2013年 インドの労働事情

2013年10月23日 講演録

インド労働者連盟(HMS)
ムケシュ・ガラブ
Mr.Mukesh Galav

全国書記

ピジュシュ・チャクラボルティ
Mr.Pijush Chakraborty

全インド鉄道労働者連盟アジャン州支部事務局長

 

1.最近の経済・社会状況

 インドは推定12億1000万人を数える人口過剰の問題に悩んでいる。第11次国家開発計画によると、国内の貧困者数は3億人を超え、大部分は農村地域で暮らしおり、未だに総人口の3分の1近くが貧困ライン以下で生活している。インドでは富の分配が偏っており、上位10%の高所得層が総所得の33%を得ている。著しい経済発展にもかかわらず、国が設置した未組織部門企業のための全国委員会(NCEUS)による2007年の報告書では、25%(2億3600万人)が1日20ルピー未満で生活し、その大半が「正規の仕事や社会保障のない状態のまま、インフォーマルセクターで働き、赤貧の暮らしをしている」とされている。
 国内総生産(GDP)成長率は、1996年から2012年までの平均で1.63%であった。インド経済で重要かつ急速に成長している部門は、サービス部門である。貿易、ホテル、輸送・通信、金融、保険、不動産、ビジネスサービス、地域・社会・個人サービスがGDPの60%以上を占める。農業、林業、漁業における総生産高に占める割合は約12%だが、労働力人口の50%以上を雇用している。インフレ率は上昇を続けており、卸売物価指数に基づく年間インフレ率は、2013年7月には5.79%から6.10%に達し、6ヵ月ぶりの最高値を示した。上昇が加速した主な要因は、食料とエネルギーの価格上昇にある。
 独立直後のインドは農業経済国で、産業基盤が弱く貯蓄水準は低かった。こうした苦境を救うのは公共部門のはずだが、資金不足、ノウハウの欠如などの問題を抱え機能しなかった。このため、1990年代の経済改革により、資金と技術の面で多国籍企業(MNC)の導入が図られた。毎年、何百社もの多国籍企業が自由化の名の下に市場に参入している。大企業のインド経済への参入は、FDI(外国からの直接投資)などを通じた大々的な合併と買収を生みだした。この状況はインド企業の利害関係者(従業員を含む)の富を増やしてきたが、貧富の格差は縮小していない。
 その一方で、外国企業が市場に参入して製品・サービスを提供する際に、中小企業に莫大な損失が生じている。需要、継続性、情緒的適合性、コストの面で現地のニーズが満たされていなければ、こうした外国企業も必ずしも成長と利益を手に入れるわけではない。ニーズを満たさない企業は、結果的に短期間で事業をたたむ結果となる。その際、特に製品やソリューションに投資をしてきた中小企業は、損害を被ることになる。多国籍企業には、ビジネスの基本に立ち返り、数千万人に雇用機会を提供する中小企業家の成長を妨げないようにするべきである。外資の導入による経済改革以来、経済は着実に上向いている。多国籍企業は、破壊行為を行なう者ではなく、国家経済の救済者であるべきだ。

2.雇用労働問題

 総人口12億人のうち、労働年齢人口は4億6,880万人であり、そのうち総労働人口の11.5%である5390万人が失業している。就労者4億490万人のうち、組織部門(メールマガジンNo.208参照)で雇用されている者はわずか2870万人にすぎず、残りの3億7620万人は未組織部門で働いている。すなわち、総労働人口の93%が未組織部門で働いていることになる。膨大な労働人口のほとんどが、未組織の状態にある。彼らは搾取され、最低賃金すら与えられていない。失業とは別に、インドは不完全雇用という深刻な問題にも直面している。政府の報告書によると、約1億3000万人の労働者が低賃金で働いている。こうした労働者は働いても、貧困レベル以上の暮らしができる賃金を得られない。労働人口は毎年2.5%の割合で増えているが、雇用はわずか1.9%しか伸びていない。従って、国は雇用市場への新規参入者(年間約1280万人)を吸収するだけでなく、雇用されずに残っている人たちへの対応という課題も抱えている。
 世界的経済危機で、以前より悪かったわが国の雇用状況が劣悪に変わってしまった。現在、ほぼすべての部門において既存労働力の削減を進める動きがある。これまで主としてフォーマルだった経済部門にもインフォーマル化が進みつつある。雇用の質が悪化し、雇用が生み出されてもそのほとんどは、労働条件が悪く、賃金は低く、社会保障はほとんど存在しない未組織部門である。
 インドの労働組合運動は、既存の組合員を保護し強固にまとめるのと同時に、急速な環境変化の中で多様化し変化する労働者のニーズに合わせて自らを構築し、適合させなければならないという二重の課題に直面している。
 経営者は、現行労働法の一部を自らに有利な形に変えようと懸命にロビー活動を行なっている。しかし、組織部門においてより多くの雇用を創出することと、未組織部門における雇用の質を改善することに向けた努力が必要である。未組織部門の労働者は、最低限の基礎給付を与えられる必要があり、社会保障のネットワークにも組み込まれる必要がある。政府が『未組織部門労働者社会保障法』を制定し、未組織部門労働者の雇用と労働条件の規制や社会保障給付に乗り出したことは心強いが、まだ実施されていない。

