2010年 タイの労働事情

2010年1月29日 講演録

ITUCタイ協議会(ITUC-TC)
二ライモン・モントリーカートン(Ms. Nilaimol Montreekanon)

CATテレコム国営企業労働組合 副委員長兼SERC(国営企業労働連盟)副事務局長

 

 現在タイの失業率は約2%と低く大きな問題にはなっていない。タイにおける主な労働問題としては、1)未熟練労働者の増加。2)低賃金。の2つがあげられる。
未熟練労働者とは、熟練を要しない過酷な労働に携わる労働者のことであり、タイ人はそのような仕事に就きたがらない。そのため漁業など多くの職種で、外国人労働者に頼らざるを得ない状況にある。しかし、政府の外国人労働者に対する政策・制度が不十分であり、外国人不法就労者は経営者に不利益な扱いを受けている。福利厚生も不十分で、生活もあまり良くない。
 低賃金問題であるが、最低賃金のまま定年を迎える労働者もおり、技能や経験に見合った公正な賃金を受け取れず、不安定な生活を余儀なくされている。最近、社会保障制度が整備されたが、まだ多くの労働者に、いっさいの法的的保護を受けられていない。労働組合としても、政府に対して改善を求めているが、改善されるのは将来のことになるであろう。
 タイには労働組合の設立に関して法的保護がなく、経営者からの妨害が頻発している。これは未だILOの87号条約や98号条約を批准していないからである。
 国営企業は政治家からの介入を受けており、労働者の権利が侵害されている。例えば、タイ国鉄職員が体調不良で薬を服用し事故を起こしたのであるが、安全装置が整備されていなかったにもかかわらず解雇された。これに対して、労働組合は団結し、安全装置が設置されていない電車は運行しないこととした。しかし国鉄側は、その後調査もなしに6名の職員がストをした中心人物として、鉄道の運行に被害を与えたとして解雇した。日本のJRをはじめさまざまな組合から支援を受けて、職場復帰を訴えてきたおかげで解雇された6名は職場復帰することができた。労働委員会は、30日以内に6名を職場に復帰させるように指示を出したが、交通省の大臣はその決定に不服を申し立て、労働裁判所に上告し、現在も係争中である。
 ナショナルセンター(SERC=国営企業労働連盟)が現在抱えている問題は、1)組織率の低下。2)組合員の減少。3)組合の財政状況の悪化による活動が継続的に行えない。などがあげられる。タイにある約60の国営企業のうち労働組合があるのは40の国営企業だけである。組織率は低く伸びていない。また組合に加盟する労働者が少ない。CAT(CATテレコム)の場合、70%が組合員となっているが、まだ未加盟の職員が約1,000人もいる。新人職員や新規採用者は労働組合に関心がなく加盟したがらない。特に新規採用者の場合、すでに福利厚生が整っているため組合に入る必要性をあまり感じないからである。新しく加盟した組合員もあまり活動に参加したがらない。国営企業は早期退職実施と新規雇用の減少により、組合員数が減少している。
 それらの問題を解決するためSERCとして、1)新たな労働組合の設立。2)組合員の組織拡大。3)新規組合員や新規採用者への組合活動への理解向上。4)財政を確保するための組合費値上げなどに取り組んでいる。
我々は新人職員や新組合員に対して、現在の福利厚生制度の立ち上げにおける労働組合の果たした役割などを例にあげ、組合の役割を理解してもらえるよう努力している。
組合費については、将来的に組合費の給与に対する割合を決めて、給料から天引きすることを考えている。SERCの2加盟組織から割合で組合費を徴収した結果、財政的に非常に良くなった。将来的に組織全体に割合で組合費を徴収できるように理解を求めていきたいと考えている。また、国営企業の重要性を支持している政治家との協力、それから市民団体の参画を促している。
 SERCと政府との関係は、それほど良いとは言えないが、問題が生じた時には協議や話し合いを行っている。政府はSERCの意見は聞いてくれるが、労働省との間には問題がある。また、政治家は国営企業が生み出す成果を得ようと介入してきている。そのことに対して組合やSERCは反対を表明し、特に民営化には強く反対している。
タイにおいて、多国籍企業の投資が非常に増えている。さまざまな多国籍企業は、政府から低税率や低利息などの優遇政策を受けている。しかし、多国籍企業側のタイの慣習や生活スタイルなどに対しての理解不足やコミュニケーションの欠如がもたらす問題などにより労働争議が発生している。最近では、トリンプ社の約1,000人もの大量解雇に対する労働争議やフォードマツダのボーナス交渉に関する労働争議などがおこっている。

ITUCタイ協議会(ITUC-TC)
ハッサチャイパヤバーン(Mr. Hussachai Payaban)

トンチャン産業労働組合(自動車部品)書記長兼LCT組織担当

 

