2013年 フィリピンの労働事情

2013年10月23日 講演録

フィリピン労働組合会議(TUCP)
アンナ・リザ・ロタ・レガシピ
Ms.Ana Liza Lota Regaspi

女性・苦情処理委員

 

1.最近の経済・社会状況

 フィリピンの国内総生産(GDP)は、今年の上半期に目覚ましい伸びを示した。2013年第1四半期と第2四半期に、GDPはそれぞれ7.8%と7.5%成長した。2010年以来最速の成長率であり、アジア地域のどの国よりも高かった。投資は今年1月から8月の間に26%伸びて3980億ペソに達した。このうち、投資委員会(BOI)が2874億8000万ペソ、フィリピン経済区庁(PEZA)が1109億2000万ペソ、それぞれ貢献している。製造部門は今年上半期に9.9%の成長率を示し、サービス部門の7.1%を上回った。雇用に関しては、上記両当局はこれらの投資が合計9万620人の雇用機会を生むものと見込んでいる(PEZAの企業が7万1598人、BOIが2万4422人)。
 2012年前半における国内の貧困率は27.9%と推定された。2006年および2009年前期(それぞれ推定28.8%と28.6%)と比べても大きな差異はなく、貧困の状況に変化はなかった(NSCB、2013年4月)。労働者の生活水準は、この24年間向上していない。

2.雇用労働問題

 2013年7月時点の15才以上の人口は、6446万8000人と推定されている。このうち、労働人口は4117万8000人で、これを労働力率に換算すると63.9%となり、2012年7月の労働力率(64.0%)とほぼ同じである。2013年7月の雇用率は92.7%と推定されている。2013年7月の労働力調査の結果から、不完全就業率(一つの仕事で生活が困難であるため、別の仕事を必要としている)は昨年の推定22.8%から19.2%へと大幅な低下が明らかになった。2013年7月の失業率は7.3%と推定される(2012年7月は7.0%)。失業者のうち、男性が61.3%、ほぼ半分(48.9%)は15~24才の若年層に属している。
 安定した雇用とディーセントワークの目標を実現するには、多くの課題がある。既存の法律や政策は多少なりとも労働者を優遇しているが、多くの使用者や政府の知識・理解不足による現在の慣行は、契約・非正規労働者のまん延をもたらしている。こうした雇用形態は一般的に不安定であり、保護や給付は不十分、契約は一時的で労働者の権利が与えられず、酷使されやすく、ディーセントとはいえない。労働雇用省(DOLE)の報告によると、2012年に不安定な仕事に就いている就労者の比率は推定30.4%で、不安定労働は大きな問題である。
 フィリピン労働組合会議(TUCP)は、この問題に対処するために三者構成のパートナーである政府と使用者と積極的に関わって「フィリピン労働雇用計画」の実施に取り組み、労働者にとってより良い結果とディーセントワーク目標を前進させることをめざしている。 三者労使協調評議会(TIPC)や地方の同様の会議において、労使関係関連政策の策定と改善に積極的に取り組んでいる。さらにTUCP自身も、特別経済区、企業運営上の業務やビジネスプロセスを専門企業に外部委託するビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)、情報技術産業(ICT)、その他の職場(家庭内労働者や若者を含む)における組織化のイニシアチブを強化している。地域三者賃金生産性委員会においては、毎年賃上げ申請を行なっている。
 フィリピンの経済状況は、一般に雇用なき成長といわれている。2012年には6.8%のGDP成長率に対し、雇用成長率はわずか1.1%にとどまっていた。首都圏における最低賃金の最高額は456.00ペソ/日で、同地域の6人家族の推定生活賃金(950.00ペソ/日)の半分にすぎない。現在の最低賃金日額は、労働者がまともな生活水準を維持できるだけの額にはほど遠い。賃上げは小幅ながら、石油製品価格、運賃、生活必需品・サービスの上昇に伴って自動的に継続して行なわれてきた。実質GNPと実質GDPは毎年上昇しているにもかかわらず、長年の間に実質賃金は低下し、労働所得分配率も低下し続けている。労働者とその家族の1989年以降の実質賃金は1ペソも上昇していない。
 フィリピンは、2013年に2種類の信用格付け(スタンダード・アンド・プアーズとフィッチレーティングス)で格上げとなった。日本の格付投資情報センター(R&I)は、海外フィリピン人就労者からの送金に支えられた堅調な国内消費を伴う力強い経済成長、外貨黒字、財政健全化の進捗をあげ、2013年8月にフィリピンの格付の方向性を「安定的」から「ポジティブ」(BBB -)に引き上げた。こうした明るい進展にもかかわらず、雇用、雇用の質、賃金、組織率、労働協約対象者は増えていない。契約、派遣、協同組合労働者などの不安定な雇用は、国内企業でも日系企業を含む多国籍企業でもごく一般的になってきている。政府は多国籍企業の参入(特に2015年のASEAN経済統合の開始に伴い)が増えることを予測している。これにより多くの雇用が生まれる。しかし労働組合はこれがそのままディーセントな雇用と賃金の引き上げにつながるとは思っていない。
 多くの労働問題は、多国籍企業にも国内企業にも共通している。ILOの中核的労働基準(特に労働者の結社の自由および団体交渉権)を実施および順守するうえで、(a)使用者による組織化への介入(b)DOLEおよび政府関係者一部の知識不足(c)労働者自らの権利に対する意識の低さ(d)高い失業率と不完全就業率――など、繰返し立ちはだかる障壁が4つある。
 法律では使用者が組合組織化への介入を禁じる明確な規定があるにもかかわらず、使用者は何らかの方法で、労働者の組合結成の動きに抵抗する。よくある戦略としては、会社を閉鎖するという脅し、組合活動の活発な労働者(組合員)の解雇、人員削減、組合指導者への嫌がらせ、社内規則違反や犯罪のでっち上げによる訴訟提起などがある。また私たちの経験では、無知で頑迷なDOLEおよび地方政府の関係者が、使用者と共謀して労働組合に抵抗する例もある。多くは汚職の疑いがある。教育を通じた労働者のエンパワーメント・プログラムの必要性も大きい。労働者が自分の権利をきちんと理解していないと、酷使や搾取を受けやすくなる。労働組合に関心のない労働者に労働組合への加入を説得するのは難しい。失業率と不完全就業率の高いわが国では、1つの職を10人以上で競うことになる。このため、仕事を持っている者はそれを守ろうと必死になる。組合活動に参加すれば解雇すると脅され、労働者は労働組合に加入したくても諦めざるをえず、結局は仕事に留まる道を選ぶ。このような事情が、私たちの組織化を阻んでいる。

