法の対象外で就業している国民である。現在、インフォーマルセクターの労働者がタイで就業している国民の60%以上存在している。知識が少ない労働者グループであり、生活水準が低く、収入は安定していない。このグループの労働者は、貧困層であり健康や雇用、老後の生活の安定を保障する保険に加入できていない。

2. 労働組合が現在直面している課題

 タイには事業所が30~40万社あるが、労働組合があるのは僅か1300~1400社である。この内、真の労働組合は約500~600組合のみで、500~600組合のうち活動を行っていない、組合として機能していないのは約200組合ある。実態があり活動をしている労働組合は、登録状況と一致していない。理由はタイの法律が未整備で、労働組合の保護に対応しておらず、労働組合の結成や団体交渉の権利には未だ壁が立ちはだかっている。

3. その課題解決に向け、どのように取り組もうとしているのか。

 タイ政府が国際労働機構の条約第87号及び第98号を批准するよう、タイの労働運動を推進しキャンペーンを実施している。
 国際労働機関『条約第87号の結社の自由、及び団結権の保護に関する条約』、及び『第98号の団結権及び団体交渉権条約』が基本的な労働基準であり、他の権利保護に繋がる基本的権利と見なしている。社会の公正で持続的な発展や平等、労働者の貧困を無くしていくための基本的な保障である。
 インフォーマルセクター労働者における団結の重要性に関する問題では、雇用者側が賃金を武器に労働者側から団体交渉をできないようにしており、公正な賃金を受け取っていない。また、仕事内容は健康上のリスクがあり危険である。

4. 労使関係システムの破滅、労働組合活動の推進に関する問題

 過去5年間、労働者団体と会社における労使関係を築くシステムは、以下の問題の通り破綻状態が続いている。

(1)雇用主と労働者代表の会議では、雇用主は代理人や相談役を会議に派遣する。代理人は問題の解決にあまり本気で参加しない。
(2)労働者団体の活動申請は、雇用主に不許可とされたり、欠勤扱いとなったりすることが多い。総会実施やセミナー開催に対して、雇用主は組合員の参加を阻むために、時間外勤務を命じる。
(3)労働者団体に対する尊重に関して、行事や活動がある場合は、労働者団体は招待状を送付するが、雇用主は参加せず、主に代理人を参加させる事業所もある。
(4)労働者と雇用主側の要求は書面を提出し、労働者は作業所閉鎖よりストライキ権を行使することが多い。そして交渉代表者は相談役を代理人として選任する。最終的に、交渉が長引くことで、抗議運動となることもあり、その結果、双方が損害を負うことになる。作業所閉鎖やストライキが行われ、事態が終結した後、労働者を組合員から脱退させる方法として、職場への立ち入りについて検討し、組合脱退に応じない場合は、職場へ立ち入らせず、工場の外に居させる。そして解雇の法律上の理由を見つけるか、組合からの脱退を認めさせる。(弁護士を使って手続を進める。)
(5)労働者の団結促進に関しては、組合員に加入しないために幹部やマネージャー等の会社側上司が反対圧力の仕組みとなっている。そして組合員となったことを管理職が知った場合、評価や手当は組合員で無い職員より低い水準にされる。
 協調したいことは、経営者は利益のみを追求し、労働者団体の重要性、労働者の生活の質を忘れ、法律家に頼り任せていることである。法律の隙間を利用して労働者に圧力をかけ、労使関係をあるべき姿へと推進していない。外国人労働者や臨時労働者を使い、労使関係を破壊している。そのため労働組合は大きな脅威にさらされている。労働者組合のリーダーが立ち上がって争うと、解雇されるか、職場に入れないよう嫌がらせがある。時には異動という手段で、叉は会社の規則や法律を持ち出し、裁判所を通して解雇する。裁判所の審理には時間が掛かるため、労働者団体の代表は争うための資金が不足し、意義を申し立てる機会が少なくなる。そうしたことから、和解に応じることになり、労働組合は強さに欠けている。以上の問題はほんの一部であり、労使関係と労働組合に対する破壊は常に起こっている。

2016年10月7日 講演録

ITUCタイ協議会(ITUC-TC)-タイ労働組合会議(TTUC)
ウィチエン・ペッカ

ムーブメント(時計)製造労働組合委員長

 

1. 当該国の労働情勢(全般)

