2013年 インドネシアの労働事情

2013年6月28日 講演録

1.インドネシアの労働情勢について

マルミン・カストーノ
インドネシア労働組合総連合(CITU/KSPI) 青年委員会書記長

 

 インドネシアには5つのナショナルセンター、80の産別があるといわれる。その内、現在実際に全国的に活動できるのは、3つのナショナルセンターと7つの産別のみである。労働組合の組織率は8%である。
 経済のグローバル化が進む中で、労働運動を結集させようという動きが生まれ、2012年5月1日にインドネシア労働者評議会が設立された。この協議会は、CITU/KSPI(インドネシア労働組合総連合)、KSPSI(全インドネシア労働組合総連合)、KSBSI(インドネシア福祉労働組合総連合)の3つのナショナルセンターと、FSP LEM(金属・電子・機械)、FSP Pewarta(ジャーナリスト)、FSP TSK(繊維・衣服・皮革)、FSPI(インドネシア労働組合連合)、OPSI(全インドネシア労働者組織)の5産別から成っている。
 2012年のメーデーでは、インドネシア労働者協議会が15万人規模のHOSTUMキャンペーンを組織した。これは反不安定労働、低賃金拒否、社会保障を要求する運動である。引き続いて10月には全国ストライキを実施した。この要求を受けて、インドネシア政府はすぐ行動をとった。まず、アウトソーシングに関する規定が改正され、製造業におけるアウトソ-シングが禁止されることになった。また、最低賃金算出の基礎となる品目を84から122に増やし、2013年の最低賃金は平均月額200万ルピアとなった。2014年1月1日から社会保障制度をつくることも発表された。
 インドネシア労働者協議会は今後も共同行動を強化し、2013年8月16日には1000万人デモを組織し、政府の約束の実施状況を確認していく予定である。

2.インドネシア労働組合総連合(CITU/KSPI)の活動について

ピピン・スピナー・マーマ
インドネシア労働組合総連合(CITU/KSPI) 女性委員会委員

 

CITU/KSPIの直面する課題

 CITU/KSPI(インドネシア労働組合総連合)には製薬・保健、森林、観光、小売業、化学・エネルギー・鉱山、金属、印刷・出版、セメント、教員の9つの産別組織がある。
 インドネシアの15歳以上の人口は2009年の1億6933万人から2012年には1億7400万人に増え、労働力率も、2009年の67.23%から2012年の67.88%に上昇している。2009年から2012年に就労者数が増えると同時に、失業者と失業率は下がっている。これは、海外からの投資が増え、雇用が増えたためである。
 CITU/KSPIの第1目標は、組織化を進め2016年に組合員を150万人にすること、第2は、組合費を段階的に引き上げ2016年には2億ルピアにすること、第3は、社会保障改革とアウトソーシング反対、家内労働者保護である。

課題解決に向けた取り組み

 KSPIはインドネシア労働者評議会設立に先駆的役割を果たした。
 具体的活動としてはHOSTUMキャンペーンを実施している。これは反不安定労働・反低賃金政策運動であり、アウトソーシングに関する規制(労働大臣令)の改正を要求した。2012年HOSTUM運動の成果として、合計4万2200人が派遣労働者から正規雇用に転換された。
 インドネシアには全国レベルの中央賃金評議会と州レベルの賃金評議会がある。県レベルで最低基本ニーズの調査を行ない、国レベルの賃金評議会が政策を決定する。全国の最低賃金は毎年1月1日に適用される。最低賃金に関する活動として、産別ごとに全国の最低賃金を上回る部門別最低賃金を獲得する運動をしている。最低賃金の引き上げの闘いでは、10地域すべてで成果があったが、ボゴール市での上昇率が57.72%と最も高い。
 CITU/KSPIの取り組みは、まず戦略を立て、提案・法案を作成し、次に議会や関係者へのロビー活動を行ない、同時にソーシャルメディアなどを利用して働きかけ、最後にデモ・集会などの行動をとるという3段階で活動を行なっている。「工場から公衆へ」という動きであり、同じ労働者としての連帯活動を重視する。

3.インドネシア福祉労働組合総連合(KSBSI)の活動について

リスワン・ルビス
インドネシア福祉労働組合総連合(KSBSI)

鉱山エネルギー労働連盟(FPE)議長

 

