2012年 インドの労働事情

2012年6月8日 講演録

インド労働者連盟(HMS)
Mr. ラジーヴ シャルマ
Mr. シャイレンドラクマール・スリヴァスタヴァ

委員度労働者連盟(HMS)・インド鉄道労組

 

1.労働情勢(全般)

 インドの労働力人口は現在5億2000万人で、毎年2000万人ずつ増えていると推定されている。産業労働力は多岐に及び、その概要を述べることは難しく、組織部門(organized sector)に属する労働者はわずか7%である。雇用やGDPに占める割合でサービス部門が支配的になる経済の第三次産業化に伴い、臨時雇用化が進んでいる。国民の42%は読み書きができない。
 労働力の93%はインフォーマルセクターに属し、55%は自営業に従事する。労働力の約三分の一は臨時雇用に従事している。労働の臨時雇用化は、経済の自由化や所有者、テクノロジーの変化、使用者の経費削減による競争力強化の戦略、組織部門を対象とした政府の投資家優遇傾向などが理由で進んでいる。人口の四分の一以上が貧困ライン以下で暮らしており、 失業も増えている。失業保険が無いため、失業者は比較的少数に留まる。本当に貧しい人々は、仕事が無くては生きてはいけないため、大多数の人が得られる仕事はすべて引き受け、最低生活水準以下で暮らしているが、余裕のある少数の人々はより良い仕事を求めている。
 インドの労働組合運動には17のナショナルセンターが存在するが、いかなる政党とも関係を持たず、いかなる政党にも所属していないのはインド労働者連盟(HMS)のみである。

2.労働組合が現在直面している課題

(i) 請負業者の下で労働する未組織労働者の組織化
(ii) 生活必需品の価格上昇
(iii) 失業の増加
(iv) 基本的な労働法の不履行およびそれらの違反
(v) 労働組合の乱立
(vi) 継続的性格を持つ労働の民営化および外部委託
(vii) 第87号(結社の自由および団結権の保護に関する条約)および第98号(団結権および団体交渉権)を含む中核的ILO条約の未批准
(viii) 社会保障とディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)
(ix) 組織部門に導入された新しい年金制度

3.その課題解決に向け、どのように取り組もうとしているのか

(i) HMSとその加盟組織は、これらの問題解決に向けて継続的努力を重ねている。未組織労働者が自らの権利に関する認識を深められるよう、さまざまなセミナーやワークショップ、教育合宿を開催している。HMS青年委員会は、未組織労働者を組織化する任務を受け持っており、過去5年間でいくつかの地域の建設労働者や人力車・トロリー運転手、農業労働者の組織化に成功した。
(ii) 失業問題に関しては、HMS青年委員会は「労働の権利」に関する全国プログラムに着手し、農村地域における最低100日間の雇用保障制度の導入を政府に働きかけた。現在は、365日間の雇用保障の確保に取り組んでいる。
(iii) 2009年に開かれた結成60周年記念大会において、 ILO第87号条約および第98号条約の批准に関する宣言を採択してインド政府に批准を要求した。それ以来、政府への働きかけを継続している。
(iv)他のすべてのナショナルセンターに呼びかけて、物価上昇、失業、労働法の実施、業務委託、ILO条約第87号および第98号条約の批准などの共通の課題に共闘して対処し、全国規模のキャンペーンを展開するようイニシャティブを取った。過去2年間、地域や州および全国規模のデモや集会、会合が実施された。これらの問題に関して昨年11月、100万人以上の労働者が要求を掲げ、さらに今年2月28日、1日ではあるが国会前で大規模デモを行なった。昨年11月の大規模デモではナショナルセンターの幹部が数名逮捕拘禁された。これらの行動により政府も正規労働者と非正規労働者の賃金問題、未組織部門労働者の社会保障問題について検討を開始しようとしている。

4.あなたのナショナルセンターと政府との関係について説明してください

 HMSは、自由で独立した民主的労働組合であり、インドのいかなる政党の圧力も受けていない。従って、HMSと政府との関係は、シンプルなものである。HMSは労働者の問題を代弁し、インド政府主催のさまざまなフォーラムを通じて交渉に携わっている。このような中でも、インド政府とは良好な関係を保っている。

