2002年 インドの労働事情

2002年10月2日 講演録

インド労働者連盟(HMS)
ビレンドラ ラシクラル シェラット

西インド鉄道労働組合/副事務局長

 

HMSの現状

 HMSの会長は、プラブ・ナラヤン・シン氏で、事務局長はウムラウマル・プロヒット氏です。プロヒット事務局長は、また、国際運輸労連(ITF)の会長であり、全インド鉄道連盟の会長であり、西インド鉄道労働組合の会長でもあります。HMSの組織人員は約500万人で、それは全インドの組織労働者の約20%を占めています。加盟産別組合数は18で、加盟単位組合数は2,807組合です。
 HMSは、1949年からICFTUに、1951年からICFTU-APROに加盟しています。

国内の状況

 HMSは政府と友好的な関係を維持してきました。しかし最近では、政府との関係が悪化しつつあります。幾つか理由をあげると、政府が、大規模な民営化を行なおうとしたり、また労働組合権という正当な権利を規定している労働法を経営者に有利に大規模に改正しようとしたり、あるいは労働者に対して不利な対応をするというような態度をとってきているからです。
 インドには、12のナショナルセンターがあります。HMSは、それらの他のナショナルセンターと良好な関係を維持しています。労働者階級の共通の利益のためにという大きな目的のために、それらの組織と協力しあっています。
 HMSはどの政党からも独立しています。ただし、我々と同じイデオロギーを持っている政党、労働者のためのより良い政策を打ち出している政党は支持します。
 インドの労働組合運動の歴史は長く偉大なものがあります。あまりにも長いので、ごく簡単に説明します。インドの現状では、ほとんどのナショナルセンターが、いずれかの政党の一部門になっています。HMSだけが、真の意味の政党からの独立を維持しています。これは、与党、野党にかかわりません。
 HMSは、1948年12月の創立大会のときに、政党から独立するという方針を宣言しました。

HMSの課題

 インドの労働組合運動は2つの課題を抱えています。一つは労働者の権利と利益を守ること。もう一つは、そのための基盤を確保・強化するということです。インドの労働組合運動は、政党に沿って分裂しており、インドの労働組合運動にとり問題ですが、それが現在、グローバル化により、その影響でこの状況がさらに悪化しています。インドにおける社会経済状況は、日に日に悪化していて、その結果、一般大衆、中でも特に労働者階級は大変な困難を強いられています。
 現在の一番大きな問題であり、また関連したさまざまな問題の原因ともなっているのは、なんと言っても膨大な失業と劣悪な労働条件であります。政府は加えて当然の権利である労働組合権を、いろいろな方法で我々から剥奪しようとしています。
 現在の労働条件を維持するために、世界のどこでも状況は同じだと思いますが、インドの労働者もまた、雇用を守るために必死に闘っています。経済は平均年率5%ないし6%で成長していますが、この成長には雇用の増加が伴っていません。労働者の購買力も上昇していません。物価上昇率は年平均で約9%です。生活必需品である食料、衣料、住宅等の上昇率は、さらに高くなっています。それから、大企業に所有されているものを含む約20万以上の事業体で経営が悪化しています。そのために、300万ないし400万の仕事口が、危機に瀕しています。
 インドの雇用労働人口は3億7,500万人です。そのうちで組織化された労働人口は4,000万人ですので、組織率は約9%です。現在のインドの政権は、24の政党から成る連立政権です。連立政権である「国民民主連合(NDA)」は、インド人民党(BJP)のシュリ・アタル・ベハリ・バジパイ氏を首相として率いられている。
 現在インドでは、地域政党、州レベルの政党が、中央政治に大きな役割を果たすようになり、それらの重要性が増してきています。それぞれの州においても、それらの影響力が高まり強化されてきています。
 政府が継続して直面している問題は、国境を越えて襲ってくるテロにどう対処するかという問題と失業問題です。現在の政治状況は、国民が政治家に失望している状況で、とりわけ労働者は、賃金及び給料所得者の利益というのは選挙前のスローガンにすぎず、一たん選挙が終わると忘れ去られてしまうということを実感しつつあります。
 インドでは毎日社会状況が悪化しています。10億人以上の人口を抱えている国として、厳しい問題は、失業、貧困、文盲、住宅等の問題です。農村部と都市部に住んでいる人々の所得格差は、日に日に拡大しています。ある統計によりますと、国民の約39%が貧困ライン以下の生活をしています。工業生産、税収、輸出は減少しており、株式市場も低迷を続けています。
 政府は民営化を、主に事業から資金を引き揚げる方法で行っています。農業部門では、農業及び農村部の社会基盤への公共投資がここ数年急速に減少しています。国内貯蓄総額、国内経済への投資総額は、ここ数年増加していません。少し明るい側面としては、国の外貨準備高がかなり改善していることです。国際収支も比較的余裕が出てきました。
 次に、HMSの行動方針でありますが、今までいろいろな問題にしっかりと対応してきました。そのための行動方針を立てました。それは非常に長いものですので、割愛いたします。