 臨時労働者の問題は、未だ全ての課題が解決されていない。労働最高裁判所の第11/1条の「同一形態の業務は同じ福利厚生を受けなければならない。」に基づく判決でも、未だ同等とされていないことは多々ある。また、仕事の安定性の欠如があり、大企業であるトヨタの例を見てみても、営業損失のため従業員を解雇しなければならないとして、臨時労働者全員を希望退職させている。
 インフォーマルセクターの労働者は、国内で多数を占めている。しかし、生活の質を向上させるための様々な権利が保障されていない。タイ労働組合会議はJILAFと協力して職業訓練研修を実施している。

2. 労働組合が現在直面している課題

(1)フォーマルセクター(民間部門)の国内の全労働者数は1000万人であるが、労働組合の組合員は僅か30万人、労働組合の存続自体も難しい状況である。
(2)労働組合の結成は非常に難しい。政府から推奨されていないため、書類手続きが煩雑である。
(3)法律の解釈が現在も未だ問題がある。労使関係法でさえ、1975年に作成されたものである。
(4)労働裁判所での審理期間は、5年以上かかり、労働者は必然的に敗北を認めざるを得なくなる。

3. その課題解決に向け、どのように取り組もうとしているのか。

(1)タイ労働組合会議は多くの労働者団体と協力し、政府に条約第87号及び第98号を批准するよう働きかけている。
(2)タイ労働組合会議は、様々なプロジェクトを通じて新時代の労働者リーダーの育成を推進、支援している。各種労働法や交渉スキルの基本について、研修を実施している。
(3)組合員以外のフォーマルセクターの労働者及びインフォーマルセクターの労働者に対して、様々な権利行使についてのアドバイスをしている。
(4)労働者に最大の利益をもたらすために、各種三者委員会に代表者を派遣している。

4. その他

 外国人労働者への対応は、国レベルの課題である。2014年末に、タイはアメリカ(TIPレポート)による国の格付けではTier3のグループであった。人身売買問題が原因であったが、2016年6月の最新格付けでは、タイはTier2のウォッチリストとなった。この件に関し、タイ労働組合会議はILO、LCT、NCPEと協力し、外国人労働者への、労働法の情報提供による支援を目的として、外国人労働者データセンター(Migrant Resource Center)を設立した。更に、ミャンマー、ラオス、カンボジアの三カ国語で、外国人労働者向けの研修を実施している。

2016年10月7日 講演録

ITUCタイ協議会(ITUC-TC)-全国民間産業労働者会議(NCPE)
タナワン・ディーイング

NCPE国際・財政・教育担当

 

1. 当該国の労働情勢(全般)

 タイ国内の不安定な雇用の課題は、労働省がブローカー会社を通じての雇用を労働サービスとして放置していることである。これらの労働者は労働組合を結成することができない。法律は禁止していないが、仮に結成した場合は、雇用主によって他の場所、叉は他の職種に派遣されてしまう。また、就労している事業所の組合に加入手続きをしても、業種違いとして法律により判断されてしまう。これらの種類の労働者は、差別を受け、福利厚生が無く、有ったとしても僅かである。また、法律の保護を受けることは難しく、容易に解雇される。
 インフォーマルセクターの労働者の現状は、政府の役人から見放されている。法律による保護は無く、仕事をしたいのであれば耐えなければならない状況である。

2. 労働組合が現在直面している課題

国内の労働組合の問題
(1)労働組合について理解しているリーダーが不足している。
(2)労働者は労働組合について理解していない。本気の団結がない。
(3)労働者は労働法に興味がない。各種保護や権利について学ぼうとしない。
(4)労働組合の結成は目前の問題のために結成されることが多い。例えば、問題が起こってから労働組合を結成し、問題が解決すると労働組合について関心を持たなくなる。
(5)法律は労働組合を結成しようとする者を保護することができない。容易に解雇されてしまう。

3. その課題解決に向け、どのように取り組もうとしているのか。

(1)新世代の労働活動家を育成する。
(2)労働組合は、労働者の将来を安定させる重要なものであると、労働者に理解させる。

2016年10月7日 講演録

タイ製造業労働者総連合(CILT)
ラーレー・ヨウペンスック

NHKスプリング労働組合(TEAM所属)委員長
パワリサ・ラオイアム
パナソニック労働組合(TEAM所属) 副書記長
ピーラパット・ロイラリュウ
タイ・レーヨン労働組合(TWFT所属)執行委員

 

1. 当該国の労働情勢(全般)

 タイの場合、不安定な非正規雇用や派遣労働者の労働問題は、『労働保護法第11/1条(1998年)』による規制の結果である。

(1) 法律の規制

①労働保護法第11/1条(1998年)

