2014年インドの労働事情

2014年10月24日 講演録

インド労働者連盟(HMS)
報告者:シバァニ カラヴ

マングラムセメント労働組合女性局長兼HMS女性局書記
報告者:サンジャイ ブンドリック パワル
西武鉄道労働組合組織部長兼HMSグラジャラート州書記

 

1.インドの労働情勢(全般)

 インドはきわめて重大な局面を迎えている。GDP成長率の低下、インフレの強まり、日用品価格の上昇、失業率の増加、多数の製造業の閉鎖によって、数百万人の労働者が失業状態となっており、フォーマル労働のインフォーマル化が進んでいる。全労働者の94%がインフォーマルセクターで働いており、決まった労働時間、職業の安定、社会保障がない状態に置かれている。インフォーマルセクター労働者の80%は採用通知書もなければ、団体交渉の余地もない。
 新政権は国内企業、多国籍企業、国際金融機関の大きな圧力を受けている。中央政府とラジャスタン州政府は、労働者側が苦労して手に入れた、労働者にとって有利な労働法の規定について、ナショナルセンターと協議することなく一方的に改正に着手した。政府は国防生産と保険セクターにおいて49%、鉄道においては100%の範囲まで外国直接投資(FDI)を認めた。新政府の最終目標は、使用者側にとって「ハイヤー・アンド・ファイヤー(必要に応じて採用と解雇を繰り返す)」を行ないやすい環境を提供することである。
 インドの労働組合は、きわめて困難な状況に直面しており、政府の黙認のもと、労働省と共謀した経営陣の標的となっている。インド憲法第19条の下で結社の自由が保証されており、1926年労働組合法は労働者が自らの意思で労働組合を結成し、同法に基づき登録することを認めている。しかし、現実には、現在ほとんどの使用者が従業員による組合の結成を認めず、抵抗し、反対している。時には、経営者側を支援する御用組合を奨励することもある。また一部の組織では、経営者が「善行」の名の下に、労働者から労働組合には参加しないという約束(黄犬契約)を取りつけている。
 使用者は、労働組合と双方の利益に関する事項について話し合うことも嫌がるため、団体交渉の余地もほとんど存在しない。

2.労働組合が現在直面している課題

 労働組合が現在直面している課題としては、[1]社会的対話が大きく欠落していることである。[2]労働組合の承認に向けた中央政府の動きがみられない。[3]真摯な組合結成に反対・抵抗する経営者。[4]総労働人口の94%が未組織(インフォーマル)セクターで働いており、雇用保障もなければ、社会保障もなく、勤務時間の規定もない。未組織セクターの労働者の80%は採用通知書もない。[5]女性及び児童労働者は、現場で精神的あるいは性的なハラスメントを受けることがある。[6]相互信頼が欠如している。[7]契約または派遣労働者と、同じ仕事をしている正規の常勤労働者との間に大きな賃金の格差が生じている。[8]労働者の統一最低賃金が定められていないし、すべての労働者に対する最小年金が定められていない。
 さらに、常勤職の仕事を契約労働者に振り返ることによって、フォーマル労働者を計画的にインフォーマル化している。また、アウトソーシングと契約労働も増加している。

3.課題解決に向けた取り組み

 この4~5年でインドの労働組合運動は大変貌を遂げた。政治的イデオロギーによって分裂し、ほとんどの組合が政党からの指示や指導、誘導に追随していることは確かであるが、唯一の例外としてHMSは独立し、自由で民主的なナショナルセンターであり、いかなる政党の支配下にもない組織である。ナショナルセンターの指導者は、労働者階級に関する共通の一般的課題を共同で提起し、共通の合同アクションプログラムを策定することを決定し、この目的のもとに2009年9月14日にニューデリーで労働者の全国大会が組織された。インド全国労働組合会議(INTUC)とインド労働者連盟(HMS)を除くすべての主要なナショナルセンターが参加して主張を述べ、共通の要求憲章と行動計画を話し合ってまとめ上げた。この行動計画は共同で実行され、成果を上げた。
 その後INTUCもこの運動に加わり、HMSもこれに続いた。現在、「共同行動委員会」の下に11の主要なナショナルセンターがともに活動し、労働組合運動における希望の光となっている。すべての主要ナショナルセンターの参加する共同行動委員会が2012年9月4日に開かれ、行動計画をまとめた。また、2011年9月7日にはニューデリーで2回目の労働者全国大会が開かれ、行動計画を策定した。この行動計画は実施されて成功を収めた。
 2013年2月20~21日には第3回労働者全国大会による全国的なゼネストが行なわれ、並行して行なわれた他の地区/産業/州レベルでの民主的抗議活動(共同セミナー、市民集会などを含む)と併せて成功を収めた。
 こうした活動は政府に重大な影響を与え、当時のインド首相もニューデリーで開かれた第45回インド労働会議での就任演説においてその影響の大きさに言及した。首相は要求の真実性を認めただけでなく、要求が労働者階級のみならず社会にも関係するものだと述べた。首相はまた、要求の一部は政府の最高レベルにおいて積極的に検討されていると述べた。その議論と推奨のために上級閣僚4人で構成されるグループが結成され、ナショナルセンターの指導者らと閣僚グループとによる会合が2回開かれたが、実質的な議論の前に政権が交代し、閣僚グループは解散した。
 ナショナルセンターは戦略を策定するために再び会合を持ち、2014年9月15日ニューデリーで労働者全国大会を開くことを決定した。「要求憲章」が改正され、労働法の改正案の撤回要求や、鉄道・国防などの中核的セクターへの外国直接投資を認めないといった要求が盛り込まれた。また、地区/産業/州レベルの共同行動がまとめられ、2014年12月5日に全主要都市で集団デモを行なうことが決定した。デリーでは、国会の前でデリーや近隣州の労働者が参加してデモが行なわれることになっている。

