2011年 韓国の労働事情

2011年6月3日 講演録

1. わが国の労働情勢(全般)

1)賃金の動向と展望

 2010年は本格的な景気上昇効果により、超過給与と特別給与の引き上げ幅は各々13.8%,11.3%と二桁の上昇となったが、定額給与は4.6%に止まった。
 これは、基本給または通常賃金のような給与の引き上げ幅は低いが、延長労働や休日出勤、成果給のような変動制賃金が大幅に上昇したことを意味し、企業が景気回復以降、増加した消費需要を超過労働に頼る長時間労働体制で対応していることを意味する。
 2011年度の賃金は、景気鈍化を理由に、2010年に比べ低水準の引き上げ率を記録する可能性があり、年初より公共料金や生活必需品の物価は上昇しており、実質賃金はむしろ減少すると見られる。
 賃金水準以外に、成果・職務優先の賃金体系の柔軟化攻勢が提起されそうで、最低賃金引き上げも難航するものと予測される。賃金の安定性を確保すべく、月給制への転換、熟練給的賃金体系への改善等を戦略的に提起することが必要である。

2)二極化と不平等の深化

[1]非正規職の賃金格差の拡大
 2009年の非正規職賃金水準は正規職対比46.9%、前年対比で0.3%下落し、賃金格差がさらに拡大する様相を示している。
[2]性別による賃金格差の深化
 性別、雇用形態別賃金格差は、さらに深刻な状況を呈し、男性正規職賃金を100とした場合、女性正規職賃金は66.8%、男性の非正規職賃金は48.4%、女性非正規職賃金は38.7%となり、格差が甚だしい。男女雇用形態による差別が非正規職の女性に集中している。
[3]OECD加盟国中、低賃金労働者の比重が最大
 所得階層構造が中産階層中心の釣鐘型構造から、貧困層の多いピラミッド型に急速に転換し、それとともに貧困層の増加による副作用も増大している。
 2009年度だけでも、中間所得層に該当する世帯所得の半分未満の貧困層では134,725世帯も増加し、韓国の貧困層は史上初めて300万世帯を超えると見られる。扶養家族まで含めれば、貧困層人口は700万人に達すると推定される。
 OECDの資料によれば、全賃金労働者の中で、中間レベル賃金の3分の2以下の低賃金労働者の比重が、韓国では27.6%(2007年基準)を示し、OECD加盟国中、最高となっている。
[4]労働者間賃金不平等もOECD加盟国中、最悪
 統計庁「経済活動人口付加調査」を分析した結果、上位10%と下位10%の時間当り賃金格差は、2001年4.81倍から2005~06年は5.4倍に悪化、2010年8月現在も5.25倍を記録している。
 OECD加盟国中、所得格差が最大で知られる米国と比べても、さらに悪化した状態である。

3)「改正労働法施行第2ラウンド」としてのタイムオフ2次戦

 87年以降、韓国の労働組合運動は、歴史的に3回の大きな激変期を経験した。1987年の政府と労働の対決は、労働側の圧勝に終わったが、1998年の金融危機でのいう厳しい環境下、労働側は使用者に主導権を奪われ、一方的攻勢を受けた。最後の3番目の激変期に当る2010~2011年は、一方的な政府側の労組法改正と施行により、新自由主義的法制度が整備され、労働側の力量が大きく損なわれ、減退に至ることが予想される。
 2010年に引き続き、2011年も、タイムオフ問題は、労使関係の最重要課題の一つになることは間違いない。団体交渉の有効期間が終了すれば、単位労組は、今年の交渉ではタイムオフを適用しなければならず、複数労組施行問題と併せ、混乱と衝撃が予想される。
 現行労組法上のタイムオフ制度は、ヨーロッパと異なり、有給労組活動時間の上限を定めており、これを雇用労働部傘下の行政委員会で規定するという例のない制度である。特に、同制度が、通常の勤務形態、単一事業所をモデルに設計されており、全国的な分布図、交代制勤務等、事業所の特性が反映されないのが問題である。また、タイムオフ適用を単位事業所に制限し、上級団体の派遣者活動は根本的に認めていない。