5.あなたの国の多国籍企業の進出状況について、また多国籍企業における労使紛争があればその内容についてお知らせください

  多国籍企業は、1980年代後半にヨーロッパの航空会社数社がデリーを事務管理部門の業務拠点として活動を開始した。ブリティッシュ・エアウェイズは2002年、事業部門の分離独立によってWNSグローバルサービスを設立した。インドの多国籍企業は、主にエレクトロニクス、コンピューター製品、通信製品、スポーツおよびレジャー、自動車、金融サービス、エネルギー、広告などの分野で見受けられる。多国籍企業における労働争議の原因には以下が含まれる。
(1) 採用・解雇方針
(2) 労働組合の非承認
(3) 雇用保障の不在
(4) 社会保障の欠如
(5) 各種休暇制度、その他の福祉施設の不備
(6) 相対的に低い賃金、多い仕事量
(7) 土地買収に伴う人口移動
(8) とりわけIT部門におけるHOER(無制限の労働時間)の問題

インド全国労働組合会議(INTUC)
Mr. チャンドラシュカル ラジュゴパル ダシュラト

INTUCアーンドラ・プラデシュ州支部青年委員会書記長

 

1.当該国の労働情勢(全般)

 インドでは、多くのナショナルセンターが国内労働者階級の地位向上をめざし活動している(約12のナショナルセンターが存在する)。インドはILOの中核的労働基準を批准していないが、労働者階級はこれまで団結権や団体交渉権を有していた。しかし、グローバル化が進み、労働組合は多くの多国籍企業および経済特別区(SEZ)で労働組合登録の問題で困難な状況に直面している。公共部門や民間部門の企業の正規労働者は 国の法律に基づく最低賃金が保障され、社会的保護も受けているが、同じ企業でも契約労働者や委託労働者およびインフォーマル部門の労働者、農業労働者の場合には経営者が国の法律を守らず、労働者は最低賃金を受けることができず、いかなる社会的保護も与えられていない。世界的現象である食料価格上昇がインドの労働者階級にも深刻な打撃となっているが、ルピー安で状況は更に悪化した。賃金と物価の不均衡がインドの労働者の不安をかきたてている。公正な賃金を得ているインド人労働者はほんのわずかであり、多くは不当な低賃金の下にある。

2.労働組合が現在直面している課題

 契約労働者や委託労働者の正規雇用化すること。このような労働者が正規雇用となるまで正規労働者と同等の給与を支払うべきである。インドの労働者階級の大多数を占めるインフォーマル部門労働者への社会保障を確保すること。物価上昇も労働組合が帳面する問題である。労働組合登録が否認されている経済特別区(SEZ)その他の企業においても、労働組合登録を可能とすること。多国籍企業はインドの労働法を遵守しなければならない。インド政府は今年、最大の 組合を特定するため、国内労働組合の組合員数の検証を行っている。

3.その課題解決に向け、どのように取り組もうとしているのか

 このような問題を解決するために、すべてのナショナルセンターが結束し、INTUC指導の下で全国調整委員会を設立し、その委員長にINTUC・サンジェバ・レディ会長を選出した。同委員会は2010年以来、インド政府と何度も話し合いを持ち、国内労働者階級の差し迫った問題に対し政府の注意を喚起してきた。また、多くの抗議行動も実施してきたが、その中にはインド国会前で二度にわたって決行された一日ストであるDHARNA(デモ活動)が含まれる。これらの抗議行動を受けて政府は現在、契約労働者の正規労働者と同一賃金化およびインフォーマル部門労働者への社会保障給付について真剣に検討している。

4.あなたのナショナルセンターと政府との関係について説明してください

 INTUC は、インド国民会議派を中心とする現在の UPA (統一進歩同盟)連立政権 と誠実な関係を維持している。サンジバ・レディ会長をはじめ多くの INTUC幹部が 国民会議派の主要ポストを占め、連邦議会や州議会にも選出されている。しかし、諸問題の解決に向け、INTUCは常に党の圧力団体として活動し、専ら労働者階級側に立っている。

5.あなたの国の多国籍企業の進出状況について、また多国籍企業における労使紛争があればその内容についてお知らせください

 他国に比べて人件費が安く、天然資源もより入手しやすいインドでは、多くの多国籍企業が活動している。 しかし、これらの企業の多くは労働者に労働組合の結成を認めておらず、契約労働 者や委託労働者には最低賃金も支払っていない。また、多国籍企業は団体交渉権を認めていない。これらの企業は本国では公正な賃金を支払い、労働協約を締結していながら、インドでは異なる方法で行動している。

インド全国労働組合会議(INTUC)
Mr. ジャリー・ショナム

アルナーチャル・プラデシュ州労働組合委員長

 

1.当該国の労働情勢(全般)

