2012年 モルドバの労働事情

2012年12月14日 講演録

モルドバ労働組合連盟CNSA
エリザヴェータ・ユルク

1.労働情勢(全般)

 近年モルドバの全国民が、市場経済への移行、新たな市場メカニズムの創設、制度・法的枠組みに伴う深刻な経済的困難に直面した。社会と労使関係において大規模な変化が発生した。労働市場は、その国の経済の成功、課題や問題を反映している。 しかし、モルドバにおいて労働市場は、経済成長の再開(2000年)や社会経済情勢の相対的な安定の結果としても、反応を見せなかった。さらに、現在も労働市場は悪化し続けている。
 モルドバの公式統計によれば、就業人口の数は減少しつづけている(2002年の158万人から、2012年6月の121万人へ)。同時に、2011年の年末までに失業率は6.7%に増加、2012年6月には4.5%であった。夏季は失業率がわずかに減少したが、今年末までに増加した。
 世界銀行のデータによると、モルドバで就業人口の4分の3は、ワーキング・プアであり、国内の低い賃金と国外の高い賃金は、熟練労働者が、国外へ流出していく主な原因となっており、残念ながら国の中でも最もアクティブな青年層が最も多く国外へ流出している。

2. 労働組合が現在直面している課題

 われわれの労働組合活動の議題は、労働者の物質的・社会的権利を保護するための法的メカニズムを創ることである。多くの企業では賃金が減少している。これは、賃金および給与の直接的な減給に関連しているが、はるかに大きな影響を与えているのは、パートタイム制や休職制、奨励や報奨金その他の削減である。
 経済危機がより低所得層に対して、大きな打撃を与えることを考慮し、最低賃金の増額や生活必需品、サービスの低価格化に注目している。最低生活費のレベルを下回らないように、最低賃金の増額をめざし、連帯して取り組んでいかなければならない。
 いくつかの業界の労働組合は、労働組合員の教育と専門能力開発、労働および安全技術や労働者のための公衆衛生の保護のために、経営者と交渉を行なっている。
 われわれは、国家の側からの労働市場に対する積極的な政策を主張している。社会的なパートナーの課題において最優先すべき課題は、既存の雇用を守り、なおかつ新たな雇用を生み出すことである。

3.課題解決に向けた取り組み

●最低賃金増額と正当な年金の獲得のための労働組合の活動

 2008年以降、モルドバの労働組合は社会的パートナーと交渉をしながら、国内の最低賃金の段階的な増加、そして最低生活レベルまでの増額を主張している。
 2009年、国の最低賃金は月額400レイから月額600レイ(51ドル)に増加した。2011年、公共部門の第1級職員の給与は600レイから700レイに、2012年6月1日からは、 800レイ(62ドル)に増加している。自立型企業では、2009年、1100レイ(94ドル)という額で最低保証賃金が設定されていた。
  これは国家によって労働の対価として保障された最低額の賃金であり、法に基づき毎年消費者物価や国民総生産のレベルに準じて見直しが行なわれている。 2012年5月1日から民間部門における最低保証賃金は1300レイ(110ドル)に設定。2012年4月からは、国家公務員の賃金支払いに関する新しい法律が施行され、賃金が12%増加することとなった。
 これらの施策を実施した結果、2008~2011年の期間、国の平均給与は、総じて26%増、公共部門で46%増、民間部門で18%増加した。
 モルドバ共和国の最低年金額は702レイ(58ドル)であり、年金受給者の必要最低生活費の45%を補償する程度である。労働組合の提案で、最低年金額とそれ以下の金額の年金の差額は、国家によって補完される。

●『封筒に入れて』の賃金支払いを最小限にするための企業での労働組合活動

 CNSAにとって長い間の懸念事項は、賃金を申告しない不法な形態の就労である。労働人口の推定57%が実質賃金を申告していない。そのことによる損失はおよそ470億 レイ(391万ドル)に達し、国家予算に影響を与えている。
 労働組合の要請を受け、政府は2011年6月28日付で法律№477『封筒に入れての賃金支払いの風習と不法就労の削減のための方策計画の実施の承認について』を採択した。
 この計画は、いくつかの課題を掲げている。労働賃金支払いに関する法への違法行為に対する制裁メカニズムの厳格化、労使関係、雇用や労働時間の面での説明の完全化、収益の登録部分の増加、違反を検出するためのコントロールの強化、不法就労と『封筒に入れての給与支払い』を根絶するための方策への労働組合の参加、労働者に対する法的教育の実施である。
 この計画に含まれているその他の施策には次のようなものがある。国家統計局によって提供される情報に基づき、疑わしい低賃金を支払っている企業に対してのコントロールを行なうための省庁を超えたグループの設立(労働検査局、国税庁、経済犯罪・汚職撲滅センター、検事総庁)、労働協約に関する国家委員会の会合で、定期的に非公式な経済活動や二重帳簿、「封筒に入れた」給与の支払いに関する諸問題を検討する。この省庁間の連携は、その直接的な行動計画を採択した。
 同様の目的でCNSAは、不法就労や「封筒に入れての賃金の支払い」に対する注意を喚起するため、一連の情報キャンペーンを実施し、非公式経済活動に関するおよそ4万部の小冊子を配布した。2012年11月には、労働者の連帯のための会議が開催された。労働組合の代表者達は、さまざまなテレビの討論会に参加した。これらの問題は、CNSAのインターネットサイトと労働組合の週刊誌 民衆の声の論説文で取りあげられた。

