2011年 フィリピンの労働事情

2011年6月17日 講演録

フィリピン海員労働組合(PSU)-ALU(合同労組)-TUCP(フィリピン労働組合会議)
ジェン・アロア・ダイリサン

理事長

 

フィリピン労働組合会議

 フィリピン労働組合会議 (TUCP)は120万人の組合員を擁し、フィリピンの労働組合連合で最大規模のものである。合併によって強力で活力に満ちた労働センターを創設することの必要性や重要性を認識した23の労働組合連合によって1975年12月14日に設立された。今日TUCPは、国内で最も代表的な労働センターとして30の連合で構成され、国家公務員を含むあらゆる部門や産業(農業から製造業、サービス業に至るまで)に組合員を抱えている。更に、移民労働者団体、インフォーマル経済、ドライバー、都市部貧困層、若者組織、協同組合、連合、同盟、連立や他の市民社会団体から成る協会/組織出身の組合員も存在する。

 TUCPは、国際労働組合総連合(ITUC)及びそのアジア太平洋地域組織(ITUC-AP)に加盟している。TUCPは、アセアン9カ国の15のナショナルセンターで構成されるアセアン諸国労働組合協議会 (ATUC)事務局としての機能を果たしている。

 TUCPは、組合員が経営/指導にあたる民主的な組織の設立、労働者の活動推進、スキル・能力の開発、ナショナリズム・団結・公平性・社会的責任の教化、万人に向けた平等の権利や機会の推進、及び労働者やその家族、更には非組合員の家族の労働条件や生活環境改善に力を注いでいる。

 TUCPのプログラムには組織化と組合員募集、労働法改革、中核的労働基準の順守の監視、 労働者教育、団体交渉、協同組合、ジェンダー平等、組織効率と開発、市民アドボカシー、職業安全衛生、社会的保護等が含まれ、又、特別な関心事としてとりわけ、移民労働者の保護、グリーン・ジョブと持続可能な開発、児童労働の撲滅、インフォーマル経済の労働者の保護、性と生殖に関する健康、気候変動、生産性と低中所得諸国等が挙げられる。

 TUCPはスキル訓練のためのワーカーズ・カレッジを運営し、社会経済的プロジェクト(有機肥料生産を含む)を実施し、更に国内外において組合員やその家族に対する雇用促進に取り組んでいる。

フィリピンにおける労働と雇用の状況

 国家統計局(NSO)が2010年10月に実施した 労働力調査 (LFS)の中間集計に基づくフィリピンの労働力人口は、2009年10月の3,819万7,000人から翌年の2010年には3,928万 8,000人へと2.9%増加した(109万1,000人の増加)。労働参加率(LFPR) については、前年の64.0%からわずか0.2パーセンテージポイントの増加に留まった。

 インフォーマル経済に属する労働者は2008年には1,050万人であった。
 2010年10月の失業率は7.1%、又、不完全雇用(顕在的なもの)は11.3%であった。

15歳以上の人口と雇用ステータス---フィリピン:2008 - 2010年10月
(%を除き、単位は千人)
指標 2008 2009 2010
平均 1月 4月 7月 10月 平均 1月 4月 7月 10月
15歳以上の人口 57,848 59,237 58,657 59,074 59,513 59,705 60,718 60,207 60,561 60,934 61,169
労働力人口 36,805 37,892 37,116 37,824 38,430 38,197 38,905 38,828 38,512 38,993 39,288
就業者 34,089 35,061 34,262 34,997 35,508 35,478 36,047 36,000 35,413 36,285 36,489
現役 33,593 34,490 33,686 34,157 35,158 34,957 35,572 35,560 34,675 36,002 36,049
週40時間未満
(パートタイム)
11,938 12,945 12,452 14,333 12,112 12,884 12,680 12,309 12,959 12,683 12,770
週40時間以上
(フルタイム)
21,655 21,544 21,234 19,824 23,046 22,073 22,891 23,251 21,715 23,319 23,279
休職中 496 571 575 838 350 520 475 440 738 283 439
不完全雇用 6,579 6,692 6,238 6,621 7,034 6,876 6,758 7,106 6,297 6,490 7,140
顕在的 4,018 4,135 3,985 4,335 3,947 4,272 4,013 4,173 3,904 3,867 4,108
非顕在的 2,560 2,557 2,253 2,285 3,087 2,603 2,781 2,933 2,393 2,622 3,117
失業者 2,716 2,831 2,854 2,827 2,922 2,719 2,859 2,829 3,099 2,708 2,800
労働力参加率(%) 63.6 64.0 63.3 64.0 64.6 64.0 64.1 64.5 63.6 64.0 64.2
雇用率(%) 92.6 92.5 92.3 92.5 92.4 92.9 92.7 92.7 92.0 93.1 92.9
不完全雇用率(%) 19.3 19.1 18.2 18.9 19.8 19.4 18.7 19.7 17.8 17.9 19.6
顕在的不完全雇用率(%) 11.8 11.8 11.6 12.4 11.1 12.0 11.0 11.6 11.0 10.7 11.3
失業率(%) 7.4 7.5 7.7 7.5 7.6 7.1 7.3 7.3 8.0 6.9 7.1

