2003年 パキスタンの労働事情

2003年10月29日 講演録

全パキスタン労働総同盟(APFOL)
ピール ムハンマド カン

全パキスタン労働連盟バルチスタン支部 教育担当

 

国内の状況

 パキスタンの国土は79万6,095平方キロで、人口は約1億4,000万人です。現在は、パルヴェーズ・ムシャラフ大統領のもとで民主的に統治されています。停止されていた憲法が、法的枠組みに関する法令の改正とともに復活しました。しかし、野党はこの改正を受け入れていません。
 パキスタンの労働運動は、1960年代後半には比較的大きな力を持ち、国内政治に一定程度重要な役割を果たしました。しかし、その後、政治不安定や軍事権などにより、労働運動は弱まりました。その結果、パキスタンの労働運動はいまだにその存続のため、また労働者の権利のために闘わなければならない状況にあります。多くの国営企業や国の機関、また農業部門では労働組合活動の権利が認められていません。
 2000年労使関係に関する法令(IndustrialRelationOrdinance2000:IRO2000)は、1969年の同法令を改正してできた法令です。この法令はパキスタンの労使関係を規定する重要な法令です。この法令で労働組合を結成すること、それを登録することが認められましたが、その権限が大きく制限されました。この法令で、事業所や工場レベルでは自由に労働組合をつくることができます。しかし、州あるいは市レベルの労働組合を作る場合には地元の当局である州労働部門の労働組合登録事務所から許可を得なければなりません。さらに複数の州にわたって労働組合員を有する労働組合の場合は、中央当局である全国労使委員会に届け出を出し、その許可を得なければなりません。1つの企業に属する多くの組合が、産業別連盟を組織することが認められています。そして単位労働組合が直接連盟に加盟すること、また連盟がナショナルセンターに加盟することも認められています。
 パキスタンでは、登録された労働組合の数が少しずつ増えてきました。80年代後半までに全国で約6,800の組合が登録されていました。2000年にその数は7,318に増えました。労働組合員の総数は約150万人と言われています。しかし、労使関係において十分な役割を果たしている労働組合がごく一部でしかありません。積極的に活動する組合もかなり少ないと思われています。

APFOLの活動方針

 APFOLについて、少し話をします。APFOLは1965年に設立されました。労働組合活動の権利がありながら、行政、法律、またはその他の原因により組織されていない労働者の組織化のためにAPFOLは結成当初から地道な努力をしてきました。この努力は目覚ましく、パキスタンの労働者のみならず政府機関である労働局、そしてILO、ICFTU、FTF、JILAFのような国際機関・団体からも高く評価されています。
 APFOLは大変民主的に構成されています。APFOLには360の労働組合と連盟が所属しています。加盟組合員総数は全国で30万1,575人です。しかし、財政的には困難で職員数も少なく、そのために組織の強化、または国内の恵まれない貧しい労働者のための活動が大きく制限されています。したがって、APFOLはICFTU、ILO、FTF、またはJILAFのような国際機関や協力団体と協力関係を結び、労働者の教育のために、そして労働者の組織強化のために活動しています。1994年に始まったJILAFの活動は、一般労働者の教育、家族計画、職場での安全衛生に関するプログラムを中心に行われています。APFOLにはさまざまな専門分野で訓練を受けた約200人のインストラクターがいます。この人的資源はAPFOL内だけではなく、政府の公務員訓練施設でも活躍しています。JILAFの協力で実施されるAPFTUあるいはPNFTUのプログラムでも、これらのインストラクターが役割を果たしています。インストラクターの一部がパキスタン国外で実施されたJILAFのプログラムでも活用されました。これらの指導官はJILAFのPOSITIVEという職場の安全衛生に関する新しい専門分野でも訓練を受けました。この訓練によって、鉱山労働者のために同じPOSITIVEを導入しました。鉱山労働者のために特別チェックリストもつくられました。これはJILAFとAPFOLとの有益で興味深い協力事業になっています。
 このプログラムで、日本の労使関係に関しても実用的なことを学ぶことができます。このプログラムは非常に有益なプログラムです。JILAFのさまざまな活動、そして現地プロジェクトがさらに発展し、助けを必要としている多くの労働者の利益になることを願っています。