3.労使紛争の事例

 第5回中央賃金委員会(CPC)の勧告と、全インド鉄道連合(AIRF)が継続して要求したにもかかわらず、2006年に第6回CPCが設置されなかった。AIRFとその加盟組合は、国内全土でさまざまな機会にデモ、大集会、行進などを実施してきた。交渉による解決を得るためにAIRFがさまざまな努力を払ったにもかかわらず、鉄道省とインド政府から回答を引き出すことができなかった。やむなくAIRFは2006年2月7日に「全国的スト通告」を出すことになった。その結果2006年10月5日、CPCが設置され、2008年3月24日に報告書が提出された。
 政党との結びつきのない全インド労働者連盟(HMS)が、他のナショナルセンターに呼びかけて、今年ゼネストを行なった。運営委員会で10項目の共通要求をまとめて連邦政府に要求書を提出した後、2日間のストに突入した。これはナショナルセンター間の協力の事例である。

4.労使関係の展望

 公共部門や大規模民間部門など組織部門において団体交渉は行なわれている。未組織部門では、労働者は職場での基本的権利すら与えられておらず、労働組合権はほとんど存在していない。また、労働人口の60%以上を占める農業労働者は、いまだにその権利を保護する法律がない。
 インドにおける労使関係の状況を改善するためには、労働法の適切な実施と執行、労働者と労働組合権の尊重、二者構成原則および三者構成原則の強化、ILO条約第87号(1948年の結社の自由および団結権保護条約)、第98号(1949年の団結権および団体交渉権条約)、第151号(1978年の労働関係(公務)条約)の批准が大きな役割を果たすだろう。
 2012年2月14~15日にニューデリーで開かれた年1回開かれる政労使三者参加の協議機関である第44回インド労働会議において、HMSはグローバル化が労働者のインフォーマル化と非正規化をもたらしたとの意見を述べた。これまで永続的性質であった雇用が非正規化あるいは契約化されている。組織部門が縮小して未組織部門が急速に拡大し、今まで苦労して手に入れた労働者の権利が危機にさらされている。HMSは加盟組合に対し、児童労働の撲滅、ジェンダー、女性に対する暴力の撲滅、環境保護、HIV/AIDSとの闘い、識字率向上、社会悪撲滅運動など、これまであまり取り組んでこなかった活動に着手するよう促し、支援している。

2013年6月7日 講演録

インド全国労働組合会議(INTUC)
ハルジット・シング
Mr. Harjit Singh

アサンソール製鉄労働組合書記長

 

1.全般的な情勢

 2012年10月におけるインドの総人口は、12億1000万人、そのうち雇用労働者は4億2400万人となっている。失業者数は4000万人で、失業率は9.2%、インフォーマルセクターは1046あり、そこで働く労働者の数は4億1750万人となっている。2012年4月4日に公表されたデータによれば、このセクターの賃金は1日8時間働いて、未熟練労働者が1日当たり255ルピー、半熟練労働者が283ルピー、熟練労働者が312ルピーとなっている。
※1ルピー=約1.53円(2013年8月20日現在)

2.労働組合が直面する課題

 労働組合が直面する一番重要な課題は失業である。雇用労働者は、組織労働者と未組労働者の2種類に分類される。組織労働者はあらゆる便益を享受できるが、未組織労働者は適切な賃金が支払われず、さまざまな便益を奪われている。従って、現在労働組合にとって最も重要な課題は、法に基づいた未組織労働者への適切な賃金の支払い、その他の便益の供与を求めて活動することである。

3.課題解決に向けて労働組合の取り組み

 未組織労働者の課題の根本的な解決に向けて、さまざまな調査を行なっている。INTUCは労働者ならびに経営者側と協議し、労働者の要求を認めさせようと経営者側を説得している。一方で、労働者に対しても最善を尽くして自らの職務を遂行するよう説得している。そうすることで、企業の生産高も増大する。このようなアプローチをとることにより、問題解決につながるのではないかと期待している。その他、労働組合の取り組みとして、公害のない環境への取り組みや、労働者の家族へのより良い医療と教育の提供に対する取り組みも重要な課題となっている。

