2016年インドの労働事情

2016年10月21日 講演録

インド労働者連盟(HMS)
クルワン・カウル

HMSパンジャブ州支部書記長

 

1.当該国の労働情勢(全般)

  2014年 2015年 2016年(見通し)
実質GDP(%)
(出典元)
7.4
(インド経済白書2014-15)
7.24
(インド経済白書2015-16)
7.56(推定)
(インド経済白書2015-16)
物価上昇率(%)
(出典元)
6.37
(消費者物価指数2014-15)
5.88
(消費者物価指数2015-16)
6.00(推定)
(消費者物価指数2016-17)
最低賃金
(時間額・日額・月額)
(出典元)
□時間(      )
□日額(293.00 INR)
□月額(      )
(政府通知26号
2014年12月)
□時間(     )
□日額(     )
□月額(     )
(        )
□時間( )
□日額(350.00 INR)
□月額(     )
(政府通知29号
2016年8月)
労使紛争件数
(出典元)
198件
(Mint e paper
2016年10月4日付)
143件
(Mint e paper
2016年10月4日付)
40件
(Mint e paper
2016年10月4日付)
失業率
(出典元)
4.6%
(インディアン・エクスプレス
2016年7月29日付)
4.9%
(インディアン・エクスプレス
2016年7月29日付)
5%
(インディアン・エクスプレス
2016年7月29日付)
法定労働時間
(出典元)
1948年工場法の規定により、成人(18才以上)は週48時間以上、1日9時間以上働くことはできない。 48時間/週

(1948年工場法)
時間外/割増率

1四半期に125時間について通常日給の倍額
休日/割増率

通常日給の倍額
  1. あらゆるセクターにおいて、契約労働者と正規労働者の報酬には大きな格差がある。正規労働者が1月当たり24,000~25,000ルピーを得るのに対し、他の施設で働く契約労働者は同じ労働に対して5,000~6,000ルピーしか得られない。
  2. ほとんどの契約労働者は労使関係をもっていない。
  3. 契約労働者はほとんどの労働法令の適用対象になっていない。
  4. 労働時間が固定していない。
  5. 労働者やその家族向けの医療保健がない。
  6. 身分証明書が発行されない。
  7. 積立基金、ESI(従業員国家保険)、年金などの社会保障が利用できない。
  8. 非人道的で不衛生で危険な労働環境。
  9. 州の設定する最低賃金は、1957年の第15回ILO勧告に基づく計算による金額には、まだ遥かに遠い。さらに、この問題に関する最高裁判所の指示にも適合していない。
  10. インドには国としての賃金規定も労働者の統一した定義もない。
  11. インド労働者連盟はすべてのナショナルセンターとともに、12項目から成る共通の要求憲章を提出している。この憲章には、常雇や永続雇用の性質をもつ仕事に契約労働者として従事している数百万人の労働者を正規化することや、物価スライド制最低賃金を月当たり18,000ルピーに固定することも含まれている。

2.労働組合が現在直面している課題

  1. 国が一番に向き合うべき課題は、失業である。失業者は引き続き増加するか、高水準を維持している。ILOとOECDは残る「雇用ギャップ」の規模を分析した結果、2015年に300万人、その後4年間でさらに800万人増加すると予測している。
  2. この1年半の間に、中央政府は1948年『工場法』を52回以上改正したほか、1961年『徒弟訓練法』、1926年『労働組合法』、1965年『ボーナス支払法』、1986年『児童労働法』、1948年『最低賃金法』、1946年『産業雇用就業規則法』、1947年『労働争議法』、1970年『請負労働法』、1988年『労働法(特定企業における財務諸表提出及び会計記録保管の免除に関する改正法)』、1948年『従業員国家保険(ESI)法』、1952年『従業員積立基金(EPF)法』などを改正した。
  3. 結社の自由は適用範囲になっていない。
  4. 社会的対話の欠如が深刻である。
  5. 労働者に情報が共有されない。
  6. 意思決定プロセスに労働者の関与がない。
  7. 外部委託と契約化を通じてフォーマル経済をインフォーマル化しようとする計画的・意図的な試みがある。
  8. 政府はより多くの外国直接投資を引き寄せるために、多国籍企業にさまざまな緩和措置や特権を提供しているが、期待どおりの結果は得られず、政府は見積っていたような外国直接投資を獲得できなかった。
  9. 産業経営を全面自由化する経済特区が創設された。場合によっては、行政決定によって、企業幹部に労働局の権限が与えられた。ウッタル・プラデーシュ州ガウタム・ブッド・ナガル地区ノイダはその一例である。組合は決定に抗議し、最高裁判所は労働局の権限を企業幹部に移譲する決定を違法とする判決を下した。
  10. 政府は、政府に企業を経営する権利はないが、統治しなければならないとの見解に立っている。
  11. 労働組合承認に関する国の法規もない。国としての最低賃金規定もない。統一した社会保障もない。

