1999年 インドの労働事情

1999年11月25日 講演録

ピジュシュ・チャクラボルティ
N・F鉄道労働組合/中央執行委員

 

 尊敬する理事長及び同僚、同志の皆さん、日本の重要で強力な労働組合組織の一つであるJILAFの皆さん、インドのナショナルセンターの一つであり、470万人の組織人員を擁するHMSにかわりまして、私から謝意を表したいと思います。JILAFの絶え間ないご努力のおかげで、日本とインドの労働者の間の友好のきずなは、日々強化されています。1974年にインドで起きた鉄道の大ストライキに対して、JILAFの関連組織は偉大な友愛精神を示してくださいました。この場をかりてお礼を申し上げます。

インドの基礎知識

 この尊い場で、私が代表している国はインドです。インドは広大な国で、サブコンテイネント(亜大陸)と呼ばれています。人口は1991年の国勢調査で9億4,600万人です。インドはヒマラヤ山脈の南側にある地域で、国土は328万7,263平方キロにわたって広がっています。政治的には連邦制をとっていて、それぞれの政府を擁する25の州、これは日本で言えば県に当たりますが、それを統一していて、中央にはニューデリーを首都とする連邦政府があります。国の議会は二院制で、中央政府を運営し、各州には州議会があります。インドは社会主義、非宗教共和国です。
インドの国民は多言語を話します。公用語はヒンディー語です。そのほかにベンガリー語、アッサム語、ウルドゥー語、タミル語、テレブ語、マラヤラン語及び英語などが使われています。
 約200年間の英国による統治の後、インドは1947年8月15日に自由を達成しましたが、そのとき保健医療や教育面でまだ大仕事を抱えたままの独立でありました。1991年の国勢調査による識字率は、男性で64.13%、女性で39.29%、平均識字率は52.21%でした。

インドの労働現状と問題点

 過去50年間に、我が国は急速な進歩を遂げましたが、労働人口の失業と不完全就業の問題は、より悪化してきています。1953年に50万人だった職業安定所に登録した求職者数は、1996年には3,700万人以上になっています。労働力人口は、全人口の37.46%とされています。そのうち77.75%は男性で、22.25%は女性です。組織されている労働者の労働力は、1,200万人です。1人当たりの年間平均所得は低く、1年に9,660ルピー、これは約225米ドルに相当します。
 インドにおける労働者のための社会保障は多様です。公務員はほとんど全員に年金制度がありますが、民間部門にはほとんどありません。公務員の一部は、政府が建てた病院で医療を無料で受けられ、残りの公務員は保険制度があります。この制度により、医療費の払い戻しを受けることができます。しかし非常に多数いる、いわゆるカジュアル・レイバーあるいはコントラクトレイバー、つまり非正規労働あるいは契約労働者と呼ばれている日給の労働者は、医療費の援助を受けられません。
 インド政府は、週8時間労働を規定したILO条約を批准しましたが、完全実施されていません。労働者は12時間あるいは16時間に及ぶ長時間働かされています。インドは労働者保護のため、多くの法律を制定しました。例えば工場法、最低賃金法、支払い法、契約雇用規制廃止法、賃金支払い法、労使紛争法、同一労働同一賃金法などです。しかしこのような法律を実施するための機構、制度には弱点が多く、多くの場合、時間がかかります。未組織部門の労働者にとって、裁判で救済措置を求めるのは、コストがかかりすぎるのでできません。
 インドの労働者は今、猛襲撃、猛攻撃を受けています。経済の自由化あるいは労働の柔軟化の名のもとに、今挙げたようなセイフティネットはめちゃめちゃになってきています。インドの企業と多国籍企業は、雇うのも首にするのも自由にできる労働市場をつくろうと、手を結んでいます。組合は、工場法の改正案に大変批判的であります。現在その法律では、女性労働者は午後7時から午前5時半までの就業は禁止されています。何千人もの労働者が割増退職金をつけた希望退職で離職する道を勧告されています。

HMSの運動と理念

 HMSは、国内で反労働的な法律が制定されないよう、必死に闘っていますが、政府と経営者が同じ波長なので、闘いは困難です。インド憲法の中に、働く権利を基本的権利として加えるため、HMSはこの10年間運動してきたことを、ここで皆様にご報告しておきたいと思います。HMSは毎年3月24日を働く権利の日としています。
 インドでは、経営者が両性(男女)の不平等を思うままに駆使しています。職場ではまだセクハラに対する効果的な是正措置がありません。インドの最高裁は、職場において女性をセクハラから守るため、指針を発表しましたが、経営者はあまり、あるいは全くこの問題に関心を示していません。
インドのGDPは1兆4,267億ルピーです。過去10~15年間のほとんどの年にGDPで5%以上の経済成長を維持してきましたが、雇用増加率は下がりつつあります。インドの経済は1992年~1996年の間、平均6.4%ずつ成長しました。この間、労働力は平均年率2.1%強、雇用は年率1.8%ずつ増加しました。HMSは、平和な世界のみが国家の繁栄を約束し、民主主義を保障でき、それが労働者の権利の行使を可能にするということを信じています。インドHMSは、亜大陸の主権国家であるインド、パキスタン、バングラデシュ及びスリランカが親密な近隣関係を維持し、人類の生き残りのために核実験を放棄するべきであるという考えを強く支持しています。

ジャガナタン
コインバトールデシヤ技術者・一般労働者組合/副委員長

 

