2015年 韓国の労働事情

2015年10月15日 講演録

韓国労働組合総連盟(FKTU)
キム ジョンヨン (金 靜娟)

総務局長
イム ジェボム(林 栽範)
産業安全保険本部産業安全局局長

 

I 韓国の労働事情

1.ナショナルセンター韓国労働組合総連盟(FKTU)の現況

 韓国最大のナショナルセンターである韓国労総の正式名称は、韓国労働組合総連盟(FKTU)である。その設立の目的は、社会の改革と労働者の権益の向上にある。その設立から今日までの沿革概略は、次の通りである。まず1946年に、その前身である大韓独立促成労働総連盟が結成され、その後1961年に韓国労働組合総連盟(FKTU)として再結成され、現在に至っている。そして昨年、2014年に第25代キム・ドンマン委員長、そしてイ・ビョンギュン事務総長による新執行部が誕生している。
 FKTUの組織概要は次の通りである。加盟組合員数は約82万人、構成産別は金属労連、化学労連など、26の会員組合となっている。地域組織は、ソウル、釜山など16の市や道(日本でいう都道府県)にある本部と、54カ所の地域支部によって構成されている。この他に附属機関として中央教育院、研究院、法律院などがある。なお、FKTU事務局職員は約120人となっている。

2.韓国の労働組合組織率の現況

 韓国の労働組合の組織率は、1989年の19.8%をピークに大きな減少を続け、2013年には10.3%にまで落ち込んでいる。組合員の総数は184万人、その中でFKTUが82万人、韓国全国民主労働組合総連盟(KCTU)が62万人、その他が40万人ほどとなっている。こうした組織率の継続的低下の大きな要因は、やはり非正規雇用の増加、サービス業の増加にあるとみている。

3.政労使大妥協の概要

(1)大妥協推進の経過

 大妥協推進への発端は、パク・クネ政府による労働改革という意思によるもので、2014 年8 月から論議がスタートした。この論議の主な内容は、以下5 点に集約される。まず1点目として、労働市場の二重構造の問題(正規賃金100→非正規賃金54.4)を解決すること。2点目に、賃金や労働時間、また定年の問題を解決すること。3点目に、公労使のパートナーシップを構築すること。4点目に、セーフティーネットの整備を行うこと。5点目に、その他の構造的な改善とその関連事項についての法制化を図ることが主な内容である。
 その中で最も重要な論議となったのは、1点目の労働市場の二重構造問題の解決についてであった。この論議が始まってから、政府は一方的に構造改善のための5つの推進方策を発表するところとなった。その内容は、1つ目に、非正規の使用期間の延長、および派遣対象を拡大していくこと、2つ目に、休日労働を含めて週52時間制にする労働時間短縮を図ること、3つ目に、定年の延長および賃金ピーク制の連動を義務化すること、4つ目に、賃金体系を改編すること、および5つ目に、一般解雇および就業規則の不利益な変更要件を緩和するために行政が介入すること――などの内容であった。
 この最後5つ目の内容については、FKTUは反対している。その理由は、就業規則の不利益変更要件の緩和は、労働組合の過半数を超える同意がなければできないルールを逸脱するものであり、また整理解雇や労働条件の改悪手段に利用される恐れがあるからである。労働側は、この政府側が打ち出した内容に反対し、公労使による三者対話の委員会から脱退することとなった。2015年5月には、政府を糾弾する大規模な集会が行われ、続いて7月にはゼネストへの賛否投票も行われ、賛成率89.8%という高率での可決となった。そして7月から無期限座り込みに突入し、47日間にわたるテント座り込みデモ闘争を実行した。
 しかしながら、そのままにすれば政府の一方的な推進計画が決まってしまう恐れもあり、やむなく労働組合は8月に公労使委員会に復帰することとなった。当然ながら、こうした対応に組合員からの反対や産別、例えば金属労連、化学労連、公共労連などから猛反対があったものの、最終的には追認に同意することになった。そして、9月15日に政労使大妥協は調印の運びに至ったのである。

(2)政労使大妥協の主な内容と意義

 政労使大妥協の主な内容と意義は次の通りである。まず1つ目に、若年層の雇用の拡大に努力するということで合意できたことである。この中身は、世代間が共に働ける雇用状態を支援しあうという趣旨で、賃金ピーク制により減少した人材の空きを若い人で補っていこうということである。2つ目に、非正規労働者の格差の解消ということに関しては、共同の実態調査を行い、また意見を反映させて、立法化させようということで合意をみたことである。3つ目に、労働時間の法が及ばない死角地帯の解消を狙いに、5人未満の事業所の適用外を改善する法案をつくる合意ができたことである。4および5つ目に、一般解雇指針では、政府の一方的な施行を行わないようにすることや、就業規則の変更も、一方的にできぬよう、制度発展委員会をつくることになったことである。
 政労使大妥協の主な内容は上記の通りであるが、いま少し補足しておけば以下の通りである。[1]勤労時間を週68時間から52時間に短縮するとともに、賃金構造を号俸制、つまり勤務期間が長くなれば給料が上がっていく形から、成果型に変えるということで合意したこと、[2]非正規雇用に関しては、契約期間を2年から2プラス2の4年にすることについて協議することで合意したこと、[3]失業手当の金額と期間を増やそうということになったこと、[4]一般解雇ならびに就業規則の不利益変更については、これから先も中長期的に引き続き話し合いをしていこうということである。

