2001年 韓国の労働事情

2001年2月26日 講演録

キム・ジョントゥク
韓国労働組合総連盟福祉事業本部本部長

 

国内経済の状況

(1) 経済成長

 2000年度における産業生産は、20%前後の高い増加率を記録しましたが、9月以降は半導体価格の下落や内需不振によって、増加基調に陰りが生じ、景気の先行き総合指数も増加率が鈍化して、今後の景気低迷を示唆するものとなりました。そのうえ生産鈍化の反面で、生産材の在庫は2000年下半期以降、半導体を中心に、急速に増加しつつあります。

(2) 消費と投資

 民間消費は交易条件の悪化に伴う実質購買力の弱まりや、景気下降に伴う消費心理の萎縮等により、第3四半期中は、対前年同期比5.7%の増加にとどまりました。卸・小売業と内需要消費資材の出荷など、消費関連の諸指標によると、このような消費鈍化の傾向は、最近になってさらに拡大していると考えられます。
 設備投資は、対前年同期比で第3四半期中も32.0%の高い増加率を示しましたが、勘定調整済み前期対比では第2四半期から、既に減少傾向があらわれています。建設投資もまた、第3四半期中に対前年、、同期比3.5%減少しましたが第1四半期マイナス7.0%と第2四半期マイナス4.7%に比べると、減少傾向は鈍化しました。

(3) 輸出入と国際収支

 2000年度における輸出は、海外需要の鈍化、輸出単価の回復遅れ、国内の生産損失等で、10月以降、増加基調が大きく崩れました。輸入は原油価格の上昇等で、原資材並びに資本を中心に、高い増加率を記録しましたが、10月以降は増加率が大きく鈍化し、それも内需要よりは輸出用の輸入がより大幅な鈍化傾向を示しました。これにより経常収支は輸出の鈍化にもかかわらず内需の萎縮等で輸入増加の勢いが大きく鈍化したのに支えられ、毎月10億ドル前後の黒字規模を記録しました。

(4) 物価

 6月以降、大幅な上昇傾向を示していましたが、10月に入って下落傾向に反転した消費者物価は、11月に入ってもなお、対前月比で0.4%下落しました。これにより昨年の11月現在、消費者物価の対前年同月比上昇率は2.6%を示しています。月間中の消費者物価が前月よりも下がったのは公共料金や家賃を中心とする、サービス価格が上昇基調を続けたものの、農畜水産物価格が加工食品等の季節的供給が増加したことによって大幅に下落し、企業製品価格も、一部品目の割引販売、一部油類製品の値引きなどによって下落したことに起因します。

労働動向

(1) 雇用

 2000年10月現在の失業率は3.4%、失業4者数は76万人でした。これは為替危機以降の最低記録となります。このような失業関連の指標は、1999年前半にピークに達して以来、持続的に下落・安定化の傾向を示していました。ところが11月3日に、整理対企業の発表。11月8日の大宇自動車の不渡り処理、さらには2001年2月までの金融並びに公共部門の第2次構造調整終結予定発表などがあり、2001年初頭までに多数の失職者が発生することが予想されていました。事実その後の経過を見ますと、11月の3.6%▲79万7,000人、12月の4.1%▲89万3,000人、そして今、2001年1月は、ついに4.6%▲98万2,000人に達しました。これは2月20日の統計庁の発表によります。
 今、100万人失業時代か?というようなことが取り沙汰されているところです。統計のなかには、冬期であることによる建設業就業者の減少と、大学生による求職活動の増加という季節的要因も含まれています。
 就業者の増加率は、為替危機の直後である1988年から99年の第1四半期までは、大幅のマイナスを記録していたのが、1999年、、第2四半期に入ってプラスに転じ2000年昨年第4四半期以降は、4%ないしは6%と高い数値を示しました。就業者増加率は減少傾向にあり、2000年第1四半期には、景気回復と技術的反騰から6.3%を記録したものの、第2四半期は4.4%、第3四半期は3.4%の増加にとどまっています。労働力の供給を示す経済活動人口も、1998年と99年を比べると、持続的な増加傾向を示し、2000年第2四半期と第3四半期には、参加率が61.3%に達しました