3.その課題解決に向け、どのように取り組もうとしているのか。

 インフォーマル経済における権利の欠如を解消または最小化するために、労働組合が果たす役割はきわめて大きい。労働組合は未組織労働者の組織化を最優先課題とし、そのためにさまざまな州の福祉委員会と密接に協力して効果的な介入を行い、インフォーマル経済で働く労働者への時宜に適った給付の提供を確保すべきと考えている。こうした介入は、インフォーマル労働者の組織化に役立ち、最終的にはインドの労働組合運動の力を高め、より研ぎ澄まされたものにするだろう。

【インフォーマル経済の労働者を組織化する方法】

  • 基本となる予備計画を立てる。
  • 調査を行ってより多くの情報と意見を得る。
  • インフォーマルセクターの中で核となる指導者を見つけ出し、彼らとのミーティングを計画する。
  • こうした指導者を通じて、インフォーマル労働者に既存の労働組合への参加や、新組合結成プロセスを開始する意欲を起こさせる。
  • 組合を登録し、その後使用者に承認させるまで全面的な支援を提供する。
  • 組合、組合の意思決定の場、さまざまな二者メカニズムにおいて、インフォーマルセクターの労働者に当然与えられるべき場を与える。
  • 成人のための生産的雇用創出の政策を推進する。
  • 児童労働の根絶に助力する。
  • 国内総労働人口の94%を構成する未組織セクターの労働者のために、新しい戦略を通じて結社の自由、組織化および団体交渉の権利を確保する。
  • 女性および若年労働者の参加とリーダーシップを促進する。
  • 労働組合は幹部を教育し、献身と自己犠牲を覚悟し、自分の個人的動機を捨てて大衆の利益のために働く意欲を起こさせる。
  • すべての労働者のためのディーセントワークを求める闘争を継続する。

 インフォーマルセクターは総労働人口の94%を超えてさらに増加傾向にあることを考えれば、今こそ労働組合は戦略を修正し、インフォーマルセクターの労働者の問題に相応の比重を置くべき時である。

4.その他

 現在、労働者階級は全方位から攻撃を受けている。中央政府と一部の州政府は、主要な労働関連法の中で苦労してやっと手に入れた、労働者に優しい規定を、いかにして抑制あるいは奪い取るかの一点を目指したアジェンダに取り組んでいる。政府はほぼすべての主要労働関連法において、労働組合に反対し使用者側に有利な改正を実施あるいは提案している。
 政府は小規模工場法案とモデル店舗及び施設法を可決し、中央政府の44の労働関連法を4つの労働法典に編纂し直すことを決定したうえ、公共セクター事業からの投資引き上げの継続のみならず、強化ならびにその戦略的売却の計画に対するすべてのナショナルセンターによる強固な共同抗議にもかかわらず、鉄道、保険および最も慎重に扱うべき防衛セクター、小売およびその他多くのセクターにおいて100%外資(FDI)を認めた。政府のこうした動きはすべて、「hire and fire(都合良く雇用と解雇を繰り返す)」の環境を整えるよう求める企業からの強い圧力を受けて進められたものである。一部の州政府は、中央政府と同じ政治体制によって、中央からの指示、指導、動機付を受けて行政を行っているため、似たような措置をとっている。中央政府は労働階級の真の要求に対してはきわめて冷淡で、消極的である。

  • 工場法に基づく女性労働者の夜勤労働の許可。
  • 1948年工場法に基づく四半期当たりの最大残業時間を50時間から125時間に強化。
  • 工場法の適用対象工場を、従業員数20人以上の動力を用いない施設または従業員数40人以上で動力を用いる施設とすることになる。現行工場法では、それぞれ従業員数は10人および20人以上を工場としている。
  • ラージャスターン州政府の法改正により、契約法の適用対象事業者は従業員数50人以上となる(現在は20人)。
  • 中央政府は4つの労働法典における44の労働関連法を4つの労働法典に集約することを決定した
  • 現政権は国内外の企業から強い圧力を受け、より多くのFDIを獲得しようと、柔軟性と称して使用者に完全な自由を保証し、多くの利権――減税、複数省庁の手続のワンストップ化(single window clearance)、料金補助によるインフラ使用の便宜、人権費が最も安く保護のない(あっても名目だけの)借金拘束労働者など――を与えている。