 インドの労働力人口は約5億930万人であり、そのうち92%は未組織部門に属すると推定される。グローバル化がもたらした国内外の状況変化は労働組合活動の強化を促進したと考えられる。
 組合員に関する情報が不完全であるため、労働組合の組織率を推定することは難しいが、約8%と推定されている。労働雇用省 (MOLE) 長官の検証によれば、労働組合の組合員数の増加は非常に明白であり、2002年現在、労働組合加盟労働者数は約2480万人と推定されている。
 1942年に開かれた初の本格的な三者構成労働会議を皮切りに、何十年にもわたって三者協議制度が存在してきた。それ以前にもインド政府は、それぞれ異なる方法で労使代表と個別に、労働問題に関する協議を慣例的に実施していた。これは、重要産業を対象とする三者構成産業委員会の設立、並びに中央レベル州レベルにおける労働政策及び行政分野に関する政労使三者構成原則を採用する慣習の確立によって強化された。定期的な三者参加の協議機関には、年1回のインド労働会議、常設労働委員会、条約に関する三者委員会等が含まれる。

2.労働組合が現在直面している課題

a. 基本的な労働組合権は保障されているが、いくつかの州では多くの制約が課されている。労働組合役員や労働者に対する企業からの暴力に関し、報告事例が多数存在する。労働組合活動ゆえに多くの労働組合幹部が逮捕され、迫害を受けた。また、団体交渉や労働組合承認という基本的な権利を確立するために行なわれた行動に対して不法のストライキや抗議に従事したとして数千人もの労働者が逮捕され刑事罰を問われている。
b. インドのすべての労働組合を1つの旗の下に結集し、インドで労働法を実施する法的権利を獲得するために闘っている全インド労働組合会議(INTUC)サンジーバ・レディ会長に称賛の意を表する。レディ会長はインドのすべての労働組合組織の結集に成功するであろうと考えている。INTUCは、全世界が一つの旗の下で労働者階級が直面する問題の解決に向かって立ち上がり、労働者の法的権利を確立するよう望んでいる。
c. 労働組合は、青少年や女性、家事労働者、移民労働者等の未組織労働者の組織化に関心を持っている。大規模なIT/ITES(IT応用サービス)部門も存在し、同部門における労働者の組織化は組合にとって依然挑戦的な課題となっている。
d. 2001-02年以降、生産利益の分配が急増したが、賃金シェアは激減し、購買力を押し下げている(ILO「 労働の世界」2010年版)。インドは物価スライド制最低賃金の概念を採り入れたが、多くの州で法的拘束力を持たないままである。国内1億7300万人の賃金労働者のうち約7300万人は最低賃金を受け取っておらず、これら低所得労働者の約30~40%は貧困家庭に属している。
e. 約8~9%というかなり高い年間経済成長率が続く中、労働者の生活水準にはそれに見合う改善が見られない。インド政府計画委員会が公表した数字によれば、1日1ドル以下の極貧状態にある国民の数は増加している。更に、近年の物価上昇は、労働者の不安や統一進歩同盟(UPA)連立政権及び使用者への不平不満を駆り立てる要因となっている。
f. インフォーマル経済への働きかけは労働運動の優先事項である。インドのナショナルセンターは、インフォーマル部門の労働者を組織化し、その問題に対処する戦略を採用している。しかし、組織化への投資(物的投資および非物的投資)も増やす必要がある。
g. インドにおける団体交渉は、現行法規によって依然として交渉範囲が限られ、適用対象者が制限されている。団体交渉の権利を実現し、対象範囲を拡大するため、フォーマル/インフォーマル労働者双方の組織化活動の強化とともに、現行法の適切な実施と施行や最低賃金、雇用の保障および職場施設の確保が必要である。
h. インドは世界的に見て若者の占める人口が最も多い国である。総人口の約66 %は35歳未満であり、その数は8億800万人を超える。 その結果、インドの労働力人口は今後10年間、年800万人以上の増加が見込まれ、労働市場に新たに参入する若者がその大半を占めることになる。これらの若者の労働組合層への取り込みが依然として大きな課題であり、革新的な組織化ツールやテクニックが必要となるだろう。

3.その課題解決に向け、どのように取り組もうとしているのか

 INTUCは、サンジバ・レディ会長の指導の下、インドの労働組合運動を先導している。インドのナショナルセンターは、政府方針に対して改革を要求するために統一行動をとってきた。また、未組織部門労働者のための法律制定に関するディベートやキャンペーンに共同参加し、(経済特別区(SEZs)や多国籍企業(MNCS)における労働者の権利に関する討論に積極的に関わってきた。
 インドのナショナルセンターは、さらにに統一して、インドが未だ批准していない4つの中核的ILO条約、すなわち第87号条約(結社の自由)、第98号条約(団体交渉)、 第138 号条約(雇用の最低年齢)、および第182号条約(最悪の形態の児童労働)の批准を国に強く要求してきた。また、すべての労働組合は、国内の、また国際的な労働力移動に強い関心を寄せ、家事労働者や移民労働者の権利保護措置に向けて活動している。インドの労働組合は、主にインドディーセントワーク国家プログラム(DWCP)の枠組みの中で、これらを含む問題に関してILOと緊密に連携している。