 『労働保護法第11/1条②(1998年)』に、「事業主は、直接雇用契約による被雇用者と同様の業務を行う派遣労働者に対し、差別することなく公正な恩恵及び福利厚生を与える。」と定められているため、事業主との直接雇用契約の被雇用者と派遣労働者で構成され、両方の労働者が同様の業務をおこなう事業所に問題が発生している。
 製造ラインが複数ある工場で、事業主が直接雇用契約の被雇用者に一つの製造ラインの仕事を全てさせ、別の製造ラインは派遣労働者に全てさせる場合、法律の『第11/1条②』の規制の対象とならない、という問題が発生している。

【見受けられる問題】
 仕事の安定が無い。補償金の支払を回避する目的で、派遣労働者の雇用契約は3ヶ月や6ヶ月、11ヶ月の短期間で、契約更新の検討を受ける。
 労働法に基づく被雇用者の権利が無い。『労働保護法(1998年)』及び『社会保険法(1990年)』に基づく最低賃金しか支払われていない。

<具体事例>
 病欠日、祝日に賃金が支払われない。祝日に仕事をしても雇用主から通常と同額の賃金しか支払われない。社会保険料を控除されているが雇用主が名前を通知せず保険料も納付していないため権利を行使することができない。規定の日に賃金が支払われない。被雇用者が小さなミスを犯した際に賃金から差し引かれる。(出勤時刻に5分遅れたら1時間分の賃金を差し引かれる。医師の診断書のない病欠1日に対し1日分の賃金を差し引かれる。被雇用者が契約期間を満了するまで働くように保険料を強制的に徴収する。作業道具、作業着代金、ATM作成費用等を賃金から差し引かれる。時間外や休日労働を強制される等。)

②労使関係法(1975年)

 派遣労働者は、短期間の雇用であるため、容易に解雇されやすく、嫌がらせや高圧的な態度により辞めさせられるなど、重労働を強要され易い状態にある。したがって、事業所内の労働組合員になる勇気が出せず、団体交渉権が無い。派遣労働者の雇用主や使用者に対し要求する勇気を持つことができない。派遣労働者を受け入れている企業の中には労働者が労働組合と関わることを禁止していたり、使用者は、派遣労働者が労働組合と協力した際に退職させたりする力を持っている。

(2)インフォーマルセクター労働者の現状

 国家統計局(2015年)によると、タイ王国内のインフォーマルセクター労働者は、仕事に対し保護を受けず、社会保険が適用されていない仕事に従事している者を意味する。仕事に従事している者3,830万のうち、インフォーマルセクター労働者は2,140万人(男性1170万人、女性970万人)で55.9%を占め、東北地方で働いている者が最も多く、続いて中部、北部、南部、バンコクである。
 その多くの最終学歴は小学校以下で約1340万人、続いて中学高校が610万人である。半数以上が農業で1200万人、続いて商業サービス、次が製造業である。
 インフォーマルセクター労働者の問題は、低い報酬、重労働、短期雇用である。

