2011年 中国の労働事情

2011年6月3日 講演録

1、わが国の労働運動情勢(全体状況)

 2011年3月、「国民経済と社会発展に関する第12次5ヵ年計画要綱」が第11回全国人民代表大会第4回会議で可決され、科学的な発展をテーマに、経済発展方式の転換を加速させ、改革開放を深化し、国民生活の保障と改善、経済の長期にわたる速い成長と社会の調和・安定を目指す方針を打ち出した。
 労働組合は国の経済・政治・社会生活において独自の立場から一貫として重要な役割を果たしている。2010年9月までの統計では、全国労働組合の組合員数は2.39億人、新規加入者は1361.3万人、うち、増加した農民組合員は839.8万人となっている。締結された140.8万件の協約は243.9万社の企業、1.85億人の労働者をカバーしている。労働組合は、調和の取れた労働関係の構築及び経済・社会の発展に寄与している。
 改革開放以来、経済体制の改革に伴い、労働関係の構築と発展も絶えず深化し、著しい変化を見せて、以下の特徴を有する。

  1. 労働関係における主体的な地位の確立
    各企業の経営者側(使用者側)は、労働関係の一方の主体となり、労働者は自身の労働力を保持・確保できるもう一つの主体となったこと。
  2. 労働関係の多元化、複雑化
    公有制度を主体としながら多様な所有制度が並存、混合する労働関係を形成していること。
  3. 労使関係化の初歩的実現
    市場メカニズムに基づいた労使関係を段階的に転換していくこと。
  4. 労使関係の主体的な利益の明確化
    企業の所有者、経営者と労働者の間は市場化された労使関係となり、労働者も各自の利益が明確になったことにより、経営者と労働者間の対立が顕著に現れ、労働争議も増えていること。

2、労働組合の直面している課題

 中国が従来の計画経済体制から市場経済体制へシフトする中、市場経済体制の条件と中国の国情に適合した労働関係の初期的な調整メカニズムが徐々に構築されている。しかし、市場経済の深化・発展に伴い、様々な所有制経済における各種労働関係もますます複雑化し、労働関係の主体間の利益衝突も増え続け、より突出している。
 直面している課題としては

  1. 労働法律法規の監督監査と執行力の不足。
  2. 労働契約の締結と遵守が規範化されていない。
  3. 協約における地位の不平等、協議が不十分。
  4. 労働組合主体の欠落により労働関係調整メカニズムにおける組合の役割が損なわれる(国有企業の組合幹部は経営側の幹部も兼務している)。

3、課題解決のために取られた措置は?

 中国の労働組合は労働者構成の変化・発展の新たな特徴に合わせて調和のとれた労働関係に重点を置き、組合の役割を充分に発揮するよう取り組んでいる。

  1. 法律に基づき企業別労働組合の設立・普及に努め、幅広い労働者の組織化を図る。2013年末には全国の企業法人別労働組合の設立率、企業従業員の組織率ともに90%以上を目指していく。
  2. 労働者の権益保護の役割を果たし、調和のとれた安定的な労働関係を促進する。政府と連携会議を設け、労働関係をめぐる三者協議メカニズムを構築する上で、末端組織の民主的管理、企業の経営情報公開を徹底させ、立場の弱い労働者層に法律支援を提供していく。
  3. 企業別労働組合に対して、賃金に関する協議を行うよう指導し、最低賃金基準の引き上げ、通常の定期的な昇給と労働保障制度の徹底を図っていく。「企業賃金に関する協約化」の3年計画を実施することによって、2013年末の時点ではこの企業賃金に関する「協約化」制度を8割以上実現するよう目指していく。
  4. 労働組合を労働者のための「大学校」として機能させる。労働技能コンテスト、技術研修、技術交流などの活動を通じてより多くの知識型、技術型、イノベーション型の労働者を育成していく。
  5. 労働組合幹部の能力を高め、組合が労働者のために奉仕する役割を充分に発揮させる。各レベルの総工会で「労働組合幹部権益保障基金」を設立し、労働者の権利を主張・保護したが故に企業から労働契約を解除された企業別組合幹部の補償を行う。共産党と政府の関連民生政策の実施を推進し、労働者の就労、収入分配、社会保障、労働安全衛生などの権益を守り、企業と従業員がともに利益を享受できるメカニズムを構築していく。
  6. 労働生産性向上運動を展開し、持続可能な発展と「国民経済と社会発展に関する第12次5ヵ年計画」の実現に向けて、労働者を組織して成果を挙げるよう努力していく。