 2009年の労働雇用省労働雇用統計局(BLES-DOLE)の報告によれば、組合組織率はわずか5.5%、すなわち組合員数にして197万5,000人(労働者総数3,540万人中)に過ぎない。これは時給・賃金労働者全体のわずか10%に相当する数字である。

 フィリピンには登録を受けたナショナルセンターが10存在し(TUCPを含む)、そのうち5つはTUCPに加盟している。TUCPに加盟する他の4つのナショナルセンターは、国際金属労連、Phil.Council(フィリピン協議会)、Philippine Congress of Trade Union(PHILCONTU)(フィリピン労働会議)、及びPhilippine Trade Union Council(PTUC)(フィリピン労働組合センター)である。

 TUCPの総組合員数は47万5,000人である--
様々なTUCP加盟組合は、IFJ(国際ジャーナリスト連盟)を除く全ての国際産業別労働組合組織と提携している。

 活発なフィリピンの労働組合活動にも拘らず、ストライキやロックアウトに関する統計は、より多くのフィリピン人労働者が自身の不満を、ピケを張ることによってではなく示談や裁判訴訟を通じて解決することを望んでいることを示唆している。 2011年第一四半期、労働雇用省の記録に残るストライキは、中部ルソンの工場で約100人の労働者が関与した一件のみであった。DOLE(労働雇用省)は、自発的仲裁や対話を活用した裁判外紛争解決手続き(ADR) のメカニズムは事実上、本年度第一四半期において、4,047人の労働者に対する4億4,680万フィリピン・ペソを超える団体交渉手当や他の貨幣利得の付与につながったと報告した。

このことは、組合がストやスト通告によって経営陣との交渉に臨むことを避けるようになっている傾向を示唆している。労働者は、不透明な経済状況や労働環境によって自身の仕事を危険にさらすことをますます躊躇するようになっている。正規労働者が契約労働者に置き換えられるリスクも生じている。」--TUCP

 中央斡旋調停委員会(NCMB) は2011年1月から3月末にかけて計610件の労使紛争が調停されたと報告したが、これは概ね好ましい調停率を示すものであった。

労働組合の問題と懸念

 労働者の権利を侵害する現在の問題や懸念(特に、結社の自由や団体交渉の分野に関するもの)は根強い。以下のような労組組織化への課題に対処する政策を考案するために、政府介入や労働者のアドボカシーへの取り組みを強化する必要がある。

  • 使用者による終身雇用権の確保及び労働協約(CBAs) /団体交渉協定 (CNAs)への侵害
  • 経済や労働関連の問題を取り扱う三者組織並びに政府機関、及び政府が所有し管理する法人、政府規制機関における労働者の意見表明
  • 長年にわたって非正規の生産的サービスに従事する者を含む国家公務員の権利や終身雇用権の保護
  • 組合結成事案や外部委託プロセスに対するものを含む、労働裁判の特定の様相に関する決定を左右するための国家公務員の一部による介入
  • 政府資産の民営化における労働者の統合、及び組合/CBAsの尊重
  • 非組合員の訴訟をも扱う (公認) 弁護士補助員の出現
  • 長期の懸案事項であるILOによるフィリピンの法律・規則・慣習の順守や勧告への対策の遅れ
  • 公的部門労使評議会での公的部門の組合による議決権を行使した完全な表明
  • 正規組合員労働者の業務を置き換えるにあたっての協同組合の利用

 しかしながら、ディーセントワークの原理の実践(特に、労働における権利の要素に関するもの)において、いくつかの重要な前進や改善が存在する。それには、(a) 関連の政府機関における三者統合委員会 (機関の実績に対する三者による監視と評価)*1の設立、(b) コンピューターベースの記録並びに訴訟の展開の追跡、及びインターネットを活用した利害関係者によるこれらの記録へのアクセス、及び (c) あらゆる労働訴訟の30日間の強制調停が含まれる。
 現在TUCPは、地域化された最低賃金の見直しに向けた持続的な全国規模の運動を先導し、当該賃金が関与する全労働者の生活賃金の要件に適合していることの確保に努めている。私達は又、職場安全衛生関連の問題、特に使用者による労働安全や労働衛生懸念関連の法律順守の追求にも取り組んでいる。