HMSの具体的な活動

 課題に取り組むために、2つの戦略を立てました。一つはHMSとその加盟組合は、これまでさまざまな大衆集会会議、デモ等の活動を組織してきました。これは政府の反組合的、反労働者的な政策に対抗するためです。
 もう一つの活動戦略は他のナショナルセンターとの共同行動の展開です。これは新経済政策に対抗し、それに反対するための行動です。これに関して、幾つかの抗議行動、集会などを共同で開催しました。ほかにもHMSではいろいろな活動方針を持っていて、それを実施してきました。その中で重要なものは、まず失業対策のためのいろいろな活動、それから公共部門の民営化に対するもの、児童労働に対するもの、未組織労働者の組織化に関するもの等があります。
 その中の幾つかについて、もう少し詳しく申し上げますと、HMSは10年以上にわたって、インドの憲法の中に、基本的な権利として、働く権利を組み込むための運動を行ってきました。これに関連して、大規模なデモを国会議事堂の前で行いましたし、また全国的にはがきを送付するキャンペーン、それから全国的な集会等を行ってきました。これはすべて、働く権利を各市民に与えることが必要であるということを市民全体に理解してもらい、その意識を高めるためであり、政党に対してもこの問題に注目してもらうためでした。
 現在の労働状況を鑑みて、今後もこのようなさまざまな活動、キャンペーンを続けていくことになると思われます。

インド全国労働組合会議(INTUC)
ジャグディシュ スリマリ

大理石・花崗岩等労働組合連盟/事務局長

 

INTUCの状況

 INTUCの会長はG.サンジーバ・レディー氏、事務局長はラジェンドラ・プラサッド・シン氏です。総加盟人員数は約800万人で総組織労働者の約25%に当たります。執行委員会の委員の数は51人で、単位加盟組合数は4,599です。32の州支部があり、29の産業別組織があります。ICFTU及びICFTU-APROに加盟しています。INTUCが支持している政党は、インド国民会議派です。
 インドでは賃金労働者の10%しか組織化されていません。90%は未組織です。その未組織労働者を組織化しようとしています。INTUCはサンジーバ・レディー会長の指導のもとに、労働者の正当な権利のために闘っています。

国内の状況

 他の国の労働組合の置かれた状況も、インドの状況と同じようなものであると思いますが、インドでは人口が日ごとに増えているにもかかわらず、雇用はそれに伴って増加していません。
 グローバル化および自由化の進行により、国内産業は大きな影響を受けています。高度な教育を受けても、仕事を見つけることができるとは限りません。大企業は希望退職制度を使って、労働者の人員削減を行なっています。失業は日に日に増加しています。非常に危険な状況であり、これがいつ爆発するかわかりません。
 インドのような開発途上国の労働組合運動は、政治的、経済的、社会的な危機に取り囲まれています。インド経済の中心は農業です。農業は完全に、季節風──モンスーンに依存しています。モンスーンは、常に不確実なものです。うまくいかないと、大変な問題を起こします。そして、貧しい人たちにとって、深刻な状況をつくり出します。
 インド社会の枠組みの基本となっているのは、多様性の中の統一です。米国で2001年9月11日に起こった同時多発テロは、世界中の経済に影響を与えました。インドでは、観光産業が大きな影響を受けました。観光産業に携わっていた約200万人の人たちが、失業を始め大なり小なり影響を受けました。労働人口の93%を占める未組織労働者は、世界の経済危機から直接的な影響を受けました。
 教育を受けた若者たちも、社会、政治、経済的な理由により、未来は全く不透明です。雇用されている労働者も、希望退職を迫られています。
 インドの1人当たり国民所得は先進国に比べて極めて低いままです。貧困は、多くの社会的問題の原因となります。約2億人の賃金労働者が、国の経済の様々な部門で働いていますが、その内の830万人だけが、民間部門の正規の職についています。約2,000万人は、契約労働者です。インドは諸外国に多くの特典を与え、また便宜を図り、そして安くて熟練した労働者を提供してきましたが、望むような外国からの投資は得ていません。私たちは真摯な努力をしていますが、その努力の見返りとして、いい結果が生まれることを期待しています。

INTUCの活動方針

 労働者に勤労文化を提供し、それによって最大限の工業化を達成するということです。そのため労働者が様々な能力を持てるように機会と・基礎的な訓練を提供していくことです。
 INTUCの一番よく知られている重要な方針ですが、それは建国の父であるマハトマ・ガンジー氏が望んだように、人口の60%を占める農村人口に雇用を与えることです。例えば家内工業、カーディ生産工業つまり衣料の生産工業において、自営業で雇用を得させることです。農業生産は季節風に左右されます。1年に一毛作、または二毛作だけなので、十分に余った時間があります。これらの余った時間を活用して、紡績とかカーディ織物とかの家内産業をつくり、またハーブ生産加工、手工業その他に雇用をつくり出して、追加的な雇用が得られるようにしたいと思っています。
 INTUCは、雇用創出に向けたさまざまな活動を推進しています。農村部では政府の援助を得て、情報及び技術の普及に努めています。訓練は受けているけれども失業している労働者に参加してもらって、インターネットカフェを運営したり、コンピュータートレーニングセンター、また農村部における国内長距離電話ブースを運営したりしています。
 INTUCは、農村部においてインフォーマルセクターの労働者に働きかけています。INTUCはボランティアを中心に様々な人々にお願いして、農産物栽培、家内工業、漁業、ハーブ栽培・加工、堆肥づくり、手工芸品の生産など、労働者を教育しています。それから、INTUC青年部も、元気で活力にあふれた若者が教育されるべきだと考えて、ベストを尽くしています。若者たちはIT、ホテル経営、手工芸、その他多くの分野において、大変顕著な成果を上げてきました。世界中でそれらの事業に対する需要が増えてきています。