4.インドの労働組合運動の現状

1)5大ナショナルセンター

 現在インドには重要な枠割を果たしている5つの主要なナショナルセンターが存在する。
 インド全国労働組合会議(INTUC):政治的にはインド国民会議派と密接な関係を有する。
 全インド労働組合会議(AITUC):インド共産党系。国際労働組合運動の中では世界労連(WFTU)に加盟。インドで2番目に大きなナショナルセンター。
 インド労働者連盟(HMS):INTUC、AITUCのどちらも承認しない、社会主義者によってカルカッタで結成された。HMSは、加盟する組合員が、あらゆる政治その他の外部からの介入に対して自由を保持する目的で結成された。
 統一労働組合会議(UTUC:The United Trade Union Congress):インド社会党の分派により結成された。地域的な組織で、主としてケララ州とウエストベンガル州を活動拠点としている。
 インド労働組合センター(CITU):1970年にAITUCから分裂。当時、中ソ対立の中で親中国共産党系と言われた。
 注:今回のインド代表の報告では上記5つのナショナルセンターのみが報告されている。他に9組織、合計14のナショナルセンターが現在存在するといわれている。

2)労働組合の登録

 1926年『労働組合法』によって、労働組合は当局に登録しなければならない。登録することによって法律で認められた団体となり、団体交渉ができるようになる。また、登録された労働組合に関しては、ある程度の保護と権利が与えられ、それらが保障される。

3)労働争議の原因

 労働争議の原因は2つに分けられる。ひとつは経済的な原因による争議で、賃金、ボーナス、手当などを巡る争議である。この中には労働時間、有給・無給の休暇などの労働条件、さらに不当な一時解雇や大量解雇なども含まれる。もうひとつは非経済的な原因で、上司などの企業の他のメンバーから何か不当な扱いを受けること、あるいは同情スト、また政治的な要因が絡むもの、あるいは懲罰が絡んでくるものなどである。

4)労使関係の地方化

 労使関係について、現在インドではほとんどの団体交渉において地方分権化が進んでいる。これまで中央で行なわれてきた産業別交渉においても地方に分権化するよう圧力が高まっている。
 内外の競争に対抗するために、いくつかの産業、例えば医薬品産業においては大幅な雇用削減が進んでいる。一方、雇用に対して需要が増えている産業においては雇用増大が見られる。経済自体は大きく発展しており、管理職あるいは技能労働者の不足が目立ってきている。

5)労使が直面する問題

労働側:
 青年労働者の雇用創出とディーセントワークの確立、高齢労働者の雇用保護と社会保障給付、また労働組合の場合には、これまでに確立してきた権利の擁護、労働組合活動家の教育訓練、また実質賃金の確保などの問題に直面している。
使用者側:
 使用者側は、フレキシブルで、対応可能な労働力の確保、企業の再編成、1日24時間・週7日・年365日の生産体制の確立、付加価値を高める費用削減、最大公約数的なマネジメント、生産の下請化などを進めようとしている。

6)インドの労働組合の弱点

 インドの労働組合の弱点として、[1]加盟組合員数の少ない数多くのナショナルセンターが存在すること[2]労働者は限られた産業でしか組織化されていないこと[3]それらが政治的に政党と結びつき競合関係が激しいこと[4]財政基盤が脆弱なこと[5]外部指導者が支配的なこと――などがあげられる。

5.インドの家庭内労働者

  INTUC家庭内労働者組合は設立されてから3年になる。もともと村々ごとの出身の家庭内労働者の小さなグループが、地区レベル、地方レベルに徐々に広がり、それらを集約する形で労働組合に発展させた。ケララ州の場合州政府の支援の下で、労働者が加盟費1年間1人当たり50ルピーを支払い、残りの半分の50ルピーを州政府が支払う形で家庭内労働者のための福利厚生基金が設立された。労働組合の基金である。
 労働組合員として3年間、積立金を拠出すれば、3年後には子供の教育費、結婚費用、その他の臨時の費用として約3000ルピーを基金から引き出せる仕組みになっている。
 実際の対象となる労働組合員の年齢層は18~58歳で、60歳を過ぎると拠出した額に比例した額が年金として支払われる。60歳以降に受け取る年金は、毎月1000ルピーほどである。

インド労働者連盟(HMS)
マンジート
Ms. Manjeet

HMS女性委員会書記

 