KSBSIの直面する課題

 KSBSIと他のナショナルセンターとの違いは、KSBSIはインドネシアが独裁政権下にあった時に生まれた組織だということである。1990年に結成され、33州のうち32州に支部がある。KSBSIには、森林・農業、インフォーマル・一般建設、金属・電子、繊維・衣服・皮革、金融、交通、食品・飲料、観光・ホテル、鉱物・エネルギー、化学・保健・医療、港湾・漁業、教員・公務員の11産別が加盟し、組織人員は55万6000人である。
 インドネシアはILO第87号、第98号条約を批准しているにも関わらず、政府による監視が緩く、法律が確実に執行されず、結社の自由に対する違反が多い。結社の自由は、一方で組合間の競争を高め、労働者にメリットをもたらすと同時に、もう一方では不正な組合と経営側との癒着への懸念も生み出している。契約労働やアウトソーシングの制度があるために、労働者による組合結成や協約締結が非常に困難になっている。

課題解決に向けた取り組み

 2011年から2014年にかけての主な活動は、第1に組織の拡大であり、これは全国的な取り組みを行なっていかなければならない。第2には、教育と研修のプログラムを実施する。第3に法的・人道的な活動、第4は協同組合という形での支援、第5はデータベースの作成、第6は全国的・国際的ネットワークの強化である。
 大会で契約労働、アウトソーシングの撤廃を決議し、政府や議会に働きかけている。
 その他に、非正規の労働者、特に国営企業で働いている契約労働者、派遣労働者の結集に取り組んでいる。現在、アウトソーシング撤廃闘争を行なった活動家の4人がアチェ州で刑務所に収監されているが、これはプルタミナ(国営石油会社)と警察の陰謀だとの憶測が広がっている。
 さらに、若手労働者の教育、汚職撲滅運動、話し合いを通じた労使関係の改善活動も行なっている。

4.全インドネシア労働組合総連合(KSPSI)の活動について

ダハルル・ルビス
全インドネシア労働組合総連合(KSPSI)

スルヤTOTOインドネシア労働組合委員長

 

KSPSIの直面する課題

 スルヤTOTOインドネシア労働組合の簡単な歴史をみると、最初に1980年代に社員会がつくられ、それが大きくなり、1980年から1985年の間に、社員会が金属セラミック労働者組合になり、次に1986年から2001年までは、化学・エネルギー・鉱山労働組合となり、2001年から現在までは、化学・エネルギー・鉱山労働組合連合会となった。2013年現在の組合員数は3920人である。
 KSPSIのビジョンは、現実的な労働組合である。特徴は、職場から全国的レベルまで、はっきりとした組織が形成されているという点である。2つ目は、インドネシアにあるすべての労働関係機関に代表を送っているという点である。3つ目は、労働協約による成果があるという点である。4つ目の特徴は、すべての活動を組合費で賄っている点である。目標は、統一、連帯、平等、独立、民主主義、責任となっている。
 KSPSIの全国大会は、5年に1度開催される。州レベル、市または県レベルの大会も5年に1度、企業レベルは2年に1度開催されている。KSPSI組合員数は約412万人、その内訳は男性300万人、女性100万人強で、組合員は、繊維・衣服、食品・飲料・タバコ、電子・機械化学、サービス・金融の5分野に多い。
 課題は契約労働、アウトソーシング、社会保障、低賃金、組合つぶしなどである。

課題解決に向けた取り組み

 労使関係と労働協約に関するプログラムがある。スルヤTOTOインドネシア労働組合では、75%が必ず正規雇用され、派遣労働などは最大でも25%までとする取り決めがある。労働協約は2年に1度見直しを行なう。1年に1度、賃金の見直し、交渉を行なう。また安全・衛生に関する活動を担当する部署を設立した。献血の活動や地震・火災など災害の訓練の活動を行なっている。

インドネシア福祉労働組合総連合会(KSBSI)
エマ リリーフナ
Ms.Ema Liliefna

インドネシア福祉労働組合総連合会(KSBSI) 広報担当

 

1.当該国の労働情勢(全般)