3.労使紛争

 労使紛争の主な原因には、違法な解約や解雇、適正賃金の不払い、労働条件、労働協約規定違反、セクシャルハラスメント、職場での暴力(言葉、肉体的、精神的暴力)などがある。こうした問題が増えれば、労使紛争として労働裁判所への提訴や、ピケ、ストライキ、座り込みなどの労働争議に発展する。
 未組織企業の場合、会社側は職場での協議・対話の場として労使協議会(LMC)を設置し利用する。しかし、多くの場合、LMCは労働組合を弱体化するために利用されている。LMCにおける労働側代表は、一般に経営側によって指名され、使用者に友好的な労働者の中から労働側代表が選ばれる。これでは、本当に有効な社会的対話を行なうことにはならない。未組織の企業では、通常は苦情処理委員会が労働者の苦情解決にあたる。苦情処理委員会で解決されない労働事件は、労働裁判所や全国労使関係委員会(NLRC)で争われることとなるが、その前にシングルエントリー・アプローチ(SEnA)で仲裁・調停を経なければならない。SEnAは、先ごろ可決された『共和国法第10396号(あらゆる労働事件に対する任意的紛争解決方法としての調停・仲裁を強化する法律)』に基づき制度化された。SEnAは、労使紛争を公式の労働裁判所に送る前に、30日間で任意の調停・仲裁を行なう義務的手続である。その目的は、(1)労使紛争または労使関係から生じた問題に対し、迅速、公平、低費用かつ利用しやすい解決方法を提供する(2)あらゆる労働事件の解決に調停・仲裁の活用を奨励する(3)紛争解決に関わるDOLE関係機関間の協力と調整を強化することにある。