4.その他の課題

 日系企業における労使紛争の際、犠牲者が出たが、この件では刑法が適用され、従業員多数が拘留され、これまで保釈を許可されていない。
 この件については、2012年11月2~3日にヨルダンで行なわれたITUC-AP地域総会でも取り上げ、連合第13回定期大会ならびに古賀会長との会合においても、この問題に言及した。この問題は、使用者による労働者の労働組合権と人権の否定を表す一例である。多国籍企業による国内労働法の不順守については、労働省と政府からは外国投資という理由だけで総じて無視されている。

インド全国労働組合会議(INTUC)
ラジェンドラ プラサド

インド全国労働組合会議(INTUC)青年部長
ジャヤンティ ラダマ ラマチャンドラン ナイール
クンナトゥール地区代表兼INTUC女性委員会委員

 

1.インドの労働情勢

 基本的な労働組合権は保証されているが、さまざまな州において多くの制限がある。労働組合の幹部や労働者に対し企業が後ろ盾となった暴力事件が多く報告されている。多数の組合指導者が逮捕され、嫌がらせを受けた。また、数千人の労働者が、基本的な交渉権の確立や組合認知を求めるストライキや抗議行動に参加したことで逮捕されたり、刑事責任を問われたりしてきた。
 労働組合は、年少者、女性、家内労働者、移民労働者などの未組織労働者の組織化に関心をもっている。また、大規模なITセクター・IT活用サービスセクターがあり、労働組合にとって、このセクターの労働者の組織化は依然として困難な課題である。
 2001~02年度以降、生産高に占める利益の比率が急増したにもかかわらず、賃金
のシェアは大幅に減り、購買力を低下させてきた。インドは物価スライド制最低賃金の概念を導入したが、多くの州では拘束力をもたないままになっている。インド全国1億7300万人の賃金稼得者のうち約7300万人の受取額は最低賃金に届いておらず、こうした低賃金労働者の約30~40%は貧困家庭に属している。
 インドでは5~6%のかなり高い経済成長率が続いているが、労働者の生活水準はそれに見合う改善を示していない。政府計画委員会の発表した数字によると、1日1ドル(約119円)未満の極度の貧困の中で暮らす国民の数は増えている。さらに、最近の物価上昇とインフレも一因となって、政府や使用者に対する労働者の苛立ちや不満が高まっている。
 インフォーマルセクターに働きかけることも、労働運動の優先事項の一つである。
中央労働組合組織(CTUO)は、インフォーマルセクター労働者を組織化し、各種課題を対処するための諸戦略を採択している。しかしながら、組織化への投資(物質的・非物質的ともに)が限られており、今後増やす必要がある。
 インドでは、団体交渉は相変わらず範囲が限られ、現行法制の対象範囲が制限されている。フォーマルとインフォーマル両方の労働者を巻き込んだ集中的な組合員募集運動と並んで、現行法の適切な実施と執行、最低賃金、雇用保証、職場の福利施設の確保は、団体交渉権の適用の実現と範囲拡大に必要である。
 インドの年少人口は世界最大である。総人口の約66%が35歳未満で、人数は8億800万人を超える。結果として、インドの労働人口は今後10年間で年間800万人以上増加することになり、そのほとんどを労働市場に参入する若者が占めることになる。こうした若者を労働組合に迎え入れることは今なお非常に大きな課題であり、組織化のための革新的な手段や手法が必要になる。
 組合は組合活動において女性労働者を後押ししているが、数の上でその参加率は男性より少ない。INTUCには全国女性委員会があり、女性労働者のための活動を行なっている。同様に、州支部や産別労連にも独自の女性・青年委員会があり、女性と若者の組合活動へのいっそうの参加を促している。