(2) 賃金

 2000年の第3四半期と、1月から9月までの常用労働者10人以上企業体の賃金上昇率は、それぞれ8.8%を記録し、対前年同期比6.8%ポイントと1.8%ポイント下落しました。1998年第3四半期には8.1%にまで落ち込んだ賃金上昇率は、景気の回復に支えられて急上昇に転じ、1999年第4四半期には16.1%と、きわめて高い賃金上昇率を記録しました。これをピークに2000年に入ると前年同期に比べて第1四半期は9.0 、%、第2四半期は8.7%、第3四半期は8.8%と、一転して緩やかな下落傾向を示しています。
 このような賃金上昇率の緩やかな下落傾向は、実質GDP成長率の趨勢と同一のパターンを示しています。実質GDP成長率は、1999年第4四半期をピークに持続的に下落しており、2000年第3四半期には9.2%と低くなっています。最近に至り、内需の不振と金融不安、企業・金融構造調整等の経済不安要因が重なるに伴い、さらなる追い打ちのかかった景気の落ち込みが予想されることから、当面それに伴う賃金上昇率の鈍化傾向は避けられないものと見込まれています。
 産業別の賃金動向を見ますと、景気の落ち込みに直接的な影響を受けている製造業と建設業、金融、保険、並びに事業サービス業において、賃金上昇率が大きく鈍化しました特に金融・保険業並びに事業サービス業の場合、2000年1月から9月中の賃金上昇率は8.2%で、前年同期の13.2%に比べて、5.0%ポイントの減少となり、製造業もまた4.4%ポイント減少して、上昇基調が大幅に鈍化しました。

(3) 労使関係

 2000年の労使関係を概観すると、特徴的なあり方としては、企業からの取り返し交渉、企業並びに金融構造調整と公共部門の民営化をめぐる労使政間の葛藤、さらには主な労使争点事項の立法化の立ち消えなどを指摘することができます。
 まず2000年度の賃金交渉で、最も際立った特徴は、高い賃上げ要求率と、高い賃金上昇率です。2000年11月30日現在、協約賃金引き上げ率は、通常賃金基準の7.3%、賃金総額基準の7.7%で、1998年の通常賃金基準0.0%、賃金総額基準マイナス2.7%と、1999年度のそれぞれ2.1%と2.0%に比べて、大きく増加しました。高い賃上げ要求率と高い賃金引き上げ率は、ともに景気の好調に伴う企業の支払い能力の改善、損失賃金への補てん、その上、従業員の士気向上の側面が相まっていると見られます。
 ここで残念なことでありますが、ひところ減少傾向を示していた労使紛争の件数は1998年以降再び増加傾向に転じ以後年を経るごとに増加しつつあります。これらは相当部分が民間企業、金融、公共部門の構造調整による雇用調整に端を発した労使紛争ととらえることができます。2000年11月現在、全体で238件の労使紛争が発生して、前年よりも22.7%増加しました。加えて金融、公共部門の大規模労使紛争が進む中で、参加者数も99年よりも大幅に増えた16万3,000人を記録しました。紛争による勤労損失日数は、前年度の136万6,000日よりも多い176万1,000日を記録しました。

政策制度の改革活動

 2000年度においても、韓国労総は政府の新自由主義構造調整政策に対応して、労働時間短縮など、労働基本権の確保を目指す労働関係法の改定活動に、引き続き取り組む一方、全賃金労働者数の半数を超えた非正規職労働者の権益保護を目指して、立法政策活動に、その力点を置いています。さらにまた、税制と社会保険改革の活動については、階層間の所得格差を解消し、租税並びに社会保険料負担の平衡性を実現するとの政策目標を掲げて、これを続けます。

