1999年 カザフスタンの労働事情

1999年2月10日 講演録

リザフメト・モルダジャーノフ
カザフスタン労働組合連合 副委員長

 

市場経済導入への移行

 カザフスタンは、多民族国家で100以上の民族が住んでおり、国土面積は、約200万平方キロメートルあります。
 カザフスタン労働組合(TUFRK)は、30の産別組織と、14の地域別組織で組織されています。ご存じのとおり、カザフスタン共和国は、かつての共産主義の権威主義的なシステムから民主化へと歩んでいます。また、全体主義的な計画経済から市場経済へと移行しており、市場経済の確立が急がれています。改革が始まって以来、その方向性は少しずつ変わってきており、現状は、次のようになっています。
 まず、一つめの特徴は、いわゆるショック療法による危機的な状況は、もう過去のものになったと言えることです。経済指数は、少しずつ上昇しているし、また、社会生活部門においても、少しずつ安定化の兆しが見られています。かといって、すぐに経済社会がよくなるとは言えません。
 二つめは貧富の差がだんだん激しくなってきているということです。特に、貧しい人たちがふえており、国からの保護が必要になっています。平均賃金は、旧ソ連邦の共和国の中では、比較的高いレベルになり、月120ドルになっています。しかしそれでも、社会経済情勢は大変困難なものがあります。そのため、なかなか消費も進まない状況で、特に農村部に住む人たちの3分の1は、ささやかな買い物すらできない現状です。国内総生産も、国民1人当たり2,500ドルと大変低くなっています。生産部門においても仕事がなく、一部の企業・工場においては、全く生産活動を停止してしまっているところもあります。何万人という労働者が、手当のない休暇、無給休暇に入らざるを得ない状況になっています。
 公的なデータでは、3.8%が失業率と言われていますが、潜在的な失業率も合わせると、我々の情報では、5人のうち1人が失業者ということになります。また、特に企業の倒産、財産差し押さえや、企業活動の停止などの措置を受けることによって、かなり大量の失業者が出ていると考えられます。将来的にも、このような失業者の数は増えると予測されています。このような状況のなか、雇用の構造を変えていくということが必要になってきており、効果的な経済部門で、失業者を雇用していく政策が必要です。さらに人口問題もあり、私どもは、このような困難な時代の状況にあり、ハンガーストライキ、一般ストライキ、それから行進、また抗議集会等を行い、さまざまな措置をとっています。その際にも、各国からの応援をいただいています。
 労働組合はさまざまな困難の中で、何とか生存を勝ち取っていると思います。現在、私どもの組織は、国の中で唯一の巨大な労働者をまとめる組織となっており、国、政府、また経営者としても、我々を無視することはできない現状です。
 私どものさまざまな努力により、労働組合とは対立をするよりも、話し合いで決着をつけたほうがいいという世論になってきていますので、一歩一歩ではありますが、社会的に地位も確立されてきています。また、団体交渉を含めまして、労働組合の機能を少しずつきちんと行われるようになってきています。それが、今の労使関係の現状と言えると思います。そして、我々、労働組合のイニシアチブにより、産業部門別、地域別、各企業内、また全国レベルにおいての団体交渉の雰囲気づくりがなされており、きちんとシステム化されてきています。
 ちょうど1ヵ月前には、1999年度の政府と経営者団体、また労働組合との間における総合協定に調印いたしました。

カザフスタンが直面する問題

 現在の一番の大きな問題は、賃金の遅配です。
 1998年12月1日現在のデータですが、賃金の遅配の総額として、これは民間企業等、さまざまな組織等含めて、総額約600万ドルに達しています。
 また、企業間の相互決済がなかなかうまくいかず、未払いの状況が続いており、各企業の運転資金の不足というのも大きな問題になっています。こうした状況を克服するために、政府としては、ただ単に、企業を倒産させるとか、財産の差し押さえをするといった措置しかとれないのが現状です。こういった政府の措置は、決して十分ではないと我々は考えており、逆に社会情勢を悪化させるのではないかと予測しています。なぜならば、現段階では、倒産の危機に陥っている企業がほとんどだからです。
 現在、インフレ率は下がってきていますし、また自国通貨であるテンゲも安定してきています。しかし、世界の情勢が、今後、私どものほうにも影響があると危機を感じています。特に東南アジア、ロシアの危機的な状況が、我が国にも影響を及ぼすのではないかと危倶しています。そういった世界各国の危機的状況が、我が国の社会的、また経済的な情勢に悪影響を及ぼし、今まであった一定の社会的権利、また特典というものが、今後は続けられなくなるのではないかと心配をしています。さらに、石油また金属の価格が下がることも懸念されています。我が国にとっては、石油、金属の産出から得る国家予算は、全体予算の3分の1を占めていますので、石油、金属の価格が下がると、かなりの打撃を受けます。
 しかし、国内の安定と、民族間の平和、調和を保つという方向性は維持しなければなりません。この現状にあって、私ども労働組合としては、今後の労使関係の構築を、社会的パートナーシップの原則に基づいて行うことが大切だと考えます。そして今回、日本の労働組合を学ぶ機会を与えられたことは、非常に貴重なことだと思っています。つまり、共通の目的に関して、お互いが協力をしていく、つまり、国の繁栄、労働者一人一人の繁栄のために、お互いが協力をしていかなければならないことを実感しました。

ナターニャ・フィリポヴナ・チェベンコ
カザフスタン自由労働組合連合 副委員長

 