4)2011年7月から複数労組制時代の到来

 複数労組制に関する様々な側面から、労働組合が受ける否定的な影響としては、団体交渉権の制約、交渉窓口一元化による紛争の激化、労組間の組織的混乱、使用者の不当労働行為の急増、団体協約破棄等が予想され、現場に大きな混乱をもたらす恐れがある。
 複数労組制の施行は、ILOの中心的基本条約の一つである「結社の自由保障」の側面からは、団結権の完成を意味し、これは韓国労働基準の先進化を意味する。また、労組のない企業での労組設立や労働組合の組織拡大、組織率伸長のための契機とすることもできる。

5)労働柔軟化と労働法改悪攻勢

 政府の雇用戦略基調は、12月14日、パク・ジェワン前長官が明らかにした「2011年度雇用労働部の主要業務」にも、そのまま反映された。
 雇用労働部の事業の中身は、柔軟勤務の拡大、派遣業種の拡大等、勤労基準法、非正規職法、勤労者派遣法等、労働法の改悪プロジェクトと言える。
 特に、昨年11月18日には、立法を予告した勤労基準法改正(弾力的勤労時間制を通年導入、休暇使用促進制の拡大、勤労時間貯蓄制の導入)、労働委員会法改正、また明らかになった「雇用戦略2020」には、派遣業務範囲の拡大、非正規職使用期間延長まで含まれており、2011年度は連鎖的に労働法改悪が推進されるものと思われる。

2、労働組合が現在直面する課題

1)労組専従者の賃金禁止と複数労組制施行による現場の混乱と労使間の葛藤

 改正労組法施行により、2010年7月1日から、専従者に対する給与支給が全面禁止され、代わりに勤労時間免除制度が施行された。また改正労組法の団交適用過程で単位事業所の労使間でせりあい、紛糾の頻発が予想される。
 一方、2011年7月1日からは企業単位複数労組制施行により、単位事業所で小規模労組が乱立し、上級団体間競争がはげしくなるなど、相当の混乱発生が予想され、その対応・準備が焦眉の急となっている。

2)組織率の停滞と産別転換の遅延

 90年代以降、継続して下落傾向にある労働組合組織率は、2004年以降10%台に止まる。二大労総は、非正規職、公務員、事務職の組織化等、未開拓労働者の組織化を推進してきたが、公務員の組織化以外は、刮目すべき成果は挙がっていない。
 また、既存の産別労組の交渉や闘争過程における限界が見られるが、新しい産別労組に転換する動きも停滞気味である。
 このような既存の労働組合組織の力量的限界により、世界的経済危機や政府の強圧的労働政策に対し、防御的・守勢的対応に終始する様相も見られる。

3、この課題解決のための対応策

1)労組法全面再改正のための集中闘争展開

 専従者の実質的な活動や安定した組織活動の基盤を確保し、複数労組下における交渉権確保のため労組法全面再改正闘争を以下の通り展開する。

  • 総力闘争支援団の構成
  • 交渉支援と現場闘争支援
  • 法律支援と相談

2)労働基本権死守のため、一方的構造調整を阻止

 短時間労働、変形労働の拡大など柔軟勤務制の導入阻止、週休無給化、整理解雇条件の緩和や不当解雇金銭保障制、就業規則変更など勤労基準法改悪を阻止する。
 高齢者減額適用、修習期間延長、地域別差等、宿泊飲食費控除等、最低賃金法の改悪阻止と最低賃金の現実化を図る。
 労働法改悪と労働柔軟化攻勢、公共部門構造調整に対し、総連盟次元で統一戦線を構築し、全組織を挙げて総力対応する。
 対政府、対使用者、対国会交渉において、労働基本権死守のために、対話と闘争を並行活用し、労働・市民社会団体と連帯強化する。

3)雇用安定

 社会的雇用の創出、定年延長の法制化、長時間労働体系の改善を通して大規模雇用の創出、青年雇用割当制の導入を図る。

4)2011年の複数労組施行に備え、組織拡大及び強化

 類似産別の統合、産別労組転換等の複数労組に備え、組織の拡大・強化戦略を樹立する。
 傘下単位労組の民主的運営と組織内部の結束力強化のために「組織管理と指導指針」策定する。

5)政府の一方的な公企業先進化阻止

 個別・組織別、孤立的・分散的対応をやめ、公共部門の現場や産別に労総中央が常時協働する体制を構築する。
 政府のいわゆる「公企業先進化」政策の虚妄性を批判するとともに、研究、討論会、公聴会等、多様な方法で、労組の立場からの先進公共政策を提示する。
 公共性強化と良質の雇用創出のために、公共部門の雇用拡大を図り、対政府、対国会活動を強化する。