【労働組合運動の希望の兆し】

 2009年以降、すべてのナショナルセンターが一堂に会する場を設けている。労働組合運動は、ナショナルセンターの共同行動委員会の旗の下に勢いを得ている。以前行った2日間の全インド・ゼネストに加え、現在のNDA政権下で過去2年間に1日限りの象徴的な全国ゼネストを2回行い、成功させた。2009年から2016年にかけて全国労働者大会(National Conventions of Workers)が8回共同開催されている。詳細は以下のとおり。

  • 第1回全国労働者大会:2009年9月14日
  • 第2回全国労働者大会:2010年9月7日
  • 第3回全国労働者大会:2011年9月7日
  • 第4回全国労働者大会:2012年9月4日
  • 第5回全国労働者大会:2013年8月6日
  • 第6回全国労働者大会:2014年9月15日
  • 第7回全国労働者大会:2015年5月26日
  • 第8回全国労働者大会:2016年3月30日

 第8回全国労働者大会において、12項目の要求憲章が再び承認された。同憲章に掲げる要求は、価格上昇抑制、失業、労働法の厳格な執行、全労働者対象の社会保障、全労働者対象の物価スライド制最低賃金3,000ルピー/月、全労働者対象の最低確定年金3,000ルピー、中央・州公共セクター事業の投資引き上げの阻止、常雇・永続雇用的な仕事の契約化の阻止、契約労働者に対し正規雇用されるまで正規雇用の同僚と等価の給与および給付の提供、ボーナスの支払い上限と受給資格の撤廃、積立基金、退職慰労金額の引き上げ、45日以内の労働組合の登録義務付け、ILO条約第87号(結社の自由及び団結権保護条約)および第98号(団結権及び団体交渉権条約)の批准、鉄道、防衛その他戦略的セクターへのFDI禁止、労働法の一方的改正の阻止が含まれる。

 以下の行動計画は全会一致で承認され、成功裏に実行された。

  1. 州・地区・産業レベルにおける小作農・農業労働者との合同会議(2016年6~7月)。
  2. 州都および工業センターにおける1日がかりのSatyagraha(非暴力抵抗運動)(2016年8月9日)。
  3. 全国規模での1日限りのゼネスト(2016年9月2日)があり、政府の機構や実力部隊、警察、暴力団などを利用したスト潰しに加え、閣外専管の国務大臣、労働雇用省、財務省が生み出した誤情報や混乱にもかかわらず、全国ゼネストは大成功を収めた。
     2016年9月に議長国インドの主催により「BRICS労働組合フォーラム2016」が開かれたが、これについても関係する問題として触れておく。インド政府は同フォーラムをきわめて軽く扱いナショナルセンターに一切相談しなかったうえ、与党の労働系下部組織をコーディネーターに指名し、同下部組織が労働者を代表して「BRICS労働組合フォーラム」に参加した。これだけではなく、インド政府は労働者が正式な「BRICS労働組合フォーラム代表団」と意見を共有する機会も与えなかった。
     他のすべてのナショナルセンターは、このような重要な機会において労働者を無視する政府のアプローチを、全会一致で非難した。
2016年10月21日 講演録

インド労働組合(BMS)
アナガ・シュリパ・サンタ

BMSマハラシュトゥラ州支部執行委員

 

1.当該国の労働情勢(全般)

 インドは特異な人口状況にある。ヨーロッパをはじめ他の北側先進諸国とは異なり、12億5,000万人という膨大な数の人口を抱えている。インドでは、正規セクターあるいは組織化セクターにおける雇用者数が3,000万人であるのに対し、インフォーマルセクターまたは未組織セクター は4億4,000万人で、このうち建設分野に4,500万人、農業セクターに2億5,000万人、残りの多くの労働者はビディ(巻きたばこ)の巻き作業、香スティック作り、衣服仕立てなどの仕事に従事している。多数の労働者が組織化されていない。公共セクターにおいても、正規労働者の代わりに契約労働者を雇う傾向が強い。長時間労働、低賃金、雇用不安、社会保障の実施の欠如などは、搾取の特徴の一部である。このため、労働者は非正規化され、社会保障や雇用保障に基づく保護が損なわれている。
 他のアジア諸国と同様、インド社会も雑多で一様ではなく、所得は必ずしも賃金によって得られるわけではない。この実態は、この問題を調べたアルジュン・セングプタ委員会とテンドルカール委員会によって明らかになった。インドの貧困状態にある自営業者の過半数は平均で1人当たり1日約2ドルの収入であるにもかかわらず、人口の約34%は自営業に従事している。

2.労働組合が現在直面している課題

  1. 輸出促進地区や経済特区で活動する産業およびIT産業には、労働組合の保護がない。
  2. 自動車産業などの業界では、低賃金労働と大規模な数の契約労働者が問題とされてきた。利益分配は消費者に渡っていない。
  3. 職場での労働者の権利は守られていない(ILO条約第87号・98号)。
  4. インド政府はILO条約第87号『結社の自由及び団結権保護条約』および第98号『団結権及び団体交渉権条約』を批准していない。
  5. インド憲法の想定する労働対象に対して二重の管理が行われている結果、多数の労働者が社会保障の実施の権利を奪われていることは、懸念すべき問題である。
  6.  