4.労使関係の展望

 社会的対話(三者構成原則、二者構成原則、多数構成)は、フィリピンの労使関係の特徴である。これによって、国内では2012年においても比較的友好的な労使関係が保たれている。実際のストライキ発生件数はきわめて少なく(2012年はわずか3件)、混乱はさらに少なかった。

  • 社会的対話と三者構成主義を強化するための機構は成長を続けており、労使三者間協議会(ITC)の設置数は増えている。2012年時点で、ITCの数は167に達し、2011年比156.1%となっている。
  • ITCは主として優先産業(BPO/ICT、農業、ホテル・レストラン・観光、鉱業、運輸物流、建設、製造など)において設置されている。
  • ITCの設置数が多い地域は、フィリピン北部ルソン島のコルディリェラ・セントラル地域一帯の内陸地方であるコルディリェラ行政地域(CAR)(27)、第5地域(24)、第1地域(17)、第3地域(14)、第4-A地域(14)、第2地域となっている。
  • 2012年現在、優先産業における自主的優良実践規範(Voluntary Codes of Good Practices: VCGP)は2010年の8から39と着実に増えている。

 多くの職場は建設的な労使関係を望んでおり、それを理想としている。労働組合はそのような労使関係が構築されるよう支援する。しかし、建設的な労使関係が機能するためには、独立した強い労働組合でなければならない。このことはすなわち、(a)三者構成のパートナー(特に政府と使用者)による中核的労働基準の完全順守(b)労働組合活動が活性化するためのより良い環境(労働組合の登録、認知、認証選挙、CBAプロセスの迅速化)(c)労働組合権の全面的尊重を要するということである。
 労働組合活動に立ちはだかる課題は多々あるが、TUCPは労働者のほとんどを女性が占める特別経済区や若者が雇用されているBPO産業をはじめ、より多くの労働組合を組織するよう努力している。連帯のパートナーであるJILAFおよび連合と連携し、こうした努力が実ることを願いながら活動している。

2013年6月7日 講演録

フィリピン労働組合会議(TUCP)
ノルベルト カジュアー カパラス ジュニア
Mr. Norberto Casuar Caparas Jr.

アウトソーシング産業労働組合書記長

レイラ デレロン ロクサス
Ms. Leila Deleon Roxas

全国教職員組合教育訓練部長

 

1.全般的な労働情勢

 フィリピンでは人口が急速に増えている。過去12年間に人口は約2100万人増え、2012年の時点で、1億377万5000人となった。
 労働雇用統計によると、2013年1月の時点で、15歳以上の人口は6370万人と推定されている。その中の64.1%に当たる4080万人が、労働力人口(雇用者と失業者の合計)である。
 さらに、約3794万人が雇用者で、従って雇用率は92.9%となる。雇用者の大半の54.1%はサービス部門である。
 失業率は7.1%と推定され、人数にすると290万人である。雇用者のうち、不完全就業率は20.9%で、793万人である。
 フィリピンにおいて、インフォーマルセクターは、常時10人未満の労働者を抱える家族経営の企業と定義されている。この定義をもとにすると、2005年時点で雇用されている労働者の4分の3以上に当たる2460万人の労働者が、自営業者として、または賃金の支払いのない家族経営の労働者として、インフォーマルセクターに属する労働者である。
 最低賃金は、『共和国法6727』の下で、フィリピンの16の地域に設立されている地域別三者構成賃金生産性委員会を通じて地域別に設定されている。現在、マニラ首都圏の日額最低賃金は456ペソ(円に換算すると1088円、ドルでは11ドル)である。その他の地域では幅があり、205~350ペソ(円では490~835円、ドルでは約5~8ドル)である。
 労働時間は、常用雇用労働者で週40時間となっている。週40時間未満の労働者をパートタイム労働者と呼んでいる。常用雇用労働者が総労働者の65.1%を占め、残りの34.9%がパートタイム労働者ということになる。