(3)政労使大妥協の結果についての評価

 今回のこの公労使大妥協の結果を評価すれば、最悪の状態を防ぐという意味で、結果的にこの時点における最善の策がとれたということになると考えている。実際のところ、一般解雇や就業規則の不利益な変更に関して、今の時点で政府、使用者側の主張を完全に阻止するには力不足であった感が否めない。ただ、現時点における政府側の一方的な推進を阻止することができ、これから社会的にもこういう議論を繰り広げていこうというまでに持っていけたことに、意義を見出したいと考えている。

II 韓国における労使紛争事例

1.紛争当該組合の概要

 紛争当該組合(D労働組合)は、上部団体が韓国労総の化学連盟に属している。所在地は、韓国仁川広域市と忠北鎮川との2カ所にある。この労働組合の設立は1988年だが、当該会社自体(D社)は1963年に設立されている。業種は研磨紙の生産を行う製造業である。組合員は約140人で、小規模事業所に属している。
 D社の事業の現況は、2013年を基準にして資本金が843億ウォン、負債が338億ウォン、売上額が1135億ウォン、営業利益が97億ウォン、そして会社の実質的な収益と言える純利益が2億ウォンとなっている。こうした数字を見る限り、中小企業であるこのD社の営業状況はとても良好だと判断される。

2.労使紛争の経過

 労使紛争の経過は次の通りである。2014年の3月に5回にわたって交渉が行われたものの、すべて決裂した。4月にはこの交渉決裂を受け、労働争議調停を地方の労働委員会に申請している。韓国は日本と同様、一度この調停を経ることなしに紛争に入ることができないルールになっているからである。その後、争議行為についてゼネストを行う賛否の投票をし、87%の高率で可決されることとなった。6月には結局、中央労働委員会の調整が中止されることになり、6月9日から27日まで、順法闘争が実施されることになった。この順法闘争とは、法律を守る範囲の中で残業もしくは時間外労働を拒否するということを意味している。そして、6月30日には全面ストライキに突入することになった。
 その後、7月に入り、FKTUの委員長が新しく就任した労働部の大臣と面談することになり、この機会にストライキのこれまでの実態について報告が行われ、またその解決のための話にも言及することとなった。このことは、政府や使用者側にとって大変大きなプレッシャーとなったことは確かである。10月になり、労働組合側(化学連盟)と使用者側(韓国経営者総会)とに交渉権が委任され、何回もの交渉が行われ、11月には賃金と団体協約の締結が図られるに至った。この間のストライキは実に121日にも及ぶところとなった。
 この長期間ストライキにより、D社は生産量が50%減少し、やむなく代替人材の投入をしなければならなくなった。このため使用者側は、民事また刑事上の損害賠償訴訟に打って出ることとなった。これは、労働組合あるいは労働者側には大きなプレッシャーとなった。このような使用者側の対応に対し、FKTU本部と中央法律院、化学労連などから組織的な対応を講じることになった。さらに、中央法律院では、訴訟に対する損害にも備えた。こうした一連の労働組合側の動きに対し、使用者側は組合員・従業員の家族の携帯にメッセージを送り、早くストライキをやめて復帰をしたらインセンティブを与えることまでささやく工作をしかけてきた。確かに使用者側の誘惑には心を揺らす要素がありはしたが、労働者側は、最後まで団結と闘争ということに心を一つに紛争を続けたのである。

3.労使紛争の主な争点と妥結の結果

 ここで労使紛争の主な争点と妥結の結果について触れておきたい。
 まず主な争点についての1つ目は、定期的ボーナスを通常賃金の中に含むとしたことである。一般的に通常賃金とは、定期的に一律的に払われる賃金のことを指し、延長手当や休日手当の算出根拠として必要なものである。2つ目は、組合員範囲の拡大、および時給の引き上げである。3つ目は、労働時間の短縮である。そして4つ目は、今回のストライキの最も主たる原因となった、組合員に対する人権侵害についてである。その内容は、管理者たちが現場で組合員に暴言を吐くことである。
 次に労使紛争の妥結の結果がどうなったかについてである。1つ目は、定期的に払われるボーナスまた勤続手当、資格手当を通常賃金の中に含むことになった。2つ目は、労働時間が短縮されることになったこと。すなはち、月に226時間の労働時間が209時間に短縮されることになった。3つ目は、労働組合員の人権を侵害するようなことが二度と起きないよう、再発防止について話し合うことを決めたこと。4つ目は、ストライキ期間中に得られなかった賃金を、成果給という形で保障されることなどが決まったことである。
 121日間にわたる厳しい労使交渉であり、一部の組合員・従業員が途中で離脱することもあったが、結果として成功裏に終えることができたのは、ほとんどの組合員が最後までこのストライキに参加したというのが大きな要因だったと考えている。