2010年 インドネシアの労働事情

2010年6月4日 講演録

インドネシア労働組合総連合(CITU)
ロシダ マイムン アルシャド(Ms. Rosidah Maimun Arsyad)

バンテン州支部女性委員会委員(研修担当)

ダムシアル(Mr. Damsiar)
パナソニック四国インドネシア労働組合労使関係・安全部長・支部政策部局

 

1.労働事情(全般)

 インドネシアの労働人口は多いが、いわゆる熟練工やディーセントワークと呼ばれる適切な仕事に就く労働者は少なく、技能を必要としない仕事に就く人が多いのが現状である。現在、グローバル化の影響により、事業所の移動や閉鎖、労働力の合理化、アウトソーシング化、契約労働者や日雇い労働者の増加という問題が起きている。
 また、労働生産性が労働者の賃金や福祉などに反映されていないという問題がある。インドネシアでは最低賃金さえももらえない人たちが多い。長年同じ企業で働いていても、新入社員と、長く働いた経験のある社員との給料の差がほとんどない。
 経済特区では、特別に、自主的に最低賃金を決めることが認められている。ここでは、政府が決めた最低賃金も公に無視することができる。
労働市場の不均衡もインドネシアにおける大きな問題である。

2.労働組合が現在直面している課題

(1) 労災事故 

 労働現場では事故や災害の発生率が高い。これについては、労働組合の取り組みが不十分である。この点について、JILAFの支援をいただいていることに大変感謝している。

(2) 労働組合の抱える問題

 能力を持った執行委員が中央においても地方においても足りない。労働運動に参加する組合員も少ない。
財政的な基盤も弱く活動資金が足りない。労働組合の事務所やコンピュータなどの設備も大変不足している。これは、組合費が安いこと、組合員が少ないことに起因している。また、使用者側が、給料から直接組合費を徴収するようなシステムを受け入れることをあまり好まないという問題もある。

(3) 労働組合活動家に対する解雇

 組合の役員や活動的な労働者に対して解雇が行われている。とりわけ中国、韓国、インド系の企業、それから国内の企業においてもこのような実態が見られる。

(4) 労働組合活動にとっての障害

 第1は、とくに使用者側の労働運動に対する理解が非常に足りない。使用者側は、組合は経営側と常に対立し、対立的な行動を推進する団体だと受け取っている。
 第2は、労働組合や労働者の権利が法律で守られているにもかかわらず、何か事件が起きたときに、政府が非協力的であり、監視、調整、調査を行わないことである。政府はどちらかというと使用者側の立場に立っている。
 第3に、労使紛争が起こったとき、それを事件として裁判所に訴えるにしても、大変な時間と費用がかかる。

3.課題解決に向けた取り組み

 我々は、日雇い労働やアウトソーシングに関する問題、最低賃金の遵守など労働者の労働条件確保について、闘いを行っている。その他、労働安全、社会保障制度についても政策提案を行っている。
 また、解雇が起きないよう、常に使用者側にアプローチし、団体交渉に臨む努力をしている。新しく組合が結成された場合には、その組合に対して継続的な団結を促すよう、組織体制の構築や組織運営について、注意深くサポートする。使用者側は組合結成時をチャンスととらえ、活動的な労働者を解雇しやすいので、慎重に行動することがポイントである。
 そして、常に政府(中央政府、州政府、その下の都市レベルの地方政府)に対し、ヒアリングを続けることが、とりわけ労働法を遵守させるために重要である。
 平和行動をはじめとした様々な抗議行動なども展開している。
 他の労働組合とのネットワークづくりも行っている。国内の組合だけでなく、国際的な労働組合ともネットワークをつくり、お互いの利益を守るためにはどのような行動をとるべきかについて、情報交換している。

4.ナショナルセンターと政府との関係

 労働組合側と政府との関係は決して悪いものではない。中央レベルでも地方レベルでも三者構成審議会が設けられており、それらを通して関係を深めている。我々はあらゆる問題をポジティブに考え、できるだけ話し合いによって解決しようという姿勢で、この三者構成審議会の活用を考えている。