 昨年の経済危機によりタイでも多くの産業が影響を受けてきたが、LCTの加盟組織である繊維や自動車、電気など多く産業は現在回復基調にあり、生産量や雇用も増えてきている。しかしその雇用の多くが請負あるいは非正規労働者である。非正規労働者は正規労働者と同じ仕事に従事し、同じ責任を有しているにもかかわらず、福利厚生やさまざまなことで不公平な扱いを受けており、不安定な就労状況にある。
 われわれナショナルセンター(LCT)が直面している問題は、1)労働組合指導者の知識・能力や経験の不足。2)組合員の組合活動に対しての理解不足。3)企業の組合承認拒否。4)リーダーや組合役員は、組合活動に関して経営者の介入を受ける。5)経営側の反組合活動(組合潰し)などがあげられる。
 このような問題を解決するために、1)組合役員や組合員に対する研修の実施。2)良好な労使関係の構築。3)各地域にある県労働監督局への調査要請。4)経営者の不当労働行為に対する労働裁判所への提訴。5)ILO87号及び98号条約の批准、などさまざまなことを行っている。
タイの労働運動の歴史の中で、多数あるナショナルセンターが同じ目的のもとに同一行動をおこしたことは非常に画期的な動きである。
 政府はまだLCTを重要視していない。LCTは、労働関係法の改正に圧力をかけているが、政府はその要求に答えようとしていない。政府はLCTの役割や義務を減らそうと考えているのだ。
 タイは多国籍企業からの投資が増えることに伴い労働争議も増えている。その原因は、企業が労働組合に介入し、労働者のリーダーの解雇などが行われているからである。特に2009年には多くのリーダーが解雇された。また、退職金を支払わないで解雇するという状況や事業所を閉鎖して退職金を支払わないなどの問題も起きている。韓国の多国籍企業、サミーでは2008年に労働争議が起こった。多国籍企業の経営者は、タイの慣習や労働法などを理解しておらず、タイ側も海外の投資家に対して生じたさまざまな問題を報告していないという現状がある。

ITUCタイ協議会(ITUC-TC)
ソムチャイ ラーイチャルーン(Mr.Somchai Laycharoen)

アルコン労働組合(非鉄金属)委員長兼NCPE(産業民間労働会議)副会長

 

 タイの労働情勢は、まだあまり厳しいものではない。経営者の多くは、未だに労働者が大学以上の教育を受けることを望まず、未熟練で良いと思っている。失業率は高くないが、派遣労働、非正規労働者等の多いことが問題となっている。私の勤務しているアルコンには、約1,000人の従業員がおり、そのうち正規社員は約400人程度である。非正規労働者は正規労働者が受けられる生活費の手当、勤勉手当などの諸手当や福利厚生を受けることができないでいる。
 また、組合員が組合や組合役員に対してあまり協力的ではないことも問題となっている。組合役員も経験不足で、組合についての知識を十分持っていない。そうした中で、経営者が今でも組合の活動を不当に妨害しているが、政府は組合に対しての保護や組合活動への協力といったことを十分に果たしてしていない状況にある。
 これらの問題に対しての解決方法として、1)組合員の協力が得られるように研修を行い、組合の重要性について理解してもらう。2)組合役員も研修や教育活動を行うことで、組合についての理解度を上げる。3)経営者に対しても労働組合活動を通して良好な労使関係について理解してもらう、などを考えている。
われわれナショナルセンター(NCPE)と政府との協力関係は良好とはいえない。政府は未だにILO87号、98号条約を批准していない。毎年メーデーで政府に要求項目を提出しているが、それに対して何の回答も示されていない。
 政府が工業団地を作るという優遇措置で外国からの投資を奨励したことによってタイへの投資は非常に多くなっている。多くの多国籍企業がタイに進出しているが、利益を一人占めにするだけでタイの労働者の生活や生活環境などについて目を向けることは少ない。昨年12月、ある会社でボーナスをめぐってストが行われ、この件で一部の社員が解雇された。組合役員は社外待機処分になり、給与をもらえる最後の月まで毎週月曜日だけ出社して、あとは労働裁判所による解雇の決定通知を待っているだけで、仕事をすることが許されていないというひどい話である。

ITUCタイ協議会(ITUC-TC)
サイルン バイシー(Ms.Sairung Baisri)

エラワン・テキスタイル労働組合委員長兼TTUC(タイ労働連合会議)女性・青年担当

 

 タイの一般的な労働状況は、非正規労働者、下請け、派遣などの労働者が非常に増えていることである。タイの法律では、正規労働者と非正規労働者は同じ権利が与えられることになっているが、経営者は法律をきちんと実行していない。
組合活動での問題点は、組合指導者に知識が不足していることにある。われわれナショナルセンター(TTUC)には、自動車関連、繊維産業などさまざまな産業が加盟している。自動車関連産業の労働者は、繊維産業労働者より高学歴の人が多く、われわれよりずっと高い知識を持っている。繊維産業の場合、教育もそれほど高くないので組合リーダーとしてなかなか十分な知識を持っていないという問題がある。また、経営者が労働協約を守らないことも大きな問題になっている。
 このような労働協約違反に対し、県の労働監督局と相談しながら対応を行っている。
 TTUCと政府との関係は、労働省の三者構成委員会(政労使)にTTUCも労働側代表として委員を送り込んでいるが、あまり良い関係とはいえない。われわれがメーデーで提出した要求事項のどれに対しても回答を出していない。
 政府は雇用を増やすという意味で、外国からの投資を望んでいるが、進出してきた後のさまざまな問題に対してフォローしていない。多国籍企業における労働争議としては、2009年のミシュランでの派遣労働者の大量解雇に対する労働争議がある。派遣労働者を解雇した後は、早期退職を促すなどの方法をとり、さらに正規社員の賃金引き下げも実施した。政府は、管理職以上の人たちは5%の賃金引き下げ、従業員は13%の賃金引き下げを発表した。それについて労働者側は納得できず、会社側と何回となく団体交渉を行ったが妥結できず、組合は道路をふさいで抗議行動を行った。結果として会社側は賃金の引き下げを行わないことになった。