2012年 バングラデシュの労働事情

2012年6月8日 講演録

バングラデシュ・サンジェクト・スラミク連盟(BSSF)
Ms. シャジェダ・ベゴム

 

1.労働情勢(全般)

 バングラデシュは、約1億5000万の人口を擁する後発開発途上国の一つである。現在5600万人と推定される労働力の75%が直接的または間接的に農業部門に従事している。工業部門に従事している労働力は12%に過ぎない。失業率は約18.5%と推定されており、年齢構成をみると、若者の占める割合が大きい。限られた土地に対する人口密度は異常なほど高い。
 農村地域では土地の不平等分配や過度なまでの細分化の問題が生じている。このような問題は、貧困緩和や教育・社会意識の向上に徹底的に取り組むことを通じて改善が期待される。21世紀、バングラデシュは経済成長の加速化、人材開発および自助努力をめざしている。それらの目標達成に向けたあらゆる取り組みの中核を成すのは、貧困緩和や農村開発、女性の社会参画促進、技術的に急速に発展するグローバル社会のさまざまな挑戦に敢然と立ち向かえる教養ある健全な国づくりであろう。
 これまでバングラデシュは、国内の権力闘争の蔓延による政治的不安定の問題に取り組んできたが、国の主要産業であり外貨の稼ぎ手である縫製品(RMG)業界が労働争議に巻き込まれたことで状況は悪化した。企業オーナーや政治家は当初、さまざまな陰謀説を流すことで労働者の不満を覆い隠そうとした。しかし、この問題は産業界内部にある労働者搾取に深く根差しており、容易に消え去りはしなかった。
 バングラデシュは、主に欧米への繊維製品輸出を通じて年間70億ドル近くを稼ぎ出している。 これは国の輸出収入全体の約70%を占める。縫製品産業は全国に約4000の事業所を持ち、約250万人の労働者を雇用しているが、その90%は貧しい女性である。バングラデシュが汚職や権力闘争の蔓延により批判される度に、成功物語として常に引き合いに出されるのがこの産業である。
 縫製品産業の暗い側面として、多数の事業所が老朽化した建物内に配置されていることが挙げられる。2005年4月、ダッカ郊外で数百人もの女性労働者を収容していた建物が全壊した。機械作業に従事していた64人が圧死、84人が負傷した。さらに悪いことに、これらの建物の多くは非常用消火器を備えていない。今年2月24日には、繊維工場の火災で50人以上が亡くなり、約100人が負傷した。
 産業界のリーダーは、政府から支援や給付金を受ける点に関して団結をするが、労働者の福祉の面倒をみる気持ちは持ち合わせていない。バングラデシュ縫製品産業界のいくつかの職場では、労働者への賃金支払は2ヵ月遅れとなっている。時間外労働が課されることが多いが、大抵の場合、労働者はタダ働きを強いられる。インフレの上昇により賃金価値は低下したが、産業経営者に言わせればインフレ制御は政府の任務である。
 被服産業労働者は常に何らかの形で搾取を受けている。労働組合によれば、被服産業労働者は低賃金や長時間労働に憤りを感じている。バングラデシュの被服工場の賃金は、月20ドルという低さである。劣悪な労働条件のため、繊維産業では労使間の衝突が頻発してきた。労働者は低賃金や劣悪な労働条件への苦情を訴え、しばしばデモを行なってきた。
 バングラデシュ労働問題研究所(BILS) の調査によれば、バングラデシュの被服業者や輸出業者は、1997~2005年にかけて労働争議を鎮めるために調印された4つの協定を未だに実施していない。労働争議が生じる度に問題解消のみを目的に企業の所有者は労働者と協定してきたと多くの労働組合幹部は考えている。協定を実施する代わりに、企業所有者は2001年に発布された労働者最低賃金に関する政府通達に反対する要求を行なってきた。
 工場所有者もまた、2000年11月に工場設備監督省によって出された24項目提案を実施しなかった。同省は、各種労働法に触れる被服産業の24種の不法行為を指摘した。さらに同省の綿密な調査によって、各種労働法の不履行が労働者の不満や怒りを招いていることも判明した。フォーマル経済が日々縮小し、インフォーマル経済が拡大しつつある現在、この国の労働環境は満足いくものではないと考えられている。

2.労働組合が現在直面している課題

 差し迫った問題として、フォーマル部門およびインフォーマル部門、ならびに他の活動分野において労働組合を結成する権利が確立されるべきである。問題点をいくつか列挙する。