(1) 労働関係法の改定活動

 労働法の改定活動は、2000年度における韓国労総の4大制度改善、(1)労働時間短縮。(2)非正規職労働者の保護、(3)専従者賃金支給の自律性保障、(4)団体協約の実効性確保、こういった目標を達成するのと相まって、未組織労働者の組織化と、彼らの権益保護を目的とする法制度改善に力点を置いています。
 とりわけ韓国労総は、産業全般にわたる構造調整の余波の中で、企業の組織再編に対応して、事業譲渡時の雇用承継保障に関する法律請願案を国会に提出し、経営権の変動が、雇用調整の口実とはなり得ないことを明確にする契機を確保しました。
 韓国労総の労働法改定要求は、労働基本権確保のための火急の課題であり、新自由主義攻勢に対応する上での、制度的仕組みを打ち立てることにあります。2001年上半期中にも、共同賃金団体協約交渉の闘いと平行して、労働関係法の制度的改善を目指す立法政策活動は、新たな局面を迎えると思います。

(2) 税制改革活動

 韓国の租税制度は、いまだに開発独裁時代の税制形態を脱し切れないでいるのが実状です。かつての経済開発初期から、企業活動や投資の促進、資本市場の育成を目指して行われた広範囲な減免、免税、控除等の税制上の優遇は、結果的に財閥体制を膠着化させて、今日の経済力集中問題の根源となり、これは相対的に勤労所得者の租税負担の加重を強いて、所得種類間、または階層間の租税負担の不公平をもたらすことになりました。特に直接的所得源に対する課税ではない間接税によって、税収の不足分を補てんすることにより、今日、付加価値税収が全体税収の25%にも達するに至りました。
 これに対して韓国労総は、租税制度の根本的な問題点を見直し、租税の平等性実現を目指す活動を展開しました。すなわち2000年度における税法改正請願を通して、労働者の生活と直接的に関連する、勤労所得税制を含む所得税法、租税特例制限法、付加価値税法、特別消費税法、相続税並びに贈与税法と、我が国税法全般の改定案を提示する一方、退職金に対する税額控除を漸次、縮小・廃止しようとする政府の立法政策に対応して、これを阻止するための政策建議活動を展開しました。この作業は、2001年度においても引き続き持続されると思います。

(3) 社会保険改革活動

 国民年金、雇用保険、医療保険、労災保険等の、社会保険改革活動の場合、我々韓国労総は、財政の安定性確保と勤労者の保険料負担緩和のための制度的改善活動、並びに下半期、政府の職場医療保険料引き上げに対抗して、市民社会諸団体と連帯した一方的医療保険料引き上げ反対闘争を、強力に展開しました。にもかかわらず、政府は医療保険の統合と医師の診療拒否宣言に対する懐柔策として、医療報酬価の引き上げを打ち出したため、働く者の医療保険料が、かつてない最高の引き上げ率20%代を記録しました。したがって我々には今後、医療保険料引き上げに対抗する政策制度改善活動が、課題として与えられたことになります。
 同時に、我々はまたソーシャル・セーフティーネットワーク確保のため、国民基礎生活保障法の適用拡大と予算確保活動を、市民社会諸団体とともに、積極的に推進していく方針です。

(4) 非正規職労働者の権益保護を目指す活動

 韓国労総は、IMF危機後に急速度で増加した非正規職労働者を組織化するとともに、法的に彼らを保護する必要を痛感し、そのための活動を本格化しました。非正規職労働者が不等に取り扱われるのを事前に食い止め、かつ正規職との差別をなくすために、現行の勤労基準法と派遣法の改正が急務であるとの認識に立ち、非正規職労働者保護のための関連法改正請願を国会に提出しました。世界的な労働市場柔軟化の趨勢に対応し、非正規職の正規職化、労働基本権の保障と差別撤廃という課題実現のためには、労働団体と市民諸団体との共同取り組みが必要であるとの共通認識の中、非正規職労働者の基本権保障と差別撤廃を目指す共同対策委員会を立ち上げるに至りました。韓国労総と民主労総、それに市民社会諸団体は、それらの目的達成のための一連の法改正案を、共同で国会に提出する一方、汎国民署名運動、広報ポスターの制作、。など多角的な活動に取り組んできましたその結果、韓国国会の環境労働委員会の国政監査の場において、非正規職労働者問題の深刻性が大きくクローズアップされました。一方ではまた、各メディアが再三にわたって企画記事として取り上げるなど、非正規職労働者の労働実態が熱っぽく紙面化されました。
 とはいえ新自由主義の代表的な実体性であります、正規職労働者の非正規職化は、引き続き深化の状況にあり、それに対する関連の保護立法もまた、遼遠の状態にとどまっています。韓国労総は、2001年においても引き続き、契約職、臨時職、短時間労働者、並びに派遣労働者など、非正規職労働者の無分別な拡散を防止し、彼らに対する賃金、労働条件上の差別撤廃を目指す立法活動に、総力を傾注していく構えです。