労働組合の団結強化
 2012年2月28日全国ストライキが実施され、インドのすべてのナショナルセンターが参加した。INTUC、インド労働者連盟(HMS)、女性自営労働者連合(SEWA)のみならずインド労働同盟(BMS)、 全インド労働組合会議(AITUC)、インド労働組合センター(CITU)、労働進歩連盟(LPF)、労働組合協同センター(TUCC)などもすべてストライキを支持した。報告によれば、産業や職業の域を越えてストライキに参加した労働者は1000万人以上に及ぶと推定される。

 労働者や労働組合がストライキで訴えた要求は以下の通りである。
1) 物価上昇抑制の具体的施策
2) 雇用保護を経営者への譲歩/奨励案に結びつけるための具体的施策
3) いかなる例外も免除も認めないすべての基本的労働法の厳格な実施および違反への厳しい懲罰措置
4) いかなる制限も伴わない未組織部門労働者への普遍的社会保障の適用および未組織部門企業のための全国委員会(NCEUS)や労働に関する国会常任委員会の勧告に沿う法的に十分な資源を備えた国家社会保障基金の創設
5) 国および州の営利公共施設からの投資引き上げの中止
6) 永続的な/長期に及ぶ債務返済労働の契約化の禁止および産業/事業所の正規労働者が手にする賃金と給付金を同じ率で契約労働者への支払い
7) 最低賃金法を改正して、区分表に関わらず普遍的に適用し、10,000ルピーを一カ月下回らない額で法定最低賃金を定着させること。
8) 一時金や準備基金の支払いや受給資格に関する全ての上限の廃止、チップの配分の増加
9) すべての人々への年金保証
10 )労働組合の45日以内の強制登録、並びに中核的ILO条約である第87号および第98号の即時批准

4.あなたのナショナルセンターと政府との関係について説明してください

 INTUCは中央政府のみならず各州政府とも、そして特に国民会議派が与党であるすべての自治体で良好な関係を維持している。INTUCは、労働に関する自律的な組織である。本報告者も、アルナーチャル・プラデシュ州政府のアルナーチャル・プラデシュ・ビル建設その他建設労働者福祉理事会の代表を務める。
 同時に、INTUCは政府による反労働者的な政策には同意せず、このような場合、政府からの圧力にはいかなるものであれ強く抗議している。労働組合の様々な要求や2月28日のストは、国会が権力を行使しようともINTUCは常に労働者階級の味方であることを反映している。

5.あなたの国の多国籍企業の進出状況について、また多国籍企業における労使紛争があればその内容についてお知らせください

 多国籍企業が利益追求を目的にインドに進出、定着していることは極めて明白である。人口が増え続け、消費者の好みが幅広いインドは、様々な新製品やサービスのための広大な市場を有している。政府の海外直接投資(FDI)政策は多国籍企業になんらかの恩恵を与え、その注目も集めた。企業の流入を阻止していた抑制政策は撤回され、国は海外投資を呼び込むことに多大なる関心を示している。
 インド政府の海外直接投資政策に加え、労働競争力のある市場や市場競争、マクロ経済の安定等が海外の多国籍企業をインドに引き寄せる主な要因となる。
 多国籍企業がインドを理想的なビジネスの目的地とみなす理由は以下の通りである。
  巨大な国内市場の持つ可能性
  FDIの利点
  労働者の競争力
  マクロ経済の安定性
 インドのような開発途上にある国が、海外の多国籍企業から得る一定の利点が存在する。それらは以下の通りである。
  よりハイレベルな投資の開始
  技術格差の縮小
  天然資源の真の意味での活用
  外国為替ギャップの解消
  基本的経済構造の強化
 限られた利点と共に、以下のような不都合も存在する。
  競争
  公害、環境への危険性
  税制上の優遇措置のみを目当てに進出する多国籍企業の存在
  天然資源の搾取
  雇用機会の欠如
  利益の分散、為替不均衡
  労働環境と労働条件
  意思決定の遅延
  経済的行き詰まり
 インドには3850の多国籍企業が存在すると推定され、それらはIT、ビジネルプロセスアウトソーシング(BPO)、電力、金融部門、医薬品、電気通信、旅行、食料、衣服、工学、石油、セメント、大理石、化学薬品、自動車等、広範な産業に及ぶ。