1999年 パキスタンの労働事情

1999年11月25日 講演録

ハフィズ・アブラル・アハメド
園芸公社従業員組合 事務局長

 

パキスタンの労使関係

 過去50年間にパキスタンにおける労使関係に関する制度は、労働者からその基本的人権を奪い取るように形づくられてきました。封建地主、富豪の実業家、上位の官僚、また軍事幹部の交代、また提携で続いた一連の政権が、国家の司法また法制機関を厳しい管理下に置き、世界銀行やIMFの働きかけで上流社会や大金持ちのために最大の利益と特権を強化してきました。
 近年、市場の自由化及び輸出の促進をうたった資本主義が強調されるようになり、その結果、労働者の地位がさらに低下してしまい、生産プロセスで労働者は安っぽい価値の関係者として軽蔑されるに至っています。
 封建地主がコントロールする地方には、奴隷の身分の労働者が存在します。子供たちが少年労働者として使われ、教育の基本的権利を奪われています。農民、公務員、教師、またその他の肝要な職種の労働者が組合を結成して団体交渉をする権利が認められていません。また契約社員や日雇い労働者の数も増加しています。今日、さまざまな産業で働く労働者のうち、70~80%がその身分で働いています。これらの労働者が年金、保険、また他の福利厚生を受ける労働組合の権利を奪われています。民営化の推進も、おびただしい数の失業者を生み、主要な国営企業における組合活動の存続が脅かされています。多くの場合、安全衛生の基本的基準も無視されています。
 組合活動を規制する法律が存在するため、残念ながらパキスタンでは労働運動が組織されていません。現在、産業の労働者の組織化の割合は10%にも達していません。主要なナショナルセンターがICFTUに属しています。労働者の組織化また団体交渉に対する規制を乗り越えるために、この組合が努力しているが、司法制度における偏見がなくなっていません。労働運動に関する訴訟が絶えず続き、資源とエネルギーのむだとともに、状況改善の妨げになっています。抑圧のこの風潮に歯どめをかけるために、一層の国内及び国際レベルの連帯が必要と思われます。APFOLは国レベルで労働者の団結を達成するために、最善を尽くしています。
  主要なナショナルセンターの一つであるAPFOLは、労働者の人権、勉強・遊びのできる子供たちの権利、また組合の保護のために闘っています。APFOLはJILAFの協力を得て、職場における安全衛生や家族計画に関する教育プログラムにおいても重要な役割を果たしています。APFOLは訓練された指導員のチームを有して、一般労働者を含むあらゆるレベルの組合員に対して教育プログラムを実施していることを誇りに思っています。
 これらの活動の成果で励まされています。JILAFの主催で実施されたさまざまな企画のおかげで、OSHポジティブや家族計画に関するイニシアチブにおいて実用的改善が見られています。そしてJILAF等の協力でさらなる発展が見込まれるという報告ができたことをうれしく思います。

ムハマンド・サイード
N.W.F.P州水力電力労働組合ペシャワール支部 副委員長

 

パキスタンの現状

 過去4~5年で民営化のために史上最悪の失業がもたらされました。貿易やビジネスの不況により、数多くの企業が閉鎖に追い込まれた結果、組合のメンバーも極端に減ってしまいました。パキスタン政府が、52年にでき、そして悪質な法律と呼ばれたパキスタン官有事業維持法をPIAC、KSC、ガジーブロダー建設プロジェクトに対して適用したほか、ワプダのすべての組合活動を禁止しました。これは87年及び98年、ILO大会の決議を批准したことからすれば、甚だしい違反行為であります。しかしながらナショナル・インダストリアル・リレーション・コミッションに提出された報告によると、1997年12月31日現在、PNFTU労働者のメンバーの数が19万1,884人となっています。2,500人以上のメンバーを有する15の組合がPNFTUにかかわったにもかかわらず、この8ヵ月で目立った数の変化が見られません。

雇用情勢

 政府の民営化政策、グロバライゼーション、またさまざまなGSPに基づく貿易規制の結果、数多くの企業が閉鎖し、失業率が極めて高い水準に達しました。1997~1998年にかけての労働者の数が3,818万人に対して、そのうち雇用された労働者の数は3,613万人でした。これに関して、97年、98年度パキスタン経済調査に含まれた労働力調査のコピーを、この報告と一緒に添付します。
 この報告には、一番最近の軍が政権を乗っ取ったという展開が含まれていません。これは一昔前のレポートです。

政治情勢

 1988年以降、頻繁に政権交代が行われましたが、現在の政権は1997年2月3日に選ばれた政権です。1986年12月から民主主義が復活されています。組織化された労働者の大半がどこかの政党、例えばピーパル・ユニティ、モスリムリーグ労働者部、右翼グループ、宗教グループなどに属しているので、非常に分裂していて、労働者のために行動を起こせないでいます。
 社会経済情勢について。この2年間、ほかの東南アジア諸国と同じように、パキスタンの経済状態もかなり悪化しました。通貨が大幅に切り下げられました。世界銀行やIMFの政策が経済に悪影響を与えました。財政改策もインフレをもたらし、生活費が急騰しています。核実験の結果、特にパキスタンが大国であるアメリカ、イギリスやEUの諸国が加えた制裁に苦しんでいます。少年労働に対する措置という名のもとで加えられた制裁の結果、貿易も悪影響を受けました。またインフレに失業も手伝って、生活費の急騰を招き、貧困が拡大しています。

