2013年 モルドバの労働事情

2013年11月15日 講演録

モルドバ労働組合連盟(CNSM)
イゴーリ ズプク(Mr.Igor Zubcu)

医療労働組合 上級法律相談員

1. モルドバの労働情勢全般

 過去数年間の国内政治の根本的改革と市場経済移行プロセスは、労働分野に大きな変化をもたらし、深い社会的・経済的影響を残した。
 現在のモルドバの労働市場は、国家経済の成功や困難といったさまざまな問題を直接反映し、労働市場は悪化し続けている。
 モルドバにおける雇用状況の変化の主な傾向は、就業人口の数と比率の絶対的減少であった。2000年の就業人口が、国の総人口に占める割合は41.6%、2006年は37.8%、2013年6月は35.3%に減少している。就業人口の減少は、主に子どもの多い女性、退職して年金受給年齢に達しない者、障害者、若者など社会的に最も弱い層が労働市場から離脱を余儀なくされたことが原因である。
 低賃金のため、就業者の中には2つないし3つの仕事を兼業する者の割合が増えている。2つ以上の仕事のかけもちはますます広がっている。
 現在、雇用で最も深刻な問題は失業だ。失業率は2011年末で6.7%まで上がったが、2013年6月には4.7%であった。最近、公式的な失業は減る傾向がみられた(なお、登録された失業と未登録の失業がある)。しかしこの現象は、労働市況が改善したためではなく、雇用センターが一部の失業の登録を拒否したためや何度も失敗した結果、職探しをあきらめたり、労働市場から去ったり、より魅力的な雇用を求めて国外移住した者がいたためである。
 以上のデータは、モルドバ労働市場に深刻な不均衡が存在するという事実を証明している。世界銀行のデータによれば、モルドバで働く者の4分の3は「ワーキング・プア」である。国内の低賃金と国外でのより高い賃金のために、相変わらず熟練労働者が国外移住しており、残念ながら国民の中で最も活発な層である若者が国外移住をしている。

2. 労働組合が現在直面している課題

 モルドバ労働組合連盟(CNSM)が過去も現在も掲げる主要課題の一つが、最低賃金を必要最低限の生活費のレベルに設定することである。最低賃金を引き上げる問題は、当局との会談や記者会見、公開討論などの場で何度も取り上げられてきた。一定の成果も上がっているが、目標を達成するにはさらに努力する必要がある。
 欧州諸国の最低賃金が平均賃金の50~60%であるのに対し、モルドバではわずか15%である。このような条件では、若い労働者はより魅力的な条件を求めて国外へ出ようとし、それが労働市場に否定的に表れている。もう一つの深刻な問題を引き起こしている。それは、人口移動と熟練労働者の国外流出と共に、国内に残された人々が高齢化していくことである。
 現在、国内の経済状況が困難であるため、モルドバ当局は一部国営企業の民営化など、国内経済再生のための一連の措置を取らざるを得ない。CNSMは、この措置に反対を表明した。なぜなら、民営化は雇用と社会保障の削減、ひいては全国的な人口移動を招きうるからだ。
 労働運動が取り組むべき大きな課題のひとつとして、労働者にしかるべき生活水準や労働・休暇の条件を与えるための、労働者の物質的・社会的権利保護の法的メカニズムの創設および改善の問題がある。
 労働者に対する法令違反のうち最も多いものは、[1]法律で規定されている個別労働契約を結ばない労働力の利用[2]労働手帳の記入、登録、保管規則違反や法定労働時間違反[3]法定最低賃金を下回る賃金での就職あっせん[4]補償金不払いその他の違反――などである。
 産業別労働組合は、三者委員会内に、組合員である労働者の訓練や技能向上、労働安全衛生、安全技術および健康回復などの社会分野の問題を扱う部門別委員会を創設するため使用者側と交渉中である。
 CNSMは、国家に労働市場での積極的な政策実施を要求している。おのおのの社会的パートナーにとって喫緊の課題は、既存の雇用の維持と新規雇用の創出でなければないと考えている。