2. 労働組合が現在直面している課題

(1)法律の規制に関する課題

 労使関係法(1975年)の規制は、国際労働機関(ILO)条約『第87号の1948年結社の自由、及び団結権の保護に関する条約』、及び『第98号の1949年団結権及び団体交渉権条約』と合致しておらず、労働組合の各種権利を侵害している。
 タイには労働組合保護に関する法律が八つある。『民商法』の雇用に関する部分、『労使関係法(1975年)』、『労働裁判所結成及び労働事件審議法(1979年)』、『社会保険法(第4刷)(2015年)』、『補償金法(1994年)』、『労働保護法(1998年)』、『技能労働者育成法(2002年)』、及び『安全衛生及び労働環境法(2011年)』。
 各法律には異なる目的と規制があるが、そのほとんどが次の四つの重要な内容を含んでいる。労働技能能力開発、雇用基準及び雇用形態、労使関係、労働保険及び福祉。
 『労使関係法(1975年)』について見てみると、「労使関係」という言葉は、産業界におけるフォーマルセクター労働者の「団結権」、「団体交渉権」、「団結及び交渉の権利保護及び自由」に関するものとされている。
 特に『第86条111』に、労働組合の役割について、法律に基づく労働者団体であり、雇用における利益を追求し保護すること、更に雇用主と被雇用者、被雇用者間の良好な関係構築を重要な目的とすると記されている。
 しかし、実際のところ、たとえ労働者が団結および交渉権を持っていても、41年以上にわたりタイで適用され、労使関係システム監督の枠組みとなっている労使関係法で、多くの重要部分の規定、内容が時代遅れで、変化した状況に合致していないため、権利の侵害や労働紛争が多く発生している。
 したがって、たとえ労働者が法律に基づく権利を有していても、その権利を行使することができない。
 法律 の意図により、次のような現状となっている。
①労働組合を結成する権利がある者及び労働組合役員は満二十歳以上で、生誕時からタイ国籍を有していなければならず、賃金を受領するために雇用主のために仕事をすることに合意した者を意味する被雇用者でなければならない。外国人労働者は自身で労働組合を結成することができない。民間部門と国営企業の被雇用者の団結が区別されている。
②労働組合の結成登録願は、10人以上の被雇用者が労働組合規則案と共に提出しなければならない。組合員により役員が選出された時は政府の役人に登録申請をしなければならない。何れにしても政府の役人には登録を拒否する権限がある。
③労働組合の結成が完了するまでに数多くの関係書類が必要である。
④労働組合委員会役員は全員、事業所や会社でフルタイム勤務する正規職員でなければならない。組合活動のために被雇用者は休暇の交渉をしなければならないため、雇用主は容易に嫌がらせをすることができる。工場主は組合役員に時間外勤務を認めないよう経営陣に命令させることがある。このような行為は労働組合リーダーの経済状況に影響を与え、労働組合のリーダーとしての士気を低下させ、労働組合のために働きたくないという気分にさせる。
⑤タイ人でない被雇用者は労働組合の組合員となることはできるが、労働組合内での役職に就くことはできない。役職者はタイ国籍を有する者でなければならないからである。
⑥指揮権のある被雇用者は、他の労働者が結成した、あるいは組合員となっている労働組合の組合員となることは出来ない。よって管理職は組合を結成したり組合員になったりすることはできない。
⑦規定の期間のみ労働福祉保護局に登録する労働組合の交渉相談役は、2名以下を選任するものとする。労働省は労働組合の相談役登録可否において独立した権限を有する。
⑧全社員の15%以上の被雇用者、叉は会社の全労働者の20%以上が加入している組合は、雇用形態について団体交渉の要求書を提出することができる。何れにしても組合は毎年開催される通常会議にて交渉要求書を提出するか否かの投票を行わなければならない。投票の結果可決されない場合は団体交渉を行うことは出来ない。労働省に団体交渉のための要求書の写しを提出しなければならない。
⑨解雇に対する処罰が公正でなく、雇用主を恐れさせるには処罰が軽すぎる。
⑩タイの労使関係法は工場内での集会、工場外での集会やストライキをおこなう権利を認めていない。例えば工業団地の敷地内では、被雇用者のリーダーは侵入罪や事業の利益確保を侵害した罪、あるいは名誉毀損、と民事刑事を問わず罪を問われ、事件を戦うこととなり、保釈のために多額の金を借りたり資金を用意したりすることになる。
⑪国家、地方レベルの政府、資産家、タイ工業団地、警察官、軍隊、地方の有力者、および裁判所、更に労働省を定年退職した元職員や在職中の職員の雇用主相談役、専門家が協力して、労働組合の活動を成功させない、あるいは活動に支障が生じるような戦略を雇用主に知らせている。
⑫ほとんどの工業団地には労働組合がない。なぜなら低賃金であることを売りにして投資促進している地域であるため、労働組合があることで経費や賃金、福利厚生の向上を要求されることは投資の障害となるからである。

(2)労働組合と労働裁判所の審理に関する課題

 労働裁判所での審理を必要とする労働紛争の数は多い。審理では、以下の多くの問題が発生している。

①司法手続きは煩雑で費用がかさみ、雇用主はこの点を逆手にとって被雇用者を訴える。
②裁判官は通常の司法手続き出身であるため、労働問題の専門性に欠けている。多くの被雇用者は弁護士を雇うことができず、事件を争うに十分且つ明らかな事実を示す証拠を提出することができない。
③労働事件は遅い。いくつかの地域の労働裁判所では事件の各回の進みは3ヶ月程かかる。裁判官の移動時期で新任の裁判官の着任まで何ヶ月も要することもある。労働事件で最高裁判所までいく場合は3~5年を要する。
④最高裁判所の判決で、雇用主は被雇用者に賃金を支払った上で仕事を与えない権利があるとしたものがある。雇用主は仕事を与えなければならないと定めた法律がないからである。そのため労働者リーダーに仕事を与えず賃金は通常通り支払うという嫌がらせが発生している。労働者リーダーを工場に立ち入らせず仕事をさせないことで、他の被雇用者と切り離し、労働者リーダーとしての資質を失わせるためである。最終的にリーダーは労働者リーダーとしての任務を遂行することができなくなる。