インド労働事情の変化

 労働力は非常に急速に変化を遂げています。今日の労働人口は、より若く、教育程度が高く、技能も高く、そして高い野心を持った世代です。女性労働者も増えています。自動化と技術進歩、技術革新が進む結果、当然の結果として、ホワイトカラーの労働者が非常に急速に増えています。この新しい、より教育度の高い従業員の世代は、もっとやりがいのある仕事を求めています。つまり、もっと自己決定権がもらえるような仕事、そしてもっとチャレンジを感じられるような仕事を求めています。

インドの雇用情勢・組織率

 インドの人口は9億4,500万人です。政府はこのような異常な人口増加を抑制するために最善の努力をしてきましたが、この問題はまだ現在も続いています。推計によると、西暦2000年末までに人口は10億に達するとされています。この傾向が続くと、来世紀になっても現在の失業の問題は深刻な状態が続くであろうと考えられます。ILO労働統計紀要によりますと、インドにおける雇用の一般水準は2,794万1,000人とされています。これは人口のたった2.96%です。そして失業の一般水準は3,722万3,000人、つまり人口の3.94%でありました。しかしこれらの数字というのは、政府が組織労働者数と登録失業者数をまとめて、それをデータとして発表したものをもとにした数字です。したがって、もし貧困欄下の人口を考慮に入れてこの数値を再検討いたしましたら、さらに記録に入っていない数が出てくるということが推定できます。
 労働人口のたった9%のみが組織化されています。残りの91%は農業労働者、未組織労働者、家内労働者、そしてインフォーマルセクター(非正規部門)の労働者であります。彼らは常用雇用者ではありません。したがって彼らの状況というのは想像にあまりあるわけであります。

近代化がもたらす問題

 最近設立された企業は、あまり仕事を創出していません。これらの企業は最新設備を整えていますので、ある限られた範囲内でテクノクラートの仕事を提供することができます。一方で、これらの新しい企業がハイテクの専門家の需要だけを持っているのに対して、もう一方では、現在のような厳しい競争市場において生き残れる能力のないような古い企業は赤字に転落、あるいは閉鎖に追い込まれていて、それが人員整理を非常に大量につくり出しています。このような状況の結果、大量の雇用が失われつつあります。
 厳しい失業問題の結果、失業者は反社会的な活動にかかわるようになってきています。というのは、この人たちは正当で正直な雇用を得て、生活をする道がないからであります。この結果、社会は危機的な状況に追い込まれています。
 失業及び赤字企業というのが、現在の組合にとって主な課題であります。近代化の結果、労働者は機械にとってかわられています。自由化という経済改革の結果、仕事が削減され、失業が増えています。これは世界的な傾向であります。労働組合はできるだけ企業を救おうと努力をしています。企業が閉鎖される場合には、組合は労働者に支払われるべきものを確保するため、迅速に動いています。
ですが、このような急速な変化が組合に一種の停滞状態をもたらしているということは否定できません。これらの組合は、現在の利潤追求競争についていけません。しかも組合はもともと財政問題を抱えていました。そこで複数の組合が全国レベルでも地方レベルでもあるという状況は、組合にとって悪い影響を与えていますので、強力な力を持った単一のナショナルセンターが望ましいと考えます。

INTUCの組織と方針

 インド全国労働組合会議の若木は1947年5月3日に植えられました。この若木はそれ以後、巨大な木に成長いたしました。その枝はすべての州、そしてすべての国の産業に広がっています。最初200の組合、全組織人員57万5,003人で誕生したINTUCは、この52年間に成長して主要な労働組合センターとなり、現在では27の州支部、30の産別組織、そして5,000の組合に組織された600万人の組織人員を抱えた組織に発展しています。
 INTUCの方針は次のとおりです。まず企業内で従業員が社会パートナーとしての地位を持てるように、その地位を確保する。次に搾取を終結する。そして生活できる賃金を闘い取る。そして住宅と医療サービスを提供する。従業員の福祉のための権利意識を広める。そして労働条件と環境を健康によいものにする。INTUCはその所属する労働者がよりよい生産を求めて努力すること、労働者が統一を守ること、労働者が自分たちの義務を自覚すること、そして労働者が資本の正当な分配のために努力することを望んでいます。INTUCは女性組織を設立し、彼らに正当な代表権と重要性を与えました。INTUCは未組織の人たちを組織化すること、及び児童労働の廃絶に向けて、さまざまな努力をしております。まるで聖戦を戦うように努力をしております。そして会議、セミナー、ワークショップなどを開催しています。

今後の課題

 労働組合及び中央、州の政府は、組織化されていない農村部に住んでいるインドの労働者たちの利益と生活を改善するために、まだまだ長い道のりがあります。この人たちの賃金と環境は、組織化された都会の労働者の人たちの生活水準に遅れをとらないように、また政府が発表したグローバル化及び自由化政策の影響からも、この人たちの生活水準を高めるために非常に劇的な対策をとらねばなりません。
 そして、組織化されている労働者の間でさえも不均衡な成長があります。これらも根絶しなければなりません。政府はさまざまな分野でいろいろな目標を掲げていますが、そのためにもこの不均衡を是正しなければなりません。というのは、例えば銀行及び保険産業における組織労働者たちの賃金は非常に急速に上昇していますが、一方で繊維、工業技術などの傾向は最悪の状況であります。経営側としては、さまざまな経済的な要求に歩調を合わせるために、それについていくために、労働者の賃金をカットしようと必死になっています。
 政府は今後、今申し上げたようなさまざまな不均衡を除去するために、実施可能な計画を作成していく必要があると考えます。