1.HMSについて

 HMSはインドで4番目に大きいナショナルセンターで、現在の加盟組合員数は、2013年政府統計によると918万人である。1948年12月24日、自由で独立した民主的な組織として結成された。HMS現在649の労働組合が加盟している。

2.全般的な労働情勢

 インドの総人口は約12億5000万人で、そのうち労働力は約4億9880万人、失業者率は2009~2010年の1年間で約950万人となっている。インドが抱える1つの大きな問題として、ワーキングプアの存在がある。ワーキングプアとは、働いてはいるが貧困ライン以下の所得しか得られない労働者のことである。ワーキングプアは、2004~2005年度において約1 億3000万人存在したといわれている。現在、インド経済においては労働力の約94%が、いわゆる未組織部門、特にインフォーマルセクターに属している。残りの6%のみが、組織化されている部門に属している。
 また、現在においてもインドでは労働力人口の約52%が、昔と変わらず農業に従事し、GDPに占める割合は約4分の1である。
 次に、1991年に国が採択したグローバル化、自由化、民営化の経済政策の実施に伴って、未組織化部門が拡大し、2004~2005年において以前の92%から94%なった。逆に、組織化部門は8%から6%まで縮小し、その後も縮小が続いている。これらの経済政策の悪影響は、失職と失業、不完全就業、低賃金、雇用・所得の不安定、下請化、アウトソーシング、社会保障の未整備、所得格差の拡大、貧困の増大、生活・労働条件の劣悪化、労働法違反などであり、問題が山積してきている。

3.労働組合が直面する課題

 労働組合が直面する課題は、労働組合は設立後45日以内に登録を行なわなければならないという強制登録制度と、ILO条約第87号、第98号、第138号、第182号、第189号の早期批准である。インドでは労働組合の登録が義務付けられている。しかも45日間の期限内に登録を済まさなければならない。しかし実際の登録には3ヵ月から1年間の期間を要する。従って、登録して労働組合として認められるには大きな困難が伴う。
 もう一つの課題は、ILO条約第87号、第98号、第138号、第182号と第189号の未批准の問題である。インドでは、ILO条約を批准するためにはいくつかの大きな困難がある。インドはILO創設時からの加盟国の一つである。それにもかかわらず、これらの重要な中核的な労働基準に関する条約を批准していないのは、やはり大きな問題だと考えている。
 特に、結社の自由や団体交渉権に関する第87号条約と第98号号条約を批准していないことは大きな問題であり、HMSだけではなくて、主要な6つのナショナルセンターも問題にしている。6つのナショナルセンターが協同して、さらには、4つの産別組織が加わり、政府に対して早期批准を求めて過去3年の間に4回のデモを行ない、ゼネストも2回実施した。
 インドが抱えている問題に大きく関連しているのが、第138号条約と第182号条約の児童労働の実効的な廃止に関する条項である。残念ながら、インドにはまだ児童労働が根強く存在している。児童労働の多くは、煉瓦工場、カーペット工場などの職場である。
 第189号条約は家庭内労働に関する条約であるが、インドでは家庭内で働く労働者が約1000万人いるといわれ、この条約を早期に比準をすることが非常に重要である。
 ほかの課題として組織化の問題がある。例えば、青年や女性、家庭内労働者、さらには移民労働者の組織化である。未組織の労働者が多いこういう分野で、いかに組織化を進めていくかが大きな課題になっている。また、インドにおいてはIT産業が大きなセクターとして成長してきたが、そこに働く労働者は未組織の場合が多く、IT産業でいかに組織化を図っていくかも重要な課題となっている。インフォーマルセクターは94%の労働力人口を占めている。しかも、そのうちの93%は女性と言われているので、特に女性にターゲットを絞って組織化を図っていくことが大きな課題となっている。
 次の課題は、富の公正な分配の確保である。富の分配、利益の分配を勝ち取るためには、団体交渉というチャンネルが非常に重要になってくる。強力な労働組合を前提とする団体交渉以外に公正な分配を勝ち取る有効な選択肢はない。労働組合を通じた団体交渉以外、交渉は単に経営者側に対するお願いにしかならない。
 結論は、労働者自身が力をつけていかなければならないということである。自分たちの生活をいかに改善できるのか、労働組合がいかに重要な役割を担っているのか、「労働者として、また労働組合としてどういう責任があるか」そういったことが分からなければ、強力な労働組合は実現しないし、公正な分配を手にすることもできない。これはHMSが掲げる力の強化のモデルであり、他のナショナルセンターも同じであると考える。