2011年 香港の労働事情

2011年6月17日 講演録

香港労働組合連盟(HKCTU)
ウー スイ シャン

 

1.当該国の労働情勢(全般)

雇用および労働条件

 香港経済は、2004年以降力強い成長を見せており、1人当たり実質GDPは、2007年に5.3%の伸び率を示した。2008年に経済危機が発生したが、2010年にはすぐに回復した。失業率は2007年に4%であったが、2009年には5.4%に上昇し、2010年に3.7%に下がった。全般的な失業率は低い水準にとどまっているが、若年失業率は依然として高く、約20%である。
 労働者は、好況の年でも賃上げを獲得できなかった。また、景気の悪い年にはすぐに賃金が凍結された。2007年第1四半期から2010年第3四半期の間に、実質賃金が上昇したのは3四半期だけで、残りの12四半期には実質で低下した。低所得層では、問題は一層深刻であった。ケータリングや警備、衛生といった熟練を要しない業種への労働力供給は十分であるので、これらの業種の労働者は、長時間労働や不十分な生活所得といった問題に直面している。組合や社会活動家は、1990年代以降、最低賃金の法制化を求めてきた。この要求は、この2011年にようやく実現された。この法律では低収入労働者の基本的保護をある程度規定しているが、それでも抜け穴や欠陥がいくつかある。
 長時間労働がもう一つの問題である。労働者の20%近くが週に54時間労働している。ケータリング、警備、衛生および高齢者介護が、労働時間の最も長い4業種で、労働者の25%が週60時間以上働いている。70%の労働者が超過勤務手当てなしで働いた。政府は、2010年末、標準労働時間の法制化の検討を公約した。
 香港には、ホワイトカラー労働者、ブルーカラー労働者それぞれに別の休暇制度が設けられている。前者は17日の公休日が認められるが、後者は12日のみである。HKCTUは、別々の基準を設ける慣行---ブルーカラー労働者とホワイトカラー労働者に異なる休暇制度を適用---を廃止しようとしている。

労働・一般立法および制度改革、社会対話

 実質的に香港の憲法である基本法は、結社の自由、団結権およびスト権を保障する規定を設けているが、このような基本権の効果的な適用を確保するための法律はまったく施行されていない。法律では、労働組合活動を理由とする解雇から労働者を保護しているが、この保護は、他の形での反組合的差別には及ばない。労働組合は、その資金を自由に使うことができない。なかんずく、政治目的や、外国の労働組合組織への移転のために資金を使うことが法律で制限されている。さらに、関係組合の業種や産業、職に現に雇用されているか、あるいは以前雇用されていた者のみが、政府の同意を受けて組合役員になることを認められる。
 過去10年間のHKCTUの主要な成果である法定最低賃金法は、2011年5月1日に施行されている。それにより、最低賃金は、1時間当たり28香港ドルとされている。ただしすべての労働者がその適用を受けるわけではない。住み込み家内労働者は除外される。香港においては、そのような労働者の99%以上が外国人である。これは、これらの者に対する事実上の差別である。最低賃金として、HICTUは時間当たり33香港ドル(約4.3米ドル)を要求しているが、雇用主団体は、時間当たり24香港ドル(約3米ドル)を提案している。結局時間当たり賃金は28香港ドル(約3.6米ドルに設定され、2011年のメーデーから施行された。
 2010年に雇用令が改正された。労働裁判所により裁定された額を故意にかつ合理的な理由なしに支払わなかった雇用主は訴追される。改正前は、被雇用者は、裁判所の命令を執行させるために、長々しく高価な民事手続を踏まなければならなかった。その結果、雇用主は、罰を受けることなく、裁判所の命令を容易に無視することができた。
 政府は、かつて、HKCTUの重要な主張の1つであった復職(reinstatement)の法制化を検討する旨公約した。しかし、近年何の進展も見られていない。
 最後に、何年ものキャンペーの後、政府は、2007年に、輸送補助金計画(TSS)を実施し、新界西の低所得労働者は、合計月600香港ドルまでの補助金を受けられるようになった。政府は、2010年に同計画を再検討した結果、これを改訂し、労働奨励輸送計画(WITS)と改称した。新制度の下では、居住地いかんにかかわらず、適格と認められたすべての低所得労働者は給付金を受けられる。HKCTUが同改訂を批判しているのは、これが資産調査の対象となる計画になり、申請が家計ベースになったため、多くの低所得労働者の申請意欲が殺がれる点である。

