2009年 モロッコの労働事情

2009年12月11日 講演録

1.労働事情(全般)

人  口 30,860,000人(2007年)
労働組合 モロッコ労働組合(UMT)
加盟19組織 34地方組織  組合員数450,000人

 労働情勢の顕著な傾向は労働組合運動の分裂で、「労働組合の多元性」が労働組合運動の状況や闘争力、交渉力に悪影響を及ぼしている。一方公権力には、労働法制を尊重する姿勢が欠如している。生産現場ではしばしば、労働組合事務所の設立を口実に、労働者を解雇する、労働組合運動の自由と権利を謳った法律や国際憲章に違反する行為が行われている。またストライキが行われた場合、労働の自由を謳った悪名高いモロッコ刑法第288章を口実に参加者が逮捕、訴追されるケースもある。
 経営者によってでっち上げられた「労働組合事務所」は、政党に忠実で、組合員の団結による真の闘争を妨害する存在であり、経営者側を不当に優遇している。
 労働法は団体交渉に言及しているものの、生産の各当事者に対する強制力を持たない社会的対話のレベルに留まっている。

2.労働組合が現在直面している課題

  1. 労働法制ならびにILO条約の遵守。
  2. 労働組合運動の自由と権利の尊重。
  3. モロッコ国内法と国際憲章の適合。
  4. スト制限法案の動きを阻止。
  5. 労働者の社会的保護の充実。
  6. 経済社会評議会の創設。
  7. 最低賃金の引き上げ。
  8. 所得税(現在40%)の減税。
  9. 男女の機会均等の実現。

3.その問題解決に向け、どのように取り組もうとしているか

 労働者の置かれた劣悪な状況を改善するため、労働組合の設立、地域別の連合組織の設立、職種別組織の設立、労働組合組織の育成など、以下の諸点をふまえ、垂直レベルおよび水平レベルにおける組織網の拡大に努めている。
 諮問評議会(議会)内におけるUMTチームの活用。
 地方議会内におけるUMT代表者の活用。
 各方面との書簡による連絡。
 生産的な交渉に向けた真摯な取り組み。
 抗議集会やストの実施。
 国内外における労働者の連帯の活用。
 UMTの国際的地位の強化。
 メーデーの世界的なデモに労働者を動員し、労働者階級が抱える問題や産業別及び中央レベルでの状況について訴えかけること。
 独立した労働組合運動の重要性と正当性について労働者を啓発すること。
 これらの目的を達成するために、各種声明を発表し、集会の開催、継続的な労働組合員養成の強化、日常的なコミュニケーションのためのネットワークの活用、組織のネットワークやUMTの拠点を、労働者に奉仕するために活用している。

4.ナショナルセンターと政府との関係

 フランスおよびスペインの植民地支配の下、労働者の愛国意識や愛国運動の高まりの中で、労働者の間に組合結成の動きが強まり、1955年3月20日にカサブランカ市内のブーシャントゥーフ地区でUMTが創設されるに至った。創設当初から労働組合組織に関する広範な議論が「従属的であるべきか、自立的であるべきか」という点をめぐって展開されてきた。
 創設以降最初の数年間にわたり、「中央執行部に対する党の支配」と「労働組合運動の独立」を主張する主要な2つの陣営が主導権をめぐって争い、その結果労働者の支持を得た「労働運動の独立」陣営が勝利した。それ以降、UMTの中央執行部は、労働組合の政府、経営者および諸政党からの独立を守るべく努めてきた。
 労働組合の独立とは、最初から敵対的な立場をとるという意味ではなく、敵対されれば敵対し、友好的に対応されれば友好的に対応し、同盟を求める者には同盟することを意味する。モロッコ労働者の意思決定における独立的権利や組織の一体性を認めないものとは同盟しないし交渉することもない。UMTは自由かつ正統な国民独立運動と労働組合運動の起源から発生した組合組織であり、体制や経営者、諸政党から独立した存在である。

5.多国籍企業の進出状況

 多国籍企業の活動は、職能関係や労働環境における一連の前提条件を、いくつかの機関を通じて破壊しようとする動きが顕在化してきた国際状況の中で活発化している。そうした機関の筆頭として挙げられるのがWTOであり、同機関は公共・社会サービスを弱体化し商品化することを目指している。モロッコにおいても状況は同じであり、多国籍企業は貪欲な投資活動を行っている。投資の初期段階では便宜が図られ、公権力や労働監視機関は国際法や国際憲章、さらには当該国の労働法の軽視を黙認している。
 多国籍企業の労働者は年金の受給や医療費支援を受ける権利を侵害されており、労働組合活動の権利と自由など、労働者一般が享受する権利を尊重されていない。また特に多国籍企業では、個別でも集団でも解雇が容易に行われ、政府当局者はそれに加担しないまでも、何ら反応を示すことがない。
 多国籍企業が何らかの業務を他社から引き継いだ場合、モロッコの被雇用者が前経営者との間で実現した成果が全てなかったかのような態度をとる。これはモロッコの労働法に違反する行為である。一方で多国籍企業が得た利益は当該企業の母国へ送金される。これによって労働者の生活状況がますます悪化している。

2009年2月25日 講演録

モロッコ労働組合(UMT)
カディージャ ラミリ(Ms. Khadija Rhamiri)

農業労働組合副委員長兼UMTラバト支部支部長

 

1.一般労働事情

 重要な国際労働基準ILO87号条約(結社の自由)は、未だ批准されていない。その他の中核的労働基準に関するILO条約は批准されているが、保障されるべき労働組合権は大きく侵害されている。モロッコの労働者は、フランスの統治時代より労働者の諸権利獲得に活動を展開してきた。モロッコ労働組合(UMT)は、さまざまな産業、業種部門の労働協約締結の当事者である。

2.労働者が直面している諸問題

 最近の経済危機の影響により物価が上昇しているにもかかわらず賃金は下降している。そのために労働者の生活はますます苦しくなっている。特に斜陽産業は厳しい状況にある。とりわけ繊維、衣料部門では労働法も無視されている。正規労働者の雇用機会が減り非正規労働者が増大している。

3.問題解決に向けた取り組み

 制度政策要求を戦略的な取り組みと合わせ並行して末端組織から組合活動を強化している。すべてのレベルにおける組織強化である。教育訓練としてワークショップをいくつかの分野で開催している。特に交渉戦術のトレーニングは重要視している。それぞれの団体交渉の責任者とは交渉の進捗状況によって優先順位にしたがって連絡調整をする。

4.労働運動と政府の関係

 モロッコ労働組合は、いかなる政党にも属さず、政府にも、使用者にも属さない独立した労働者のナショナルセンターである。決議事項と立場は総同盟内で民主的に決定され、外部からのいかなる指図や圧力にも左右されることはない。政府の決定が労働者のためにならない場合は、その政府の性質如何にかかわらず真っ向から反対する。総同盟の資金源は組合員の支払う組合費のみである。

5.多国籍企業

 多国籍企業とは、団体交渉と労働者の権利を尊重する原則に立った契約の関係にある。一部の会社が法律違反を行う場合には、問題解決を親会社に対し求めている。