2014年 韓国の労働事情

2014年12月5日 講演録

韓国労働組合総連盟(FKTU)
李 玉男(Mr. LEE Ok-nam)

韓国労働組合総連盟(FKTU)組織局部長

 

1、韓国の労働情勢

 韓国の労働組合の組織率は、1800万人労働者のうち10%となっており、第1のナショナルセンターである韓国労働組合総連盟(FKTU)の所属が約90万人、第2のナショナルセンターである民主労働組合総連盟(KCTU)の所属が約60万人、第3のナショナルセンターである国民労働組合総連盟は、2日前(2014年12月3日)にFKTUに吸収統合された。残りの組合は上級団体がない、または幽霊労組(名前だけの組合)と言われている。われわれのFKTUは26の産別組合から構成されており、委員長の任期は3年。
 韓国の労働情勢の背景となる経済動向については、2012年の成長率が2%、2013年の成長率も2.8%。2014年の成長率は3.5%が目標だが、第3四半期に入ってから下方修正が行われている。特に今年の第2四半期の実質経済成長率が0.5%に過ぎず、1年6ヵ月ぶりの最低値となった。内需の低迷は、いわゆる不況型の貿易黒字を生んでいる。2011年の第2四半期以降、消費財と資本財の輸入が減少しており、数字の上では貿易黒字となった。特に国家の負債1000兆ウォンと家計負債1000兆ウォンというこのダブルの負債が内需低迷の決定的な原因になったとして指摘されている。家計支出の急激な萎縮が内需の悪循環につながり、状況が深刻化している。
 今年6月を基準にして、就業者の数は11ヵ月ぶりに最低値を記録した。韓国では青年失業という問題も深刻となっている。青年というのは18歳~35歳のことで、この青年失業率が2014年1月の時点で8.7%であったものが、今年10月の時点では10%へ上昇している。
 OECDの資料から勤続年数を見ると韓国は5.3年と最も短く、このことは、労働者の転職が多く、働く意欲も低いということになる。また、年間の勤労時間は2092時間で、OECD加盟国の中で3番目に長い長時間労働となっている。これは労働者の生活の質が大変低下しているということを意味する。
 また、社会賃金(個人に支給される福祉支援をすべてお金に換算し合算したもの)の水準も、OECDの中で最低となっている。韓国の社会賃金は、国民年金、子供の保育料の補助金、失業手当、健康保険サービスなどを金額に換算して合算したものである。社会賃金と企業賃金の合計が100%となっているが、OECDの企業賃金の平均(59.3%)に比べ、韓国の企業賃金は大変高い水準(87.1%)となっている。逆に社会賃金は12.9%にすぎず、OECDの中で3分の1の水準にすぎない。この意味するところは、社会のセーフティネットが整っていないということを示している。
 非正規労働者の現状は、全労働者1824万人中837万人で、その割合は46.1%になる。非正規労働の形態では、有限契約が50%、派遣やサービスが20%、特殊雇用が10%、時間制と臨時職が合わせて20%となっている。非正規労働者の割合は、2007年3月時点では、55.8%であったから下る傾向にあるが、賃金勤労者2人に1人が非正規労働者であり、その不安定な雇用形態は、韓国社会の安定と持続可能な発展に最大の危険要因となっている。
 政治情勢および主な労働争点では、パク・クネ政権下で一方的な政局運営が加速化し、政治葛藤が高まり社会全体に対する不安が広がっている。セウォル号事故の真相究明のため特別法を制定することにし、11月からの国会では特別調査団を設置することになった。また、最高裁判所のあいまいな判決以来、個別企業の労使間では通常賃金(基本給と手当の基準)の紛争が続いている。
 労働争点の主な4点を紹介すると、第1が韓国電力や韓国ガス、鉄道、電気通信などの公共部門の労働組合に対する政府からの攻撃で、政府が個別企業単位の団体協約に介入して、労働者の労働条件を後退させている。パク・クネ政権は、前のイ・ミョンバク政権の失政と国家負債をすべて公共部門の労働組合の責任によるとしている。
 2番目は、公務員年金の大幅削減が推進されていること。政府は一般国民の年金よりも公務員が高い年金を受給していることを口実に、約1000万人の公務員年金削減計画を発表した。公務員労組は当然反発をして、話は中断されている状況である。
 3番目は、政府は労働基準法の改正を試みようとしている。労働時間を増やして賃金をカットする法案を国会に提出した。
 4番目、政府は2015年の経済の方向性について発表したが、主な柱として、正規職の解雇の柔軟化を掲げている。そして新しい形である「中規職」を新設するとしている。「中規職」なるものは今回初めて接する造語で、正規職と非正規職の中間を示す新しい用語である。