6)賃金・労働条件の原状回復による実質賃金の獲得と賃金格差の解消

 2009年度の譲歩した交渉の結果もたらした賃金・労働条件を原状回復する。
 賃金体系の単純化、基本給比率の拡大等、賃金構造改編と生活賃金の獲得を図る。
 一方的な賃金ピーク制・職務給制導入を阻止し賃金の安定性を確保する。

7)社会公共性や社会安全網の確保と二極化の解消

 雇用拡大や家計所得の補填等により民生回復を図る。
 教育、医療、住居等、社会公共財に対する政府の財政支出を拡大し社会の安全網を拡充する。

4、ナショナル・センターと政府の関係

 韓国労総は、2007年の大統領選の際、ARS総投票を通じ、現政権与党のハンナラ党の李明博大統領候補と政策協定を締結した。

政策協定の内容は

  • 韓国労総は、2007年大統領選でハンナラ党・李明博候補の支持。
  • 李明博候補は、当選後、韓国労総の10大政策要求、産別連盟の政策要求に関する答弁公約を履行。
  • 定例的な政策協議会を開催。
  • 李明博候補の当選以降、2008年から与党・ハンナラ党との政策協議会開催。
  • 2008年 : 政府の公企業先進化政策に関する協議を中心に運営。
  • 2009年 : 非正規職法改正、専従者賃金・複数労組等、労働に関するを協議。

 韓国労総は、ハンナラ党との政策協定を継続維持、労働懸案について協議を行いつつ、政府の「親企業・反労働」政策に対する闘争も併行して実施する。
 2009年下半期、政府とハンナラ党が一方的に労組専従者賃金禁止、交渉窓口一元化を前提とした法改正を推進、韓国労総と政府の関係は急速に冷却した。
 韓国労総は、政府やハンナラ党が、韓国労総はじめ労働界の強い反発にも関わらず法施行を強行、今年2月、イ・ヨンドク新執行部発足を契機に、ハンナラ党との政策協定を破棄、全面的対政府闘争に出ることを表明した。
 にも関わらず、韓国労総は、「国民とともに歩む社会改革的労働組合主義」を旗印に、労使政三者主義に基づき、労使問題をはじめ様々な社会問題を解決すべく、労使政委員会、最低賃金委員会、国民年金基金運営委員会、雇用保険委員会等、様々な社会的対話に主導的に参加している。

5、多国籍企業の進出状況、同労使紛争状況について

1)多国籍企業の進出

知識経済部によれば、2011年現在、外国人投資企業数は15,158社である。
 1997年、IMF危機以降、本格化した外国企業の韓国進出は年ごとに増加し、2006年をピークに減少傾向にむかったが、2010年には多少増加した。
 産業別分布を見れば、サービス業が全体の75%を占め、製造業は23.9%、サービス業の中でも、卸・小売業が全体の49.24%に達し、次いでビジネスサービス業が10%を上回る。
 外資企業売上高は、2007年に国民経済に占める比率が10%を突破、特に製造業の外資企業比率は13.2%に達した。ただし、2008年には、世界的経済危機により、輸出部門の成果指標が下落している。

2)労使紛争

 2011年4月現在、闘争中の外国人投資企業は、民主労総所属の7事業所である。
 ※ポレシア、パーカー韓一油圧、3M、双龍自動車、KMH、パレオ空調コリア、外換カードの7社。
 韓国に進出している大部分の外資企業は、超国籍資本の利害により、整理解雇や廃業、構造調整等、雇用不安を助長し、使用者の地位にある超国籍資本が生産関係維持に執着しないため、紛糾がしばしば極端化している。
 外資企業の労使関係実態調査の結果、外資企業が韓国で経営活動を行う際、最大の障害は、行政手続きや政府サービス不足(19.7%)との結果となっている。
 長期的な事業計画を決定する際、労使関係を考慮する企業の割合は75%、その中で労組がある企業の場合、その比率が88%に上昇する。
 2000~2006年の間、韓国の1人以上事業所の年平均勤労者増加率は2.5%、外資企業の雇用増加率は3.7%、164,000余名の純雇用が創出されたことになる。
 外資企業が韓国企業の平均より雇用創出効果が大きく、雇用安定性も高いだけに、外資企業で労使紛糾が発生した場合、外国資本投資の減少と国家イメージ失墜により、国家経済に与える影響が大きいため、対話や妥協の努力が必要といえる。