2015年 チュニジアの労働事情

2015年12月4日講演録
チュニジア労働総同盟(UGTT)
ラウィ-ニ・ベンマムド・ハーテム(Mr.Laouini Benmahmoud Hatem)

チュニジア労働総同盟(UGTT)国際担当
 

1. チュニジア労働総同盟(UGTT)の使命とノーベル平和賞の受賞

 チュニジア労働総同盟は1946年に設立された。このナショナルセンターの使命、ならびにノーベル平和賞の受賞ついて触れたい。UGTTは、創設以来国民的な課題と労働者の問題の双方を常に考えてきた。1952年に、フランスの植民地主義者によって暗殺されたUGTT創設者のファルハト・ハシャードはじめとするUGTTは、国の独立に際しその力を発揮したが、それはこうした考えに沿うものである。また、アフマド・トゥリリという当時の書記長は、ブルギバ大統領に対して民主化と政治改革の必要性について書簡を送ったりもしている。
 2011年の一連の革命後、2人の政治家シュクリー・べライド氏、そしてムハンマド・バラヒミ氏が暗殺され、チュニジアは内戦の危機を迎えることになる。このような中で、UGTTはチュニジアを救うための国民対話というロードマップを提案し、これを主導する形でチュニジア商工業連盟、チュニジア人権擁護連盟、弁護士組合を含むカルテットと呼ばれる四者対話を推進した。そして、この提案によって、政治権力をイスラム政府から官僚主導政府に平和的に移譲することができた。その結果、新憲法の基礎作業が進み、全ての法制度を整えて、大統領と議会選挙を民主的に実施するまでにこぎ着けた。そして、この功績が認められて、UGTTは今年(2015年)ノーベル平和賞を受賞したのである。

2.労働情勢(全般)

(1)労働基本情報(経済指標)と労働問題について
 まず、労働基本情報(経済指標)に触れておく。経済指標である実質GDPは、2013年2.4%、2014年2.3%、そして2015年が2.4%の見通しとなっている。物価上昇率は、2013年6.1%、2014年4.9%、そして2015年が4.55%となっている。
 次に、現状で浮上している労働問題について触れておく。それは、非正規労働者の問題である。チュニジアにおいてはこの非正規労働という働き方が、新たな時代・新たな状況に入ったということである。2011年1月14日以降、非正規労働者は全体の55%を占めるというデータが示され、完全に非正規労働者が人数規模において正規労働者を上回ってしまったということである。この非正規労働の拡大は、農業から始まってサービス業、工業にもあり、とりわけ商業部門では非常に多くの非正規労働者が従事するなど、あらゆる経済部門に及びんでいる。
 しかも、非正規労働の形態あるいは不法性がいろいろな形であらわれてきている。例えばそれは、派遣労働であったり、長時間労働であったり、非常に低い賃金労働であったり、契約が守られていなかったり、あるいは、そもそも契約が存在しないで働いているといったことなど、様々に問題が浮上してきている。いわば、そうした非正規労働の拡大は、新しい奴隷労働が出てきたといえなくもない。
 その中でもとりわけ問題なのは、派遣労働である。ただし、UGTTは世界に先駆けてこの派遣労働を政府、公共部門において禁止することに成功している。これはITUCの他のどこの加盟国でも成し得てないことであり、この2011 年1 月14 日以降の活動によって、政府との間での合意により成し遂げられたものである。

(2)労働組合が現在直面している課題について
 そこでこれからの挑戦であるが、1つに、民間部門に働く派遣労働者は低賃金、長時間労働、社会保険未加入、そして職場に定着できないなど、非常に困難な状況に置かれていることから、公共部門で成功した派遣労働の禁止を民間部門においても実現することである。同時に、非正規労働者という大きなくくりで、その権利を守るため、フォーマルな労働経済に組み込んでいかなければならない。 
 2つには、こうした非正規労働・派遣労働問題をも包含し、民間部門における賃上げに取り組むことである。これまで、長い間UGTTは政府部門における団体交渉等によって賃上げを確保してきた。今後は、民間部門における賃上げにかじを切るということである。総じて、賃金労働者は現在非常に物価が上昇する中、賃金が凍結され厳しい生活を余儀なくされている。
 3つには、工業労働者や民間の労働者の組織化問題である。かつてUGTTの組合員数は50万人から60万人ほどであったが、2011年の「チュニジアの春」の革命後には95万人と60%の増加を果たしている。大多数の工場や民間企業は多国籍企業であり、労働組合活動を認めていない。そのことが労働条件の改善を阻んでいる。
 4つには、法制度整備の問題である。チュニジアはILO条約の勧告に基づく多くの協定や国際憲章を批准してきたにもかかわらず、国内法がこれらの法制度を実現していない。それぞれの条約の内容を国内法に引き直していく作業をしているところである。
 5つには、政府が定年年齢を引き上げようとして問題である。同時に早期の退職する者に奨励金を出している問題も解決しなければならない。
 最後6つには、労働組合の複数化の名のもとに、政府や特定政党に属するような労働組合がたくさんできているという問題である。例えば、イスラム政党に属する労働組合とか、経済マフィアといわれる人たちがつくる労働組合などである。政府は、これらの労働組合を利用してUGTTの力をそごうとしている。UGTTの力が大きくなり過ぎたということで、この力をそぐために、こうした組合の影響力を利用してUGTTをチェックしようという動きになっている。

(3)その課題に向けてどのように取り組もうとしているのか
 1つは、2013年にUGTTと政府、及びチュニジア商工業連合(使用者組織)との間で結ばれた労働協約条項を遵守させるとともに、その実効化を図ることである。これは、労働紛争の解決のための重要な仕組みを保障している。特に、社会問題対話のための最高評議会の設置を通じた社会問題対話を行っていかなければならない。
 2つには、国際憲章やチュニジア新憲法が保障するスト権の行使を通じた社会的闘争を行うことである。こうした観点から、最近UGTTは民間部門における地方ストを組織的・連続的に行うことを決定した。それは、労使交渉が停滞し、使用者側が賃上げを全く認めようとしないことへの対抗措置として大切なのである。現に、様々な地方で、とりわけチュニジア南部のスファックス、あるいは大チュニスでストが企画され、UGTTは組織的指導に成功した。しかし、1週間ほど前、共和国警備隊のバスが自爆攻撃というテロを受け、12人が死亡するとういうおぞましい事件が発生し、UGTTは全てのストライキを中止した。これは、責任ある立場のUGTTとして、こうした治安状況の悪さの中でのストは適切でないとの判断からである。
 3つには、労働組合活動の近代化、整備、強化に取り組むことである。それは、各構成員の研修を充実するということであり、労働者の知識レベルの引き上げのため研修を幅広く行う機会を提供していかなければならない。こうした職域、地方、全国各レベルでの開催により、労働者に労働関係法令と自らの権利についての認識を高めさせ、活動がより深く、より原則に基づいた正しい運動になるよう導びいていかなければならない。
 4つには、労働人口密度の高い地域における組織化キャンペーンの実施である。これは労働組合への加入者増加を図ることに狙いがあることは言うまでもない。
 5つには、生産性を向上させ、仕事の付加価値を高めるための研修の実施である。
 最後6つには、労働組合の複数化に対する戦いである。UGTTとしては、労働者の意思により複数になることを望むのであれば、それは尊重しなければならないと考えている。しかし、現在行われていることは、政府という別の力によって複数の労働組合が故意につくられているという状況であり、これに対しては断固戦っていかなければならない。