2.2014年度 FKTUの運動方向と課題

1)運動の方向-“闘争と交渉の並行を通した現場活動の復元および強化”

○現場活動の復元および強化
・専従者賃金支給禁止によるタイムオフ制度*(勤労時間免除制度)の導入で改悪された労働法施行後、萎縮した労働組合の現場活動が復元した。
*韓国では長年、労働組合専従者の賃金を使用者が支払う慣行が続いてきた。『労働組合および労働関係調整法』の改正法が2010年1月1日に成立し、7月1日から労組専従者への賃金支払いが禁止された。ただし、「勤労時間免除(タイムオフ)制」と呼ばれる例外規定が設けられ、労組専従者がある一定の勤労時間免除の範囲内で、賃金を削減されることなく、労使協議・交渉、苦情処理、安全衛生活動、労組の維持・運営活動などに従事することが認められた。タイムオフの上限時間は、雇用労働部に設けられる公労使各5人の委員で構成する勤労時間免除審議委員会の決定に基づき、雇用労働部長官が公表する。タイムオフ制の上限時間は3年ごとに見直すこととされている。

○闘争と交渉の並行
・通常賃金、賃金体系の改編、労働基本権、労働時間の短縮、公共部門構造調整・民営化など、労働懸案に対する、資本と政府の波状攻勢への対応
・「闘争」に基づいた現場動力の確保および選別的、弾力的な交渉戦略の並行

2)重要課題

○労働基本権の保障
・専従者・複数労組問題、特殊雇用労働者*の労働者性確保、『公務員労組法』など労働関連の争点法案に対する、年内再改正を目標(9月以後定期国会の際に全面再起)。
*特殊雇用労働者:学習塾教師、ゴルフキャディー、代理運転、ダンプ・トラック・宅配・バイク便運転、建設機械操縦、保険設計、エキストラなどを指し、独立した個人事業者とみなされ、勤労基準法の保護から除外される。労災保険や雇用保険の対象にもならない。

○通常賃金拡大および賃金構造の安定性を確保
・大法院(最高裁判所)の曖昧な判決後、現場では混乱が続いている状況。
・勤労基準法上、通常賃金の範囲と判断基準を明文化する法改正推進。
※韓国大法院の通常賃金に関する判決は、(独法)労働政策研究・研修機構のHPを参照(http://www.jil.go.jp/foreign/jihou/2014_2/korea_01.htm

○一方的な構造調整の阻止
・世界経済に対する不安が大きくなるにつれ、各産業界では先制的、攻撃的構造調整を行う
・公共部門の共同連携闘争の活性化および対政府闘争の活性化

○労働時間の短縮および労働市場柔軟化の対応
・中小零細事業場の長時間労働改善および賃金維持問題を提起
・賃金削減なしの労働時間短縮は、労働現場からの絶対的要求である。
・非正規職縮小、差別撤廃、労働市場の二極化を解消するための賃金労働条件の改善と良質な雇用の創出のための闘争

3.FKTUの対応戦略

○組織の内部的強化と外辺拡大
・民主的な意志決定過程を強化
・攻撃的組織拡大および類似産別の統合
・産業別連盟を産業別労組へ転換*
*産別連盟を産別労組へ転換することについて
産別労組には、団体交渉権と団体協約締結権を産別労組の委員長に与えられ、使用者団体と産別の本協約を締結する。産別労組の委員長は、個別企業労組の委員長に対し交渉権を委任することができる。産別の本協約の内容は、雇用の安定、最低賃金の引き上げ、女性の労働条件の保障、非正規労働者に対する環境改善、労働組合の条件を産別と共通の協約とするなど。
 企業別労働組合は、産別の本協約の内容を最低基準として企業別の協約を結ぶことができる。韓国では産別の労働組合の形態が多様化しており、大産別労組、小産別労組、地域別産別労組などのほかさまざまな業種をミックスさせた産別労組がある。現在の韓国では、産別労組の転換率は約30%。現在のFKTUのキムドンマン委員長は、産別労組への転換に強い意欲を持っている。従ってFKTUでは、組織発展特別委員会を設置して産別の統合を活性化していく取り組みを行っている。

○対国会、対政府の交渉力を強化
・労働関連法・制度改善の合理的代案提示
・政府の反労働政策に対する強力な歯止め、および政策樹立段階からの制度的
関与の拡大

○市民社会団体との連携強化
・社会的セーフティネットの拡大、経済民主化の実現、政治・経済・社会的課題に連携した闘争前線を形成
・労働議題の社会的拡散および政策共助強化