1999年 フィリピンの労働事情

1999年7月28日 講演録

ゴロドュアルド・サンバドール・ガビオラ
カガヤン地区電力会社従業員労働組合 委員長

 

低迷するフィリピン経済

 我が国における経済、社会状況について報告します。
 フィリピン政府は最近、日本の宮沢プランから45億ドルのローンパッケージ、一括借款を獲得いたしましたが、これはエストラーダ政府によると、このローンは我が国の経済回復を推進するためのさまざまな誘い水式経済政策の資金に使われることになっています。問題は、この新しく獲得したローンが、今年のさらに深刻化した経済問題から我が国を救い出せるのかどうかという点です。
 「1999年世界開発財政」という表題の世界銀行による最近の報告によると、アジア地域の危機はより深刻化し、長期化するだろうということです。また、完全な経済回復が見られるのは2001年より後になるだろうとも述べています。
 このような見通しは、フィリピンのような発展途上国にとって大変暗いものになっています。フィリピンでは、失業率、不完全就業率、それから大変高率の貧困層の存在があって、それが過去3年間、今までに見ないようなスピードでさらに上昇しています。
 労働雇用者(ドール)が実施した1998年4月の労働力調査によると、我が国の労働力人口は1997年4月の3,137万人から1998年の3,211万人へと、2.4%増加しています。このうち1,600万人以上が15歳から34歳までの若い労働者です。同じ期間に、就業人口は初めて1%減少し、2,810万5,000人から2,783万5,000人になりました。
 総労働人口のうち、430万人は失業中、580万人は不完全就労状態です。公式発表によると、1998年の失業率及び不完全就業率は、それぞれ9.6%と19.0%でした。1998年に20万人の労働者が永久解雇になりました。1999年第1四半期の失業率は9.0%で、不完全就業率は20.9%でした。
 製造業部門は下落を続けています。総生産量の25.4%を占めているに過ぎません。これはあまりよい兆候ではありません。なぜなら、大量の労働者を吸収するためには、この部門、製造業部門こそ拡大する必要があるからです。

不安定雇用と乏しい雇用機会

 雇用の不安定なサービス部門が、リストラされた何千人もの労働者の受け皿になっています。この部門が国内経済の41%を占めています。農業部門も、余剰労働力の雇用では相当な割合を占めているのですが、1998年には農業部門の雇用が2.3%減少しました。鉱業、電力、及び建設部門が、総生産量の10.6%を占めています。
 最近の危機によって、いわゆるインフォーマルセクター(非正規部門)が急速に拡大しつつあります。製造業部門とサービス部門からリストラされた何千人もの労働者は、行商人などとして、あるいは劣等な臨時雇用の労働者として吸収されています。
 失業及び不完全就業に関する最新統計は、若者の将来を脅かしているような内容です。増加している労働力に毎年何千人もの大学新卒生が新たに加わっています。1999年には、40万人以上の新卒生が数少ない就職口を奪い合っています。彼らは長い年月を学校教育に費やしたあげく、現在の経済崩壊のせいで報酬を受けられる仕事を見つけることができません。若者たちは、つまらなくて不安定な仕事しか手に入れられないことに気づいて、欲求不満に陥っています。
 最も憂慮されているのは、不況のため、雇用不安に直面している何百万人もの労働者が、大量失業の脅威にさらされているということです。女性労働者を含む、教育や技能レベルの低い労働者たちは、まともな仕事を見つける確率がさらに低くなっています。
 さらに、労働限定契約(レーバー・オンリー・コントラクティング)と呼ばれている慣行などのいわゆる労働流動化、あるいは柔軟化の問題が、より多くの雇用を不安定なものにしています。大量の雇用が契約労働化されています。そして、雇用の不安定の問題をさらに悪化させています。このような場合には、労働者はまずささいな仕事を5ヵ月間だけ与えられ、その後は仕事を打ち切られるということになります。
 多くの会社がコスト削減対策の一環として、この手段に訴えています。契約労働者は、法定最低賃金よりも低い賃金を支払われています。彼らは労働組合に加入して、団体協約の対象になることができません。彼らは臨時雇用という性質上、会社のさまざまな給付金やその他の奨励金を受けることは望めません。彼らはひどい虐待、病気、負傷などの被害を大変こうむりやすいような立場に置かれています。彼らは社会的保護が容易に届かないところにいます。
 働く大衆が当面しているもう1つの問題は、現在の低賃金レベルです。地域によって異なる法定最低賃金は、労働者とその家族の毎日の生活の必要を満たすことができません。現在の賃金、これはNCRと呼ばれている首都圏では日額198ペソ(約650円)になっていますが、これでは、基本的物資が全体に高価格であることを考えると、十分ではありません。
 企業間の競争が激しくなりつつある中、労働者の職業安全衛生もまた疎かにされています。公式統計によると、危険な条件のもとで働いている労働者が1,340万人存在しています。このような莫大な数の労働者たちが、仕事に関連した疾病、障害、死亡などにいまだに苦しんでいます。その中でも悪名高いのは、鉱山、化学及び建設部門で、何百人もの労働者が安全対策の不備によって負傷したり、死亡したりしています。
 緊急事態発生時(ステート・オプ・エマージェンシー)、そのようなときにはいわゆる戦略的産業における労働者のストライキを禁止しようという動きが、立法府から出てきています。フィリピン労働組合会議(TUCP)や、その他の労働団体からの激しい批判があったために、この提案はもちろん実現しませんでした。
 行政府、中でも貿易産業省、及び新しく設置された大統領労働政策(タスク・フォース)、それもまた、多国籍企業を我が国に誘致して、投資させるために、労働者が有利な報酬を受け取る権利を犠牲にして、最低賃金法を撤廃するという提案をしました。政府の役人の中には、フィリピン労働者の激しい怒りの引き金を引く勇気のある者がいるように見受けられます。
 労働雇用省(ドール)は、労働界が直面している数多くの問題への対処が期待されている総合雇用計画を既に策定しました。1999年1月に開かれた上級労働雇用計画会議(CEP)の際に、労働省は経営者と労働者の代表とともに、あるコミュニケに調印しました。