●外国への渡航・移住者の保護に関する施策

 もう一つの大きな問題は、人口の国外への移住である。モルドバの労働人口の移動には2つの方向がある。CIS諸国、主にロシアには10万人以上が出稼ぎのために労働移住した。西ヨーロッパでは、イタリア、ギリシャ、ポルトガル、イスラエル、ルーマニアなどが挙げられる。
 出稼ぎ労働者は、経営者の国の経済に多大な貢献をもたらしているにもかかわらず、彼らの権利は限定されており、社会保障を享受することができない状況にある。
 CNSAは、頻繁に出稼ぎ労働者問題、出稼ぎ労働者の社会保障、両親の保護を得られなくなっている残された子どもの権利の擁護の問題を取り上げ、政府間協定の調印を主張した。モルドバ共和国は、イタリアと両国間の移住者の就労と社会的保護に関する協定を調印。その他にも、ブルガリア、ポルトガル、ルーマニア、ルクセンブルグとの社会保険の分野における政府間協定に調印した。

●国内政治の不安定な状況下における政府及び保護者との間の相互関係CNSAの活動が行なわれてきたすべての期間において、すべての社会・経済的な諸問題を社会的対話によって解決していくこと、社会パートナーシップの基礎となる法的枠組みの改善、すべてのレベルでの労働協約及び労働協約の対象となるフィールドの拡大、すべてのレベルでの社会的対話の発展に取り組んできた。

 近年、政府代表者とモルドバ労働保護同盟(National Confederation of Patronage)の間での一連の会談が行なわれており、その中で労働組合と社会的パートナーの協業の原則やすべてのレベルでの社会的対話に関して大筋が協議されてきた。
 社会・経済的な性質を持つ一連の要件が求められ、2011年には首相によって、これらの要件の具体的な実施時期が定められた議定書調印が行なわれた。
 この議定書により必要最低生活費に関する法律の草案が作成され、政令2011年6月28日付No.477『封筒に入れての賃金支払いの風習を削減するための施策計画承認に関して』が採択され、また、労働者の保養治療に対する費用が1000万レイ増額された。
 また、CNSAによる要請により、職歴30年~35年の女性のための保険料増額と労働者による病気休暇初日の支払いが違憲であると認められた。

4.ナショナルセンターと政府との関係

 モルドバ労働組合は、労働協約と協議に関する国家委員会・産業委員会の参加のもと、地域や地方の労働組合組織は、産業界の意見を考慮し、定期的に政府と議会と協議を行なっている。
 毎年、国内の社会・経済政策の推進と実施、国レベルでの労働協約の遂行、労働市場の状況、労働者への賃金支払いと未払い賃金、国家予算や国家社会保険・医療保険その他に関する法案に関連する諸問題の議論が行なわれている。
 CNSAは、社会的パートナーシップの法的基盤への改定や補完に関する法案を作成したが、その中には政府で検討され、採択のために議会に提出されるべき『労働法』も含まれている。
 近年、社会的パートナーとの間で交渉がなされ、以下の労働協約(全国レベル)が調印された。
 「実物経済部門における最低保証賃金について」
 「労働時間と休憩時間」
 「大量解雇における基準」
 国レベルでの労働協約の遵守に関する状況では、毎年、同盟委員会と協議・労働協約国家委員会の年次会合で協議されている。
 2012年2月、CNSAとモルドバ・パトロネージ全国連盟は、相互利益の合意により、メンバーの経済的・社会的条件を改善するための協業に関する協定に調印した。 社会的パートナーは、交渉を行なっていくこと、また、近い将来に労働者の職業訓練や健康保全、労働における安全保障、青年の社会的・経済的な保護に関して、国レベルでの労働協約を調印することに合意した。

5.多国籍企業の進出状況と労使紛争

 近年、多国籍企業が活動を始めている。例えばFrance Telecom-Orange とMoldcell (親会社はTelia Sonera スイス・フィンランド )という2つの通信企業が活動している。これらの企業の両方に労働組合が設立された。これらの企業は、その他の経済エージェントと比べて労働者のモチベーションは高いが、それはより良い労働環境、労働に見合った賃金、社会的な保障などによるものである。
 Moldcell社の労働組合はどのようにして設立されたか。会社は、技術部門の職員のアウトソーシングへの移行措置をとったが、その際、技術部門は労働組合の設立を決定した。そして産業別労働組合に相談し、労働組合の会合が行なわれ、労働組合委員会メンバーと代表が選出された。その後すべての書類が作成された。通信業界の労働組合連盟は、会社の首脳部に対し同社に労働組合が設立されたことを通達した。通信業界の労働組合連盟が加盟している国際産業別組織「UNI Global」は、Moldcelの親会社であるTelia Soneraの労働組合代表との会談を行なった。現在、われわれは労働協約の草案を作成中である。