カザフスタンの地域の状況

 この8年間、我が国では、新しい経済体制を実行していますが、そのプロセスは大変困難なものになっています。
 何と言いましても、ソ連邦の崩壊が一番大きな原因だったわけですが、旧ソ連邦時代は、各共和国、お互いが経済的にかなり密接に関係を保っており、お互い供給し合う関係にありました。我が国の企業も、ほかの共和国からの原料の供給を受けて生産を行っていたという現状があったため、その関係が途絶えたことは一番大きな痛手です。このようなことがあり、大企業、工場等が活動できないのが現状で、何百という工場が活動を停止し、失業が増えています。
 政府は、この社会情勢を改善するために、さまざまな改革をしているますが、労働、雇用、また年金制度に関して、なかなか目に見える結果をもたらしてはいません。国民が自分たちの生活レベルが上がっていくことは信じられなくなっているというのが現状です。
この状況は国全体、各州、各地方、私が住むマンゲスタウ州でも同様です。マンゲスタウ州は、砂漠地帯に位置していますが、カザフスタン西部のカスピ海沿いの半島を含み、天然資源、特に石油の埋蔵量があるということでこの半島は「宝島」とも呼ばれています。10万平方キロメートル以上の面積があり、州の人口は35万人、民族が大変多様で、50以上のさまざまな民族がいます。国全体もそうですが、私どもの州の中でも、それぞれの民族が大変仲がいいというのが1つの特徴です。この点に関しては、政府の貢献も大きいと思っていますが、カザフ人のもともとの性格として、大変穏やかな性格があげられます。
 マンゲスタウ州の人口は、30~40代の若い人が大変名くなっています。また、農村地域には、その地域に以前から住んでいる土着の住民の数が多くなっています。特に1970年代、この州には、旧ソ連邦のさまざまな共和国から新しい町の建設のために移り住む人たちが多くいました。
この州には、我が国初の高速増殖炉が建設されました。また、石油発掘のための井戸も掘られ、港もつくられました。これは、資源やエネルギーをカスピ海を通じて、アゼルバイジャン、イラン、ロシアといった国々に輸送できだからです。ところが、今は、実質稼働できているのは、石油の井戸だけで、ほかの工場は、停止をしているのが現状です。また、先ほど申し上げた高速増殖炉を含むエネルギー工場(事務局注記:発電や熱供給を担う施設)であるマンゲスタウ・エネルギー工場も同様の状況です。ここは、高速増殖炉が置かれているのですが、有能な専門家が外に出ていってしまい、安全な運転に支障をきたすのではないかと懸念されています。
 こういった経済改革の波に乗りまして、経営者のスタイルも変わりました。今までは、経営者というと「国」だったわけですが、民間の経営者も誕生いたしました。それにあわせて、カザフスタン自由労働組合連合(CFTUK)も誕生しました。
 旧体制のときには、いわゆる官公労働組合しかなかったのですが、官公労働組合では、この新しい経済情勢の中、十分に労働者の利益を守ることができず、この現状そのものが、古い労働組合の体制を破壊させていったと言えます。

CFTUKの取組み

 こうしてCFTUKが誕生したわけですが、これは、変化している状況の中にあって、新しい労働組合、新しい目的や機能を果たす労働組合を時代が必要としたことに起因すると思います。
まず、今まで労働組合は、病院で何か治療を受けたときに、医療証明書をとったり、特別の手当を出したり、また住居の手配、休暇用の旅行券の手配といったことをすべておこなっていたわけですが、それは、国がやることで、労働組合は本来の仕事に戻るべきだと考えています。CFTUKの特徴は、今まで国がやるべきことで労働組合がやっていた仕事を、国に一切やってもらうようにするという考え方を持っていることです。
 国の法律に基づき、経営者も労働組合に入れることになっているわけですが、私たちのCFTUKは、規約の中で「経営者は入れない」ということをうたっています。以前は労働組合に加入するのは、基本的には自由意思と言われていても、仕事についたら労働組合に入らなければいけないとい状況でした。この点に関しても変えていこうと思っています。
今後、課題として掲げていますのが、賃金などの労働条件の向上、社会保障問題、また会社の利益の向上に基づいての賃金の上昇ということです。
この10年間は、非常に困難な時代であり、CFTUKが存続できるように闘ってきましたが、ある意味では一定の成果を上げていると思っています。
 マンゲスタウ州の労働組合に関して申し上げますと、組織ができましたのが6年前で、当初は、民間企業の労働者が主なメンバーでしたが、今は、さまざまな分野の労働者で組織されており、学校の先生などの公務員、医者、パイロット、運転手、また、工場に働く人たちと、さまざまな組合員がいます。
 我々の活動の中においては、いろいろな手段を講じています。きちんとテーブルを囲んで話し合いを行っていくような団体交渉を行っていますし、労働協約も結んでいるのですが、なかなか経営者側は守ってくれず、特に賃金の支払いに関してはそのようなケースが多くあります。このような経営者側からの違反があったときには、裁判にかけるようにしています。また、抗議集会等も行ってきています。
 このように、CFTUKは徐々に発展をしてきていますが、いろいろ多くの問題を抱えています。特に大きな問題なのは、労働者がまだまだ差別待遇を受けているということです。この中で問題は、住んでいる人たちの意識がなかなか変わらないことです。つまり、上から与えてもらうのを待ってしまうということです。
 今後は、人が国のために存在するのではなく、国が人のために存在するような社会、また、人が政府のために存在するのではなく、政府が人のために働く、そういった社会づくりができることを願っています。
 また労働組合も、労働者の権利をきちんと守れるように努力をしていかなけれぱなりません。