2.労働組合が直面する課題

 1987年に制定されたフィリピン憲法は、労働組合と労働者の団体行動の権利を規定している。この憲法の13条第3項は、次のように規定している。
「憲法は、労働者が、法に従ってストライキを行なう権利を始めとして、自ら組織をつくり、平和的な統一行動を行なう権利を保障する。労働者は、労働期間の保障、人間的な労働条件、あるいは生活賃金を受ける資格を有する。また、労働者は、法によって規定される可能性のある労働者の権利や恩恵に影響を与えるような政策決定や意思決定プロセスに参加すべきである。」
 フィリピンでは2011年6月の時点で、雇用労働者3790万人のうちの7.5%、つまり279万人の労働者が労働組合に組織化されていると推計されている。労働協約でカバーされているのは、そのうちの8.2%、23万人である。
 労働組合は組織化を進めるにあたって2つの要因で困難に直面している。ひとつは、労働組合が組織化のために、労働者と話し合いを始める早い段階で、労働者の経営者側から労働組合の支持者だと見られることを恐れるということである。ふたつ目は、多くの労働者が労働組合に加盟するよりも、自らの雇用を守ることに重きをおいている点である。
 TUCPは、フィリピンの労働組合が直面する4つの問題点を確認している。
 第1は、グローバルな経済的競争と資本の移動の増大である。これはグローバル化が進展した結果である。近年、多国籍企業にとってフィリピンは、税の優遇措置や比較的安価な労働コストにより魅力的な投資先とみられてきた。従って政府は、外国からの投資家が投資を思い留まらないようにするために、労働組合をあからさまに支持することを控えてきた。このような政府の姿勢に対抗するために、TUCPでは、啓発キャンペーンや労働組合リーダーの教育・訓練を行ない、一方では労使協調の戦略をとってきた。
 第2の問題は、製造業からサービス業への国の経済構造の再編成の問題である。グローバル化の結果、いくつかの国、特に中国が、その安価な労働力を背景に製造業の生産地として魅力的な地域になってきた。最近フィリピンは、コールセンターを中心とするBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)産業のブームによって、急速にサービスを提供する国になりつつある。2010年後半には、コールセンター部門ではインドを抜いて世界一になった。現在、コールセンター部門では75万人が雇用され、2016年には120万人に達すると予想されている。

フィリピンBPO産業労働組合(BWAP)について

 BPO産業の労働条件の特異性、例えば労働時間のほとんどが欧米向けの夜間作業であること、賃金その他の給付金が比較的高いこと、需要が多いため労働者は次から次へと企業間を容易に移動することなど、これらの要因が重なって企業内に労働組合を作ることが極めて難しい
 TUCPは、このBPO産業で組織化を進めるために、一番新しい加盟組織としてフィリピンBPO産業労働組合(the BPO Workers Association of the Philippines: BWAP)を本年3月に職能別労働組合として立ち上げた。BWAPの目標は、ボイス産業、いわゆるコールセンターで働く労働者の声となることにある。
 3月に設立して以来、BWAPは、BPO産業の2つの企業と連携し、健康的な職場環境などの労働条件を高め、ディーセントワークを進めていく取り組みを始めている。BWAPは、この産業で働く労働者の労働条件の特異性から、これまで通りの取り組みでは不十分であると認識している。そこでBWAPは、フェイスブックやツイッター、独自のウェブサイトなどを使い、労働者の意識向上を図り、オンライン登録を通じて正式な組合員として登録を促している。組合費は銀行口座を通して徴収している。
 第3番目の問題は、労働コストを削減するために派遣労働者、あるいは臨時雇用契約労働者などの不安定雇用が増大していることである。労働組合は正規労働者の数の減少に直面している。これが労働組合が組合員を拡大できない原因となっている。TUCPは、労働契約期間の安定を確保するために、絶えず前面に立って活動を展開している。
 第4の問題は、経営側の組織化に対する抵抗が強まっていることである。難しい状況を克服するために、TUCPは、啓発キャンペーンや労働組合指導者訓練活動を展開し、労使間の協調を図ろうとしている。TUCPは、また、特に家政婦などの家庭内労働者やフィリピン人海外移住労働者を始めとして経済の他の部門の労働者の組織化を強化している。

3.結論と提言

 結論と提言は以下のとおりである。
 労働組合は労働の世界の変化に迅速に対応するために、組合員相互間、組合役員と組合員相互間のコミューニケーションを容易にする場として、ソーシャルメディアを活用するような新しい戦略を実行していくことが必要である。労働組合は、女性、専門職、技術職、あるいはホワイトカラー労働者などの労働者をはじめとして、組織化を積極的に進めていく必要がある。