2008年 ウクライナの労働事情

2008年6月18日 講演録

ウクライナ自由労働組合総連盟(KVPU)
タチヤナ・チェルカシャニナ

ウクライナ独立鉱山労働組合 社会労働関係局経済専門家

 

国内の社会・経済状況

 ウクライナ国家統計委員会の公式データによると、わが国は今、急激な経済成長の時期にあると報告されていますが、実際はまったく程遠い状況にあります。名目的な国民所得は、昨年と比べて47.2%増ですが、実質所得の伸びは価格要因加算の結果23.4%にとどまっています。また国民支出も増えて、2008年初頭には、2007年同時期比で39.4パーセントとなっています。そして平均名目賃金額は、1521グリブナ(約300米ドル)であり、昨年と比べて平均賃金額が増加したことを証明していますが、15~17%の高いレベルのインフレを加算すれば、実質賃金は11.4%減少したことを指摘しなければなりません。
 このようにウクライナでは、高い経済成長にもかかわらず、雇用の質及び社会保障が改善されず、ここ数年間労働力需要が供給を上回っているのに雇用の質が人々の要求を満たしていない為欠員が出て、経済成長の肯定的な効果が無い状況にあります。また随分前から国際価格が導入されていますが、賃金や社会サービスの水準は国際基準とかけ離れています。

労働分野における労働協約による調整

 ウクライナでは現行法規及び国際慣行に従い全国、州、地域レベルで、また工場や組織レベルで、労使間の労働協約による調整組織が作られています。合意書(協約)締結の主目的は、社会・労使関係調整の基準・原則、また労働分野におけるより高度の保障を確立することであります。この基本合意書メカニズムにより、賃金上昇の速度や最低賃金額、賃金の物価スライド制の仕組み、社会保障費の支払いや特典などが定められています。
 1991年から2006年の間に、ウクライナでは8つの基本合意書が締結され、またそれぞれが改定され、より幅広い社会・労使及び経済の諸問題をカバーするようになりました。つい最近、内閣、全ウクライナ雇用者・企業家団体連合、全ウクライナ労組連合の間に基本合意書が締結されました。
 社会・労使関係の発展レベルを決める要因は数多くありますが、そのうち我々が最も重要だと考えるのが、雇用労働者の賃金及び労働条件であり、賃金水準は、労働生活の質の主要指標であります。そのような立場から、KVPUの現段階での活動は、高い賃金及び正当な労働条件という、社会・労使関係の二つの主要な構成要素の改善に集中しています。
 KVPUの活動は、ウクライナ憲法、労働法典、ウクライナ法「労組、その権利および活動について」「労働協約及び合意書について」「団体労使紛争解決の手段について」、さらにILO条約やITUCの原則により規定されています。
 過去五年間で、ウクライナ労働法案に関する議論が進んで、現在国会では労働法採択をめぐる議論が続いています。
 KVPUはこの新法案に懸念を持っています。なぜなら、その法案では労働者の法的立場が大幅に悪化し、労組の権利もかなり制限されるからであります。そして法案の一部規定には、労働協約実施や実施しているかのチェック、実施されない場合の責任などの概念が含まれていません。新労働法案により、雇用者は自社内に独自の企業法制を作り、社員を縛ることができるようになり、また労組は、その主要な役割の一つである、労働者の社会・経済・労働諸権利擁護を効果的に行うことが出来なくなると考えています。

KVPUと政府との関係

 KVPUは、社会的パートナーシップ及び対話の原則に基づき、ウクライナ大統領の下に置かれた国家社会・経済三者評議会において、国及び雇用者連合と協力しています。しかし、先進国に見られるような社会的対話はウクライナでは行われていません。社会・労使関係の参加者が明確に定義されておらず、社会・労使関係の調整メカニズムがきちんとできていないためであります。雇用者層もまだ未形成であり、その形成過程は非常にゆっくりであります。また、労働者の利益を、衝突し合う複数の労組が代表していることも多く、このプロセスにおける国家の役割が法律で定められているが、国家は今のところそれを実施する効果的なメカニズムを持たない状況です。

