2006年 韓国の労働事情

2006年5月17日 講演録

韓国労働総連盟(FKTU)
キム ヨン ミョン

FKTU組織局長

 

 今、韓国労働総連盟(FKTU)にとって最大の悩みは低い組織率と、大企業と中小企業による偏りである。ナショナルセンターは韓国労働総連盟(FKTU)と韓国民主労働総連盟(KCTU)がある。2004年度末現在、両組織合わせた組織率は10.6%、組織対象総数1、500万人中、153万人が組織されており、この中でFKTUの組織率は5.4%、組織人員は78万名。1989年度・組織率19.8%のピーク以降、現在に到るも毎年下落基調にあり、組織率向上は宿願とする最大の課題である。組織構成は、500人以上の大企業労働者組織率85%の一方、全労働者の3分の2を占める50人未満の中小企業では、僅か0.6%。加えて、韓国では全体の労働者の56%程が非正規職で、その組織率はわずか3%にすぎない。私たちは先ず非正規職分野の組織化に全力を集中している。そのため、組織活動家養成、地域基盤労働組合の活性化、小規模産別労働組合の統合、また企業ごとに異なる労組慣行の改善など、多様な方策を採っている。
 2番目の課題は、韓国においても企業別労使関係が基本的な枠組みであるが、その中でも極度の分権化や、分裂化した要素がある。賃金・所得不平等問題は、2004年度調査によれば、OECDの中で一番格差が大きい。これは、韓国の労使関係が産別体制ではなく企業別体制で、組織率が低いところから起因するものとみている。解決策として、企業別体制から産別体制への転換などについて今努力している。
 3番目に韓国独自の問題として、自律的労使関係への政府による介入・干渉があり、行政権執行や法的強制によって労使間の問題を強制的に解決しようという傾向が強く残っている。その代表的な例が、労使関係先進化法案で、労働者の立場から見れば、この制度は既存の労働条件低下とこれを欺瞞するものであり、当該条項を改善するよう要求している。
 4番目は、非正規職保護立法である。非正規職が急速に増加しており、彼らは非常に劣悪な状況に置かれているため、法案内容改善要求とともに、本問題に対する誠意の無さを批判し、担当労働部長官更迭を要求してゼネストを決行した。しかし、現在に到るまで政治的利害関係のため、この問題はまだ解決されていない。
 最後に韓米FTA締結問題では、これが労働者、農民、製造業、その他のさまざまな分野の人たちに悪影響を及ぼすおそれがあるため、FKTUと諸市民団体はFTA締結に反対し、総力を挙げて闘っていく。

チョウ キ ホン(曹基洪)
FKTU 労働安全衛生研究所 局長

 

 労災現況と問題点、最近発生した職業病の実態、FKTUの産業安全・保健活動の内容について報告をしたい。2005年度末統計では、労働災害者総数は8万5、000人、うち死亡者数が約2、500人。1日では7名死亡、また240名が何らかの形で労働災害に苦しんでいる。ただし、これは労災保険給付対象とする政府統計なので、実際には隠ぺいされた件数が更に多くある。
 ILO各国労災事故死亡推計・労働者数比較によると、韓国では10万人当たり約10名で先進国の3倍の水準にある背景にある問題点は以下の通りである。(1)建設業と製造業の墜落、挟まれ事故などの従来型の事故死亡数が高く、予防可能な従来型の事故が繰返し発生。(2)事業主に対する処罰が非常に軽い。大部分は軽い罰金刑で、執行猶予/宣告猶予の例も多く、実刑を受けるのは殆どの場合、当該企業の役員・経営者ではなく、現場の所長/安全管理者。(3)50人未満の零細事業者の災害が全体の70%である。(4)非正規職/不法滞在外国労働者など産業安全・保健上恵まれない立場の労働者層における労働災害が増加している。(5)労働災害深刻化にもかかわらず、経済界/政府は産業安全・保健に対して、むしろ規制緩和を行っている。
 最近の職業病としては、不法滞在労働者の集団的職業病発生と筋骨格系疾患による職業病が急激に増加している。
 韓国労総の安全活動の概要は以下の通りである。(1)産業安全・保健規制の復活および関係制度改善闘争の一環としての共同キャンペーンを展開。これは事業主の処罰を強化し、「企業殺人法」制定をめざすもので、一例を挙げれば、一昨年、労災死亡多発事業の殺人企業の名簿を作成、マスコミに訴えるとともに、当該企業には「殺人企業証書」を進呈した。(2)労働者の健康・保健確保のための教育を継続的に実施。小学校から児童安全・保健教育義務化のための共同対策委員会を設置して活動を推進。(3)労働現場の作業環境実態調査のための産業環境研究所の設立・運営。(4)CSR関連で産業安全分野に対する評価のための研究活動推進等々。

