2013年 マレーシアの労働事情

2013年10月23日 講演録

マレーシア労働組合会議(MTUC)
プレム・クマール・アッパカッティ
Mr.Prem Kumar A/L Appukutty

メイバンク管理職組合事務局長

キアン・ニアン・ロー
Mr.Kian Nyan Lo

サラワク支部事務局長

 

1.最近の経済・社会状況

 マレーシアは、1人当たりの国民総所得8770米ドルの上位中所得経済国である(2011年)。
 開放性の高い経済で(輸出がGDPの100%超)、電化製品、電子部品および付属品、パーム油、天然ガスの主要輸出国である。マレーシアは対外的競争力も高く、「世界銀行2013年ビジネス環境の現状」調査では135ヵ国中12位となっている。経済的発展という意味では進捗を遂げている国であるが、労働者に関しては問題のある国にもなっている。その一つは所得格差の拡大である。もう一つの懸念事項は消費に牽引された家計負債の増大である。この様な背景から個人向け金融の拡大はとどまるところを知らない。

2.雇用労働問題

 マレーシアは、完全雇用(2013年の失業率は3.0%で推移)を享受している。しかし、ここで注意しなければならないのは、ほとんどの仕事が低賃金で、ディーセントな賃金が支払われていないことだ。さらに大きな問題として、マレーシアには300万人の移民労働者がおり、労働人口の4分の1以上を占めており、その内100万人が不法就労者である。政府の行なった調査結果によると、全国平均で民間部門労働者の33.8%が月あたり700リンギ未満の賃金しか得ていない。地域別では、マレー半島では27.2%、サバ州では63.0%、サラワク州では48.1%となっている。これは月800リンギとされる貧困ライン所得をはるかに下回る。このデータには移民労働者も含まれる。
 賃金上昇率とインフレ率を比較してみると、2003年以降、実質賃金上昇率が下がっている。労働者にとってもう一つの大きな問題は、賃金の上昇が生産性の向上に遅れをとっていることである。格差拡大の理由の一つがここにある。製造業における生産性と賃金の推移状況を分析したアナリストたちは、多くの理由を挙げている。その中の一つがMTUCにとって重要なことであるが、マレーシアでは労働組合活動が非常に制限され、抑圧されている問題である。マレーシアでは労働組合が数多くあるが、地域や業種によって分断されている。政府の労働組合担当長官は法律のもとで労働組合を管理する広範な権限を持っており、この長官が非常に制限的な政策をとっている。
 現在マレーシアでは、多くの多国籍企業が操業している。日系企業だけではなく、米国、欧州、その中でもドイツの多国籍企業は非常に強大な力を持っている。こうした多国籍企業は、最低賃金、定年、雇用保険、ILO条約等々について反対意見を唱えている。特に米国籍の多国籍企業は、常に政府側にプレッシャーを与え、解雇の柔軟性の拡大を非常に強く要求している。マレーシア政府は多国籍企業を歓迎し、誘致に非常に多くの刺激を提供している。例えば、労働力が安く提供できる点や環境に関する規制などである。しかしMTUCは、多国籍企業が雇用機会の拡大やディーセントワークにつながっていないと見ている。しかも、多国籍企業は多くの外国人労働者を雇っている。例えば、日本では外国人労働者を受け入れる場合、ハイレベルなスキルや知識を持つ熟練労働者であるのに対し、マレーシア政府は、安価な形で、知識や技能を持たない外国人労働者を受け入れている。

3.労使紛争の事例

 多国籍企業と州政府が一緒になって立ち上げた合弁会社において、従業員組合の委員長が従業員に対して「休日に会社の主催するファミリーデーに参加しないよう」呼びかけたとして解雇された案件で、裁判所は委員長の訴えを棄却している。

4.労働法・政策の最近の動向

 政府は2010年に、マレーシアを持続可能な包括的な成長を確保しつつ2020年までに高所得国に成長させるという非常に野心的な目標を掲げて、新しい経済モデルに着手した。労働組合は基本的にこの政策を歓迎している。それは、国が発展し経済が成長することで、すべての国民がより豊かになることが実現すると考えるからである。マレーシア政府は50年来の懸案であった最低賃金制度を打ち出し、多国籍企業から反対があったにもかかわらず、2013年から実行に移されている。政府が承認している最低賃金は、マレー半島地域で時給4.33リンギ(約1.20ドル)である。最低賃金によって、月収1500リンギ未満のワーキングプア(低収入労働者)が救済されることになる。最低賃金制度により、賃金交渉において労働者と使用者が公正な基準を与えられ、ひいては経済的に持続可能な賃金成長が推進されることも期待されている。
 この他に、政府は労働法の改正を提案している。これは労働者の雇い入れと解雇に関して柔軟性を持たせるようにすることが含まれており、MTUCは非常に懸念を抱いている。MTUCは三者構成のマレーシア国家経済行動評議会(NEAC)に参加し、意見を表明している。労働法改正が実施されることになれば2014年から施行される。
 もう一つの重要な進展としては、『最低退職年齢法』がある。これも長年MTUCが要求し続けてきたもので、これまで55歳だった最低退職年齢が60歳に引き上げられた。マレーシアの平均余命は段階的に長くなり、2010年には75歳にまで伸びている。日本同様、マレーシアも高齢化社会に突入している。新たな点としては、まだ検討段階ではあるが、雇用保険、失業保険の導入が検討されている。MTUCはILOからの支援を受けながら、政府との協議を行なっている。
 マレーシアでは移民労働者が大きな問題になっている。移民労働者に関する問題の一つは、入国管理があまり厳しくないという点である。このような移民労働者に関しては、NGOと連携を取りながらMTUCとして外国人労働者に関する法律の改正を含め、対策を追求していく。