  • 労働者への脅迫
     労働者が労働組織を結成し、それに加盟しようとするとき、使用者が干渉する。
  • 一部の使用者による労働組合の支配
     一部の経営者は労働組合の管理・運営に干渉する傾向がある。これらの経営者は、労働組合幹部を買収し、労働者を犠牲にしていく。これにより労働組合の交渉力が弱体化する傾向がある。
  • 非能率的な組合幹部
     労働組合幹部は、労働組合運動上の適切な訓練を受けていないために、時に役に立たない場合がある。また、関係する当局や組合員と誠実に連絡を取り合っていない可能性もある。
  • 労働組合員の無関心
     無関心は、労働組合員が労働組合加入によって絶対的保護が与えられると甘んじている状況で生じる。そのような組合員は、非常時を除き組合活動には参加しない。
  • 組合員の数の少なさによる脆弱性
     小規模であるために力が弱く、組織の問題を管理できない労働組合も存在する。このため、労働組合は、例えばストライキ資金の不足のために、いかなる影響力も発揮することができない。
  • 労働組合指導者による汚職
     裕福な使用者が労働組合指導者や政府代表者を買収するケースが存在する。労働組合員の利益が効果的に代表されえなくなるので、労働組合の問題をさらに悪化させている。
  • 政府の官僚主義
     政府は労働組合員の提起する争議に関する交渉の実施に時間をかけ過ぎである、と労働組合は感じる時がある。これは、政府の交渉機構の階層制における官僚主義が原因で生じている。
  • 政府の介入
     ストライキなど、ある種の組合活動を違法とすることによって、政府が労働組合に対して自由に介入することが出来る。
  • 個々の労働者は、使用者に比べて微々たる交渉力しかもたない。労働者は、賃金その他の雇用条件に満足しない場合には、職を離れることができる。しかし、仕事に満足できないからと頻繁に転職を繰り返すのは現実的とは言えない。このことは大きな経済的情緒的負担となって労働者に重くのしかかる。より良い方法は、使用者に対して一致団結して行動を取ることのできる労働組合へ加入することである。労働組合を通じてストの圧力をかけることは、使用者に労働者からの労働条件改善要求を受け入れさせる強力な手段である。つまるところ、組合の力である!

3.その課題解決に向け、どのように取り組もうとしているのか

 2006年『全国労働法』は施行されたもの、その内容はILOの提言とも一致しておらず、満足のいくものではない。労働者共闘プラットフォーム(SKOP:14のナショナルセンターが参加する共闘組織)は、政労使三者の協議を通じてこれらすべての問題を緩和、解決するよう政府に提案した。ILOバングラデシュ事務所が支援に乗り出し、ITUCも協力している。このようにして、問題解決に必要な取り組みが実施されている。

4.あなたのナショナルセンターと政府との関係について説明してください

  バングラデシュ・サンジュクタ・スラミク連盟(BSSF)は、公認された全国連盟である。政府と良好な関係を維持しており、重要プログラムに政府機構を関与させ、労働者の福祉の改善を目指すBSSFの取り組みへの理解を促すために多彩なプログラムに政府の幹部を招待している。

5.あなたの国の多国籍企業の進出状況について、また多国籍企業における労使紛争があればその内容についてお知らせください

 国内にはいくつかの多国籍企業が存在する。それらは世界の他の国と同様に活動している。しかし実際のところ、これらの多国籍企業は、労働者の権利を実現するのではなく、営利追求に走っている。主要な多国籍企業は団体交渉を行なっていない。多国籍企業プログラム(EMP/MULTI)は、企業社会の労働基準や原則を促進するILOの主要ツール「多国籍企業と社会政策に関する原則の三者宣言(MNE宣言)」の推進や検証に責任を負う。このプログラムは、ILO理事会の多国籍企業に関する小委員会を通じて、ILO加盟国から直接指導を受ける。
 このプログラムは、企業や政府、労使団体にとって有益なツールとしてMNE宣言の意識を向上させること、またそれを効果的に活用して、その原則が共有化されることをめざしている。
 バングラデシュ政府は、あらゆる場所のさまざまな活動領域における労働者の権利推進を最優先事項に据えている。

バングラデシュ自由労働組合連盟(BFTUC)
ラフィア・ カーン

執行委員・女性委員会事務局長

 

1.労働情勢(全般)

 バングラデシュは人口過密国である。そのため、労働事情は満足のいくものではない。失業問題がその一例である。バングラデシュではフォーマル経済が日々縮小する一方、インフォーマル経済は徐々に拡大している。国内労働法規は全労働者を対象としているわけではない。2006年バングラデシュ『労働法』は、ILOの国際労働基準に基づいていない。批准された国際労働基準でさえも、国内法規に十分に反映されていない。労働者の団結権や団体交渉権が十分に尊重されているとは言えない。