全パキスタン労働組合連盟(APFTU)
ゴハール タージ

パキスタンワプダ水力発電中央労働組合 北西辺境州書記
APFTU中央執行委員

 

国内の状況

 まず、政治情勢について申し上げます。現在の軍事政権は誕生してから3年を経ましたが、その政権の下で10月に総選挙が行われました。その総選挙の結果、中央および州ともに民主的な政権が復活しました。この民主的な政権の最も大きい特徴は、何と言っても女性の数が史上最も多くなったことであります。地方分権計画も進められています。
 次は、貧困および失業問題についてです。パキスタンでは国民の40%以上が貧困な生活を強いられています。パキスタンでは失業率が非常に高いレベルにあります。失業率は約10%にも達していて、労働組合にとりましては大きな懸念材料であります。幾つかの労働組合は団体交渉を通じて、組合員の子女のための一定の優遇採用措置を獲得することができました。全国レベルで失業を減らすために、労働組合は経営側に雇用機会を増やすよう求めています。IMF(国際通貨基金)や世界銀行の構造調整プログラムは失業増加を招いています。
 次に、経済情勢についてです。パキスタンは、経済の発展を図ろうとしている発展途上国です。しかし、国家予算の40%以上を諸国際機関に債務の利子として支払わざるを得ない状況にあります。パキスタンには、いまだに350億ドルに達する巨額の国際債務があります。
 次に労働組合の状況について申し上げます。パキスタンでは、労働組合運動を1つの組織に統一して行く努力が続けられていることをよいニュースとして報告したいと思います。APFTUは、ほかの2つのナショナルセンターとともに統一の計画を進めています。APFTUは、パキスタンの9つの労働組合連合体とともにパキスタン労働者総連盟(PakistanWorkers’Confederation:PWC)という名称の頂上団体を結成しました。この団体は事務局長であるクルシド・アフマドの有力な指導のもとで国内レベル、また国際レベルで労働者問題に取り組んでいます。この団体は有効に機能しています。PWCの最も顕著な成果は、国内最大の企業であるWAPDAの労働組合の活動の復活を勝ち得ることができたことです。そして、5月1日メーデーの復活も勝ち得ることができました。また、ILO条約100条及び182条の批准を政府と交渉して勝ち得ることもできました。パキスタン労働総合委員会が設けられたことも労使関係における大きな進展です。
 次は、労働法制についてです。パキスタンはILO条約のうち8つの基本条約を含めて34の条約を批准しています。すなわち政府は憲法でも保障されている労働者の基本的な権利の実現のために、法整備を行うことを確約したはずであります。しかし、近年施行されたIRO2000年と呼ばれる労使関係の法令は、ILO条約の精神に反する法令です。なぜなら、この法令によって労働組合の活動の権利が制限されたからです。したがって、APFTUおよびPWCの事務局長であるクルシド・アフマドの指導のもとでパキスタンの労働組合は政府に対してILO条約に従って法整備を行うことを強く求めました。その方向でパキスタンの労働組合運動は活動を強化しています。IRO2000年にはILO条約の87条、98条の規定に反する規定が盛り込まれております。したがって、労働組合運動はその撤回を求め、労働者権利の復活のために努力しています。

パキスタン全国労働組合連盟(PNFTU)
ミアン シャバズ アハメッド

全パキスタン民間交通労働組合 委員長
PNFTU副会長

 