1998年度の貸金情勢

 給料月当たり4,065ルピーまでの従業員に対して、1997年3月1日に、生活費手当として月当たり300ルピーの賃上げが実施されたが、1998年7月6日の改正によって、この賃上げが月当たり4,065ルピー以上の給料のクラスの従業員に対しても適用されるようになりました。PNFTUの世帯予算(ファミリーパジェット)によると、非熟練労働者の最低賃金は月当たり1万551ルピーだったが、政府が設定した最低賃金がシンル州においては2,050ルピー、そしてパンジャブ州においては1,950ルピーでした。1999年7月に出された政府の声明によると、BPS1-16クラスの公務員の初任給を25%、そしてBPS17-22クラスの場合、20%賃上げするということになっているが、国営や民営企業の従業員に対しては、このような賃上げの発表が何もありません。

社会保障情勢

 まず社会保障法令には、失業手当や失業保険が含まれていません。労働災害補償がその被害の規模によって、労働者補償法、また社会補償法に基づいて行われています。医療保険の場合は、社会保障法、また団体交渉を通じて提供されています。解雇給付金に関しては、あるいは離職給付金に関しては、職務の階級によって異なるが、一般的に給料の1ヵ月分と退職金の対象者であった場合に限って、退職金が給付されています。しかしながら契約社員、日雇い労働者は長い就労期間にもかかわらず、退職金を認められていません。なお、研修または再研修に関しては、たまたま国営、民営企業や多国籍企業においても、このような制度がありません。
 労働に関する法律。パキスタン政府が1999年1月に、雇用及び人材政策の素案の発表を行いました。そのコピーの一部を意見書とともに既にJILAFに送付してあります。この政策に関しては、まだ議論が続いていて、決定された後、ICFTU-APROにそのコピーが送付されます。
 批准されたILOの決議。パキスタン政府がこれまでILOの決議の中に批准した決議のリストを、ここに提出します。

グローバル化に対する組合の対応

 グローバライゼーションの結果、多国籍企業による労働法の違反行為が激しくなり、不正な労働慣行が行われることも増えてきました。企業は正社員の数を削減するために、経営者グレードヘの昇進と見せかけ、従業員を組合から切り離した後、解雇しています。そのほか、組合員の数を減らすために、契約社員また臨時社員を増やしてきています。パキスタンのステートバンクより最近出された指令によって、多国籍系銀行の従業員が銀行の敷地内でストを行うことが禁止されました。このような方法で、多国籍企業が組合員の数を減らそうとしています。我々はカラチ、ユースト指定地区内に組合の本部を設けたが、経営側が組合の結成に対して高等裁判所に訴えています。我々も労働法適用に関する規制に対しては、高等裁判所に訴えました。これらの裁判がまだ係争中であります。ILOで保障された組合の権利の侵害に対して、既に苦情が出されているし、我々のナショナルセンターが代表して政府に対してさまざまな苦情を出しています。

経済・人権問題に対する組合の対応

 インド、パキスタンによる最近実施された核実験の結果、我々は大国から経済制裁を加えられ、通貨も切り下げられました。政府はガソリン、そして他のサービスの物価も値上げしました。我々は政府に対して、物価上昇を抑えて労働者の負担を軽減するよう、働きかけています。
 人権及び組合の権利に対する意識を高めるための活動。1998年7月13日に、PNFTU、そしてそれに属するあらゆる組合が、全国レベルで人権及び組合の権利に対する人々の意識を高める目的で、1週間のキャンペーンを行いました。そのキャンペーンの際、各地で集会、デモ、セミナーなどが開催されました。シンド州が直接大統領の統治下に置かれていたので、キャンペーンはPNFTUの本部で行われました。各地ではパンフレットが配られたほか、記者会見も開催されました。

ムハンマド・ラムザン・カーン
全パキスタン労働組合連盟(APFTU) バルチスタン州支部事務局長

 

 JILAFの役員スタッフ、関係者、また同僚の皆さん、きょう私はパキスタンの最大のナショナルセンター、6.2ミリオンの組合員を擁するナショナルセンターであるこのAPFTUを代表して、そしてパキスタンを代表して、簡潔に、今日パキスタンの労働者はどのような状況に置かれているか、述べたいと思っています。
  私より先に、同僚のハフィズ及びサイードの二人がデータなどを駆使してパキスタンの労働事情の報告を行っていますが、私もこの場をかりて、自分の団体よりILOにも提出されたパキスタンの労働者たちの運動、闘いに関する新聞記事の切り取りの一部を提出したいと思います。そのほかに労働階級についての覚え書きやAPFTUが発行している新聞のコピー、その一部に英語の記事も記載されていますが、それを提出したいと思います。これをごらんいただければ、パキスタンの労働者の現状をよりよく理解していただけるかと思います。