2.労働組合が現在直面している課題

 団結権が被服産業、農業、行政機関、セキュリティーサービスの分野で尊重されていない。
 団体交渉権も無視されている。
 2006年バングラデシュ労働法は、労働組合の改正提案に対して改正されていない。三者構成の機関も労働争議交渉のための時宜を得た協議を行なっていない。

3.その課題解決に向け、どのように取り組もうとしているのか

 労働者共闘プラットフォーム(SKOP)は、問題の緩和や解決を目指し、要求書を政府に提出している。ILOとITUCもこの活動を支援している。

4.あなたのナショナルセンターと政府との関係について説明してください

  私たちのナショナルセンターは登録された全国連盟である。したがって、政府とは何とか良い関係を保っている。

5.あなたの国の多国籍企業の進出状況について、また多国籍企業における労使紛争があればその内容についてお知らせください

 多国籍企業は労働者の権利を遂行することなく利益を追求するためにバングラデシュで活動している。多国籍企業では団結権や団体交渉権は認められていない。バングラデシュ政府は、開発や輸出加工区(EPZ)といった名目で、多国籍企業に特別な優先権を与えている。

バングラデシュ自由労働組合連盟
ナズミン ナハール ニルポマ

女性委員会副書記

 

1.労働情勢(全般)

 被服労働者の抗議行動の拡大、労働者のデモに対する警察の対応、労働組合権の侵害、また最近起こった被服労働者のリーダーAminul Islam(アミヌル イスラム)が殺害事件されたことを受け、ここ1年労働情勢は緊迫している。14のナショナルセンターの共闘組織SKOPは、政府に9項目の要求を提出した。労働大臣とSKOP幹部が協議を行なったが、合意には至らなかった。SKOPの提出したこの9項目の労働者の要求を実現することが、バングラデシュの労働組合や労働者にとって今最も重要である。9項目の要求には、すべての労働者を対象とした全国最低賃金の設定、バングラデシュ『労働法』2006の改正、労働者の労働組合結成や加入の自由の承認、などが含まれている。SKOPは現在、各工業地帯で抗議集会を組織している。
 最近、国有化された部門の労働者は、それぞれ24時間と48時間に及ぶ二度のストライキを実施し、2010年からの賃金引上げの要求を実現した。
 2006年バングラデシュ『労働法』を仕上げるために、労働組合と使用者は最近政府と会合を行なった。政府はこの改正労働法を公表することになっているが、まだ実現していない。労働者は、この法律には反労働者的な条項がいくつか盛り込まれているので、できるだけ早く公表するよう要求している。

2.労働組合が現在直面している課題

労働組合は直面する多くの課題を列挙する。

  • 労働組合の乱立
  • 未組織労働者の組織化
  • 2006年バングラデシュ労働法の改正
  • 労働組合の脆弱な財政基盤
  • 女性労働者の労働組合参加の低迷
  • 労働組合の政治化
  • 労働組合権の侵害
  • SKOPの9項目の要求

3.その課題解決に向け、どのように取り組もうとしているのか

 バングラデシュの労働組合運動の統一に向けたイニシアチブの一環として、1つの統一体に統合されずとも共闘していく組織として、1982年にSKOPが設立された。SKOPは、政府との協定が結ばれた1982年から1984年にかけて労働者の要求を実現するために歴史的役割を果たした。SKOPはバングラデシュ民族主義党(BNP)、アワミ連盟政権双方と協定を結んだ。14のナショナルセンターが連携し、近い将来における労働組合運動の統一をめざしている。
 SKOP幹部は、政治指導者と話し合い、労働組合の活動に介入しないことで合意した。SKOPは9項目の要求を政府に提出したが、合意に至っていない。この9項目の要求が満たされれば、多くの問題や課題は解決されるであろう。
 労働組合は、労働組合運動に関する組合員の能力を高めるため、男女を問わず教育や訓練の機会を提供している。

4.あなたのナショナルセンターと政府との関係について説明してください

 バングラデシュ自由労働組合連盟(BMSF)は、政府およびいかなる政党からも独立した存在である。BMSFは政府と正式な関係を結んでいるが、政治的なつながりはない。

5.あなたの国の多国籍企業の進出状況について、また多国籍企業における労使紛争があればその内容についてお知らせください

 労働組合の結成が認められていない輸出加工区(EPZ)で活動を行なう多国籍企業が存在するが、労働組合はEPZの労働者に労働組合結成が認められるよう要求している。労働組合権や給付金の問題を巡って労働争議がしばしば発生している。