政府の雇用計画と貧困の現実

 先ほど出た総合雇用計画ですが、この計画は、雇用の創出、雇用の円滑化、雇用の推進、雇用の保全等の計画によって、我が国の失業率を1998年の9.9%から、2004年までに7.8%に縮小するということを目指しています。労働省は、今後5年間に少なくとも400万人の雇用を生み出すと考えられている少なくとも16の産業を特定しました。
 主要雇用創出事業(KEG)、重点プロジェクトの中には、次のようなものがあります。(1)インフラ整備。(2)貿易投資推進。(3)経済地区の開発。(4)中小企業開発。(5)農業・漁業近代化。(6)観光推進。(7)生活関連プロジェクトです。産業の発展によって、就業人口が、1999年の2,867万9,000人から、2004年までには、3,394万1,000人に増加するということが期待されています。
 現在進行中の経済混乱の中で、児童労働もまたますます深刻になってきています。国際労働機関(ILO)は、我が国は少なくとも370万人の児童労働者がいると言明しました。15歳以下で、パートタイムまたはフルタイムで働いている子供たちは、児童労働と呼ばれる社会問題の一環である。あるいはそれを形成していると考えられています。
 何百万ものフィリピンの家族がますます貧困化しているために、これらの何百万人もの子供たちは、教育その他の社会の施策の恩恵を受ける権利を奪われています。失業していたり、仕事をレイオフされた成人労働者たちは、直接あるいは間接に彼らの子供たちに圧力をかけて、家族全体の生活の面倒を見させようとしています。
 農村部では、児童労働者の大多数は大規模農場、プランテーション、外国または国内のトロール船、及び野菜あるいは米作農場で働いています。都会では、彼らは小売業、サービス業、及び製造業で働いています。児童売春婦の数も増加しています。児童労働者は毎日、理解しがたいような運命に直面しています。
 ILOが1998年1月17日に最初の反児童労働世界行進を組織したとき、我が国も地域のほかの国々も経済危機の真っただ中にありました。1998年には、国内及び世界経済が下降傾向にあったために、解雇された労働者が少なくとも20万人はいました。これらの数値を考慮すると、今年も児童労働者の数が増加し続けることはまず間違いありません。
 有利な仕事が見つけられない親たちは、深刻な経済問題に直面しています。そして、そのことが、彼らの子供たちを大変若年にもかかわらず労働市場に押し入れる結果になっています。我が国には300万人以上の児童労働者がいて、彼らは毎日、さまざまな形の虐待と搾取に遭っているのだという思いと現実は、耐えられないような重荷です。我々の子供たちは、その将来を我々から受け継いています。
 現在の経済問題を解決するために、我々がただちに行動を起こさない限り、もっと多くの将来ある子供たちが学校を退学し、厳しくて競争の激しい労働市場に参入していくということは避けられません。その中には非行や犯罪に走る者もあります。
 エストラーダ政権は最近、内閣の閣僚たち、及び労働及び出稼ぎ労働者、漁民、農民、女性、青年及び学生、インフォーマルセクター、子供、障害者、NGO、原住民、自然災害の被害者、高齢者、生協、及び都会の貧困層など、社会の14部門の部門別代表から成るNAPCと呼ばれる反貧困全国委員会を創設しました。
 この機関は、総合的な全国反貧困計画を策定します。その計画は、政府の貧困層のためのプログラムの中核を占めることになっています。同様に、よい結果が期待されています。フィリピンでは、政府の立派な政策とプログラムがあっても、その実施がまずくて、腐敗しているために、必ずしも国民にとって具体的な利益につながらないことが多いのです。