5.労使関係の展望

 まず、私たちは労働組合の能力強化に積極的に取り組まなければならない。労働組合として、政府や使用者、その他の利害関係者と対話しなければならないのは当然だが、自らの責任を果たすことが重要である。能力強化を実現することによって、先に述べた課題の解決につなげたい。
 数年先の展望としては、雇用保険・失業保険の導入、ILO第87号条約の批准である。労働組合の能力強化の面では、国際的な支援とネットワーク形成が有効になる。組合数と組合員数の増加にも関わらず組織率が低下している現状である。
 基本的にマレーシアでは、この5年間ストライキが発生していない。従って、かなり穏やかな、協調的な労使関係の環境がある。しかし、それは互恵関係にある労使関係を反映するものではなく、法律上の障害によるものである。理想的な労使関係は、労使間の対等なパートナーシップに対し、政府が独立した立場から仲裁の役目を担うものでなければならない。

2013年6月7日 講演録

マレーシア労働組合会議(MTUC)
ノア アズミ ビン アブ オスマン
Mr. Noor Azmi Bin Abu Osman

マレーシアエプソン社労働組合委員長

モハマド ファイサル ビン アブ バカール
Mr. Mohad Faisal Bin Abu Bakar

ペロドウエア社労働組合委員長

 

1.MTUCについて

 マレーシア労働組合会議(MTUC)は、1955年の『結社法』に基づいて登録されている労働組合の連合体である。マレーシアの労働者を代表する最も古いナショナルセンターである。MTUCに加盟する労働組合は、あらゆる主要産業、そして部門を代表している。現在の加盟組合員総数は2013年3月現在で約45万人であり、そのうち男性が約24万人、女性が約21万人である。
 MTUCは、労働者の代表として、さまざまなチャンネルを通じて労働者の声を伝えている。MTUCはマレーシア政府により国内労働者の代表組織として承認されており、『労働法』が大幅に改正されるに場合には、全国合同労働諮問会議を通して、労働者の声を代表する役割を果たしている。国際労働機関(ILO)の総会や諸会議においても、MTUCが労働者を代表している。

2.全般的な労働事情

 マレーシアの総人口は約2750万人で、そのうち労働力人口は1150万人である。国の統計によると、約200万人以上の外国人労働者が国内に在住し、主として建設部門やプランテーション部門で働いている。外国人労働者の数は年々増えている。合法的に入国して就労している外国人労働者といえども搾取の対象になりやすいため、政府はそれらの労働者を保護する政策をとっている。
 失業率は3.1%であり、インフォーマル部門がだんだんと拡大しているが、それは移民労働者の低賃金に起因している。
 最低賃金についてマレーシア政府は、2013年1月1日に、マレーシア半島部において月900RM(日本円で約2万7900円)、サバ州・サラワク州において月800RM(約2万4800円)の定額の最低賃金を実施した。しかし使用者の中には、この最低賃金を強硬に拒否する者もいる。
 労働時間は、マレーシアはいまだ発展途上にあるとはいえ、依然として1週間48時間のままである。フレックスタイムやパートタイムといった就労形態も導入されている。

3.労働組合が直面する課題

 2008年2月に法律が改正され、団体交渉中に業績連動賃金制度(PLWS)が含まれるようになり、現在それが急速に実施されつつある。使用者側がこの実施プロセスに不透明な姿勢を崩していないこともあって、労働組合として賛成はしていない。使用者側が労働組合を承認しない場合もある。また使用者が労働組合の権利に対して異議を唱え、裁判に訴えるケースもある。

4.課題解決に向けての労働組合の取り組み

 まず重要なのは使用者側と会って話し合い、交渉し、それらを通じて解決することである。企業との交渉の中でウィン・ウィンのモデルを発展させていきたいが、実際に企業が行なっているビジネスの性質に基づいて対応していく必要がある。話し合いやウィン・ウィンのモデルも、その点を考慮しなければいけない。話し合いやモデルを持続的に確保していくために中心的に必要なものは以下の点である。

  1. 組合側に提供されるデータは、ビジネスの業績と労働者の努力を真に反映したものであること。
  2. それらのデータは信頼性と透明性があり、しかも容易に入手できるようなものであること。
  3. 報酬、安定性、所得の潜在的な増額などの要素が盛り込まれていること。
  4. 一貫した見直しや修正が行なわれるように、適切に構成、調整されたフィードバック制度を備えていること。
  5. 労働組合が直面する問題や困難な問題を解決するにあたっては、一部の国会議員への働きかけ、ロビー活動などを行なうこと。
  6. 労働組合の重要性について絶えずキャンペーン活動を行なうこと。
  7. 利害関係者への覚書の提示。
  8. 関係者間の社会的対話

5.その他労働情勢について

 最後に、マレーシアの労働事情におけるいくつかの問題点を指摘しておく。

  • MTUCと政府の関係は、しばしば非協力的な面が見られる。政府はナショナルセンターであるMTUCと事前に適切な協議や相談をしないまま、一方的に新しい規則や変更を発表することが多い。
  • 次に、今年の初めから導入された最低賃金について、政治家の中には、この最低賃金をひっくり返して手柄にしたがる政治家がいる。労働組合としては、ともかく一旦この最低賃金政策を実行しているのであるから、後退しないように政府に働きかけている。
  • 定年に関して、長く待ち望んでいた民間部門での労働者の定年実施年齢を、55歳から60歳とする法律が発表された。この『最低退職年齢法』は2013年7月1日に発効する予定で、実施に最も難色を示す使用者にも猶予期間は最大で今年の12月までの半年間しか与えられていない。
  • 最後に、労働協約に関する交渉において、使用者が家族への医療手当の給付を削減しようとしている問題がある。