2.労働組合を取り巻く現状と課題

 現行の経済状況と世界的な景気後退に留意し、INTUCとしては、労働組合は労働者の利益の保護以外にも、国内の産業成長にも気を配るべきだと考えている。労働者は経営の一部として生産性を高め、産業のビジネスを拡大することができる。このようにして新しい労使関係を築くことで、国際競争に立ち向かうこともできる。労働組合は、労働者ならびに国全体の利益のために貢献することを通じて、非暴力の平和的な労使紛争解決の道筋を採り入れるべきである。
 INTUCは、労働者は自らが雇用される企業の株主になるべきだと要求してきた。企業が新規公募や場合によっては私募を通じて資金を調達する際には、必ず株式の10~20%を労働者のために確保すべきである。さらに、労働者は最初の段階から、業界の株式に投資する習慣をつけるようにすべきである。
 すなわち、労働者を採用したら必ず同時に株式を割り当てて「労働者兼株主」と呼び、それによって労働者を企業の共同契約者にすべきである。そうすれば、あらゆる種類の対立を回避し、最終的には繁栄に導く一助となると考える。またこうしたやり方は、業界が有能な労働者の勤務を保持することにも役立つだろう。
 強調する点としては、その他あらゆる労働組合の課題の中でも、全国的な社会的保
護の発言権の促進、能力開発、ディーセント雇用、企業開発、若者の雇用、インフォーマル経済のフォーマル化は、労働組合共通の優先事項と考えられていることである。また、職業安全衛生、労働行政、労使関係、雇用関係、平等、実施機構に注目する必要がある。

3.課題解決に向けた取り組み

 過去5年間にわたり、インドのナショナルセンターは連帯し一丸となって取り組み、次の10項目の要求を採択して政府と交渉に当たっている。運動は、2013年2月の2日間のストライキなど、さまざまな方法で行なっている。未解決の10項目の要求は以下のとおりである。

  1. 物価上昇を食い止めるための具体的対策
  2. 企業家に提供されるコンセッション/インセンティブ・パッケージに雇用保護を関連づけるための具体的対策
  3. すべての基本的労働法に対する一切の例外や免除のない厳密な執行と違反に対する厳しい罰則処置
  4. 未組織部門の労働者も対象とする社会保障と、NCEUSおよび議会労働常任委員会の勧告に沿った十分な資源をともなう国家社会保障基金の創設
  5. 国および州の営利PSU(公営企業)への投資引き上げの中止
  6. 常雇/永続雇用の性質をもつ仕事の契約化の禁止と、同じ産業/企業における契約労働者と常勤労働者の同一労働同一賃金・給付
  7. 最低賃金法の改正――賃金表に関わりなく一律の適用を確保し、法定最低賃金を1万ルピー(約1万8860円)/月以上に固定
  8. ボーナス、退職のための積立基金の支払いに対するすべての上限と受給資格の撤廃と、退職慰労金額の引き上げ
  9. 全員に対する年金の保証
  10. 45日以内の労働組合の登録義務づけとILO条約第87号および第98号の即時批准

4.その他の課題

組織化

 非正規型、非典型労働の一般的な特徴は、不確実性、長続きしないこと、同一の仕事における常勤労働者と異なる労働条件、雇用の不安定性である。
 非正規雇用には、パートタイム労働、派遣労働者(人材紹介会社が期限付きで派遣する従業員)、臨時雇い、契約労働者、そして特別な雇用協定において下請契約や委託に基づきサービスを提供する労働者など、いくつかの種類がある。これらすべての種類において、その数は急増している。
 非定型労働の増加は、多少の社会的保護の機構は存在しているとはいえ、さまざまな影響を及ぼす。労働組合の視点から見ると、こうした労働者は大半が未組織であるうえ、法律によって組織化ができない状態にあり、職業の安定に欠けるために被害を受ける可能性がある。大規模な企業でさえ、契約労働者を使い外部委託を行なう傾向がますます顕著になっている。
 非定型労働者の組織化は途方もない大仕事である。使用者と労働者の間に直接の関係がないため、労働者保護のために組合を結成するうえで現実的な問題が存在する。とはいえ、すでに存在している組織化された労働者の組合が手をさしのべ、前に進み出て未組織労働者のための組合づくりに力を貸した結果、組合加入している未組織労働者が大幅に増え、その強さは組合加入している組織労働者を上回った。
 この4~5年にわたりINTUCは組織化に全面的に関わり、農業、MNREGA労働者をはじめ他のインフォーマルセクターから膨大な数の労働者を組織化することができた。前回の確認では、INTUCは農業、農村、未組織部門からの公称組合員数を220万人と報告した。多くの組合は、認識不足のために、組合員の記録を準備して確認担当官に提出することができなかった。それでもなお、上記セクターだけでも120万人以上の組合員が確認された。今回の確認プロセスは今も進められており、INTUCは公称組合員数を3335万4677人としている。このうち1888万7735人は農業・農村セクターの147組合、432万1049人は未組織セクターの177組合の組合員が占めている。INTUCが組織化に大変な努力を注いだ成果がはっきり表れている。

労働法の改正

 投資を呼ぶための競争が激化していることと、使用者の求めるところの柔軟性が必要であるとの名目で、政府は3つの重要な法律の改正を承認し、下院に2014年工場(改正)法案と2014年徒弟訓練(改正)法案を提出した。改正の大部分は、労働者と被用者の労働組合権を含め、労働条件に深刻な悪影響を与えることになる。労働大臣は労働組合と協議することを確約していたにもかかわらず、労働法に対するこうした改正は労働組合と一切協議することなく押し通されていることは、嘆かわしい。

*1ドル=119.65円(2015年1月5日現在)
*1ルピー=1.886円(2015年1月5日現在)