3. その課題解決に向け、どのように取り組もうとしているのか。

 時代遅れの規定があり、タイの被雇用者にとって公正でない労使関係法(1975年)から生じる問題を考慮し、タイ労働者連帯評議会(コーソーロートー)は、各種労働団体と協力して労使関係法案を作成した。その骨子は労働省とタイ王国の立法機関に提出され、定期的継続的に審議され、労働関係理解促進講演会、セミナーが開催されるに至っている。

4. その他

 上に記した労使関係法(1975年)による規制以外に、現在、労働組合を弱体化させ、団体交渉を難しくしているその他様々な要因がある。

(1)雇用主/事業所における要因

 雇用主は労働組合を様々な形で妨害しようとしている。リーダーに直接的な制限を加える、事業所内での労働組合の役割を認めない、国家及び地方レベルの政府やタイ工業団地の職員と協力して労働組合に圧力をかけ妨害している、事業所内で複数の労働組合が結成され、様々な状態となっている。例、竹の鞭方式(会社規則から処罰の理由を見つけ、罰金、警告書、補償金支払なしの解雇)、国旗方式(労働組合は皇室を敬愛していない、国家を愛していない、交渉活動が国の経済を破壊している)、犬方式(労働者が労働組合を結成したり組合員とならないよう圧力をかけたり、脅威となる)、猫方式(リーダーが労働組合を辞めたら高い職位に就けると提案する、分裂を起こすよう介入する、内部で継続的に結社活動をすることができないようにリーダーが事業所の外で仕事をすることを支援する)。
 雇用主側には人事経営担当の会合などで、労働組合への対応戦略のアドバイスする各種研修が実施されている。例えば、積極的な労使関係テクニック研修では、次の目的が掲げられている。1.労働組合のない事業所では労働組合を発生させない、2.既に労働組合がある事業所では問題を発生させないよう管理する 。
 事業所の中には会社組織を改変し、小さな複数の会社に分割して規模を小さくし、各社の雇用主を別々としている。これは労働保護の責任を回避するためで、様々な雇用形態で福利厚生が異なることで、同じ事業所内の労働者が団結することが難しくなり、交渉力が低下している。労働組合の発起人が解雇されたり、介入されたりすることが増加している。
 産業毎に記号を付与し(産業基本分類の構造、基準に基づいて付与された数字)、製造の分類をすることで、別々の種類の労働者の団結を難しくしている。例えば、製造分類の第34類は自動車、トレーラー、セミトレーラー製造に関するもので、第35類はその他運送用具、といった具合である。

(2)労働運動における制限からの要素

 多くの労働組合は未だ透明性に欠ける運営が行われており、汚職が蔓延し、民主的でない。組合員の参加が不十分で、組合員数を十分に増加できていない。更に財政的に自立しておらず、組合員からの組合費が少なく、その割合は同等であり平等性に欠け、金銭的支援基盤が不足している。例えば、毎月全員から20バーツを徴収しているが、組合員の収入に違いがあり、その差が激しいことが考慮されていない。
 組合費の徴収金額が高いにも関わらず、有効に使用せず、残高を出来るだけ高額にしようとしている組合も多い。将来の組合及び労働運動の利益となるよう、組織のレベルアップを目指した組合員向けの知識増強研修が実施されるということはなく、世代から世代に知識が引き継がれていくという継続性に欠けている。
 タイ国内の労働組合活動家は、ほとんど非専従者で専従組合員は非常に少ない。

(3)外部団体からの支援

 多くの労働組合は国内外の団体からの支援に頼らなければならない状態で、財政的にまだ自立できていない。労働運動が有益な活動となるとしても、外部からの財政的な支援に頼らなければならないため、労働組合は組合員からの支援金に因って自立する努力を怠り、労働運動は外部からの支援金を受けることのできる活動に限られている。これにより労働組合内には資金の依頼書を作成する文化が生じ、問題を見る視点が、労働組合における重要課題に対してではなく、金源が希望している問題解決に向けられ働くようになっている。
 こうした状況はタイ国内の労働組合の団結力及び交渉力の低下をもたらしている。

*1バーツ=3.26円(2017年1月11日現在)