1999年 マレーシアの労働事情

1999年7月28日 講演録

ナイム・シュクリ・ビン・モハマッド
全国電力株式会社合同従業員労働組合 副書記長

 

電力会社の民営化

 私自身の働いている組織、全国電力株式会社従業員は約2万4,000人で、その民営化について報告します。
 最初に、簡単な歴史的経過について、民営化の前の私の会社の名前は、国営電力会社でしたが、その会社の組合は、民営化の話が出た初期の段階で民営化を拒否しました。理由は、経営側からの情報が不足していたからです。
 そこで、国営電力会社の組合は、合同民営化評議会という名前の合同評議会を設立しました。この合同評議会は、主として国営電力会社の民営化の問題について、経営側と交渉をするための機関として設立されました。経営側が情報提供を拒否し続けたので、組合側はプレスリリース、新聞への発表を行いました。それは、経営側に対して、組合の民営化に関する不満を示すためです。遂に、経営側がその圧力に頭を下げて、民営化に関して国営電力会社の労働者と話し合うための扉を開けたのです。
 何度か経営側と話し合いをした結果、労働者側は3つのチョイスを与えられました。それの第1番目(選択肢のA)が、新しく設立される会社に新しい労働条件で参加するということです。2番目の選択肢Bは、新しい会社には加わりますが、元の国営会社における雇用条件を続ける。選択肢Cは、会社をやめて、Cで決定される新しい退職のためのいろいろな給付を受けるということです。
90%ぐらいの労働者は、選択肢Aを選びました。Aを選んで新しい会社に入った労働者たちには、幾つかの利点がありました。

民営化後の新会社

 まず第1点ですが、新しい会社は、1ヵ月分の給料をそのような労働者に対して無償で提供する。それは新しい雇用条件を受け入れるという人に対して支払われるということです。2番目の有利な点は、労働者は、以前の国営電力会社で勤務していた期間に応じて、新しい新会社の株式の提供を受けられます。3番目の利点、新しい会社ではよりよいキャリアパス、昇進の道が開ける。第4点は、3年ごとに労働条件向上のための労働協約を結べる。第5点目は、収入が増える。それはより高いサラリーやボーナスや、その他の奨励金を受けることができるからです。
 次に、民営化の後、どのようなことが起こったかについて話します。3年間、民間会社として経営がなされた後に、政府が突然、新しい政策を発表しました。それは、6つの民間会社に許可証を与えて、新しく発電所を建設、運営し、その電力を全国電力株式会社に売ることができます。そして、その電力売却価格は、電力購買協定(PPA)と記載されてある値段でということです。
 組合側としては、経営側に対して、電力購買協定のコピーをくれるように要求しましたが、目的は、そのPPAの会社に対して、そして労働者に対しての影響を研究するためでした。しかし、その要求は、経営側と政府と双方に拒否されました。このPPAというのは、機密事項というふうに分類されたのです。それは、政府の機密保持法という法律に基づいて行われました。ということで、組合も労働者も  PPAの内容について知ることができませんでした。
新しくできた独立電力会社(IPP)と競争するために、全国電力株式会杜は再構築し、再編する必要がありました。そこで、私たちの会社は、全国電力株式会社、後に100%株式を所有する子会社を設立し、それを「全国電力発電株式会社」と名づけました。1999年9月1日付で、もう2つの子会社ができることになっています。1つは「全国電力配電株式会社」、もう1つは「全国電力送電株式会社」です。全国電力発電株式会杜の経営者たちは、持ち株会社から完全な自治権を与えられました。そして、それに所属する13の発電所を運営、管理することになりました。それは、他の独立した電力会社と同じような自治権です。
 1998年に、大蔵省の設立した会社(大蔵省株式会社)を通じて過半数を持つ株式会社として、政府は全国電力株式会社(発電会社)に対して、他の独立した電力会社に対して電力発電所そのものを売るように命じました。なぜそのように売却するようにという命令をしたかというと、他の電力会社が電力発電から収益を上げられるようにするためです。
 そのようにして初めて売られた発電所はマラッカ電力発電所です。それはパワーテックという名前の株式会社に100%売られました。このパワーテックという会社は、クアラルンプール証券取引所に上場されている会社です。
 そのパワーテックという会社に入るほうを選んだ従業員は、自動的に組合員としての資格を失いました。この新しい会社に入った従業員たちには何が起こるのでしょう。そして、新しい会社の電力発電所となった職場における労働運動は、一体どうなるのでしょう。ご参考までに申し上げますが、我々の労働組合法というのは大変硬直したものでして、日本の労働組合法のように簡単に組合設立ができません。