3. 課題解決に向けた取り組み

1)労働条件の改善、最低賃金の引き上げ、しかるべき年金額を求める労働組合の活動

 過去5年間、CNSMは社会的パートナーと活発な交渉を行ない、最低賃金額を必要最低限の生活費レベルまで引き上げることや労働者の労働および生活条件の改善に関する法律制定プロセスなどに積極的に参加してきた。集団的労使紛争解決についての法案採択にも意見を出して、CNSMが加盟するITUCの提案と勧告を盛り込んだ法案が起草された。CNSMは、現行法では労働者が病休初日の費用を自ら支払わなければならないことになっている一時的労働不能に関する法律改正を、憲法裁判所に上訴した。2009年には、特殊裁判所である労働裁判所創設の必要性を論証する請願書を提出した。
 この問題は今もCNSMの活動課題であり続けている。なぜならば、多くの国々の実践が、このような機関が労働者の権利擁護に効果的であると証明しているからである。
 モルドバでは、平均賃金の過去3年間の伸びは26.26%、年金は35%であるが、国内の最低賃金額は2009年1月以降月額400レイから600レイ(約51ドル)に引き上げられただけである。
 今年、第1級国家公務員の賃金は、月額700レイから900レイ(約70ドル)へと増額された。
 独立採算型企業の労働者には2009年、最低保障賃金額が月額1100レイ(約94ドル)に制定された。これは、生産部門の労働者の労働に対し、国家が保障し雇用者が支払義務を負う最低賃金額であり、法律に基づき消費者物価上昇と国レベルでの労働生産性の水準により、毎年見直されなければならない。
 2013年5月1日から、生産部門の最低保障賃金レベルは月額1400レイ(約108ドル)と定められている。モルドバ共和国の最低年金は月額750レイ(約59ドル)であり、これは年金生活者の必要最低限生活費の45%でしかない。

2)「封筒入り」の賃金支払いを最小化するための労働組合活動

 モルドバの労働市場の大きな問題の一つとして不法就労と「封筒入り賃金」がある。最低賃金額は必要最低限の生活費にも満たないが、最低賃金分の賃金を現金で封筒に入れて労働者に支払うことで、賃金の29%の所得税を逃れようとする使用者さえもいる。最低賃金がこのように支払われることで、結果的に納税の一部が公式的に免除されることになってしまう。この問題に対処するための政府のワーキンググループのデータによれば、少なくとも全就業人口の57%が実質所得を申告せず(申告されない所得は930億レイ以上あるいはGDPの約13%に上る)、その結果、国庫に及ぼす損失は47億レイ(約3億9100万ドル)に上ると見られている。
 CNSMは、不法雇用に対する罰金を1件につき7000レイ(約580ドル)にまで厳しくすることを提案している。そうすれば雇用者は「闇の」労働者を雇う前によく考えるようになるだろう。政府はまた、CNSMの要求に基づき、「封筒入り賃金」の慣習とインフォーマルな労働の減少措置計画を策定した。

3)国外移住者保護活動

 モルドバは労働市場の大幅縮小のため、膨大な数の労働者と公務員が職を失った。そのため、自力でその状況から脱出することを余儀なくされた国民は、大挙して国外での出稼ぎを開始した。
 国内に雇用が無いため、過去数年、国外からの送金が国家経済への重要な財政的貢献となっているにもかかわらず、移民の支援や利益の保護はなく、その社会・労働権および利益を保護する公式な機関も無く、人的資源の合法的移動制度(国家間合意)も無い。モルドバには、国外出稼ぎ者についての正確なデータも確実な情報もなく、そうした人々を登録する制度も仕組みもない。
 労働力の移動先は2ヵ所ある。まず独立国家共同体(CIS)であり、主にロシア連邦には10万人以上が移住した。もう1ヵ所は西欧、主にイタリアである。その他重要な移住先はギリシャ、ポルトガル、イスラエル、ルーマニアがある。
 なお、イタリアとは相互の移住者の雇用あっせんと社会保障に関する合意文書に調印し、またブルガリア、ポルトガル、ルーマニア、ルクセンブルグとは社会保険分野で政府間合意文書を交わしている。

4. CNSMと政府との関係

 モルドバでは、中小企業の発展に必要な条件がまだ整っておらず、農業部門の発展は大きな困難を伴っている。改革の実施は遅れ、投資は無く、経済発展の良いきっかけになりうる補助金はこの分野ではあまりにも少ない。
 汚職や官僚主義が過度にはびこり、所得水準による格差がますます広がっている。
 国民は司法を殆ど信頼せず、政治勢力は裁判所を、法の遵守を推進する国家権力ではなく政治目的の達成手段とみなしている。
 CNSMは国が提唱した親欧州路線を支持しており、法治国家としての結束や経済発展と国民のしかるべき生活水準の保障のための好条件づくりに向けた国内改革支援に今後も力を結集して行く。
 CNSMは社会政策推進の主な形態として建設的な社会的対話の発展をめざしている。