5.多国籍企業の進出、労使紛争の状況

 現在、インドネシアへの多国籍企業の進出は減少傾向にある。
 多国籍企業に関する問題として、使用者側が得た利益を労働者側に情報公開しないことがある。中国、韓国、インドの企業に問題が多く発生している。
 また、多国籍企業は、その本国より安い賃金で労働者を雇用でき、コストが安上がりになるという理由で進出しているので、インドネシア国内の労働者の賃金、待遇は、本国の労働者の待遇とはたいへん異なっている。
さらに、技術移転の問題がある。我々は技術移転も含めた企業の進出を希望しているが、多国籍企業はアウトソーシングを進めて、一部の労働者を非正規労働者に置き換えようとしている。残念ながら、日系企業でもそのような動きがはじまっている。

全インドネシア労働組合総連合(KSPSI)
スビヤント(Mr. Subiyanto)

化学・エネルギー・鉱山労働組合事務局長

 

1.労働事情(全般)

 2009年に起こった世界的な経済危機の影響から、インドネシアはまだ完全には回復していない。2010年3月においてもまだ失業者が増えている。68,322人が解雇され、自宅待機を強いられている人も27,860人いる。

2.労働組合が直面している課題

 インドネシアの労働組合が現在直面している問題は、要約すると以下の14点にまとめられる。

  1. 労働の監督に関する1948年法律第23号の有効性を規定する1951年法律第3号の代わりとなる政令を早急に発布するよう要求する。これまで政府による監視不足から多数の法律違反が発生していたが、新規政令によって労働問題への継続的な監視が可能となる。
  2. 労働社会保障に関する1992年法律第3号(国家社会保障に関する2004年法律第40号と調整する)の修正項目に以下の内容を含む。
    a.株式会社体制を評議員制に変更する。
    b.契約社員、外部委託社員への退職金の保証。
    c.労働者とその家族に対する(死亡時まで保証した)永年にわたる健康事業。
    d.年金(老後保障事業)。
  3. 国家社会保障に関する2004年法律第40号に従い、社会保障実施機関法案を正式に発効させ、インドネシアの全国民を対象に社会保障を提供する。
  4. 退職金の権利の縮小に関する2003年法律第13号修正案を拒否する。
  5. 2年ごとの最低賃金決定を拒否する。
  6. インドネシア財務大臣に対し、非課税対象収入額を合計500万ルピアに規定し、毎年見直しを実施するよう要求する。
  7. 電気料金引き上げを拒否する。
  8. インドネシア国内の産業保護のために、ACFTA(中国アセアン自由貿易協定)の調査研究を目的とした特別委員会設置を国会に求める。
  9. 労働裁判所に対し、特別法を早急に作成するよう要求する。(インドネシアの労働裁判は非常に時間がかかる)
  10. 適正生活費パラメーターを変更し、最低賃金で適正生活費を100%カバーできるようにする。
  11. 2000年法律第21号の違反に対するより詳細な監視と法律に沿った有効な対処。
  12. 契約労働者への退職金の要求。
  13. 労働者・契約労働者の仲介ブローカーの一掃。
  14. 労働関連法の確立及び監視業務の更なる強化。

3.課題解決のための取り組み

  1. 全国三者協議・三者協力機構での役割を最大限に生かす。
  2. 2010年2月24日、KSPSIの結成37周年を記念し、インドネシア大統領・国会に対して抗議活動を実施し、インドネシア労働者請願書を提出(受理済)。
  3. (3)2010年5月3日、2010年メーデーを記念した抗議行動を実施し、インドネシア国会へインドネシア労働者請願書を提出(インドネシア国会第九委員会が受理)。
  4. 労働問題に関して国会との交流を増加させる(インドネシア国会第九委員会)。
  5. 他の労働組合と共に、社会保障行動委員会を結成する。
  6. 他の労働組合と連携を強化する。
  7. 公聴会等の機会を効率よく活用し、国会との交流・連携をはかる。
  8. 労働移住大臣と交流し、全国三者協議・三者協力機構における役割を強化する。

4.ナショナルセンターと政府との関係

 KSPSIは2007年にJacob Nuwa Wae氏をリーダーとする組織と、Syukur Sarto氏をリーダーとする組織とに分裂した。そのために、政府側もKSPSIとどのようにつき合ったらいいのか、どう連携したらいいのかジレンマに陥っていた。しかし、最近ではこうした不幸な状況もだいぶ改善されるようになってきている。

5.多国籍企業の進出、労使紛争の状況

 インドネシアにはたくさんの多国籍企業が進出しているが、その中で多くの問題が起きている。最近、ブリヂストン・タイヤ・インドネシアで、4名の労働組合役員が解雇された。この問題はILOの結社の自由委員会においても2236号事件として審理された。