パキスタンの政治情勢と労働組合

 今現在は、インフォメーション・テクノロジー、それからマスメディアが非常に発展している時代であります。したがってJILAFや日本の労働運動にかかわる団体はパキスタンの労働事情を既に把握し、パキスタンでもアフガニスタンやイランの国境に接する地方出身の私よりも詳しい方もおられるかと思います。
 さて、皆さんがご存じのように、先月12日に、私が属するフェデレーションのほか、八つの組合から成るパキスタン労働者組合連合の労働者が団結して、グルシッド・アーメッド、グルレヘマン、ザホール・アワンなどの指導のもとで、モトシュとナワシェリフが導入した労働組合活動に対する規制に対して、ILOの事務所の前で大規模な反対デモを行いました。同日のことであるが、その当時、ナワシェリフと軍も対決を始めていました。
 ナワシェリフの時代は、労働者にとっては暗黒の時代でした。というのは、国内政治の歴史に、軍事政権のときでさえ、組合活動が規制されたときがなかったのです。しかしナワシェリフは電力部門に携わる14万人の労働者の組合、また銀行その他の部門の組合活動を規制したのであります。そして彼のこの決断は明らかにパキスタンの憲法と87年、98年のILOの決議に明らかに触れるものでした。
 ところで10月12日に軍部が政権を乗っ取った後、パキスタンの二つの大きな都会、カラチそしてラホールにおいて、ナワシェリフを支持するデモが行われたが、参加者の数が、カラチにおいてはたったの20人、そして彼の出身地ラホールにおいては女性3名でした。このことからも、解任されたとき、元首相ナワシェリフはどれほどの人気があったかが想像していただけると思います。その理由は、ナワシェリフ自身が軍部によって育てられた人間で、政権についてその正体を見せ、パキスタンの民主主義の基盤を強化するどころか、その弾圧を行い、イラクのサダム・フセインやリビアのカダフィ、またシリアのハフェズになろうとしたからであります。
 彼は、民主的なプロセスで当選された大統領のみならず、最高裁判所長官や、今回より前の陸軍参謀長官までを理由なしに解任させたのです。彼の統治下では、憲法を実施するために設けられているあらゆる機関、議会などが操り人形の役割しか持たなかったと言えると思います。彼の時代に、失業、暴力、インフレが蔓延し、国内の治安が悪化しました。一般人の生活が厳しくなりすぎて、絶望して自殺する者が出るほどでした。パキスタンはイスラム国家で、イスラムの教えでは自殺が禁止されているにもかかわらず、自殺者が出るほど、国民の不安が募っていたのであります。ナワシェリフは700エイカーの広い土地で豪華なマンションに住む一方、国の貧しい人たちは、住むところもなければ、その日暮らしもままならない状態にありました。
 なお、10月12日に起きた出来事、つまり軍のクーデターを国内の労働者、そして我々のナショナルセンターを憲法に反する行動と見なしています。しかしこれまで軍部がとった措置に、腐敗に手を染めた人々に対する追及、3,560億ルピーに及ぶ銀行ローンの債務をデフォルトした政治家、要人、実業家に対する追及、そして国民資金の回収、地方分権、経済の建て直しなどが含まれていますので、我々労働者が状況の進展を見守っているところであるとともに、今の行動が国益にかなう行動であるという意見を持っています。

21世紀に向けて

 労働者は、早いうちに国の民主主義が復活されることを期待しています。そのために、国内、国外から圧力が必要です。当分、国内経済の立て直しの役目は、ハイレベルのテクノクラート、つまり技術専門者を中心につくられたチームに託されています。なお、国内貧困の問題の大きな原因の一つは、IMFや世界銀行から厳しい注文がつきつけられたため、大幅なダウンサイジングが実施されたほか、もう一つの重要な原因は、インド、パキスタン間で激しい軍備競争が存在することです。両国間の激しい軍備競争で、限られた資金、資源が浪費されています。したがって、労働者の多くが両国が抱えるカシミールなどの紛争を相互の理解または外国の仲介で早く解決されることを望んでいます。
 組合活動に対する規制がまだ続いていますが、世界各国及びILOの圧力でその規制が廃止されることを希望しています。もちろん我々の組合の人々もそれに向けてできる限りの努力を果たしています。電力部門の従業員14万人からなる我々の組合に対して、政府が規制を導入し、軍部の管理下に置きましたが、我々は規制が始まって以来、さまざまな場で抗議運動を展開してきました。
 我々には、我々の組合に対する押しつけられた規制、加えられた規制撤廃のため、労働者たちが全国レベルで力を一致する必要がありました。そしてその必要性から、労働者が力を団結して全国レベルの連合体を設けました。我々が現在直面している最大の課題は、不況のために閉鎖に追い込まれた600の企業の建て直し、失業対策、国内の治安の回復、職場の安全衛生管理などであります。