2015年 マレーシアの労働事情

2015年11月13日 講演録

マレーシア労働組合会議(MTUC)
カルナピカイ・アナンタラサ

全国銀行労働者組合(NUBE)  副事務局長兼MTUC中央執行委員
サムスル・アズワン・ビン・ムスタール
MTUC青年委員

 

1.労働情勢

  2013年 2014年 2015年(見通し)
実質GDP(%) 4.7% 6.0% 0.85%
物価上昇率(%) 2.1% 3.1% 2.3%
最低賃金 800~900マレーシアリンギッド(約2万1600円~約2万4300円) 800~900マレーシアリンギッド(約2万1600円~約2万4300円) 800~900マレーシアリンギッド(約2万1600円~約2万4300円)
労使紛争件数      
法定労働時間 8/日 48/週 時間外/割増率
1.5倍×時給
休日/割増率
3倍×時給

 マレーシアの人口は、3040万人で、そのうち労働力人口は、1300万人であるが、組織率は6%を割っている。
 GDPの実質成長率は、2013年から上昇基調にあるが、2015年の見通しは0.85%で、物価上昇率は、2.3%となっている。しかし、これは2015年4月に導入された物およびサービスに対する税金6%が含まれていない。さらに、マレーシアの通貨であるリンギットの切り下げも、この数字には反映されていない。最低賃金は、マレーシアの西部では900マレーシアリンギット(約2万5182円)、東部は800マレーシアリンギット(約2万2384円)となっており、2013年から増えていない。
 また、安定した雇用が減少し、非正規雇用が増加している。非正規雇用は不安定な雇用であり、不安定、低賃金で、社会的保護も受けられず、家族を維持できる生活費となっていない。しかし、大半の使用者は、コストを安易に下げるため、こうした契約労働者を好んで雇っている。
 また労働者は、目先の金銭的利益で就寝雇用を断念させる手段としての希望退職制度(経営側と従業員間)、相互納得型退職勧奨制度などを通じて、安定した雇用から不安定な雇用への移行を余儀なくされている。多くの場合は、警備員や駐車監視員、荷物配達員等不安定な仕事へ移行している。このような施策を導入している企業は、政府と関係を有し、利益を上げている。
 政府もこのような使用者の就労を後押ししていると見られ、不安定雇用の増加をもたらしている。
 また、インフォーマルセクターも急速に拡大している。インフォーマルセクター労働者は、家族を養うだけの十分な所得を得ることができない。そのため、健康を害し、不衛生な状態で暮らさざるを得えず、子どもを学校に通わせることもできない。
 マレーシアには、インフォーマルセクターの新たな実態を示す公式の情報はない。しかし、調査によれば、インフォーマルセクターは主に、在宅仕事、家族単位の小規模な経営(毎日のケータリングから菓子、ケーキ、伝統的珍味等)、洋服仕立業、自動車・バイク、コンピューター関連、電気器具・携帯電話修理店、クリーニング店・アイロンがけの仕事に限定されている。これらに従事する労働者に対して政府からの支援は十分に届いていない。その結果、多くの人々は十分な収入を得るために長時間労働を強いられ、健康や衛生、子供の教育等の改革を図る余裕がない。
 ナショナルセンターであるマレーシア労働組合会議(MTUC)は、1949年に設立され、約300の労働組合を代表している。労働組合として1955 年の『社会法(Societies Act)』に基づいて登録されている。労働組合としての能力を十分発揮できない状況にある。マレーシアで労働組合として登録できるのは、企業別組合(in-house union)、もしくは事業所ベースの労働組合で、2014年時点で組合総数は703である。
 マレーシアの憲法は、「主権は国民にある」ではなく、「主権は政府にある」と定めている。労働行政は、労働局、労働組合局、労使関係局、安全衛生局の4局からなる人材資源省が管轄している。この労働行政で重要なのは、労働組合局と労使関係局である。1959年の『労働組合法』により、労働組合は7人いれば結成できることになっている。しかし、労働組合は必ず登録が必要であり、無登録は、違法な組織とみなされる。そして労働組合を登録した後、使用者に承認を求める必要がある。もしも使用者の承認を得られないと、その労働組合は、職場の労働者を代表する労働組合としての機能を有しない。この使用者承認が、マレーシアでは非常に大きな課題のひとつとなっている。
 労使紛争に関する規定は、1967年の『労使関係法』で規定されている。紛争が起きた場合は、労働裁判所に送られ仲裁する、あるいは審判を行うと定められている。労働裁判所に紛争を提訴するのは、人材資源省の管轄であり、労働裁判所が受理しないと、労働者は裁判所で争うことができなくなる。統計の数字が少し古いが、2012年当時、労働裁判所が受理した労使紛争の合計数は4169件で、裁判所に送致されなかった件数は、4169件の2倍以上となっている。労働組合の総数703に対して、労働裁判所で登録されている労働協約は290しかない。労働協約が裁判所によって登録していないと、その協約は無効となる。

2.直面している課題

 マレーシアの労働組合やナショナルセンターは、以下のようなさまざまな問題に直面している。

  1. 労働組合の発展に向けた政府の支援欠如。労働組合は1959年『労働組合法』をはじめとするさまざまな法律、および労働組合局から活動が規制されている
  2. 国際的な労働基準であるILOの中核的労働基準の未批准
  3. 労働組合潰し
    [1]団体交渉権の否定
    [2]労働組合活動を理由とする労働組合リーダー・組合員の解雇
    [3]労働組合の破たんをもくろみ、使用者が労働組合を名誉棄損で訴える
    [4]使用者が、労働者を労働組合から排除するため、昇進、外部からの介入等の策略に基づく労働者の処遇変更によって、非組合員化を進める
    [5]新しい労働組合の結成に関する法律上の制約が非常に多い
    [6]既存の権利・保護を弱体化させるため、『雇用法』が継続的に修正されている
    [7]公務部門の労働者には団体交渉権がない
    [8]政府、使用者、司法が反労働組合化の傾向にある
  4. 組合員の身分保障への重大な侵害
  5. 政府・行政・司法および使用者が結託し、賃金引上げを抑制している

3.課題解決に向けた取り組み

 課題解決に向けた取り組みは、労働者の知識やスキル不足、資金、資源およびインフラの欠如などから、多くの労働組合においてほとんど取り組みができていない。しかし、一部の進歩的な労働組合は、常に自分たちの組合員に対して、組織化の必要性を説き、MTUCを通じて、政府への圧力を試みている。その目的は、ILOの基本的な条約の批准や、反労働組合的な労働法制をILOの基準と一致させるよう求めている。さらに、基本的な人権を認め、社会的な対話に参加することなども政府に求めている。
 そのほか、この1年間で多くの時代に逆行的な政策や方針が導入された。これによって、国民、特に労働組合が自分たちの声を上げ、問題を指摘し、権利を守ること運動ができていない。また、外国からの出稼ぎ労働者の基本的な人権、諸権利に関する法令順守が検証されていない。マレーシアに進出している外国企業は、マレーシアの労使紛争解決システムが未整備なことを悪用して、労働者を犠牲にしている。このような外国企業は、労働者に対して何の保障もないまま、一夜にしてマレーシアから移転することも多い。マレーシアでは、国内労働者、外国の出稼ぎ労働者に対する就労環境は悪い。

*1リンギット=27.98円(2015年11月13日現在)