2002年 タイの労働事情

2002年6月5日 講演録

タイ労働会議(LCT)
ラッダーブアスワン

パワーラン労働組合委員長

 

国内の状況

 タイは1997年の経済危機以来、大きな問題に直面しています。労働運動も大きな問題に直面しています。現在でも解雇される労働者が後を絶ちません。残念なことに労働者の代表である労働組合指導者も労働者のことを考えて活動していません。多くの指導者、もしかしたら一部かもしれませんが、労働組合の指導者としての活動というよりは、自分の将来のことを考えて活動しているように見受けられます。タイにはナショナルセンターがたくさんあり、それがタイの労働組合運動の大きな弱点になっています。力が分散してしまっているので、政府に対する要求力が拡散してしまってばらばらになっているわけです。労働法に関しても、また、労働に関する要求などにおいても、労働組合の力が弱くなっています。
 現在のタイの政府ですが、今までは連立政権がずっと続いていましたが、今回の政府のように1つの政党で政権を担当しているのは始めてのことであります。これまでは幾つかの政党が集まって連立政権をつくっていました。政府を構成している政党が1つであるということは、一本筋の通った国民のための政策が出せると思われますが、実際は政府の戦略はどうも市場原理に力点をおいています。私どもは、現在の政府を資本家の政府と言っています。政府で力を持っている者は、資本家として力を持っている者です。労働大臣自身、大資本家で、大実業家です。バンコクにおいても地方においても大々的に事業を展開しています。従って労働者がいろんな要求を出しても、なかなか認められません。
 タイでは労働問題がいろいろありますが、それらは解決が難しく、成果が上がっていません。タイの労働運動が発展、拡大していかない原因として、1つは政府の役人はどちらかというと資本家の仲間ですので、労働者の要求がなかなか政策に反映されないためです。制度が労働者にとって有利になっていたとしても、それらがどんどん経営者、会社の都合のいいように改悪されていきます。政府も権力を持っている役人もどちらかというと経営者側ということができます。また、福祉の面でも労働者のほうに目を向けていません。例えば、解雇された場合、労働者は解雇補償金の対象になるべきところを、解雇されても支給されない労働者がたくさんいます。経営者が事業所を閉鎖してしまうからです。
 タイの労働組合の指導者がお互いに協力しようとしない理由の1例を掲げたいと思います。今年のメーデーのことです。ナショナルセンターがメーデー集会を開催しますが、今年のメーデーにはLCTは参加することができませんでした。メーデーの集会というのは、毎年それぞれのナショナルセンターが持ち回りで主催するようになっていまして、今年の主催を担当していましたナショナルセンターはNCTL(タイ全国労働会議:WCL加盟)ですが、NCTLはほかのナショナルセンターとあまりうまくいっていない部分があって、すべてのナショナルセンターが同じところで集会を開くということはできませんでした。そこで、別々な会場で開催しました。それぞれが政府に対してバラバラに要求を出すことになりました。そういった状況なのでいい成果を上げることができなかったわけです。どういうふうにバラバラに分かれて開催したかというと、国営企業の或る労働組合は、国営企業でも鉄道の労働組合とは別々に開催するという状況でした。
 LCTは今年のメーデー集会を開くために、自分たちで車の手配をして、そのための費用をみずからが捻出しなければなりませんでした。LCTは予算が限られていますので大変でした。メーデー集会を開くために、タイの政府はそのためのスキームをナショナルセンターに出していますが、今回は組合間の分裂のためにLCTが準備した集会に組合員を連れて行くためのバスを使うことができませんでした。政府はメーデー集会を開催するために、主催するナショナルセンターの代表にその資金を提供します。しかし、今回の代表したNCTLは政府から出た資金は足りないといって、また追加的に20万バーツを要求しました。これまでいろいろなナショナルセンターが担当していましたが、今年のような問題は起こりませんでした。政府が出してくれた予算で十分やっていけましたし、それぞれのナショナルセンターが協力して集会を催していました。今回のような状況にナショナルセンターの指導者は納得できませんので、労働大臣に要請書を提出して、不服申し立てをしました。現在この不服申し立てが検討されています。
 それでもタイの労働運動にもいい面もあります。若年層、女性労働者に対する職業訓練の場が与えられています。それから安全衛生の面では政府に対して安全衛生研究所の設立を要求しています。
 次にタイ人労働者の海外での労働について申し上げておきます。ベトナムのブンタオという町で石油精製するときに発生するガスを分離する工場を建設するために派遣された労働者についてであります。こういった政府間の労働者派遣に関する協定の場合、労働者は仲介手数料というのを支払わなくてもいいことになっています。ところが、どういうわけか高級官僚が労働者から仲介手数料をとって懐に入れてしまうという事件が起きています。タイ人労働者がベトナムに行くと、一人当たり4万5,000バーツから7万バーツの仲介手数料を集めたという事件が起きました。大臣がやったことなのか、それとも高級官僚が労働者を搾取しているのか、まだはっきりしていません。300人の労働者がベトナムに行きましたが、そのうちの150人は法律に従って行きましたが、あとの150人は違法な書類でベトナムに行っています。この事件に関しては、一体だれがだまして仲介手数料を取ったのか、捜査中です。
 今年もバンコク首都圏の最低賃金は上がりませんでした。ある地方の県では上がったところもあります。政府は既にバンコク首都圏の最低賃金はかなり高い水準にあると主張し、最低賃金を抑えてきました。
 LCTが政府に要求して勝ち得たものを3つをお話しします。
 政府は、従業員が一人以上の事業所から社会保険を適用するように決めました。次に、児童手当は、以前150バーツだったのが、現在200バーツに引き上げられました。最後に、市場の要求に合わせて職業訓練が開始されました。