2016年 マレーシアの労働事情

2016年12月9日 講演録

マレーシア労働組合会議(MTUC)
ルディ ビン ラスリー

ペニンシュラ・クラブ従業員労働組合 事務局長
ゲリィ ビンティ サリング
港湾関係労働組合(UNEPASS) 財政担当
モハッド アミールディン ビン アブド ハミッド
ペナン州縫製関係労働組合 書記長
シェロウ イー ピン
保険関係産業労働組合連合 事務局長
ムハマッド ファイザル ビン シャヒブル キラヤ
マレー鉄道労働組合書記長補佐
ムハッド サズアン ビン アブドゥル ハディ
マレーシアゴム生産局労働組合 財政担当

 

1. 当該国の労働情勢(全般)

  2014年 2015年 2016年(見通し)
実質GDP(%)
(出典)
6.0% 5.0% 4.3%
物価上昇率(%)
(出典)
3.14% 2.1% 2.1%
最低賃金
(時給/日給/月給)
(出典)
時間
(4.33~3.85マレーシアリンギット)
日額
(51.92~マレーシアリンギット)
月額
(800~900マレーシアリンギット)
(2013年1月~)
時間
(4.33~3.85マレーシアリンギット)
日額
(51.92マレーシアリンギット)
月額
(800~900マレーシアリンギット)
時間
(4.81~4.42マレーシアリンギット)
日額
(57.69~53.08マレーシアリンギット)
月額
(920~1,000マレーシアリンギット)
(2016年7月~)
労使紛争件数
(出典)
失業率
(出典元)
2.85% 3.2% 3.5%
法定労働時間
(出典元)
8時間/日 48時間/週 時間外/割増率
通常:1.5倍
休日/割増率
休日:2倍
公休日:3倍

 マレーシアは、外国人労働者の数は約580万人と非常に多く、労働人口の約40%を占めており、労働集約型のセクターや3D(Dangerous 危険、Difficult 困難、Dirty 汚い)と呼ばれるセクター(建設、清掃業、レストランなどのサービス業、農業、家事手伝いなど)に多く雇用されている。580万人のうち、230万人が合法的な就労者、350万人が不法就労者となっている。
 マレーシアの『労使関係法』(1967年『IR法』)では、外国人労働者は組合に加入してはならないと規定されているため、外国人労働者の組織化で大きな課題を抱えている。また、アウトソーシング労働者も団結権が認められていない。
 政府は、『労使関係法』を2014年に改正し、さらに『民間職業紹介所法』も改正する動きを見せている。この『労使関係法』の改正は、労働者の雇い入れと解雇に関して柔軟性を持たせるようにすることが含まれており、MTUCは非常に懸念を抱いている。

2. 労働組合が現在直面している課題

 使用者側は、労働組合を裁判に訴えることで組合結成の権利を認めようとしない傾向が強い。マレーシアで労働組合を結成するためには、まず無記名投票を行う必要がある。この無記名投票で、労組結成を認める結果になったとしても、使用者側が裁判に訴えて組合結成を認めさせないようにする動きがある。また使用者は、事務・管理などのバックオフィス業務を外部に委託することで経費を削減しようとしている。使用者は、低賃金の外国人労働者を好んで採用する傾向があり、政府はILOの中核的条約の批准を拒否している。外国人労働者の問題としては、結核、デング熱など、安全衛生上の問題が増大してしまうことも懸念材料である。
 マレーシアは近年、東南アジアの中でも経済成長が著しく、肉体労働など技術の習熟を必要としない分野を中心に外国人労働者の雇用受入れを積極的に行っていた。しかし、マレーシア人の雇用機会の減少、賃金低下への不安など、社会問題を引き起こす原因にもなっていた。
 また、マレーシア人労働者に悪影響をもたらすとの理由から締結を反対している環太平洋パートナーシップ協定(TPP)については、現在中断状況となっている。TPPを締結すれば米国企業が外国人労働者を雇用することを許すことになり、賃下げの圧力につながり、2020年の先進国入りをめざす政府の計画を遅らせることになるとMTUCは懸念しており、反対の姿勢を続けている。さらに、MTUCは、政府による6%の物品・サービス税(GST)の導入に対して、すでに物価上昇によって苦しめられている低所得者にとって、さらなる負担を増やすだけだとして強く反対を唱えている。

3. その課題解決に向け、どのように取り組もうとしているのか。

 MTUCは、全国レベルで組織化キャンペーンを展開しており、3つの主要な産業においては、組織化の活動を強化するため、組織化担当の組合幹部を非常勤で雇用している。また、結社の自由委員会(Freedom of convention committee)を設置することも計画している。しかし、昨年から組織化キャンペーンと共に取り組んでいるが、いずれも目標達成には至っていない。
 この結社の自由委員会は、いくつかの活動を議題として、ILO87号条約(結社の自由及び団結権の保護に関する条約)を批准するよう政府に対して、強く要請している。政府が87号条約の批准を拒否していることに関して、MTUCはさまざまな労働組合に対して、第87号条約違反や異議申し立てなどがあれば、ILOおよび政府に報告するために、MTUCに通知・送付することを呼びかけている。
 課題解決のためのもう一つの取り組みとして、生産性に連動した賃金制度である「生産性連動賃金(Productivity-Linked Wage System:PLWS)」の導入には反対しないことを政府に提案している。これは、賃金の中に固定要素と変動要素を含むことを条件としている制度であるが、多くの会社では、主に非管理職を対象とし、不透明なやり方で実施している。
 別の取り組みは、労働者の熟練度を上げることである。現在は半熟練および高度熟練労働者の割合を28%から50%までに増やすことを目標としている。2020年までには外国人労働者への依存を減らして、マレーシアを高所得経済、高所得国にするという目標を立てて、政府とMTUCが協議を続けている。
 外国人労働者問題に関して、首相府や国会に対して何度も書面を持って抗議を申し入れたているが、2ヵ月前に、マレーシア政府はバングラディシュ政府の間で、約150万人の労働者の受け入れを可能とする覚書に署名した。

4. その他

 かつて中進国への道をひた走り、その仲間入りを果たして久しいが、次の飛躍ができずに呻吟している姿が今のマレーシアである。その経済を推進する労働市場では、圧倒的に外国人労働者が幅を利かしている。しかも、3Dセクターにとどまらず、高度熟練分野にまで外国人労働者が入り込んでいるようであり、その組織化を模索しなければならないが、法の壁が立ちはだかっている。使用者側は外国人労働者を安易に多用する流れになり、政府もILO中核条約の批准を拒否する姿勢を変えていない。これに対し、ナショナルセンターであるMTUCも流れを変えようとしているが、鋭い戦略を打ち上げるような気配は感じられない。肝心の労働法が労働者のためのものではなく規制のためのものとなっており、言葉の端々に出る「組合いじめ」に象徴されるように、組合の組織化も、ILO批准を求める取り組みも進展はみられない。そればかりか、煩雑な交渉手続きに伴う瑕疵で組合つぶしにあう危険すら否定できない歯がゆい状況である。30年以上大規模な労働争議はないと報告されているが、その実はそうした行為が取りづらい状況にあるとみられなくもない。(直近のストライキは1942年の鉄道関係労組)そうした状況にじれることなく、粘り強く働く仲間の安寧のために、MTUC自らも変わりながら将来に向けた運動を志向していかなければならない。

*1マレーシアリンギット=25.4615円(2017年2月21日現在)