 フィリピン海員労働組合に関しては、私達は船舶所有者、IMO(国際海事機関)、ILO(国際労働機関)、他の国際組織等の国際規制機関への関与を維持し、フィリピン人海員の権利や利益の保護の確保に努めている。

*1TIPC(三者産業平和協議会)決議 No. 3-A。三者産業平和協議会の下で、監視・取り締まり機関としてNational Efficiency and Integrity Board (国家効率統合委員会)の創設を支援。2010年9月2日承認。

課題解決に向けた取り組み

 TUCPは政府と非常に重要な連携を維持している。国の労働センターとして独立性を保つ一方、政府、特に労使関係改善、労働者保護及び労働市場改善に関して労働雇用省と提携し、 それを投資に資する/魅力的なものにしている。

 DOLE(労働雇用省)は、とりわけ労働法改革、政府の効率や完全性の向上、労働者の代替収入(生計)源の推進、労働者教育(フォーマル及びインフォーマル)への支援提供に関するTUCPの提案を検討している。

 

 ディーセントワークはILOの定義によれば、「自由や公平性、安全性、人間の尊厳といった条件において男性にとっても女性にとっても生産的な仕事であること。ディーセントワークには、生産的で正当な収入を生み、職場での安全や労働者やその家族に対する社会的保護を提供し、個人の発達により良い展望を与えて社会的統合を推進し、組織を形成して自身の生活に影響を与える決定に関与すべく懸念を表明する自由を人々に与え、全ての人に平等な機会及び処遇を保証する取り組みの機会が含まれる。」

 具体的に、TUCPの取り組みは 以下を通じて労働者やその組織を強化することを重視している。

 組織化、団体交渉、労働者教育 -TUCPとその加盟連合にとっての最大の優先事項は、 団体交渉や保護を目的とした労働者の組織化である。私達は、組合の能力やリーダーシップを構築する教育プログラムを制度化した。私達の訓練プログラムは、とりわけ労働組合のリーダーシップ、生産性、社会的保護(職業労働衛生、HIV及びエイズ、性と生殖に関する健康、母性保護、等)、グリーン・ジョブ、交渉、社会的対話に重点を置いている。

 スキル訓練と雇用 -TUCPは、労働訓練奨学金プログラムのスキル訓練を実施する労働者大学を運営している。今日まで、TUCP労働者大学は、様々な資格能力(コールセンター、コンピューター修理、施設メンテナンス、簿記、溶接作業、健康マッサージ、医学記録転写、等)を持つ1万人以上の卒業生を生み出している。

 政府への関与 -TUCPは、労働者を代表し、様々な行政の三者意思決定機関に積極的に参加している。フィリピン下院のTUCP 党リストの代表は、労働や重要な社会的問題を扱う法案を発議する。今日に至るまでTUCP 党リストは、終身在職権の確保、組織の自由や団体交渉の強化、クレジットカード所有者の保護、高額な動力費からの消費者の保護、アスベスト使用の撤廃等に関する20以上の法案を提出してきた。

 一方、フィリピン海員労働組合 (PSU)は、フィリピン日本船員配乗代理店協会等の様々な雇用機関団体、国際船員労務協会や日本船主協会等の船主組織、及び全日本海員組合等の労働組合と緊密に連携し、船員やその家族にとってのより良い保護・利益・プログラム・サービスの確保に努めている。

ナショナルセンターと政府との関係

 フィリピン労働組合会議は、政府の認可を受けた労働組合センターである。団体交渉や賃金政策、表明に関する諸々の方針の対立のため、私達は常に政府と良好な関係にあるわけではない。だが、概して TUCPは、産業の公正と平和の達成を目指す行動計画の追求において常に信念を持つパートナーであるよう努めてきた。

 TUCP は労働者問題への支持を表明する一部の党リストの組織を支援しているものの、いかなる政党にも属してはいない。

多国籍企業の進出と労使紛争の状況

 フィリピンは外国人投資家、特に職場や事務所の設立を進める日本企業にとって関与しやすい好都合な条件を備えている。労使紛争の主な内容は通常、本質的に経済に関係したものであり、多くは団体交渉に際して発生する。