2014年フィリピンの労働事情

2014年10月24日 講演録

フィリピン労働組合会議(TUCP)
報告者:ジョセフ ヴィダル ジョヴェラノス

パンガシナン大学教職員組合会長兼全国教職員・事務労働者組合連盟会長

 

1.フィリピンの労働情勢

 フィリピン労働組合会議(TUCP)は、あらゆるセクターや産業から約45万人の組合員が加盟する(男性59.5%、女性40.5%、青年51%)フィリピン最大の労働組合連合である。
 1975年の結成以来、TPUCは長きにわたり、さまざまなプログラムを実施し組合員に法的・経済的・社会的サービスを提供してきた。具体的には、[1]組織化と組合員募集、[2]労働法改革、[3]コア労働基準の順守の監視、[4]労働者教育、[5]団体交渉、[6]協同組合、[7]ジェンダー平等、[8]組織の有効性と開発、[9]市民擁護、[10]労働安全衛生、[11]社会的保護のほか、[12]移民労働者の保護、[13]グリーンジョブと持続可能な開発、[14]児童労働の根絶、[15]インフォーマル経済における労働者の保護、[16]リプロダクティブヘルス、[17]気候変動、[18]生産性とLMCといった特殊な問題を扱うプログラムが挙げられる。

2.フィリピンの労働と雇用における最近の動向

 2014年7月における雇用率は全労働人口(4123万人)の93.3パーセント(3846万人)と推定されている。雇用者の54%はサービス産業、30.1%が農業部門、15.9%が工業セクターである。雇用率が全国平均よりも低かった地域は、マニラ首都圏(NCR)(89.7%)、中部ルソン(91.7%)、カラバルソン(92.0%)の3地域だった。
 また就労率(LFPR)は64.4%と推定され、2013年7月の推定63.9%から上昇した。労働力人口は就業者と失業者から成る。
 サービスセクターの労働者は、就業者人口に占める比率が引き続き最大(54%)となった。そのうち最も大きな割合を占めたのは、卸売・小売業または自動車・オートバイ修理業の従事者だった(サービスセクターの労働者の34.7%)。2番目に大きかったのは、農業セクターの労働者だった(30.1%)。工業セクターの労働者が総就業者に占める割合は最も低かった(15.9%)。そのうち最も多くを占めたのは製造サブセクター(52.1%)で、次に大きかったのは建設業だった(41.9%)。
 また、職業グループの中で最も多くを占めたのは、依然として肉体労働者と未熟練労働者だった(31.6%)。
 賃金および給与労働者は総就業者の58.4%を占め、このうち最大比率を占めたのは引き続き個人企業の労働者だった。2014年7月の総就業者数のうち、62.7%は常勤労働者で、36.2%がパートタイム労働者だった。
 今の仕事で労働時間を増やしたい、追加の仕事をしたい、あるいはもっと労働時間の長い別の職に就きたいとの意向を示す就業者は、不完全就業者とみなされる。2014年7月の不完全雇用率は18.3%と推定される。なお2013年7月の不完全雇用率は推定19.2%だった。
 また、2014年7月の失業率は、6.7%と推定される。失業者のうち、63.3%は男性だった。総失業者数のうち15~24歳の年齢層が49.3%を占め、25~34歳の年齢層は30.8%だった。学歴別に見ると、失業者の23.2%は大卒者、13.2%は大学在学生(college undergraduate)、32.1%は高卒者だった。

インフォーマルセクター

 国家統計局(NSO)の労働力調査によると、2011年にはインフォーマルセクターの労働者が1530万人(総就業者の41.1%)に達した。このうち大多数は自営業で合計1100万人に上り、残りの430万人は無給の家族労働者となっている。
 NSOの定義によると、インフォーマルセクターには非法人家内企業、従業員のいないインフォーマルな自営業、基本的に自己採算労働者によって所有し経営される(個人または自分の家族や他の家庭の家族とのパートナーシップにより)インフォーマル雇用の企業が含まれる。

最低賃金

 フィリピンには最低賃金が設けられているが、多くの労働者とその家族が尊厳を持って生活できるような額には至っていない。
 民間企業では労働者の4分の1が最低賃金を受け取っている(公務員に対しては独自の最低賃金率がある)。約2分の1は最低賃金を下回る(最低賃金法の適用外の労働者が存在する)。最低賃金を上回る額を受け取っているのは、労働者の約30%にすぎない。最低賃金、最低賃金未満、最低賃金以上の額を受け取る労働者の分布は、地域によって異なる。高度に工業化された地域(NCR、III、IV-A、ただしVIIを除く)のほうが、最低賃金を上回る稼ぎを得ている割合が高い。

3.労働者の結社の自由と団体交渉

 先ごろ終了したTUCPのオルグに関するプロジェクトの結果、31の組合が登録した(労働者数1万1,372人)。31の組合はすべて組合代表選挙を申請し、25組合が組合代表選挙を行なった(労働者5,497人)。
 この経験を分析した結果、オルグと訓練生が組合を登録、設立するのに長い時間を有することがわかった。15の組合は10か月間のキャンペーンを経て登録、設立した。組合の半数は、組合代表選挙に至るまでに15か月を要した。
 特に労働者の結社の自由と団体交渉の実施と順守において、繰り返し生じる大きな制約が4つある。すなわち、[1]組織化への使用者の介入、[2]法律を適切に実施しない無知蒙昧な労働省(DOLE)および地方政府の役人、[3]労働者の自らの権利に対する認識不足、[4]高い失業率と不完全雇用率――である。
 組織化への使用者の介入を規制する明確な法規定があるにもかかわらず、使用者は労働者による組合結成の努力に抵抗する方法を見つけ出す。使用者がよく使う戦略としては、組合リーダーの解雇、組合リーダーの昇進または昇進の約束、組合リーダーに対する捏造訴訟、組合リーダーに対する刑事訴訟(セクハラ)、組合の正当性に対する異議、事件解決の遅延(組合の正当性に疑義を唱える)、労働者との雇用関係を否定して選挙人名簿から除外する、会社閉鎖を脅迫することが挙げられる。
 さらにまたTUCPの経験によれば、無知蒙昧なDOLEおよび地方政府の役人が使用者と共謀して組合に対抗することもある。汚職の疑いがある者も少なくない。