3.その課題解決に向け、どのように取り組もうとしているのか。

 インド労働組合(BMS)は、インドの全労働者のために、BRICS(ブリックス)、SAARC(南アジア地域協力連合)などの国際的な議論の場に労働者の代表を送り、国際交渉として貿易に関する議論に参加させるよう求めてきた。
 インド政府は要求を受け入れ、今年はBRICSで行われる貿易に関する国際交渉に労働者の代表の参加を認めた。
 政府はインフォーマルセクターの労働者対策として「人民の富計画」を導入し、国営銀行に2億5,000万以上の口座を開設して、労働者に社会保障を行き届かせることを目指しており、州営従業員保険(ESI)、国家年金制度(NPS)、庶民保険計画(Aam Admi Bima Yojana)、国家医療保険制度(Rashtriya Swathya Bima Yojana)などの制度がこの銀行口座を通じて実施されている。これはフォーマル経済の移行に向けた大きな前進である。

4.その他

 インドの労働組合は、インフォーマルセクターの労働者の組織化に向けてたゆまぬ努力をしている。家事労働者に関する条約の後は、強い勢いが生まれている。インド農村の労働者の唯一の代表は、組合員数3,000万人のインド最大規模のナショナルセンター、BMSである。BMSは一歩先を進んでいる。BMSはインド全国661県のうち550県以上をカバーする支配的な労働組合であり、農村の契約労働者に向けたキャンペーンも行っている。2011年以降、BMSは「CHALO GAON KI OER(村への行進)」と名付けた野心的な全国規模の計画を展開している。先の見えない厳しい生活にさらされている農村の勤労大衆は、組織化されつつある。まず手始めはこうした労働者を社会保障制度に登録し、その後彼らの生活向上を求めて圧力をかけられるような勢力を育てようという試みである。この試みはうまくいっている。BMSはジャールカンド州とハリヤーナ州ではこうした困窮した失業者に仕事を確保し、マディヤ・プラデーシュ州などでは労働日数を増やすことに成功した。結成の気運にある組合は数千にのぼる。全国規模をもつBMSは、大規模キャンペーンを続けることが可能である。
 新たに組織化した家事労働者をJanashree BimaYojna(インド生命保険)に登録させる大がかりな取り組みが進められている。55才から60才までの家事労働者は、政府から「Sanman Dhan(謝礼金)」として一時金1万ルピーを受け取っている。
 BMSは他にも銀行口座とそれに連動した保険補償を確保するための同様のキャンペーンを行い、大成功を収めている。2億5,000万の銀行口座が開設されている。
 BMSは政府の提供している制度や給付を建設労働者に導入して役立ててもらおうと、熱心に取り組んでいる。
 シュリ・ナレンドラ・モディ首相のリーダーシップの下、インドの現政府はインフォーマル労働者を対象とした福祉と保護の対策をいくつか行っている。

2016年10月21日 講演録

インド全国労働組合会議(INTUC)
ナンダ・マダヴラオ・ボスレ

INTUCマハラシュトゥラ州支部書記長

 

1.当該国の労働情勢(全般)

 1981年『マハラシュトラ州民間警備員(雇用および福祉規制)法』が制定される前は、警備会社を通じて雇われた多数の警備員が、マハラシュトラ州のボンベイやターネー県のさまざまな工場や施設で働いていた。民間警備員は給与支払期日に賃金全額を得ていなかっただけでなく、予定勤務時間を超えて働かされた上、残業手当はなかった。また、積立基金、ESIC(従業員国家保険公社)、週休、有給休暇などのさまざまな給付も与えられていなかった。

2.労働組合が現在直面している課題

 警備員は組合登録が困難であり、必要書類をそろえて登録機関に申請しても、政府や機関は手続きを遅らせている。

3.その課題解決に向け、どのように取り組もうとしているのか。

 警備員組合の登録の手続きを1ヶ月程度で完了できるように関係箇所に働きかけている。

4.その他

 警備員組合はこの法律と制度について繰返し訴訟を起こした。しかし、裁判所の判決はすべて政府と機関の主張を認めている。