  1. 雇用の外部委託(派遣労働など)利用が、労働者を苦しめている。解雇された正規労働者が、契約労働者として再度、入社するという傾向も続いている。
  2. 労働組合結成の自由は国が保証しているが、この規定への違反も頻発している。組合員となった労働者の解雇や、現在の地位より低い地位へ異動となったケースも発生している。
  3. 賃金は重要な課題である。賃金が決められても100%支払われるとは限らない。加えて生活を圧迫する物価の上昇も大きな問題である。ガソリン・灯油価格はすでに3割も高騰しており、政府による市場価格正常化は困難を極めている。
  4. 社会保障においても、労働者の福祉状況が他国と比較して満たされているとはいえない。いまだ低賃金で、社会保障も貧弱である。実施機関は社会保障公社(BPJS)。

2.労働組合が現在直面している課題

  1. 企業側は、労働組合の存在を十分には受け入れていない。
  2. 労働組合と政府間との交渉も限定されている。多数の労働組合が誕生しているが、政策提言における団結力はいまだ脆弱なままである。
  3. 企業別労働組合においては、組合員の確認が不透明である。
  4. 人材の質もまだ低い。
  5. 法律は、労働者の立場より資本主義政策や政府側にたった内容となっている。

3.その課題解決に向け、どのように取り組もうとしているのか

 労働組合は、特に労働問題に関連した公的な政策について政府側との交渉をさらに充実・拡大するよう努力している。
 KSBSIは他のナショナルセンターと協力し、政府への抗議行動を行なっている。情報交換の場として共同事務局を開設し、公的な政策の提案やメーデ共同行動を実施している。

4.あなたのナショナルセンターと政府との関係について説明してください

 KSBSIは、国内の労働問題に関するさまざまな政策を整備するために協力関係を築こうとしている(全国三者協議機構)。地方における三者・二者協議機構とも協調路線を取っている。
 政府と協力して労働者の基本的な権利のために努力し、議会や政府との交渉を続けている。

5.あなたの国の多国籍企業の進出状況について、また多国籍企業における労使紛争があればその内容についてお知らせください

 わが国での多国籍企業に関する情報を、あまり持ち合わせていない。

全インドネシア労働組合総連合会(KSPSI)
フスニ ムバーラク
Mr. Housni Mubaraq

商業・銀行・保険労働組合連盟(NIBA) 議長

 

1.当該国の労働情勢(全般)

 インドネシアにおける労働組合は、最大限に力を発揮しているとはいえない。労働組合の結成と管理について定めた『2000年法律第21号』の意義(労働組合結成の自由)を、労働者と雇用主が十分には認識していないからである。労使関係は調和しておらず、雇用主は労働者が団結して労働組合を結成することにアレルギーを持っている。このような場面では、労働組合の機能と役割について政府がもっと社会的認知を拡大するよう努力すべきであるが、両者が十分学び理解するような明るい展望が見える状況までにはまだ達しておらず、いまだに労働者が労働組合を作ることは企業の不利益になると考えられている。
 労働組合は現在に至っても企業からの脅迫・干渉・差別を受けており、労働組合の発展も阻害され、労使関係も協調路線とはなっていない。本来なら、労働組合は協調した労使関係を築き、公正な活動・連携を実現させる存在であり、労働者は将来を担う人材として市民社会を支えるものである。
 企業の「組合つぶし」を無くすよう政府からも強く働きかけてほしい。また労働者が今後さらに団結して労働組合が結成され、労働組合の役割・機能が最大限に発展することを希望している。
 問題の解決策としては、『2000年法律第21号』やその他の労働法の遵守について政府の規制をより一層強化することが必要だろうし、その姿勢こそが雇用主・労働者・政府の三者の良好な関係が実現するための重要な柱となる。
 雇用主は労働法の内容を遵守し、雰囲気の良い企業風土を作りあげ、労働者を企業財産として丁寧に接し、労働者からの意見や批判、忠告などにも耳を傾けることで企業自体も活動を存続できる。労使関係が良好であると、国家経済の発展も可能になるだろう。
 労働者自身も、企業が良い方向に発展するために自分たちが重要だという点を認識
 することで、高い労働意欲を保てる。企業活動の継続を目的として、二者間のパートナーシップ形成も可能となる。

2.労働組合が現在直面している課題

 第1に、外部委託(派遣労働など)の問題があり、賃金、労働者の地位、労働時間、社会保障、退職金といった課題がある。
 第2に、有期労働契約にも問題がある。その1つが有期労働契約条件であり、経営者は依然として法違反を行なっている。労働契約に関して3ヵ月の試用期間があるが、3ヵ月経たないうちに解雇するという問題がある。
 その他、社会保障制度、労使関係紛争処理などの課題がある。