新会社の組合運動

 次に、全国電力株式会社における組合運動への影響を話してみたいと思います。
まず第1のインパクトですが、組合員の数が減ります。それは、独立電力会社(IPP)にこれからも続けて我々の発電所が売られていくということなので、組合員が減ります。それで、組合の力は当然低下します。
 第2点として、組合は弱体化します。なぜならば、今までの従業員たちが多くの子会社へと分割されるからです。
 第3点ですが、組合の役員たちは今、ジレンマに当面しています。政府の発電所売却方針というものをどうしたら中止させることができるかどうか。問題は、組合が政府の方針に反対することは可能かどうかということです。
 第4点、これが最後の考えられる影響ですが、資産売却の過程で、組合の団結と組合員の指導層に対する信頼が揺らぐことが予測されます。
 以上が、全国電力株式会社の従業員組合が今、当面している現在の課題です。

MTUCの民営化への活動内容

 民営化の問題はこれがほかの会社にも広がっていくことが考えられるからです。こうした中での労組の対応について報告します。現在、MTUCでは、最低賃金を月額600リンギットにするよう求めて闘っています。これは日本円で1万8,000円ぐらいです。現在のところ、政府はこのような我々の提案を拒否しています。
 この交渉の過程において、また、首相との話し合いの過程において、マハティール・モハマド首相は、私たちMTUCに次のような返答をしました。「経済が回復した暁には、おそらく政府はMTUCが要求した額(最賃)の2倍になる1,200マレーシアリンギットを最低賃金として提供できるであろう」。でも、これはおそらく次の選挙に備えた首相の約束に過ぎないと思われます。
MTUCが取り上げている第2の問題というのは、医療機関の民営化の問題です。MTUCとしては、公益事業、例えば医療などの民営化には反対しています。もし政府が、例えば駐車場業などを民営化するといったら、それは私たちはもちろん構いません。総理府の経済計画部に対して、さまざまな民間企業から提案が届いています。それらはすべて、マレーシアにおける医療保険などの制度を民営化するという提案です。
 3番目の我々が取り上げている問題は、日本における雇用保険制度のような、いわゆるソーシャル・セフティネットの実施です。それに関して、MTUCは政府に覚書を送りました。安全ネットを設立してほしいという要請です。それによって、今回の危機でリストラされた労働者を救おうということです。
政府はMTUCに対して、安全ネット制度を構築するのは非常に難しいというふうに回答してきました。政府はILOの専門家を頼んで、この安全ネット制度について研究させる必要がありました。1999年の7月に、人的資源省の大臣であるリムアナ・アハナットさんが次のような声明を出しました。「我が国の政府がILOに対してこのような専門家を提供していることに対する料金を払うというのは、大変に高い。ですから、ILOに頼むことはできない」というのです。
 ところが、本当のところは、MTUC会長であるザイナル・ランパック氏が、ILOの料金は幾らかというふうにILOに問い合わせました。それに対してILOは我々に「ILOはその料金を請求しない」と答えだということです。安全ネットの利点と短所を研究するための料金は請求しないと言っだということです。
 今回の経済危機の中、我々が当面している問題には、次のようなものがあります。電気関係、電子関係の多国籍企業は、多くの事業を閉鎖し、それによってリストラが行われました。人的資源省の統計によると、リストラされた人の数は6万人に過ぎません。我々の見通しでは、この危機の間にリストラされる労働者の総数は50万人に伸ぼると考えられます。