2012年 韓国の労働事情

2012年5月25日 講演録

韓国労働組合総連盟(FKTU)
ハン・キルワン

中央法律院組織局長

 

1. 韓国の労働情勢

 現在、韓国は新自由主義追求という政府の偏向的な国政運営により、成長第一主義、市場万能主義が横行する無限競争体制の状況下にある。その結果、韓国社会は雇用と所得の二極化や勤労貧困層の拡大を招き、社会不安や不満が増大している。ほとんどの労働者や庶民が雇用不安はもとより、保育・教育や医療、住居、老後など、不安で辛苦に満ちた生活を続けている。
 韓国社会に二極化と不均衡を招いた根本的原因は、「資源と富の偏在およびその継承」に集約される「非公正性」にある。非公正性は各種制度や政策・慣行などを通して拡大再生産され、憲法の保障する労働三権や法律の保障する労働者の権利は形骸化された。
 このような社会に蔓延した非公正性を打破し、人間らしい労働に基づく良質な生活が保障されるためには、先進的かつ対等な労使関係の構築と、差別無き労働市場が必要である。労働者が賃金だけで安定した生活を営むことができるように、社会保障体系が普遍的原理に基づき運営され、資本と労働の均衡が形成される必要がある。

2.労働組合が直面する課題

 韓国の労働組合は、現在の労働状況をふまえ対等な労使関係を構築し、雇用安定を図ることが重要である。さらに、大企業労働者と中小企業労働者、元請労働者と下請労働者、正規労働者と非正規労働者間――などの不平等構造を改善し、格差を軽減する必要がある。
 また、組織率は年々減少しており、労働運動が頂点を極めた1989年の19.8%をピークに、以後減少の一途をたどり、2010年現在では10.4%と、20年間で半分の水準に下落した。FKTUの最新のデータでは、その後さらに9.8%にまで落ち込んでいる。
 このような状況は、労働運動の力ばかりか労働組合の代表性をも損なう原因となっており、労働運動の力を回復し、代表性を強化するためにも、未組織労働者の組織化に取り組んでいくことが重要である。

3.課題解決のための対応策

 このような課題を解決するため、FKTUは法律や制度の改善を最優先事項として取り組むこととしている。
 第一に『非正規職関連法』を改善し、非正規職から正規職への転換を使用者に対して促す制度や政策の実現を図り、整理解雇要件を厳しくする必要がある。これは、「雇用の柔軟化」という美名の下、使用者が一方的に行なう無分別な整理解雇や非正規職の大量生産の事態を防ぎ、さまざまな差別解消に至る道でもある。
 『非正規職関連法』は、短時間労働者や派遣労働者の保護をめざし2007年に制定されたが、実際には労使双方に不満がある。例えば、「非正規職として2年が経過すれば無期契約に転換しなければならない」とする点は評価するものの、実効性に問題がある。また、無期契約に転換しても、その他の労働条件を転換する義務はなく、均等待遇は実現していない。有期契約満了直前の解雇問題は、『非正規職関連法』導入直後には頻発していたが、最近は雇い止めの問題は少なくなった。FKTUは、法律の改正にあたり、有期契約に制限条項を設ける規制を導入したいと考えている。使用者側は対象職種の拡大や2年の期間延長を望んでおり、労使ともに改正を希望しているが、すぐには改正されないと見ている。
 また、タイムオフ制度、交渉窓口一元化、特殊雇用労働者や教員・公務員の労働三権未保障問題など、労働組合の活動を制約する労働法を改正する必要がある。これは、労使関係の自律性担保と交渉権確保、すべての労働者の労働三権保障などを可能にし、ひいては労働運動の発展や組織力強化の土台となるものである。
 以前は労使間で自主的に決定していた専従者賃金に対して、2010年の労働法改正によりタイムオフ制度が導入された。この制度は、組合員100人に対して1人、年間2000時間(最大15人まで)の専従者の賃金を企業が負担する制度であるが、複数労働組合の原理に合わないと問題になっている。
 個人事業主とみなされ法的に労働者性を認められていない特殊雇用労働者は、レミコンやダンプなどの傭車運転手(繁忙期などで車両が不足したときに、他の運送業者からトラックやドライバーを一時的に借り受けて、配送してもらうこと)、保険外交員、家庭教師、学習塾講師――などである。FKTUでは運転手などは建設産業関連の組合員に加盟し、KCTUでは産別を作り活動を展開しているが、労働組合としての承認は得られていない。労働法の改正に当たってはこのような面も取り入れる必要がある。
 労働組合の産別化への動きは5~6年前から進んでいる。しかし、賃金交渉は依然として企業別組合が中心である。また、2011年7月の『労働組合および労働関係調整法』の改正で、1企業に複数労働組合が認められることとなった。1つの企業に複数の労働組合がある場合、過半数の組合員を有する労働組合が団体交渉の権利を持ち、他の労働組合には交渉権が無い。1つ企業に過半数の組合員を有する労働組合が無い場合には、交渉窓口を一元化するため、複数の労働組合が共同代表を選出して交渉団を結成する必要がある。

4.ナショナル・センターと政府の関係

 現政府の発足前FKTUは、当時大統領選候補だったイ・ミョンバク大統領と政策協約を結び、大統領当選の一助となり、ハンナラ党(現セヌリ党)と友好的関係を構築していた。しかし、現政府が協約に反し、反労働者的政策や法改正により、労働者の権利を制約し続けてきた。これに対し、FKTU新執行部は2011年2月、政権与党との政策連帯を破棄し、政府とは非友好的関係に陥った。現在、労働者の利益になる労働法改正をめざし、野党の民主党と連携中である。
 今年12月に大統領選挙が予定されているが、イ・ミョンバク政権は高所得者を優遇し、国民の不満は高まっている。与党セヌリ党では、パク・クネ氏が最有力視されているが、大統領候補になるかは未知数である。問題は野党に有力候補がいない点である。無所属のアン・チョルス氏の人気が高く、アン・チョル氏の動向が候補者選出結果に影響を与えることになる。

5.多国籍企業の進出状況、労使紛争状況

 韓国に進出している多国籍企業は、製造、IT、金融、流通、サービスなど、ほぼ全産業にわたっている。2008年の韓国進出多国籍企業は9612社である。
 多国籍企業の労使紛争は、主に投資資本回収の過程で起きる大量解雇に関連して発生している。このような事例としては、米国系自動車部品生産業のギブス・コリア・ダイキャスティング (2012年4月)や、フランス系企業のパレオ空調コリア (2009年10月)などがあげられる。
 これらの事例のように、労働組合としては多国籍企業により厳格な管理体制が必要だと考える。