我が国における多国籍企業の活動状況

 先進諸外国の企業が、直接あるいは仲介企業を通じ、ウクライナを含む旧ソ連諸国の将来性ある企業の株式を取得し、事実上の所有者となっています。そして直接投資の形でウクライナに20億ドル以上が外国から投入されました。これは、ウクライナが受けた直接投資総額の約3分の2を占めます。そして、およそ9千の雇用が創出されました。ウクライナに最も積極的に進出しているのは米国、次いでEU諸国の企業です。
 多国籍企業はウクライナの食品産業、農業、電気通信、機械工業、小売業、銀行部門、軽工業企業に多く投資しています。ウクライナへの投資の主な理由は、新たな販売市場の開拓で、現在多国籍企業は、ウクライナへの長期投資誘致の最善の方法と考えられています。しかし、ウクライナにおける外資誘致プロセスは、いくつかの要因のために支障をきたしてくるだろうと考えています。主な要因は、一定しない過剰な規制、明確な法制度の欠如、経済・政治状況の変わりやすさ、汚職、重税、国民所得水準の低さなどであります。それらの要因に加えて、標準的でない雇用形態(アウトソーシング、派遣労働)も広がっており、その際最も弱い存在なのが雇用労働者であります。派遣労働では、労働条件や賃金を引き下げ、雇用、安全衛生等についての雇用者の明確な責任が規定されていないからであります。雇用者はしばしば、労組を弱体化し、労働者が足並みをそろえて自らの権利を主張することや、労働条件や賃金アップを要求させないよう、派遣労働に頼ります。
 KVPUで見られた例として、閉鎖型(株式非公開)株式会社「リシチャンスカヤ石油投資会社(LINIK)」の事例を挙げられます。経営側が絶えず労働者の権利を侵害した結果、この会社には独立労組「オクタン」が出来ました。組織機構改変の名のもとに大規模な正社員削減が行われています。「アウトソーシング」に見せかけて財産の不法移転(訳注:故意に国営企業を倒産させ、社員を非正規雇用にし、複数の民間企業に財産を移すこと)が進んでいます。現在この会社では、独立労組解体政策が積極的に行われています。組合員である社員には心理的圧力がかかっています。例えば、技能資格級の引き上げを理由なく拒否するとか、労組を脱退しなければ解雇すると脅すことなどです。

労働安全衛生問題について

 これは、石炭産業における炭鉱事故の問題であります。近年の事故の規模について、昨年の12月に100名以上の人命を失った炭鉱事故がありました。そして、5月にも8人が亡くなった炭鉱事故がありまして、この炭鉱というのは私が生まれ育った町にある炭鉱です。そして、このセミナーに出発する直前にも、やはり20名が亡くなるという炭鉱事故が起きました。
 雇用主のほうは、利益を追求する余りに炭鉱労働者の労働条件を無視して、地下で働かせています。もちろん、その際には労働安全のいわゆるインスペクター、検査官がいるわけですが、そのさまざまな労働条件の、特に労働安全衛生面の不足分を指摘するのですが、それでも雇用主のほうは、命令をして働かせているという状況です。
 それからもう一つ、炭鉱労働者の労働賃金はかなり低いものがありまして、労働者が、いわゆる労働安全衛生規則というものに違反して仕事をするということが起こっているわけです。
 私たちのウクライナ自由労働組合総連盟の議長というのは、ウクライナの国会議員でもあり、炭鉱労働者の状況を変えるために色々な活動をしております。そして、新しい法案の共同著者となっており、その法案には炭鉱労働者の地位の向上に関する法案条項もありますし、労働安全衛生のシステムというものに関する条項も含まれています。
 炭鉱労働に関してもう一つ問題があります。それは、子供を使った児童労働という問題です。ソビエト連邦が崩壊してウクライナでは多くの炭鉱が閉鎖されたのですが、その閉鎖された炭鉱がまた復活しています。その際に、労働者として利用されているのが非合法の児童、未成年の労働者なのです。この未成年者労働の違法行為に関して、私たちはILOとともに活動を続けており、一定の肯定的な結果が出てきております。