2000年 アゼルバイジャンの労働事情

2000年2月8日 講演録

イリヤス・アルハス・アリーエフ
アゼルバイジャン労働組合連合(ATUC )第一副委員長

 

アゼルバイジャンの現状

 アゼルバイジャンは現在、20%の領土が占4領を受けており、100万人の難民がいるという大変困難な状況にあります。
 この約10年間紛争が続いており、その紛争のせいで多くの土地を失い、物質的な損失、損害ということでは、約何十億ドルにも換算されると考えられ、また最も大きな点は、人材を失ったことだといえます。特に知識を持った優秀な人材が、ロシア、トルコ、イランといった諸外国に流出してしまっています。
 このような不幸かつ困難な状況下にあっても、アゼルバイジャンは依然として自活の道を歩んでおり、正しい道に踏み出していると思います。特に1992年の独立以来、新しい道を歩み市場経済も少しずつではありますが着々と進められてきて、決して古い体制に戻ることはないと思っています。
 その新しい道を歩んでいくためには、すべての条件を神が与えてくれていると私は確信しています。具体的に言うと、天然資源の豊富さです。油田、ガス田が豊かであり、何と言っても国民の心の中にたいへん意欲があるので、時間さえあればきちんと正常な国になっていけると思います。
 今、アゼルバイジャンでは市場経済へと移行しているなかで、民間企業が誕生してきており、社会的な関係も変わってきています。
 それにしたがって労働関係、労使関係も変わってきて、世界の統合化への流れに合意をしています。また、ILOのメンバーにもなり、世界の基準に見合うような労働関係を構築し、労使関係に関するILOの条約や勧告を順々に批准をしてきています。今現在まで批准されている条約、勧告の数は60になっています。そのILOの基準に基づいて新しい法律が策定されています。

採択された新しい法律

 現在、アゼルバイジャンにおいては、非常に積極的に法整備がなされていて、市場経済へ移行するために必要な法律の基盤がつくられています。具体的な労働基準や、労使関係を決めていくためのシステムづくりがなされ、社会的、また労働上での関係や問題を調整できる新しい法律が採択されています。
 具体的に採択された法律は、個人契約についての法律、個人労働争議の許可に関する法律、団体契約協約法、団体争議の許可に関する法律、労働保護に関する法律、雇用法、休暇に関する法律、ストライキ・集会・デモに関する法律などがあります。1999年7月1日、現地の言葉ではメジリソンといいますが、国会において、アゼルバイジャンにおけるすべての労働問題を調整できるような労働法が正式に採択されました。
 このような労働関係、労使関係を定める上で新しい法律の果たす役割は当然大きいわけですが、もう1点大切なのは、経済の情勢と見合った労使関係を構築していくことです。
 また、それとあわせて、採択された新しい労働に関するさまざまな法律が、きちんと実行されているかどうか国側から監督をしていくことも大事な要素となっています。また、現在、新しいさまざまな法律の基盤ができているけれども、具体的に現実面においてその法律がきちんと守られているかどうかというと、非常に難しい状況にあります。
 今現在アゼルバイジャンでは残念ながら、このきちんとした法律が守られていないというのが現状です。具体的にいうと、給料の遅配が続いていること、賃金に関する指数が出されていても、それがあまり役に立っていないことなどがあります。そして特に倒産や、民営化などの際に、労働者の権利がきちんと守られていないこと、不法な大量解雇がなされていること、労働契約を結ぶ際に、法律にのっとった長期にわたるものではなく、1回限りの短期のものになっているということもあります。それから使用者側が一方的に労働時間を違法に延ばしたり、有給休暇の日数を減らしたりといったさまざまな違反がなされており、労働争議も続いているわけです。それは個人のレベルでも、また団体のレベルでもあり、残念ながらこういった状況の中にあって、国家側から監督をすべき機関があまり十分に役割を果たしていないというのが現状です。