2.労働組合が現在直面している課題

 公序令により、ストライキのピケ隊やデモを解散されるための実力行使が認められており、また、雇用主は労働者の抗議を抑圧するための差止命令を求めることができるので、スト権は限定的なものである。また、ストライキを行った労働者に対する保護もほとんどない。すなわち、法律は、ストライキに参加したために解雇される労働者は補償を求めて雇用主を訴える権利を有することを保証しているにすぎない。復職のための法的な権利は何もない。(第5項を参照されたい。)
 団体交渉は、当局によって推進も奨励もされておらず、雇用主は、一般に、組合を認めることを拒否している。団体交渉に関する法律は政府により1997年に廃止されているので、労働者の団体交渉権が存在しない状態を是正するための法的措置は何ら取られていない。ほとんど25%の労働者が組合に組織されているにもかかわらず、組合は、一般に、経営者側を団体交渉の席に就かせることができるほど強力ではない。そのため、団体協約が適用される労働者は1%未満であり、今存在する団体協約には法的拘束力がない。これらの権利を保証する法的保護がない限り、労働者は、雇用主による恣意的かつ一方的な措置の対象とされ、職・所得の保障を得られない。
 景気回復後、賃上げを求めて闘うためのストライキが数件発生した。2007年、1,000人以上のバーテンが賃上げを求めて36日間のストライキを行った。2008年には、コカコーラやネスレを含む飲料企業4社でストライキが発生した。2009年、およそ100名のネパール人警備員が、9年間にわたって賃上げされていないとしてストライキを行った。ストライキの最中に一部の組合指導者が解雇された。その一部は、法的な保護によってではなく団体行動によって、ようやく復職することができた。それでも、ストライキを行った結果、労働者の労働条件改善に向けた闘争を続けるHKCTU労働組合を形成することができた。
 政府は、公共部門においては、行政当局が公務員の給料や労働条件について公務員と「協議」するので、団体交渉権の必要はないと一貫して主張してきた。しかし、異動や賃金・給付の削減、人員削減(retrenchment)、民間部門への外注を含める最近の公務員改革措置は、政府は、影響を受ける公務員に協議することなく、一方的な措置を自由に取ることができるということをきわめて明確に証明した。同様の態度が、キャセイパシフィック等の著名な企業が主導する民間部門において一貫して取られている。キャセイパシフィックは、団体交渉を「協議」に引き換える一方で、主な労働方針を一方的に提案かつ決定している。2010年4月、客室乗務員組合により提起されたストライキが土壇場で回避された。これは、3月に導入された、何千人もの時間給クルーの条件に一方的に影響を及ぼす新名簿方針を経営者側が撤回したことによる。

3. その課題解決に向け、どのように取り組もうとしているのか

 2009年以降、HKCTUは、3年計画の下で、15の加盟組織が3年目の末までにそれぞれの職場で団体交渉権を実現することを目標に掲げた。そのために、HKCTUは、団体交渉権タスクフォースを特に設けた。同タスクフォースは、加盟組織と討議や再検討を重ねることにより、目標組合を指定し、次いで戦略計画指標を策定した。HKCTUは、2010年末までの行動と教育の過程を通じて、7つの加盟組織がそれぞれの指標に到達するのを支援した。HKCTUは、次の1年、すなわち3年計画の最終年において、目標達成のために大いに努力しなければならない。