4.労働者の権利の保護と推進

 労働者の権利の順守と推進に関するさまざまな課題に対処するために、TUCPは以下の事柄に大きく関わっている。

組織化と団体交渉

 労働者間の連帯を築いて労働組合を作ることは難しい。しかし、低賃金、不十分な社会的保護、所得格差、不十分な意見表明、差別とジェンダー平等、不安定な労働条件、保証のない雇用をはじめとする職場での多くの問題は、強力な労働組合があれば救済できるとTUCPは考えている。
 TUCPはまた、女性と若者――まもなく労働市場に参入する学生グループを含む――の労働者の組織も非常に重視している。
 使用者と政府が全く意に介さない時には、組合が職場での多くの問題に対する答えであり、唯一のより良い解決策である。

三者構成機関その他の社会的対話機構への参加

 国、地域、企業レベルで政策立案機関に労働者が声を届けて関与することは重要である。組織化とディーセントワークの推進においてTUCPが得た経験と教訓は、政労使その他の利害関係者との対話に有意義に参加する上で役だっている。
 現在TUCPは、[1]未組織企業における組合登録、[2]労働市場テスト、[3]障害者の雇用、[4]特に授乳場所の設置や完全母乳育児の促進をはじめとする、職場での母性保護プログラムの推進についての、労働政策改善に関する継続中の議論に当事者として加わっている。

身分的または敵対的労使関係ではなく、建設的な労使関係の追求

 TUCPは、建設的な交渉によって成し得ることがまだまだ沢山あることを十分に認識している。建設的な対話を行なえば課題の解決がもっと容易になり、労働者にとってより多くの利益が得られる。
 JILAFは近年いくつかのプログラムを実施し、建設的な労使関係の重要性に対するTUCP加盟組合の意識を高める力になってくれた。

一律賃上げ申請

 賃上げ申請は主として最低賃金所得者の利益になるが、TUCPは次のような目的でこうした申請を毎年行なっている――インフレに起因する労働者の購買力喪失への対処、労働者とその家族の生活水準の向上、生産および生産性の増加と利益からの恩恵獲得、賃金主導型成長(包括的)による発展の促進。

個人企業および家族経営業の賃金・給与労働者の賃金状況
フィリピンの地域別に見た最低賃金未満/最低賃金/最低賃金以上を受け取る労働者の割合:

2011年10月
地域 労働者総数 % 最低賃金未満 % 最低賃金 % 最低賃金以上 %
フィリピン 13,853,986 100 6,383,082 46.1 3,404,415 24.6 4,066,488 29.4
NCR 2,469,574 100 825,018 33.4 755,236 30.6 889,320 36.0
CAR 171,927 100 72,552 42.2 31,303 18.2 68,071 39.6
I 700,128 100 242,677 34.7 213,204 30.5 244,248 34.9
II 507,369 100 391,025 77.1 10,392 2.0 105,952 20.9
III 1,680,659 100 643,137 38.3 492,683 29.3 544,839 32.4
IV A 2,276,288 100 508,450 22.3 864,697 38.0 903,141 39.7
IV B 296,906 100 137,554 46.3 98,657 33.2 60,694 20.4
V 587,365 100 304,358 51.8 119,899 20.4 163,108 27.8
VI 1,034,343 100 676,831 65.4 137,117 13.3 220,395 21.3
VII 1,047,082 100 455,097 43.5 373,783 35.7 218,202 20.8
VIII 426,731 100 317,697 74.4 35,277 8.3 73,757 17.3
IX 392,356 100 288,253 73.5 51,382 13.1 52,721 13.4
X 677,267 100 495,175 73.1 57,537 8.5 124,555 18.4
XI 739,830 100 485,949 65.7 76,439 10.3 177,443 24.0
XII 504,037 100 332,898 66.0 66,288 13.2 104,851 20.8
カラガ 282,081 100 158,056 56.0 20,521 7.3 103,504 36.7
ARMM 60,043 100 48,355 80.5 - - 11,687 19.5
基礎データの出所:国家統計局、労働力調査、PUF

2014年7月現在:

  • 非農業労働者の場合、最高名目賃金率は466ペソ(約1238円)、最低は205ペソ(約545円)。
  • 農業労働者の場合、最高名目賃金率は429ペソ(約1140円)(NCRのプランテーションと非プランテーション)、最低は215.00 ペソ(約571円)と213ペソ(約566円)。
  • 従業員10人以下の小売/サービス企業の労働者の場合、最高名目賃金率は429ペソ(約1140円)(NCR)、最低名目賃金率は215ペソ(約571円)。

ただし、実質賃金率でみると、NCRの466ペソ(約1238円)という名目賃金は355ペソ(約943円)にすぎない。

*1ペソ=2.657円(2015年1月5日現在)