4、全国総工会組織

 労働組合は政府と相互歩調、緊密協力の関係にある。政府は労働者の実益に関わる一部の重要問題について、組合と数多くの労働者から意見を聞き入れている。労働組合は憲法と法律の規定範囲で活動を展開する。「工会法(労働組合法)」は労働組合が国から与えられた「参画権」を行使することを定めており、政府が国家の行政権を行使する過程において、労働組合は民主的参加と社会の監督といった役割を充分に発揮するとともに、国家ガバナンスへの参画、経済・文化事業と社会事業を管理する権利があり、労働者を代表して国と社会の管理に参画し、政治に参加し、政府の施政に意見を述べる。
 中華全国総工会は各地域の総工会と全国の産別工会により構成された連合体であり、幹部は全国労働組合代表大会で選出され、全国の組合運動をリードしている。全国の労働者の権益と労働関係に関わる問題は三者協議メカニズムを通じて有効的な調整・解決を図り、合同で労働関係調整に関する行政条例を発表する。全国人民代表大会と政治協商会議には労働組合の代表・委員の参加枠があり、根源から幅広い労働者の切実な利益を主張・保護するために、労働法律問題と労働関係問題について迅速に法案を提出し、労働者の利益を訴えている。

5、多国籍企業の進出状況及び多国籍企業で労使争議の状況

 今日、世界トップ500社の多国籍企業のうち、450社は中国に投資または支店機構を設立しており、累計で3000社以上に上っている。中国経済が世界経済で示す存在感の拡大、中国の投資環境の改善により、多国籍企業の中国進出も加速している。現在、30数社の多国籍企業はその地域本部を中国の北京、上海に集中して設置しており、EU、アメリカと日本の多国籍企業は主に電子、通信、機械、電器産業に投資を行っている。2006年までの統計数字によると、中国で登録した外資投資企業は28万社、外資の累計投資額は6508億元、外資系企業が世界200の国と地域から集まり、従業員数は2500万人に上り、都市部就労人口の一割を占めている。
 外資系企業の増加により、特に多国籍企業の規模拡大によって、労働争議の件数も増えている。2005年の全国の外資系企業の労働争議は20.7万件、争点は労働報酬(賃金)、保険・福利厚生、時間外労働と労災・職業病問題に集中している。原因として、

  1. 労使関係の力の不均衡。
    労働者の立場が弱く、労働契約がなかったり、ある場合でも短期契約であったり、労働者の権利が明確にされない一方、義務と責任に関して厳しく規定されている。
  2. 外資系企業は労働組合と対立し、経営側の権限が制限されることを恐れ、組合の結成に抵抗がある。
    ある多国籍企業は全世界のどの拠点にも労働組合を作らせないと主張している。企業の従業員は高い賃金に満足している、または頻繁に転職する故に自分の権益を守るために労働組合に加入する意欲、意識がない。地方政府は労働組合の設立による外資誘致への悪影響を心配し、組合の組織化に消極的な態度を取っている。労働組合の幹部は企業における自分の利益または管理側からの圧力により、労働者の権利保護に全力で取り組めない。
  3. 協約と団体交渉における労働組合の力が弱く、また経営側の協約に対する態度が消極的であり、交渉のプロセス、内容も規範化されておらず、契約は効力を欠いている。
  4. 一部の外資系企業は最低賃金と法定残業代しか支払わなかったり、従業員の離職を阻止するために賃金の支給を遅らせたり、出来高払い制度にして時間超過業務も当然のように多発している。

 このような問題に対しては以下の措置が講じられている。

  1. 中国政府の関係部門は労働組合と共同で行政指導を行い、行政規定として『外資投資企業の労働組合活動の若干問題に関する通知』を出し、外資投資企業の労働組合の強化を図っている。全ての外資系企業に対して労働組合の設立、中国『労働組合法』の規定に基づく賃金協議と協約締結を義務付けている。労働組合と従業員代表が参画するための企業管理制度を立ち上げ、企業と協同して従業員の意識・自覚、職業モラル、技術水準と業務執行能力向上のために教育・研修を行う。法律に基づく企業の経営管理を支持し、労働紀律、労働安全衛生規定を遵守するよう従業員を啓蒙・教育する。従業員の労働技能と合理化提案のコンテストを実施し、生産目標の達成に向けてモチベーションを高める。
  2. 各レベルの政府に対して監督チェックの強化を要望し、問題の迅速な検討・解決を図る。労働、商工、対外経済貿易などの政府機関にも労働組合に対する支持を取り付け、組合との緊密な連携・協働によりともに外資系企業における労働組合の設立と労働関係の協調に努める。
  3. 各地域の外資投資企業の特徴に合わせて、外資投資企業の就業条例、労働管理、労働争議処理条例などについて『労働法』、『労働組合法』の実施細則に準拠するためのルール作りを地方政府に対して積極的に働きかけ、運営性を高めていく。労働組合は労働争議仲裁委員会の従業員側代表を務める。
  4. 中国の労働組合で展開されている「労働組合の幅広い設立、賃金の集団交渉の全面展開」などの活動・措置は外資投資企業と多国籍企業にも適用する。