チン ヒ ジュン(陳煕貞)
FKTU書記局部長

 

 最近、韓国では女性の労働権確立ということで、仕事と家庭の両立支援に対する問題が政策課題として登場している。
 女性労働市場の恒常的問題としては、「女性の経済活動参加率」が低いことが挙げられる。理由は25歳から34歳の女性が出産、育児のため、労働市場から一時退場し、育児期間を経て再び労働市場に復帰するというキャリアの断絶による。
 OECD30カ国のうち、韓国女性の経済活動参加率は24位である。
 1990年代、女性の社会進出が一番高い増加率を見せたが、2005年度現在では3.7ポイントの増加にとどまり、これは就業女性に対する出産・育児支援政策の効果があまりなかったことを示している。
 現在韓国も低出産、高齢化社会が急ピッチで進展しており、これには女性の生涯過程の変化が指摘される。出生率はOECD加盟国の中では最低で、これは価値観の変化とともに、所得、雇用の不安定、また子供の教育、養育費にかかわる負担増、経済的な負担が主な要因として挙げられる。この状態が続いた場合、社会は高齢社会になり、生産人口の絶対的な減少を経て、社会扶養が大きな負担になる。
 仕事と家庭の両立支援政策の中には、出産奨励政策、出産に関する就業女性支援政策があり、就業女性支援策としては、産前産後休暇、育児休職制度がある。  現在、産前産後休暇・給付に対する国家負担増や、90日間の有給・保護休暇とともに、妊娠4カ月以降に発生した流産、早産・死産の場合は出産とみなし、産前産後休暇を与えている。また育児休業制度活性化のため、代替人材採用奨励金や育児休職奨励金の支援も拡大している。
 出産休暇、育児休職制度には、仕事と家庭の両立支援という観点からは、次のような問題点と限界がある。(1)対象は男女両性に拡大されてはいるが、就業女性が仕事と養育の二重負担することを前提にしており、出産休暇/育児休職を女性対象だけの制度にしないためには、別の制度的な措置の準備が必要。(2)家族的な責任の範囲を非常に狭い範囲で捉えている。すべての人間は家族の一員であると同時に、個人でもあり、したがって、労働者であるとともに、家族の構成員、また地域社会の一員としての生活が保障されるべきである。
 韓国労総は低出産時代の対策として、政府に次のような要求案を出している。
(1)次世代育成のための支援拡大策、(2)信頼して預けることができる育児インフラストラクチャーの拡大、(3)家庭と仕事を両立できる労働環境の醸成、(4)妊娠、出産に対する社会的責任の強化、(5)出産、家族融和的な社会文化の醸成等々。
 現在、韓国労総の女性家族部は種々の制度要求活動を活発に推進しているが、さらに保育政策の公共性の強化、より良質の保育サービス改善を要求している。

イ ウン スク(李恩淑)
FKTU光州地域法律相談所 副所長

 

 韓国複数労組時代における韓国労働運動の現況について話したい。
 複数労組については、ごく限られた断片的経験はあるものの、来年からは法的に全面実施され、全く新しい経験となる。複数労組問題は企業による専従者の賃金支給禁止条項とあわせて議論されてきたが、それはまた、産別労組化とは切っても切れない関係にあるため、こうした全く新しい環境に適応するのは、私たちにとって容易ではない。
 関係法律規定は、1997年、労働組合及び労働関係調整法制定にあたり、複数労組禁止条項を削除し、事業及び事業所単位の複数労組許可の時期を2002年1月1日に予定したものの、2001年の労働関係法改訂に伴い、2006年12月31日まで猶予期間を延長したもので、2007年1月1日からいよいよ本実施される。
 1997年の労働法制定以降、複数労組制の施行に伴う、団体交渉の窓口一本化法案に対する議論は本格的になされてきた。しかし、交渉窓口問題以外にも多くの問題が噴出すると予測している。この問題は労使双方にとってはある意味ではいい機会になると思う反面、次に挙げるような点で、混乱と危機をもたらすのではないかという心配もある。
 企業別労働組合の環境にも大きな変化が発生し、企業内部の複数化現象、使用者側の不当労働行為の変化、紛争解決制度の変化などに加え、さまざまな葛藤、あるいは上部団体の創立、ショップ制の変化、団体交渉拒否、支配・介入の多様化などの問題を生み、労働組合活動の周辺環境が大きく変化する。また、対立的な労使関係にある事業所では、経営側に立つ労働組合設立が図られ、系統が異なる第2の労組は非難の声を意識して前に出ないこともある。また他の労組設立の可否に関係なく、正統性をめぐる競争は激化するし、地域別に工場を持っている場合は、複数労組設立の可能性が非常に高くなる。