3.その課題解決に向け、どのように取り組もうとしているのか

 外部委託(派遣労働など)で憂慮される問題点は、現在、労働条件が不安定で平均以下の賃金水準となっている点である。労働者の地位も不安定で請負業者によって労働期間が蓄積されず社会保障もなく、すべてが労働者に不利益な状態で働いている。
 有期労働契約問題は主要課題の一つで、労働者の多数が契約内容を少しも理解していない状況にある。多くの労働者は、3年間の契約を2回更新した後の更新はなく、その後1ヵ月は自宅待機として一時的解雇状態にし、その期間終了後に再び雇用されている。これは企業側が、正規雇用を避けるために戦略的に行なっていることである。この戦略によって労働者への社会保障を提供する必要がなくなる。その一方で労働者は企業との労働契約関係が何年も事実上継続していることから、労働者保護のためにも法的な措置が必要である。
 また、無期労働契約では、3ヵ月の試用期間が経過した後に正規雇用となり、その後何年も勤務することになるが、過失を犯した場合または55歳に達した時(定年)、労働者は解雇されることになる。定年以外の解雇の工程には長時間が必要である。雇用主にも、解雇に関する『2003年法律第13号』への認識が欠けていることから解雇が難航し、最終的には二者協議・三者協議、ひいては労働裁判所にまで持ち込まれることもある。さらに私企業労働者には退職年金という社会保障が求められている。
 労使関係が対立し労働問題が労働裁判所に持ち込まれても、『2004年法律第2号』が不十分な状態にあることから、解決には長い時間が必要となる。労働環境を監視する必要な人員も不足し、制御機能もうまく働かず法律の制定も現実的なものではない。労働組合こそが問題解決の役割を担い、二者協議の労使協議だけで解決することを可能にしている。
 インドネシアの労働者は、労働者に対する社会保障・健康に関する『2011年法律第24号』が実施された時は非常に喜んだ。これによりインドネシアの全国民が、社会保障公社(BPJS)から健康サービスを受けられるようになった。これまでの社会保障会社(PT. JAMSOSTEK)には、労働災害、死亡、老齢、医療の4種類のプログラムがあったが、さらに年金の保証も含まれるようになった。
 新しい社会保障が全国民への健康サービスのために努力を続け、貧困層を減少させ、労働者が簡単に健康サービスを受けられることを 期待している。さらに重要なのは、労働者が退職後にも社会保障・年金保障を享受し、老後に福祉を受けられるようになることである。

4.あなたのナショナルセンターと政府との関係について説明してください

 ナショナルセンターと地方政府との関係は地方自治法に従っており、各州において
 その土地での労働問題を監視している。監視対象は労使関係に不調和を生むあらゆる問題である。中央と地方の調整役は相乗効果を生み出さなくてはならず、一般的にも組織的にも問題解決するために重要な位置にある。しかし現実としては、労働問題解決の際には、中央と地方の間に多くのミスコミュニケーションが存在している。

5. あなたの国の多国籍企業の進出状況について、また多国籍企業における労使紛争があればその内容についてお知らせください

 インドネシア共和国は、国の経済的発展に貢献する投資に対して非常に開かれた国である。投資を呼び込み求人が多く提供されることで、高い失業問題も解決に向かい、貧困率も低下することになるというのが、中央政府による労働対策の一つであるといえるだろう。
 失業率低下のために賃金低下の現象が起きており、労働条件も悪化することになる。これは政府の雇用政策の弱点であり、労働者への賃金保障・一定の福祉水準の保持を投資家へ遵守するよう圧力をかけさせなくてはならない。
 これらがすべての問題を引き起こしており、雇用主・投資家と労働者の間に対立や紛争を生んでいる。
 インドネシア経済発展のために投資を行なうはずの投資家が、国から逃げ出すという懸念から問題が表面化している。これは、政府のバランスが取れていないことが原因である。特に海外からの投資家に対する政府の支援は見えにくい状態だ。
 『2004年法律第2号』は、産業関係における対立や問題を解決するために施行され、これは労働者や労働組合が常に不利な状況におかれていることへの対策となっている。
 私から改善策として提案したいのは、政府が企業もしくは投資家を受け入れる際に、インドネシアの労働者を安価な賃金で雇用しない企業を選択してほしいことである。
 また、『2000年法律21号』、『2003年法律13号』、『2004年法律2号』の遵守も切に希望する。