2012年 中国の労働事情

2012年5月25日 講演録

中華全国総工会(ACTU)
王 舟波

労働関係研究所副所長

 

1. 中国の労働情勢

 中国は、1978年から改革開放政策を開始し、30数年の発展過程を経て、世界が認める経済発展を遂げた。改革開放の最も大きな成果は、市場経済体制すなわち社会主義市場経済体制を確立したことであり、社会主義の価値と原則を保ちながら市場経済体制の構築に努めてきたことである。
 市場経済体制の構築は、中国の労働分野に大きくかつ深刻な変化をもたらした。最も重要な変化は労使関係である。これまで国営企業では、理論上は労使関係が存在していたが、国と企業、労働者が一体化しており、実際は「仮想」にすぎなかった。しかし、市場経済体制以降は、労働者と資本所有者による利益相対関係や労使関係の本来の姿が現れ、「強い資本、弱い労働者」の状況が明らかになってきた。
 ACFTUは、労使関係に関して「規範的で秩序があり、公正で合理的で、みなが利益を享受し、調和がとれ、安定した労働関係」の構築に努めている。現在、一部で労使関係の矛盾の拡大がみられるが、コントロールできる状態にあり、政府もACFTUもあらゆる対策を講じており、全体的には安定を維持している。このように市場経済体制に適応する新しい労使関係は、徐々に形成されている。

2. 中華全国総工会が現在直面する課題

 社会主義市場経済体制の構築によりもたらされた労働分野の深刻な変化に直面するACFTUの課題は、第一に労働者の組織化である。これは、労使関係の仕組みの中では団結こそが労働者自身の力を形成することができるからである。第二に、雇用や賃金、教育訓練、休暇、安全衛生および社会保障などを含む労働者の労働権益を最大限に保護することである。中国は発展の転換期にあり、これらの労働権益すべてが不十分である。国が法律制度や政策面で調整を行なう必要があり、労働組合は労働者を代表して、意見を主張し権利の獲得や維持、向上に努める必要がある。

3. 課題解決のための対策

 ACFTUは、労働者権益の保護と労使関係の調和の面で、主に[1]労働法規政策の整備と実施の積極的推進[2]労働組合結成と組合員の組織化活動の全力展開[3]重点活動として賃金団体交渉の着実な推進[4]企業の労働現場の状況や生産経営管理の重要な問題の公開と従業員代表大会制度を展開[5]労働者同士の相互扶助活動の深化――などの対策を講じている。
 1994年の『労働法』制定以来、約20年間の努力を経て自らの権利保護の機能と役割の転換を果たしてきた。以前の労働組合の役割は、組織化や労働者教育、活動への動員、労働者の権利擁護――などで、重要度は同じであった。しかし、労働法の制定を契機に、労働者の権利の擁護を最重要課題とした。ACFTUはこの役割を推進するため、活動方針として「組織化を行ない、確実に労働者の権利を守る」ことを設定し、実績を挙げている。
 次に、労働者の権益擁護の重要な点で成果を挙げた。例えば、数年前は多くの労働者が企業側と労働契約を結ぶことができず、不安定な雇用状況にあった。ACFTUは『労働契約法』の制定を通じて、労働者の雇用の権利の保障と保護を図った。
 また、労働関係法規の整備は、市場経済体制の導入から20年しか経っておらず、段階をふむ必要がある。労働者の権利擁護の基本的手段は法律や政策にあり、重点的に進める必要がある。しかし、法律だけでは労働者を守れないため、労働組合の役割が重要となる。

4. 中華全国総工会と中国政府との関係

 ACFTUと政府の関係は、多くの他の国と異なり、国の性質、国の体制と関連する特殊な関係である。全体的な国家の枠組みの中で、労働組合と政府はそれぞれ独立している。労働組合は、法律上では政府と対等な法律主体で、独立した社会団体法人として存在している。政府とは労使関係の調整上で特に協力関係にあり、「政府の指示・指導を受けている」という認識は誤解である。
 労働組合は、社会生活において、民主的権利の実現や社会調整機能を発揮し、労働者を代表して民主的な活動への参加や社会の監督、労働者の意見と要望の反映など、政府と協議しさまざまな課題解決に取り組んでいる。

5. 多国籍企業の中国での進展状況と労働組合結成、労働組合活動の現状

 多国籍企業は、1992年の社会主義市場経済移行に速な発展を遂げた。統計によると、世界売り上げ上位500企業(中国企業を除く)は中国の数十都市で投資を行なっており、上海市だけでも多国籍企業の本社数は347社、外国企業が設立した投資会社は237社、研究開発センターは332ヵ所となる。
 ACFTUは、中国に進出している世界売り上げ上位500企業の労働組合の組織化を重視し、2008年6~10月に中国全土で「世界売り上げ上位500企業など多国籍企業の労働組合組織化推進集中活動」を展開した。その結果、2008年末までに500企業の83%で労働組合を結成し、現在は92%以上となっている。
 ACFTUは、労働組合組織化3年計画と賃金団体交渉3年計画に基づき、すべての企業で労働組合を結成する目標を実現するため、2013年末までに企業の労働組合組織率と組合加入率をそれぞれ90%以上に引き上げることにしている。これは労働者総数に対する組合員数の割合で、労働者総数の中に経営者は含まれない。
 また、2011~2013年末までに労働組合のある企業の80%以上で賃金団体交渉制度の構築を実現することや中国に進出した世界売り上げ上位500企業のすべてにおいて賃金団体交渉制度を構築するのが目標となっている。
 中国には法律で定められた労働組合はACFTUしか存在しないため、日本や韓国とは異なる独自の国の事情があるが、社会主義体制の下で、労働者を動員する力を持っている。これらの目標を達成するため、ACFTUは今後もたゆまぬ努力が必要だと考えている。