国内の状況

 パキスタン全国労働組合連盟(PNFTU)の活動について報告します。PNFTUの会長はモハンマド・シャリフ、事務局長はガフール・バローチです。私は副会長を務めています。
 今年の10月に軍事政権の下で総選挙が行われ、その結果、民主政権が中央レベルでも州レベルでも復活しました。初めの選挙は、自治体レベルの選挙でした。その後、全国レベル、州レベルの選挙が行われました。私も町議会の議員を2回務めたことがあります。全国レベルでも州レベルでも復活した民主政権が少しずつ安定化に向かって機能し始めています。
 パキスタンの経済情勢は少しずつ好転しています。その結果、対外債務返済も進んで、380億ドルであった債務が350億ドルに減りました。輸出も増えつつあります。その結果、外貨準備高も増えて、現在110億ドルに達しています。政府は、貧困根絶のために努力を続けています。貧困撲滅ための多くの政策を打ち出しました。しかし、失業率は依然として高いレベルにあります。
 労使関係に関する69年の法律が改悪されました。その改悪に対して、各労働団体は大きな懸念を表明しています。PNFTUは法律の改悪に関する動きに対して反対を表明しました。その反対を書面で政府に申し入れを行いました。その改悪を撤回するよう強く求めました。この問題に関して、他のナショナルセンターと協力して、多くの行動を起こしました。全ナショナルセンターが協調して改悪の撤回を求めました。2年に1回開催されるPNFTU大会が2002年12月にカラチで開催された際には、他のナショナルセンターの指導者も出席し、政府の今回の法改悪に対して団結して闘うことをお互いに表明し合いました。その結果、1つの行動委員会が設立されました。我々のこうした要求の結果、政府は法改悪を再検討すると表明しましたが、現在までところ何ら進展も見られません。

PNFTUの活動方針

 PNFTUは、いかなる分野の労働者に対しても、その地位向上のために努めなければならないという方針をとっています。したがって、すべての労働者に対して安全衛生に関する教育も施しています。我々のこの目標を達成するために、定期的に事業所レベル、地区レベル、そして地域または全国レベルで労働者のためのさまざまな教育プログラムを実施しています。労働組合員の中でも特に熱心な活動家は、外国で行われるワークショップなどに派遣しています。
 労働者の福祉、労働者の意識改革、労働者の地位向上のために連合体として多くの行動を起こしています。PNFTUの会館はカラチにありますが、その会館に労働者の子供たちに対して初等教育を施すための学校も設けています。近辺の貧困層の人々に対して、無料の医療も提供しています。低額で必需品を販売する協同コミュニティーストアも運営しています。貧しい家庭の女性、そして未成年の女性に対して訓練施設として縫製、ミシンの教育プログラムも行っております。今申し上げましたプログラムは、PNFTUが実際取り組んでいるプログラムの一部でしかありません。
 私の直接所属組織であります交通労働組合に関して、少し話を申し上げます。この組織は、地域レベルの交通関係の連合体であります。この組織では多くの活動家が活躍しています。交通分野で働く労働者は常に危険に曝されていますので、安全衛生、そして交通ルールに関して多くの教育プログラムを行っています。パキスタンの大きい交通手段としては先ずバスです。大きなバス停留所がたくさんあります。そのようなバス停留所の1カ所に大きい労働組合会館があります。我々は政府と協力して、この会館で多くのセミナーを主催しています。そのセミナーでいろいろな問題が取り上げられています。例えばエイズ、安全衛生などの問題であります。この交通部門は数多くの様々な団体が参入しているため、競争が極めて激しい部門であります。24時間続けて働かされる事業所も沢山あります。公害問題についても取り組んでいます。
 皆さんは交通規則に関しても良く教育されていると思いますが、交通労働組合の行動に関して言えば、使用側よりも政府と闘うことの方がしばしばです。政府は、我々の部門はインフォーマル部門で、そこでは労働組合を組織する権利はない主張しております。しかし、我々の主張は、政府はILO条約を批准したのだから、この部門も組織する権利があるということであり、その関係で政府に強く訴えています。この部門も正規部門として認められるように法整備を政府に促しています。
 私自身は抗議デモなどを指導して、何回も身柄を拘束されたことがあります。パキスタンにおいては交通の部門で働く労働者の立場が一番弱いと感じております。この部門で働く労働者のための福祉政策は何もありません。
 明日、日本の交通関係の労働組合を訪問させていただく日程になっております。その訪問を楽しみにしています。もちろん、日本の交通事情わかっています。しかし、私は、先進国から学ばなければいけない立場にありますので、その訪問を通じて多くのことを勉強したいと思っております。