2010年 ウクライナの労働事情

2010年12月3日 講演録

ウクライナ自由労働組合連合(KVPU)
ガナ ユリーヴナ キスリツスカ(Ms. Ganna Yuriyivna Kyslytska)

広報専門担当

 

1.ウクライナの労働情勢(全般)

 ウクライナの2010年の労働市場は、公式データによれば、月平均賃金が20%増加し、求人数も30%増加したが、統計は現状を完全には反映していない。失業者数も、公式データでは150万人だが、非公式データによれば500万人超である。インフォーマルな経済セクターにおける雇用の割合が高いことがその原因だ。 
 現在、ウクライナの最低賃金は約113ドルで、実質必要最低生活費は108ドル、失業手当の平均額は約97ドルである。しかし、非公式データによれば、必要最低生活費は、価格上昇やインフレ指数を考慮すると296ドルとなる。最低賃金額決定の際にインフレ指数が考慮されていない。
 労働市場は、2009年半ばに底を打って以降徐々に危機を脱しはじめ、2010年には求人数増となった。しかし、就職希望者数は依然として求人数の数倍である。国家統計委員会のデータによれば、2010年上半期の求人数は84,600人であり、最多の求人数を示したのは加工業(18,000人)であった。2010年10月には、求人10人に対して就職希望者は52人であり、2010年2月の83人に比べて減少した。
 ILOの算出方法では、2010年上半期の失業者数(対2009年上半期比)は0.6%減の8.5%であったが、国内の社会的緊張や現政権の不人気な政策のため、労働市場の質が上がったとは言えない。

2.労働組合が直面する課題

 KVPUの主要課題は、労使関係及び労働者の社会経済的利益の調整である。三者による社会的対話において雇用労働者側を代表するKVPUは、政府、労組、使用者連合間の基本合意書に調印している。
 2010年11月9日に調印された基本合意書にKVPUは、社会的対話から“脱落”しないために、仕方なく調印したが、この合意書には、KVPUが絶対に受け入れられない条項が含まれている。新基本合意書では、2012年まで賃金を現在のレベルに凍結する提案がなされており、1級の労働者の等級制賃金体系は、以前のように基本合意書で確認されるのではなく、部門別及び単組レベルの合意書で決定されることになっている。KVPUは、新基本合意書は国民の社会保障面では一歩後退だと考えている。
 ウクライナでは、いまだに、賃金未払いという恥ずべき現象がみられる。公式統計によれば、2010年9月1日現在、賃金未払い額は15億グリベンであり、これは約1億8750万ドルになる。ウクライナの賃金未払い問題は、今年のILOの年次サミットの主要議題の一つとなった。この問題、そして不十分な労働条件(特に石炭、冶金、化学工業の企業において)や高い失業率の問題解決は、KVPUにとって重要である。
 労働条件は、特に石炭及び冶金部門において改善を要する。公式データによれば、今年最初の9カ月間に、ウクライナの企業で8,500人以上が負傷した。そのうち2,000人は石炭部門の労働者である。原因は、老朽化した設備、炭鉱労働者が安全基準を守らない(賃金が石炭の採掘量に応じて決まるため安全基準に違反せざるを得ない)ことなどである。KVPUは当局に、使用者が労災に対する責任を十分に果たしておらず、労働者にしかるべき自衛装備や防護服を与えておらず、自社の機械設備を更新していないと何度も指摘してきた。こうしたことすべてが、ウクライナの労災件数が多い原因となっている。

3.ナショナルセンターと政府との関係

 ウクライナにおける労組の活動は、現在、ウクライナ憲法、労働法、「労働組合、その権利及び活動保障法」「労働協約及び合意法」「市民団結法」などの規制を受けている。これらの法律に基づき、KVPUは基本合意書に加えて地域や単組レベルで協約を結ぶ権利を有している。それらの協約は、雇用労働者及び使用者の権利義務を調整している。KVPUのリーダーは、ウクライナ政府と使用者代表との基本合意書に調印するとともに、KVPU所属の単組リーダーとして使用者と労働協約を結び、労働条件の改善、雇用や賃金額の維持など単組の抱える課題を直接解決している。しかし、独立労組の場合、全てのレベルで、労働者の利益をめぐる闘争における唯一の切り札である労働協約に調印する権利を奪われる可能性がある。この労組の持つ権利が、新労働法と「ウクライナにおける社会的対話法」の採択により奪われようとしている。
 ウクライナにおける現在の、政府、労働者、使用者の三者による社会的対話は、社会的性格ではなく政治的性格を有しており、労働者を守るものではなく、政権にまで入りこんでいる巨大資本のロビー活動の道具になっている。

4.多国籍企業の状況

 直接外国投資額は減っている。経済、そして何より政治が安定していないため、投資家が及び腰になっている。ウクライナの弱い法的基盤と企業活動に不透明な環境は、外国投資家にとって魅力が少ない。
 ウクライナ市場への外国企業、多国籍企業の誘致問題解決のためには、何よりもまず国内の経済社会問題を解決する必要がある。
 しかし、ウクライナ市場で活動する多国籍企業が社会分野の安定欠如と法律の不透明性に乗じて、より多くの利益を得るために労働条件を改悪し、賃金を引き下げ労働者を不誠実に扱っているという事例もある。