まとめ

 全般的に2000年度における韓国労総の賃金改善活動は、政府による新自由主義的な一方的構造調整が、トーン高く推し進められる中でもなお、それなりの相当の成果を上げたのは事実です。しかしこのような成果にもかかわらず、企業別労組の個別的にして独自的な賃金交渉を、1つにまとめ上げることができなかったばかりでなく、新自由主義経済政策に、効果的に対応し得る政策対案の提示が不十分でした。今、各地域、業種、全国次元での共同交渉で、実質賃金の完全回復と、労働者間の所得不平等の緩和が、切に求められています。
 2001年度における労使対策活動の核心的事項は、IMF経済危機後に加速化している、政府の新自由主義構造調整政策に対抗する対政府闘争と、それに伴う労使関係と見ること。、ができます経済危機後の労働運動の成果は個別事業者労使間の賃金団体協約闘争の結果よりは、企業、金融、公共部門等の、一方的構造調整阻止闘争の成否によって評価するよりほかありませんでした。その理由は、雇用安定に対する保障なくして、労働者の生存権を守り抜くことはできなかったからです。
 2000年度中に、労使関係に影響を及ぼした主な政治状況を要約すると、まず四・一三総選挙と、六・一五南北首脳会談、そして12月の金大中大統領のノーベル平和賞受賞になります。総選挙前に政府与党は、IMF経済危機の克服済みを宣言しましたが、総選挙後の経済状況は、むしろさらなる悪化の方向に走っています。社会経済的には大宇自動車の売却立ち消えと、現代建設の流動性危機により、韓国経済全体がふらついたことに加え、それによって第2のIMF危機への憂慮の念が、社会全般に広がりました。
 政府与党は、このような経済的危機状況を乗り切るため、第2次の企業、金融、公共部門の構造調整計画を発表し、企業と金融部門は2000年中に、公共部門は2001年2月末までに、構造調整を終えると宣言しました。
 それにしたがって11月2日、相当数の建設企業を含む退出企業体のリストが発表され、12月下旬頃には4つの銀行の金融持株会社への編入と、国民・住宅両銀行の強制合併の方針が明らかにされました。労政間の合意事項を全面的に否定したこのような政府の暴挙は、即刻的に両銀行の総罷業を触発させました。公共部門においては、韓国電力の民営化関連の法案を、定期国会で処理するのを手始めに、鉄道、ガス、通信、たばこなど、国家基幹産業の民営化政策が、さらに加速化してきました。このような、政府による一方的な構造調整の強行を阻止すべく、韓国労総は冬期闘争を展開しました。
 全般的に2000年の賃金団体協約闘争は、上半期に個別の製造事業所中心に、相当の部門が早期妥結した上、使用者の不当労働行為は前年に比べて多少の減少を見せたものの、裁判所の介入に伴う、一部の会社更生法適用事業所における不当労働行為の発生は、慎重に対応していくべき問題として浮上してきました。さらに一方的構造調整の阻止と、労働基本権の勝ち取り、並びに生存権死守のための第1、第2次の総罷業は、総資本に対抗した総労働の団結闘争力量の限界、並びに未完の課題を、労働界に残しました。このような部分を補いつつ、2001年度においても、韓国労総はさらなる力量を投入して、さらに力を尽くしていく方針です。