2006年 フィリピンの労働事情

2006年5月31日 講演録

フィリピン労働組合会議(TUCP)
ホセ アセンティスタ ボケコサ ジュニア

フィリピン船員労働組合中央ビサヤ地区法律顧問

 

 私が、いくつかの本で読んだものによれば、1960年代、アジアの中での1人当たりの所得は、フィリピンは日本についで2番目であった。当時のわが国経済は、その当時のアジア諸国よりも高いレベルにあった。
 しかるに、およそ50年を経た今日、わが国経済は向上するどころか悪化してしまったわけである。残念だがわが国はアジアの経済的ランクでは、その最下位にあり、増え続ける人口を養うのに十分な食糧を生産することさえ出来ない実態にある。この悲劇の原因は、政治家たちがもろもろの課題について、ずっとずっとディベートし続けているだけで、何の対策もとって来なかったことにある。すなわち我々の国民は限りなく話し好きだということである。
 悲しいことだが、フィリピン人の90%は貧困層である。1日あたりの平均賃金は,米ドルで5ドル未満であり、たとえば5人家族だとすると、その金額の6割が食料に当てられる。そういう金額であり、仕事があればそれだけでラッキーというのが現状であって、失業率はきわめて高く、何百万人もの人が家族を国において外国へ働きに出なければならない状況になっている。そして、これらの貧困問題には、労働問題にかかわる背景があることを強調せざるを得ない。
 問題の根源には、敵対的な労使関係がある。経営者側と労働者側の間には、深く根付いた信頼の欠如がある。これはきわめて歴史的な問題であり、多分スペインの植民地支配の時代から続くものと思われる。
 信頼感の欠如は、企業経営の場において、経営側が労働者に対して不親切な態度をとる結果、労働者側からも企業の生産性を高め、企業利益を拡大するためのモチベーションやパートナーシップを発揮することにはならないのである。
 労働者が労働組合を結成しようとすると、経営者はこれを妨害、脅し、解雇さえされるというのが共通の問題であり、政府はそれに対して何ら労働者の手助けをしない。また、フィリピンの法的プロセスは非常に緩慢であるため、経営者側はさらに大胆な行動に出るのである。労働者が問題解決をストライキに訴えようとすると、政府はストをしてはいけないという命令を出し、実際にストが行われると、即時に職場復帰命令が出されるのである。
 労働長官側は労働紛争に対して強制仲裁を労働法廷に提起する。こうなると、最終的な問題解決までに5年も10年もかかることになり、組合のリーダーたちは解雇され、とても長期の生活維持が出来ないことになる。この間、経営側から提訴を引き下げることを条件にした懐柔策もとられるため、状況は非常に複雑なものになる。
 労働者側が不当労働行為として経営側を訴えた場合も、同じような状況になり、いずれにしても労働者側は、非常に不利で困難な状況に立たされる。
 以上の報告にあるように、我々の国の法律の下、現在我々に与えられている法律の手段あるいは方策というものは、我々労働者の権利を守る上で、もはや効果的なものではなくなっているのである。