アゼルバイジャンの労使関係

 それから、この新しい労使関係を構築する際に妨げとなっている困難な問題がもうひとつあります。それは労使関係で、労働者と使用者側がいるわけですが、使用者側の国レベルでの組織がありません。それで、現状では労働組合が話し合いをする際の国レベルでの対等な権限を持つ交渉相手が、国の政府機関になっています。つまり国家のしかるべき機関が、その労使間の協議の際には保証人あるいは仲裁人になっている場合もありますし、雇用者の立場を代表する場合もあります。
 このようにさまざまな問題点はありますが、アゼルバイジャンの労働関係も少しずつ発展してきていると思います。経済の分野において新しい改革がなされ、その改革の中にあって労働組合の占める位置、役割、またその活動の手段も変わってきています。そして労働者の利益、権利を守る、また代表していくという立場において、平等な労使関係を構築するために、私どものアゼルバイジャン労働組合連合が構築し、目指している関係というのは、社会的パートナーシップです。新しい社会的労使関係を構築するためにはパートナーシップが一番合理的であり、効果的であると考えています。そのパートナーシップにのっとって、国家とも、また使用者ともよりよい関係を構築していきたいと考えています。現在少しずつ労働組合の果たす役割が大きくなってきています。その背景にあるのは、新しい法律として採択された社会団体法、それとあわせて社会的パートナーシップをさらに固めるための法律として採択された労働組合法です。その中で特に我々が重視しているのは、団体契約協約法です。この法律を採択するにあたって、労働組合はイニシアティブを発揮して、積極的に法案づくりに参加し、労働省と協力して作成しました。
 この法律の内容はILO条約に基づいたものになっています。特に重要なところは、社会的パートナーシップ構築の際の重要な条件が定められていることです。さらにパートナーシップ構築のための戦略的な方向性規定されており、三者間または二者間におけるさまざまなレベルでの協約を結ぶことが可能となっています。
 このように法整備がなされてきていますが、あわせて労働組合の活動もさまざまな面で経験を積んできています。その具体的な一環として、全国レベルで一般協約が結ばれました。これは労働組合と政府が結ぶもので、産別レベルでの賃金に関する協約、それぞれの地域レベルでの協約、そして各企業レベルでの労働契約、労働協約です。
 そして、アゼルバイジャンの労働組合は具体的には使用者の全国レベルの組織がないので、国と主に話を進めますが、その際国というのは使用者の立場を代表するものであり、また紛争が生じた際の仲裁役でもあるわけですが、我々は断固として雇用されている側の立場、利益を代表しています。
 先ほども申しましたけれども、全国レベルで一般協約や団体契約が結ばれているわけですが、これにのっとって政府との話し合いがなされ、議会との関係においても、労働者の利益を守るべく努力をしています。そして、アゼルバイジャンでは、労使関係を構築するための労働者側、使用者側、特に使用者側の組織がまだきちんと整備されていないということもあって、きちんとした三者主義でのパートナーシップの構築ができないでいるわけです。ですから、全国レベルの一般協約というのは二者間、つまり労働組合と政府との間で結ばれています。このようにアゼルバイジャンの労働組合は労働契約、協約を結びながら、さらにその契約、協約等にのっとってきちんと団体レベルで労使関係を調整できる
よう努力をしています。
 この労働協約、協定というのは、形の構造の面から見ると、今までとあまり変わりがないように見えるかもしれませんが、内容面を細かく見ると、随分変わってきており、さらに具体的かつ明確に問題点が強調され、具体論、具体的な対策が明記されています。そして、労働協約の結ばれる数も増えてきています。しかし、使用者側の態度はどうかというと、まだまだ今後改善されることを願わなくてはいけないというのが現状ですが、それにしても少しずつ労働者、また使用者、そして労働組合との協力関係、また相互関係というものが整備されてきています。そういう意味においては、今アゼルバイジャンにおいて、文明的な社会的労使関係の構築が始まったと言えます。そのために労働組合は自分たちの役割を果たすべく努力を続けています。